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リアクション
「話はよく分かんなかったけど、なんだか面白かった」
と、旅劇団☆ダークサイ座の公演は好評に終わる。
「あー、面白かったっ」
ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、ローズたちの立ち回りを真似て、ぴょんぴょん跳ねながら劇場を出て、一緒に観劇していた向日葵の腕にぴょんとしがみつく。
世界樹イルミンスールには、数日滞在することにしたので、各々自由に行動しているのだが、向日葵のグループが最も大きな団体行動を取っている。
カメラマンとしてカレンとジュレール、ディレクションをする菫、永谷やグランのグループはもちろん一緒。さらにエヴァルトと歩も向日葵のサポートをしたいと思っているので、やはり離れるわけにはいかない。
時々魔女っ子ルックの向日葵を見て、
「芸能人かしら?」
と振りかえる人もいるほど。
そこへ菫が、
「せっかくだから、イルミンスールの森の散策映像も欲しい」
と提案し、もし何かあってもこのメンバーなら乗り切れるだろうと、ちょっと外に出てみることにした。
「ノーンちゃん、一人で来たの? 陽太くんは?」
歩きながら向日葵は、ノーンの契約者影野 陽太(かげの・ようた)はいないのかと聞く。
向日葵がまだまともにダークサイズと敵対していたころ、陽太何かと共闘していたのだが、姿を見せないのを気にしてノーンに尋ねた。
「うんとねー。おにーちゃんは、かんなちゃんのところにいるのー」
「かんなちゃんって御神楽 環菜(みかぐら・かんな)ちゃん?」
「うん。おにーちゃんってば、かんなちゃん大好きだから。だからわたしが、おにーちゃんに『れぽーたー』してあげるんだよ」
と説明しながら、ノーンはおいしそうにおやつのバナナを食べながら、陽太へのダークサイズの状況報告メールを作っている。
陽太は大きくなるダークサイズに警戒してノーンを派遣したのだが、ノーンはノーンで完全にこの旅を楽しんでいる。なのでその報告メールは、
『今日はさんふらわーちゃんとお芝居を観たのー。ちゃんばらがかっこよかったよ! このあいだ、初めてじんぎすかんを食べました』
と、ただの思い出日記のようなメールになっており、とてもダークサイズの規模や内部情報を伝えているとはいえない。
この二人の会話の様子も撮影されており、
「いいね、高感度の高い画がもらえたよ」
と撮影チームもご満悦。
「う〜ん、これはこれでいいんだけど、演出上盛り上がりもほしいよねぇ」
カレンと菫は、和んだ雰囲気が続く散策に、物足りなさを感じている。
「何だかんだで、おぬしたちもトラブル好きなのだな……」
ジュレールは、彼女らがダークサイズに入り浸る理由を改めて自覚する。
永谷、グラン、エヴァルトは向日葵の護衛としてそばにいるが、このわずかな和みの時間を楽しんでいる。
そしてトラブルというのは、そういう油断を突いてやってくるものである。
がささささっ!!
「きゃあーっ!」
「ふにゃー!」
「サンフラワーちゃん、どうした!」
一同が駆け付けると、ネットの罠に引っ掛かった向日葵とノーンが、3メートルほど上にぶら下がっている。
「大丈夫か!」
「たすけてぇー」
「や、やばいぜ!」
「どうしたエヴァルト」
「スカートの中が見えそうだ!」
「そこかよ!」
とにかく向日葵たちを降ろそうと駆け寄ると、
「どわーっ!!」
と、全員大きな落とし穴に落ちる。
「なんでこんな原始的な罠にひっかかるんじゃい……」
「軒並みドジだな、俺たち」
「あらぁ、愉しそうなことになってるわね♪」
と、穴の上から彼らを覗き込んでいるシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)。
「誰だお前!」
「何よ、失敬ね。せっかくたまたま通りかかって、助けてあげようってのいうのに」
「え、そうなの?」
「あなたたち、ダークサイズよね?」
正確に言うと、このメンツの中のダークサイズはカレンとジュレールのみ。落とし穴の中でほとんどが首を振る。
「え、違うの?」
「当り前だ。俺達はサンフラワーさんのサポートメンバーだ」
「あたしはスポンサー」
「あ、ボクはダークサイズだよ」
「何だかややこしいわねぇ。まあいいわ。ツカサ、あの子だけ助けてあげて」
シオンは、契約者である月詠 司(つくよみ・つかさ)をあごで使って、カレンとジュレールだけ助けるよう指示を出す。
「おいおい、全員助けろよ」
「嫌よ。ワタシ、ダークサイズに入りに来たんだから。敵なんて助けたら、入れてもらえないでしょ♪」
「じゃあシオンくん、この人たちどうするんです?」
カレンを引き上げながら、司がシオンに聞く。
シオンは人差し指を口に当てて考え、
「う〜ん、めんどくさいから埋めちゃう?」
「うおい!!」
「カレンちゃん、いいから降ろしてよ〜」
上から向日葵が声をかけるのを、
「はーっはっはっは! ダークサイズの力を見たか!」
と、カレンは面白がって胸を張る。
「お前ふざけてないで、何とかしろ!」
「いや、そんなことより!」
「どうしたエヴァルト」
「スカートの中が見えてるぞ!」
「あら、変なとこ見ないでよ♪」
「ちゃんと隠せと言ってるんだっ!」
☆★☆★☆
「ねえヒラニィちゃん、一回ザンスカールまで行ったのに、どうしてわざわざここまで戻ってくるの?」
イルミンスールの森の中を歩きながら、琳 鳳明(りん・ほうめい)が南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)を振り返る。
「仕方あるまい。待ち合わせ場所の変更連絡があったのだからな」
「待ち合わせ? 誰と?」
「ここまで来たなら教えてやってもよかろう。魔女っ子サンフラワーちゃんこと、秋野向日葵だ」
「え? 向日葵さん? どうして?」
「ふっふふふ。鳳明よ、感謝せい。お主のために『冒険屋』に入った仕事を取って来てやったのだぞ!」
「ええっ、し、仕事ぉ!?」
「寮でダラダラするよりよっぽどよかろう。秋野向日葵をサポートし、エリュシオンへ行くのだ」
「ええええー! 遠いよー! ていうか、一か月ぶりの休みなんですけどー! 何でせっかくの休みを潰すのよー!」
ようやく仕事がひと段落し、たまの休みを満喫したかった鳳明は、驚きと怒りで手をバタバタさせる。
「どうせ金がないとか言って自堕落な生活をするだけであろう。大物を目指すためにも、休みなく働き続けるのだ。いたたたた、何をする!」
「私の休みを返せっ! この、このっ!」
鳳明はヒラニィに後ろから飛びつき、腕の関節を砕かんばかりに締めあげる。
ヒラニィは悲鳴を上げながら、遠目に何かを見つける。
「お、おい鳳明見よ、あれは秋野向日葵ではないか?」
「え? あ、ホントだ。ていうか、あれ捕まってない? 大変!」
二人は急いで吊り下がる向日葵の元へ駆け出す。
到着すると、シオンとカレンが向日葵たちを罠に嵌めたようにしか見えない画。
「こらー! 向日葵さんを離しなさい!」
「むっ、お主ら。依頼書にあったダークサイズとやらだな?」
(しまった。おふざけがすぎたかな……)
と、カレンは、
「確かにダークサイズだけど、罠に嵌めたのはこの子だから」
と言って、シオンを指さす。
シオンはどきりとして、
「あら、違うわ。私はあくまで助けようとしただけ。罠はツカサが独断で張ったのよ♪」
と、目立ってダークサイズ入りをするために作ったシナリオの責任を、司に押し付ける。
(ああー……やっぱりねー)
司は予想通りの展開に、諦め顔。
「行け鳳明! 向日葵を助け出すのだ!」
ヒラニィは鳳明を、シオンと戦わせようとする。
「おーい、こんなところで何やってんのー? 僕置いてったらカメラのバッテリー切れちゃうよー」
そこに、戻ってこない向日葵たちを心配して、発電機を背負った超人ハッチャンがやってくる。
(ば、バケモノー!!)
鳳明やヒラニィは騒然とするが、総帥ハッチャンのなれの果てと知って、
(ダークサイズってどうなってんの……)
と、戦意を喪失する。
とはいえ、ダークサイズのナンバー2が来てくれたことで、状況は落ち着きシオン達の話も聞いて、向日葵たちは解放される。
この小さな罠に嵌った向日葵たちの擦り傷を、パラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)が診てあげることにするが、
エヴァルトが、彼のどことなくいやらしい触診の仕方に文句をつける。
「おいおまえ、サンフラワーさんに変な触り方をするな」
「おいおい、せっかくボランティアで診てやってんだぜ?」
パラケルススはエヴァルトに答える。それを見て永谷が、
「じゃあ俺の傷も見てくれ」
「ふざけんな。触診は女限定だ」
「……」
パラケルススの返答に、つい黙りこくってしまう永谷。
エヴァルトが、ハッと気づく。
「あ、そういえばおまえ……」
「……何も言うな、エヴァルト……」
永谷が世界樹に戻っていくのを、エヴァルトはそっとしておくことにした。
擦り傷をいつまでもさすられて、向日葵はさすがに、
「あの、もういいよ」
「そうはいかねぇ。バイ菌が入ったら大変だろ?」
「でもさすってるだけじゃん……」
その様子を見たグランが寄って来る。
「おいおぬし。世界樹には巨乳とちっぱいの姉妹がおるぞ」
「えっ、まじか! そりゃあ健康診断してあげなきゃなぁ」
パラケルススの嗜好を見抜いた年長のグラン。
それとなく向日葵を解放させた。
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