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リアクション
ダンジョン 戦闘
一行はしばらくは単調に、独房を調べながら進んでいく。
十字路まで差しかかった時、周囲を警戒していた叶 白竜(よう・ぱいろん)が警告の声をあげる。
「右30m、天井の装置に異常です!」
白竜はノクトビジョンで見つけたそれに、皆に気付かせる為、懐中電灯を向ける。明かりが届くかどうかの地点で、天井で動く物があった。
そこから古王国語で無機質に、所属階級と目的を問う声が響いた。どうやら古代の警備装置のようだ。
李大尉が急いで、つたない古王国語で、今が古王国シャンバラより五千年後である事や、自分達が再興したシャンバラの国軍である事を告げる。
しかし刑務所の警備装置は、その内容を理解せず、彼らを不法侵入者とみなした。
周囲に警報らしき、けたたましい音が響き渡る。
「敵部隊が来るぞ!」
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が皆に注意喚起する。
ダークビジョンや殺気看破で周囲の警戒にあたっていたセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、ジェットハンマーを握りしめて周囲を見る。
「分散して、回りこんできてるよ! 全方位から来るようだから、戦えない人は内側にして!」
セシリアは光精の指輪から光の人工精霊を飛ばして、通路の奥へと飛ばす。
その明かりに照らされ、量産型機晶姫とパワードスーツからなる部隊が駆けつけてくる。セシリアはその一体に、人工精霊をぶつけて攻撃した。
「古王国の看守って訳ねっ」
ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)がなぜか楽しそうに、古代の看守部隊にセフィロトボウで矢を浴びせかける。
ユーベルが明かりも兼ねて、隊の後方から来るパワードスーツに光術を放つ。パワードスーツの後方には、何者の姿もない。それぞれの数は、それほど多くはないようだ。
魔法が弾ける瞬間に見えたものに、ユーベルはつぶやく。
「中に人がいない……?」
教導団員セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は別の通路に、クロスファイアで射撃を浴びせながら、
「なんで、あたしたちが不法侵入者扱いなのよ」
と不服そうだ。ある意味、同士討ちである。
銃撃や爆発音が響く中、長い耳でか、そのつぶやきを聞いたヘイリーは鼻で笑う。
ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は機晶姫用レールガンを撃ちまくる。
「不服を申し立てている時間は無いぞ。交戦が長引けば、監獄内にいる別の存在に警戒されかねん。出来るだけ早く黙らせねば」
別の通路に向けてはカレンが魔道銃を打ち込み、乃木坂 みと(のぎさか・みと)は天井の警備装置に雷術を打ち込む。
みとは、それら装置が機械だから雷に弱いと考えていたが、古王国製の機晶技術にはあてはまらず、破壊するのに魔法を何発も打ち込まねばならなかった。
パワードスーツを着込んだ洋は、敵パワードスーツと相対する。
砲火を抜けてきた機晶姫を、グロリアーナは抜刀術で切り伏せる。と、何かが彼女に浴びせかけられる。
「無礼な?!」
グロリアーナが払おうとするが、網のような物がからまりつく。暴漢捕縛用の網だ。身をひそめていた羅儀が身を現し、網を引き解いて彼女を助け出す。グロリアーナはその怒りをパワードスーツに向け、斬りかかる。
腕を切り裂いた、と思うが手応えが足りない。
「こやつら、自動操縦か!」
稼動部分を切り裂いたパワードアームからは、本来あるべき腕が見えていない。
反対の通路では御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)たちパートナーと共に、他の探索者を守る壁を作る。
「古代看守だろうが、探索の邪魔はさせないぜ。味方は落とさせない」
「守りは我に任せるのじゃ」
主を守護する魔鎧アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)も、今日は人間化して紫音をサポートする。
風花とアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が量産型機晶姫の侵攻を食い止め、紫音が強力なアタッカーとなって敵を斬り倒していく。紫音は装甲の厚いパワードスーツの相手も難なくこなす。彼なら、イコンでも相手になるだろう。
別通路では罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)が生半可なパワードスーツより厚い装甲を生かして、敵前面に出ていく。その背後から主棗 絃弥(なつめ・げんや)が曙光銃エルドリッジを量産型機晶姫にぶち込んでいく。
「ロボ相手なら、手加減無用だなッ」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)は水を得た魚のように、神速で敵に突っこむと、豪快に仕込み竹箒×2による鳳凰の拳で滅多切りにしていく。左右の竹箒から現れた刃が、量産型機晶姫はおろかパワードスーツの固い金属まで切り裂いた。
イコンですら倒せる攻撃に、暴徒鎮圧用の自動部隊はジャンクに変わって、通路に散らばった。
「こっち方面は終わったぜ。応援する!」
目の前の「掃除」を終えた垂は、他の応援へとまわる。
「こちらのカタブツを頼みます」
エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)は量産型機晶姫の相手をしながら、垂に応援要請する。エシク自身は軽量の機晶姫とは良い勝負だが、パワードスーツは少々硬すぎる。
「よし、任せろ!」
しかし機晶姫が不利になってきたのを悟ってか、自身の腕についたパネルを操作する。
とたんに天井からガスが噴き出した。催涙ガスだ。
状態異常に備えていた者は少なく、探索者側は一気に戦闘力を落とす。
「今、治します。落ち着いてください」
レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が、目を痛がる者に清浄化を施して回復させていく。レジーナが清浄化にかかりきりなる為、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が、戦闘力が落ちて怪我を負った者をリカバリで回復させる。
氷室 カイ(ひむろ・かい)はパートナーのルナ・シュヴァルツ(るな・しゅう゛ぁるつ)と共に、回復役のレジーナやクナイと、彼らが処置している者を護衛する。
「俺たちがサポートする。周囲は気にせず、回復に集中してくれ」
「ありがとうございます」
「ご協力感謝いたします」
律儀に礼を言ってくる二人に、カイは一瞬微苦笑を浮かべるが、すぐに冷徹な瞳になって量産化機晶姫に魔銃カルネイジを浴びせる。近づかれた敵に対しては腰に佩いた妖刀村雨丸を、いつでも抜けるようにしている。
銃撃を浴びながらもパワードスーツが突っ込んでくる、カイはちっと舌打ちし、妖刀村雨丸で切りつける。その時には、ルナ・シュヴァルツが瞬時に漆黒の魔鎧へと変じて、カイの身にまとわれている。
パワードスーツのマニュピレイターが、ルナの表面をがつりと叩くが、カイはそのまま妖刀をスーツの間に差し込んだ。作動系統が断ち切られたか、奇妙な動きを始めたパワードスーツにカイは銃弾を続けざまに叩きこんで沈黙させる。
腕にじわりと痛みが走る。パワードスーツの反撃で傷つけられたらしい。と、ふわりと暖かい力が流れ込み、その傷を癒した。カイが視線を送ると、クナイがにこりとほほ笑んだ。
盛り返した一行は、無人パワードスーツと量産型機晶姫の部隊を壊滅させた。
ゴウウウン……!
どこかで大きな音が響く。
「隔壁が閉まったような音だな?」
李大尉が音の方角をうかがうと、ウィングが答える。
「おそらく侵入者防止、いえ、ここは刑務所ですから脱走防止の為の隔壁が降りたのでしょう。後で遠回りを強いられるかもしれません」
ウィングは足元の欠片を手に取った。特に目新しい造りの物はない。
「強いて言えば、キャンプ・ゴフェルの量産型機晶姫と類似の機体のようです」
「しかし、通路に転がしておくのは邪魔だな」
李大尉が肩をすくめる。白竜が、みずからがピッキングで開けた牢を示す。
「大尉、とりあえず開いている牢屋に入れておいてはどうでしょうか? 後で動き出されてもやっかいです」
「そうしよう。皆、手伝ってくれ」
一行は手分けして、牢屋に壊れた機体を積み上げた。
垂は仕込み竹箒で、細かい部品まで掃き集める。
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)だけは、アナンセ・クワク(あなんせ・くわく)を直すのに使えそうな物がないか、破壊された機晶姫を見繕う。だが、それに関する知識は無いので、とりあえずなるべく破損が少ない物を選ぶだけになる。
(……量産型の部品じゃ駄目かな。あれ? でも、これってシャンバラ産って事になるのかな?)
この刑務所の復活階層はシャンバラのものなので、古代ポータラカに関する知識は無いのだが、クリスティーはそれでも探し続けた。
もしアナンセに何かあれば、友人から携帯に連絡があるはずだ。クリスティーは気になって携帯を見てみる。地下の遺跡内では電波が弱いのか、携帯電話の表示は、アンテナが立ったり圏外になったりを繰り返していた。