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ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)

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ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)

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Boys & Girls【1】


 珍獣の森・吊り橋。
 引き離された大地をつなぐように30メートルほどの長さの吊り橋がかかっている。
 橋から眼下を流れる川まではそれなりに高く、高所恐怖症の人が覗き込んだら目眩を起こすのは確実だろう。
 木陰で空京センター街のカリスマ神守杉 アゲハ(かみもりすぎ・あげは)が涼んでる。
「あっちー、マジであっちー。なんかぁすごいムシムシするしぃ……、つか、買い物に行ったヤツらおせくね?」
 買い物に行ってくれてるのにこの言い草。感謝と言う言葉は母親のお腹に置いてきたカリスマぶりである。
 そこに息を切らせやってきたのは、ジャングルに似合わないゴス衣装の桐生 円(きりゅう・まどか)
「アゲハせんぱーい、おまたせ。言われたとおりケーキ買ってきたよ」
「……えー、ケーキなんて頼んだっけ?」
「え、さぁ。ごめん、忘れちゃったから適当に。まぁ女の子ならケーキって相場は決まってるからね」
「ああそう。ま、いっか」
 まじまじと箱を見つめるアゲハの背にこっそり回り、おもむろに円はお腹を掴んだ。
「……ん?」
「お腹ーお腹ーアゲハ先輩のお腹ー。カリスマのお腹はどんなんなのかなー?」
 ぽにゅぽにゅと触りテイスティング……そして、カッと目を見開く円。
「細いながらも絶妙の柔らかさ……。頭の所為で見落としがちだけど、スタイルは良かったんだ、カリスマ……」
「おい」
 はっと顔を上げるとアゲハは凶悪な顔で見ていた。
 見れば、その手に持つケーキに何者かがかじったような痕跡がある。
おめー食ったろ!
「ち、違うよ、これは『ねこぺん』って言う珍獣がかじっちゃって……」
「そんな生き物がいるわけねーだろ。あたしが頭悪いからってマジフカシこいてんじゃねーぞ」
「ほ、ほんとなんだよ。白くベトベトする何かを吐き出してくるんだ。シボラサイドを見てよ」
「ああ!?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着……いや、アゲハが落ち着け」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)はアゲハを羽交い締めにして引き離す。
「きっとこの暑さで怒りっぽくなってるんだ。冷たいドリンクを持ってきた。飲んで頭を冷やすといい」
 静麻は大きなクーラーボックスを地面に下ろし、パシって買ってきた缶ジュースを取り出す。
「……なにこれ、ラベルがはがれてない?」
「ああ、ヴァイシャリーじゃあんまり時間がなくてな、適当に詰め込んだ所為ではがれちまったんだろうさ。まぁロシアンルーレットみたいで楽しいからいいだろ。色物からスタンダードまで大体揃えてあるぜ」
「ふぅん。まぁいっか」
 アゲハと円は適当に受け取って飲む。
 途端、アゲハは毒霧のように緑の液体を噴き出した。
「き、きたねぇ! 俺の一張羅のジャケットが! この間クリーニングに出したばっかりなんだぞ!」
「あたしに何飲ませたんだよ!?」
「え……、ああ、こりゃ青汁だな」
「マジふざけてっし。おめー、あたしがいつ青汁なんて買ってこいっつったんだよ、ああ!?」
 ゲシゲシと静麻のスネに蹴りをいれる。
「ででで……。た、たまたまだって、ホラ、桐生のほうは平気だろ?」
 そう言って円のほう見た瞬間、ブホッと彼女も噴いた。舞う赤い霧が静麻の目を潰す。
「うわあああ、目が! 目がぁ!!」
「はらひ! はらひほへ!」
 どうやら彼女が引き当てたのはハバネロドリンクだったようである。
「く、くそ……コイツら、人の好意を無下にしやが……うわああああああ!!」
 ゴシゴシこすって目を開けると、その隙にアゲハがクーラーボックスにゲロ吐いてる……!
「うおおい! 何してんだ! その辺に吐けよ、なんでわざわざ俺のクーラーボックスに!」
「えろろろ……。その辺に吐けって……あんた、マジエチケットってもん知らないわけ?」
俺のボックスはエチケット袋じゃねぇ! てか、何でそう言うとこだけ常識人なんだよっ!」
 静麻はクーラボックスを奪うと脇目も振らず駆け出した。
「くそぅ! 俺のクーラーボックスちくしょう!」