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リアクション
11
結婚式場のスタッフとして働くことになったリア・レオニス(りあ・れおにす)は思った。
――この様子を見たら、少しでも気分が軽くならないかな?
想い人は、アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)。
「いつも大変そうだもんなー……」
思わずひとり呟いた。
ゾディアックから救出してからも、色々と気を張り詰めていなければならない事態が続いていて。
そうでなくとも、シャンバラ女王として普段から頑張っているんだ。
無意識のうちに携帯を取り出して、アイシャに繋いでいた。
「もしもし、アイシャ? 俺今結婚式場のスタッフとして働いてるんだけどさ。結婚式を見に来ないか?」
電話から数日。
王宮にお忍びの話をつけて、ようやくアイシャの自由時間をもらえた。
「今日は楽しんでいってくれ」
にこりと微笑んでリアは言った。
「はい。……でもリアさん、大変じゃないですか? 私のために……」
アイシャの言葉に、自由時間をもらうための交渉が思い出される。
世界最終選択の前の安らぎとして、と言ってもなかなか首を縦に振ってもらえなかった。
全力で警護するし、もてなしも完璧に行うから、と必死で説得すること数時間に及び――。
――確かに大変だったけどさ。
「アイシャの笑顔のためなら、なんてことないさ」
そういうことなのだ。
「……ありがとうございます」
アイシャが嬉しそうに笑った。それだけで報われた気分になる。
「それじゃまず、これかぶって」
「帽子?」
渡された帽子に、アイシャが目を丸くした。
「お忍びだから。こうしてかぶれば、……ほらわからない」
少しでも危険にさらさないための変装である。
――にしても……そこらで売ってる普通の帽子なのに、似合う……可愛い……。
心拍数が上がっているのがわかった。すうはあ、気付かれないように深呼吸して動悸を抑える。
「似合ってる」
笑いかけて、飛空艇に乗り込み式場へ向かう。
リアの勤める式場にはVIP観覧席というものがある。
椅子にアイシャを座らせて、その傍らにリアが立つ。レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)はアイシャの後ろに陣取った。レムテネルは今日一日、リアの補佐を行うらしい。
「わあ……花嫁さん、素敵ですね」
「幸せそうだよな」
「はい、とっても」
新郎新婦の入場を見て、アイシャが声を弾ませた。やはり女の子、ウェディングドレスは憧れなのか。
「アイシャの加護を受けて、幸せを掴んでるんだろうな」
「私の、ですか?」
「ああ。俺たちの幸せは、全てアイシャの頑張りの上にあると思う」
「そんなたいそれたことは」
「してないか? でも、少なくとも俺はそう思ってるんだぜ」
「リアさん……ありがとう、嬉しいです」
恥ずかしそうに、アイシャが笑う。可愛すぎて、目を合わせていられなくなった。視線を逸らす。
式は順調に進行していて、いつの間にかフラワーシャワーの段階まできていた。リアは花びらをアイシャに渡す。
「これは?」
「フラワーシャワー。これを新郎新婦に蒔いて祝福するんだ。祝福の他にも、花の香りによって辺りを清めて幸せを妬む悪魔から二人を守る意味がある」
「しっかり蒔かなくてはいけませんね。お二人の幸せを願って」
アイシャが微笑んで花びらを受け取った。ふわり、蒔かれた花びらが舞う。
バスケットの中の花びらがなくなるまで蒔いて、新郎新婦も退場して。
「式はこれで終わりだ。気分転換になったかな? 疲れたり、しなかったか?」
「ええ。リアさんがいろいろとお世話してくださいましたし。楽しめました」
嬉しそうに笑うアイシャに、リアも心からの笑顔を返した。
「これを」
「え?」
「受け取って欲しい」
差し伸べたのは、薔薇を主体に様々な花で出来た極上の花束。
「ブーケトスを受けるわけにはいかないだろ? だけど、こうして手渡しなら……な」
「嬉しい……ありがとうございます」
幸せそうなアイシャの顔。
「花たちも、君の前では色褪せてしまうな」
思ったことをそのまま言ったら、アイシャの頬が赤くなった。恥ずかしそうに俯く。その際気付いた。
「アイシャ、髪に花びらが」
先ほどのフラワーシャワーで自身もかぶってしまったらしい。花びらを取ろうと手を伸ばすと、同じく伸ばされたアイシャの手に指先が触れた。
「…………」
「…………」
赤面して、固まる。無意味に咳払いして、アイシャに背を向けた。
「え、っと。アイシャ、この後の予定は?」
「はい。模擬結婚式に誘われているので、行ってきます」
「結婚式はこの式場で?」
「はい」
「そうか。なら控え室まで送るよ」
二人並んで廊下を歩く。
誰がアイシャと模擬結婚式をやっても、別に構わない。取り合うつもりなんてないからだ。
アイシャが楽しく過ごせればいい。リアが願っているのはそれだけだ。
控え室の前についたので、立ち止まる。
「楽しんできてくれ。俺はロビーで待っているから」
連れ出したからには、責任を持って送り届けなければならない。
――アイシャと長く居たいから、っていうのもあるけれど。
だって、なかなか会えない人だから。
こういう時くらい、願ったっていいじゃないか。
「わかりました。行ってきます」
「アイシャ」
背を向けた彼女に、声をかける。
「はい?」
今、言うのは変かもしれない。
けれど、今以外いつ言えばいいのかもわからなかったから。
「アイシャ、俺は君を守り支えたい。アイシャという一人の君に生涯を捧げると誓うよ」
誓いの言葉を、ここで君に。
*...***...*
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はすずらんの花冠を編んでいた。
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)と共に模擬結婚式を挙げるというから、お祝いに。また、日々の感謝と幸多き道のりへの想いを込めて。
「すずらんの花言葉は、『意識しない美しさ』、『幸福が訪れる』、『純潔』、『純粋』だそうです」
教えてくれたのはセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)だ。
「それって、」
「ええ。セイニィさんだなぁ、と思いますよね」
「思う思う。すずらんを選んで正解だったね♪」
符号の一致を面白いと思いながら、心を込めて編む。
「花の知識か。わしからもいくつか詩穂に伝えるけん、聞いてくれ」
「ん? なあに、どんなの?」
清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)に言われたので、編む手を止めて耳を傾けた。
「結婚式に用いられる装花には色々な種類があってのう。ブーケに、フラワーシャワー、受付、テーブル……多いじゃろ? しかもそれぞれに意味があるものを選択しなければならないんじゃ。
ブーケやゲストテーブルの花は持ち帰れる事で知られちょる」
当たり前のことのように青白磁は言うが、詩穂の知らないこともあった。へぇ〜、と大きく頷く。
「だがな、詩穂。お主が心を込めて選んだ花ならば間違いはないけん。きちんと感謝の気持ちを込めて編んで、プレゼントするんじゃ」
「うん、わかった。これ以上ないってくらい、気持ちを込めるね!」
最初にひとりで編んでいたときよりもずっと真剣な表情で、詩穂は花冠を編む。
セイニィとの模擬結婚式を控えた牙竜は、セイニィのすぐ傍でその時を待っていた。
「アイシャ、大丈夫かしら……」
ロイヤルガードという女王を守る立場にいるせいだろう。セイニィは、ウェディングドレスに身を包んでもなおアイシャのことを心配している。
「大丈夫だ」
牙竜は、心配するセイニィに優しく声をかけた。
「詩穂に任せておけ」
「でも、」
「詩穂ならアイシャを守る。ロイヤルガードとしてもだろうが、何よりも心から大切に思う愛する人のためにな……。俺がセイニィを守りたいと思うように……」
「……わかったわ」
一応、頷いてくれたもののセイニィの表情はまだ暗い。
「プロポーズは以前したが……今回は模擬結婚式を楽しもうぜ、セイニィ」
なので、気分を変えようと明るく言ってみた。
が、
「…………」
余計暗い表情になってしまった。どうしたことだろう。
「……セイニィ?」
「ごめんなさい、なんでもないわ。……でも、素直に楽しめないの」
「何故?」
「……だって、パッフェルの無事がわからないのよ。楽しめるわけ、ない」
「あ……」
そうだった。失念していた。少し、浮かれすぎていたのかもしれない。
決着がつくまで待って欲しいとも言われているし、これ以上何か言うべきではないなと悟った。
だから、ただ傍に居た。
――ひとりで抱え込むなよ。傍にいるから。
その想いを込めて、式が始まるまでずっと。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことをセイニィとこのパラミタの大地に誓おう」
式が順調に進み、誓いの言葉を交わし。
「来い! ワイルドペガサス!」
牙竜はペガサスを呼んだ。声に反応して、ペガサスが現れる。
まず牙竜がペガサスに乗った。セイニィに手を差し伸べる。一瞬ためらったが、セイニィが牙竜の手を取った。二人でペガサスに乗る。
ペガサスの上からは式場がよく見えた。シャンバラ女王としてアイシャが出席してくれているし、アイシャの隣には詩穂}が居る。
また、セイニィの結婚式を祝いに小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がクロエを連れて参加していた。
「指輪といえば、出会いを思い出すな」
セイニィとの出会いは、左手の薬指に指輪を嵌めたところからだった。
「指輪……持っていてくれてるか?」
「ええ。持ってるわ」
「今日は模擬だから何もしない。けど、俺は次のときは本当の結婚式に指輪交換したい」
「…………」
「返事はできないか。それでもいい。ただ、俺の覚悟を知っていて欲しかった」
「……あんたの覚悟は、受け取ったわ」
「ありがとな」
ペガサスが下降を始めた。
模擬結婚式が、終わる。
「アイシャちゃん、日が暮れてきたから衣装着替えに行こうか☆」
牙竜とセイニィの模擬結婚式を終え、詩穂はアイシャに微笑みかけた。アイシャの手を引いて着替えに戻る。
「シャンバラ女王として式に出席したから、今度は詩穂とアイシャちゃんの番だよ。みんな百花繚乱、綺麗で凛としていたね♪」
「ええ。とっても素敵でした」
「この花や光に負けない輝きや優しさしたたかさを持った皆が、アイシャちゃんが願う人と人の争いの無い世界への道を実現することを信じているよ」
「……はい。頑張らないと、いけませんね」
真剣な顔になったアイシャに、詩穂は微笑む。
「詩穂は、アイシャちゃんを支えたい」
「……え?」
「頑張りすぎちゃうアイシャちゃんを、支えていきたいよ」
それは、心からの願い。
言われたアイシャが驚いた顔をしていた。そんなに驚くことかなぁと詩穂は苦笑する。
「ね、アイシャちゃん。覚えておいてね」
優しく言って、詩穂はドレスに着替えるために更衣室に入った。
式が、始まった。
バージンロードを二人で歩き、神父の前に立つ。
詩穂はひとつ深呼吸して、
「生涯……、いえ、騎沙良詩穂は5000年先もずっと、国家神として生きることを選んだアイシャちゃんを守り続けることを誓います」
誓いの言葉を述べた。
「それがアイシャちゃんが笑顔のときも悩めるときも、どんなときに流す涙でも受け止めると誓ってロイヤルガードに直接任命された詩穂の生き方だから」
誓い。それから、決意表明。覚悟の言葉でもあった。
牙竜とセイニィの式のときのように、ペガサスを呼んでアイシャと乗り込む。
「あ、」
アイシャが声を上げた。青白磁が虹を架ける箒を用いて描いた文字を見たから。
夜景に浮かぶ虹の文字。
Bonds of Lovers。
さらにセルフィーナがフラワーシャワーを振り撒く。光術も用いており、花びらがきらきらと煌いた。幻想的な世界が、よりいっそう幻想的に演出される。
「模擬結婚式だからさ。指輪交換はできないけど……」
詩穂はアイシャの手を取って、言う。
「詩穂の手の中には、金属の指輪よりも輝いていてとても暖かい掌があるね」
それから左手同士を重ね合わせ、
「左手同士を向かい合わせで重ね合わせると、飛べる日に向っている雛鳥の翼みたいに見えるね。
ねぇ、翼は片翼じゃ飛べないけど、二人ならこのまま羽ばたける気がするの」
どこまでも、真っ直ぐに。
「詩穂はアイシャちゃんのために頑張れるよ。アイシャちゃんと羽ばたくために、ね」
だからどうか。
頑張るために、支えるために、守るために、一緒に居られますように。
*...***...*
セイニィにしたプロポーズは、待っていて欲しいと言われた。
待つのが苦じゃないといえば嘘になるけれど、焦れて急かすのも嫌だし、なによりセイニィの意思を尊重したくてシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)は待っていた。
でも、恋する女の子としては、好きな人と結婚式を挙げたいと思ってしまうので。
――模擬結婚式なら許してくれるかしら?
街中に張ってあったキャンペーンのポスターを見て思った。携帯を出し、セイニィの番号を呼び出す。
「もしもし、セイニィ? 突然なんだけど、模擬結婚式をしない?」
『模擬?』
「そう。ジューンブライドキャンペーンを各所で行っているみたいだし、どうかしら?」
セイニィも、模擬なら、と思ったのだろう。少し間を置いてから、
『いいわよ』
返ってきたのは肯定的な言葉。
『ちょうど今式場にいるの。場所を言うわね』
セイニィから伝えられた場所を覚えて、いざ向かう。
普通の結婚式と違って、同性同士でバージンロードを歩くことになる。
なので、二人並んだ時に綺麗に見えるドレスはどれだろうかと、貸衣装が置いてある部屋でシャーロットは悩んだ。
「これなんていいんじゃない?」
「どれ?」
セイニィが持ってきたドレスは、裾が二段フリルになった純白のドレス。腰にあしらわれたリボンが女の子らしくて可愛らしい。
「素敵。このドレスなら髪をアップにしたほうが映えそうね」
「似合うと思うわ」
「ありがとう。セイニィは……」
どれなら彼女の美しさを引き立ててくれるだろうか?
一着一着吟味していって、
「これ、どう?」
セイニィの金髪に似合いそうな柑子色のドレスを見つけた。裾が大きく広がったタイプで、シャーロットの着るドレスとの対比も美しい。
「いいね。明るい色であたし好きだよ」
「良かった。衣装は決まりね、着替えましょう」
更衣室に入って着替え、 髪もまとめて準備は終わった。あとは始まりの時間を待つばかり。
「……?」
不意に。
セイニィが、不安そうな顔をした。
「セイニィ?」
「何?」
声をかけると、そんな表情は見間違いだったのではないかというほど明るい表情を向けられて。
「なんでもないわ」
シャーロットも誤魔化した。
たぶんきっと、親友であるパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)が生還していないことが気がかりなのだろう。
だけど、シャーロットに気遣わせないようになんでもないふりをしている。
そんな優しいセイニィの気分転換になればいいなと、思う。
「そろそろ行きましょうか」
「そうだね。行こう」
バージンロードを並んで歩き、神父の前に立って。
「私、シャーロット・モリアーティはセイニィ・アルギエバを生涯のパートナーとし、幸せや喜びは共に分かち合い、悲しみや苦しみは共に乗り越え、永遠に愛する事を誓います」
誓いの言葉を、愛する人に向けた。
優しい笑顔で、心からの言葉を。
分かち合いたい。
セイニィの痛みも喜びも。
どんな小さな不安でも、一人で苦しいと思ったのなら話して欲しい。気遣いは嬉しいけれど、他人行儀でちょっと嫌。
――だから、何でも話せる相手になるわ。
秘めた決意を、セイニィは読んでくれたのだろう。
少しだけ申し訳なさそうな顔で、けれど笑顔で、誓いの言葉を言ったから。
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