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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ チェイテ城跡 ■
 
 
 
 チェイテ城はスロヴァキアの首都、ブラチスラヴァから車で30分ほどのところにある。
 城といっても半ば崩れた廃墟になっているのだが、それが月美 芽美(つきみ・めいみ)にとっての故郷であり、死に場所でもあった。
 
「うわ、廃墟としかいいようがないね」
 契約前は地球の各地を旅していた緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は、城を見に行ったことはあったけれど、城跡となった場所を見るのは初めてだ。
 崩れかけてはいるけれど、城壁は残っている。廃墟の規模があまりに大きいので、それは城というより砦の跡のようにも見える。
「どう? 芽美ちゃん、懐かしい?」
 透乃に聞かれ、そうねえ……と芽美も周囲を見渡した。
「私がエリザベート・バートリーの頃に住んでいたのと違って崩れてるし、鮮明に覚えているわけではないけどそれでも懐かしい場所だわ」
 
 1604年に夫を亡くし、エリザベートはこの城に居を移した。
 1610年に捜査が行われ、彼女がこの城でしていた残虐行為が明るみに出、翌年の裁判でこの城の自身の寝室に生涯幽閉されることとなった。彼女は扉も窓もすべて厳重に塗り塞がれた暗黒の寝室の中に閉じこめられ、1614年に死亡が確認された。
 
 エリザベートだった頃の自分がしていたことを思い出し、感傷にひたりながら芽美は廃墟にその当時の面影を探してみる。
「庭も地下室も見る影もないわね」
 娘たちを拷問した地下室、埋めた庭。その記憶を辿ろうにも何もかもが荒れ果ててしまっていた。
 デジタルカメラで写真を撮っている芽美の邪魔をしないようにと、透乃と緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は芽美を残して2人で城跡見学をすることにした。
 
「故郷に帰ってくるという行動の意味はよく分かりませんが、なんとなく羨ましいですね……」
 契約前の記憶を思い出しかけてはいるものの、陽子には懐かしめるほどの故郷の記憶は無い。思い出すことが出来たら、陽子にもまた、こうして過去を懐かしめる場所が出来るのだろうか。
 観光スポットになっている城には観光客らの姿も見られ、皆一様に顔をしかめている。
 己が美しくある為に娘たちを残虐に殺し、その血を浴びたエリザベートの所行を思い出してでもいるのだろう。
 
「透乃ちゃんはエリザベートがしていたことをどう思いますか?」
 陽子に聞かれ、見るともなく観光客を眺めていた透乃は振り返った。
「私は特に何とも思ってないねえ。芽美ちゃんと契約したのもそういうことを分かった上のことだしね。だって、歴史上の有名武将なんかの殆どだって、多数の人を殺しているし、私たちも戦争や依頼とかで既に数え切れないくらい殺してるよ。動機や目的は違うとはいえ、殺してることに違いはないのだから、非難するべきじゃないと思う。陽子ちゃんはどう思う?」
 逆に聞かれ、陽子はちょっと笑った。
「実は、多くの人が死んだこの地はアンデッドに関する研究を行うにはうってつけの場所かもしれない、と思ったりしてました。霊がたくさん残っているのなら、いくつか使役できないか試してみたい、なんて。死霊術師の悲しい性ですね」
 私も案外他人の命を軽く見るようになっていたということでしょう、と陽子は呟いた。
「怨霊なんか現れても、私は謝らないし、則天去私でも遣って消し去るわ」
 写真を撮りおわったらしき芽美がやって来て笑う。
「今も過去も私にとって他人の命なんて散らして楽しむものでしかないから」
「あ、芽美ちゃん。もういいんですか?」
「まあね。本当に撮っておきたかった場所はもう崩れてしまってるし」
 ここにあるのはただの廃墟。
 既に怨念すら感じられないひっそりとした過去の場所。
 芽美はもう一度ぐるりと城跡を見渡すと、すたすたとチェイテの城から去っていったのだった。