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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 砕け散る理想の殻 ■
 
 
 
 里帰りには全く乗り気でない高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)を半ば強引に誘って、ティアン・メイ(てぃあん・めい)は地球にやってきた。
「シュウの実家はどこにあるの?」
「伊豆の修善寺ですよ。観光地ですから、この時期は恐らく人でいっぱいです」
「観光地なの? だったらいろいろ見るところがありそうね」
 ティアンはガイドブックを買い込んで、伊豆に向かう列車の中でうきうきと頁をめくった。
「やっぱり温泉には入りたいわね。修禅寺ももちろん見学するとして……公園もいろいろあるみたいだけど、どこがいいのかしら」
 しきりに話しかけるが玄秀からは返事が無い。見れば座席にもたれて目を瞑っている。
 寝てしまったのかと、ティアンは1人でガイドブックに見入った。
 
 降りる駅が近づくと、玄秀は何事もなかったかのように目を開き、ティアンに聞いた。
「それで? どこに行くかは決まったんですか?」
「観光するより前に、玄秀が暮らしていた家が見てみたいわ」
「奥の院近くの古社ですよ。誰も住んでいないので、もう荒れ果てているんじゃないでしょうかね」
 赤ん坊の時に捨てられた玄秀は、陰陽師、賀茂氏末流の高月道賢に素養を見いだされ、引き取られて魔術を学んだ。
 その道賢は玄秀がパラミタに上がる直前に急死した。氏子もいなかったので手入れをする人の無い古社はきっと荒れ放題だろうと思ったが、それでも行ってみたいとティアンが言う為、玄秀はその場所を訪れた。
 
 古社は確かに荒れていたけれど、掃除をすれば問題ない程度に留まっていた。
 大して感慨も無かったが、戻ってきたのだからと玄秀は社を掃除し、花でも手向けようと墓に向かった。
 ティアンもいそいそと玄秀の後ろをついてゆき、墓掃除を手伝う。
「このお墓は誰のなのかしら?」
「養父の墓ですよ」
「そう……どんな人だったの?」
「養父は厳格な人でした。裏では呪殺等の依頼も受けていたようですね」
 パラミタ出現による魔力の活性化に乗じ、家名の再興を狙っていた養父は、その為に玄秀を引き取って己の全てを教えようとした。玄秀も養父の持つ全てを吸収しようとよく学んだ。
「その頃のシュウってどんな感じだったのかしら。あ、写真とか残ってたりしない?」
 ティアンが重ねる質問を玄秀は聞き流していたけれど、やがて深いため息をついた。
「……そんなに僕の過去が知りたいですか?」
「だ、だってほら、パートナーなのに私、シュウの昔のこととか知らないし! それに、いろいろ知ればもう少しお互い距離感を縮められたりしないかなって……ね?」
 少し早口にティアンは言うと、無闇に墓を掃除する手を急がせた。
「僕の心に踏み込む覚悟があるんですか? ……今まで通りの関係でいた方が幸せだと思いますけど」
「今の関係も悪くはないけど、出来れば、その、もうちょっと近くてもいいかな、なんて」
 自分の言ったことに照れているのだろう。ティアンの顔が赤くなっている。
 その平和さがどこかかんに障り、玄秀は言わずに置こうと思っていたことをティアンに突きつけた。
「養父はパラミタに上がる前、僕が倒しました」
「倒したってどういうこと?」
「養父の全てを僕は学び取りました。そこで養父に術勝負を挑み、養父は激闘の末に敗死したんです」
「そんな……っ。シュウもきっとショックだったわよね……」
 蒼い顔をしているティアンに、玄秀は追い打ちをかける。
「いいえ。殺す気で闘ったんですから当然の結果です」
 玄秀の言葉の意味がしばらく頭に入らずに、ティアンは困惑した。
「なんですか? そんな目で見ないで欲しいものですね」
「そっ……そ、そんなの嘘よ!」
「どうしてそれを君が決めるんですか? 僕のことを何も知らない君が」
 玄秀は酷薄に笑った。
「僕は元々こういう人間です。君が勝手に理想像を投影していただけでしょう。ある程度はあわせてあげられますけれどね。……演技ですよ。当然ですが」
「こんなのって……ないよ……父さん……私、どうすればいいの……?」
 ティアンはこれまで、パートナーを守る立派な騎士になって一緒に幸せになりたいと夢見てきた。けれどその夢はこの現在とは繋がっていない。
 愕然とするティアンに玄秀はあっさりと言う。
「別に貴方1人と契約している訳じゃない。去りたいならどうぞ。……まだ一緒にいたいなら構いませんが、覚えておいてください。僕は貴方の思い通りにはなりませんよ」
 
 歩き出した玄秀からそれでも離れがたく、ティアンはその後を着いていった。
 けれどいつもより開いているその距離を……どうしても縮めることは出来なかった――。