イルミンスール魔法学校

リアクション

（２）集落東部−２

「ちっ、生身でイコンと戦うことになるとはな」
　そうボヤキながらに地を蹴った氷室　カイ（ひむろ・かい）は『強化光翼』の翔力も併せて、まるで弾丸の如くに巨機兵へと向かっていった。
　狙いは足。
「はぁっ！！」
　まずは機動力を奪うこと。二刀の『レーザーマインゴーシュ』を連続で振るいて足首を刈りにいった。
　装甲の表部を砕いたものの、刃は深く突き抉ることも、まして足首を刈る事など到底できなかった。しかしこの場はそれで十分だった。
「ふっ！！」
　パートナーであるサー・ベディヴィア（さー・べでぃびあ）が『レーザーマインゴーシュ』を同じ脚部に振り打った。パートナーと同じに二刀のレーザーブレードを宙を滑る速度に乗せて。
「くっ……なんて頑丈な」
　イコンの装甲にダメージを与えるだけの威力を持つ刃をもってしても斬折できないとは。まぁ、竹を切るように裂けるなどとは元より思っていないわけだが。
「なるほど……倒れてもくれませんか」
「だが悪くない、このまま行くぞ！」
「えぇ」
　表面部だけとはいえ、装甲は破壊できる。多少強度があっても砕けるならば繰り返すだけでいい。
　ベディヴィアも『宮殿用飛行翼』を羽ばたかせて宙を舞う。カイとイコンの距離を測り、互いが死角から攻撃できるよう連携を図る。
　二人が難なく攻撃を成功させた要因の一つに雨宮　渚（あまみや・なぎさ）の働きがあった。彼女の役目は『攪乱』、『氷雪比翼』にて宙を舞い、そしてイコンの視覚を成すメインカメラにわざと映り込んでは捌けてゆく。
　その上で二丁の『魔銃モービッド・エンジェル』をサタナキアへと向けた。狙撃を行うことで『攪乱』の効果を上げようとしたものだったが―――
「きゃっ！！」
「渚っ！！」
　狙撃を試みた渚が『氷雪比翼』を撃たれて落下していった。狙撃手は佐野　和輝（さの・かずき）。それをいち早く発見したのはカイに纏われている魔鎧のルナ・シュヴァルツ（るな・しゅう゛ぁるつ）だった。
「カイ！　あれだ！！」
「それよりも渚だ―――」
「見失うな！！　渚なら心配ない」
　ルナの言葉の直後、渚は無事な翼をどうにか羽ばたかせて速度を落とした。墜落を免れた渚はすぐに顔を上げて迎撃に備えた。
「我のスキルを使え！！」
「当然だ！　いちいち言うな！！」
　怒りを刃に込めて、カイは『乱撃ソニックブレード』を放った。方角は明後日、敵の銃口は空に向いている、ベディヴィアを狙おうというのだろうが、そうはさせない。
（殺った）
　そう思うは早急だった。幾数もの音速撃が和輝の体に届く刹那の瞬前に『フルムーンシールド』がそれらを防いだ。
「……俺を護るか」
「当然よ、私はあなたの『盾』なんだから」
「……なるほど。ならば俺に続くがいい」
「…………………………それが命令ならば」
　盾に隠れることなく和輝は『最古の銃』を水平に構えてカイを狙い撃つ。一連のそれらを目撃していたカイらは当然に身を隠してそれらを避けた。
「なぜ攻撃する！　ザナドゥに与みする気か」
「邪魔をするな、俺は命令を遂行するまでだ」
「命令？　貴様も誰かの足という事か」
「ふん。侵略者共がなにを言う」
　続く銃撃に、カイは間合いを詰める事ができない。加えて巨機兵『サタナキア』の千鳥足にも対処しなければならない。
　上空にはベディヴィア、そして渚もどうにか戦線に復帰できそうである。二人と連携して三点から一気に攻め込むか……。
「待って！　お願い待って！！」
　カイの腕に縋るように飛びつく少女がいた。少女の名前はアニス・パラス（あにす・ぱらす）、カイに銃を向けている和輝のパートナーであった。
「お願い！　和輝とスノーを助けて！！　
「助ける？　攻撃されているのはこっちだ！」
「違うの！　命令されてるだけなの！　スノーを作った悪魔が和輝に命令して、スノーは和輝を護らなきゃだから……」
　彼らに接触してきた悪魔は、魔鎧であるスノー・クライム（すのー・くらいむ）を作った職人であった。その職人は職人でありながら軍に忠誠を誓った特異者の一人だったようだ。
　軍の悪魔がイコン『サタナキア』を起動させた今、和輝たちにはサタナキアを支援しながら侵入者を撃退せよとの命が下されたようだ。
「命令されてるだけだから！　命令されてオカシクなってるだけなの―――」
　アニスは言っている最中にその画を捉えた。空中を滑空するベディヴィアが和輝に向かっている、しかし和輝はそれに気付いていない。
「ダメーーーー！！！」
　アニスの声に和輝が顔を向けて迫りくる敵を捉えた。
「ふん」
　それは一瞬だった。迫りくるベディヴィアに銃口を向けて引き金を引いた。その刹那のタイミングでアニスがそこに飛び込んで―――
　銃声。そしてアニスが崩れて横たわる。
「か……ず、き……」
　ベディヴィアを止めようと、和輝を護ろうと両手を広げて飛び込んだアニス。その右腹部を和輝の銃弾が貫いた。
「みなさん！　見つけましたよ！　兄さんが見つけてくれましたよ！！」
　和輝が声にならない悲鳴と共に身を捩る中、高天原　咲耶（たかまがはら・さくや）が駆け寄ってきた。イコン工房にて『サタナキア』に関する資料や図面の類を探していたドクター・ハデス（どくたー・はです）のパートナーである純情娘だ。