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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)
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 戦場に響く笛音にミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は顔を上げた。
「えっ? 何? 撤退?!!」
みるでぃ! 撤退の合図だよ!」
「聞こえてるわ」
 組み伏せている悪魔兵をひと思いに絞め落としてから応えた。パートナーのイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)はすでに『アリスういんぐ』をいっぱいに広げていた。
「え? なんでやる気まんまん?」
「そりゃあだって今度はみんなで逃げるんでしょ? 戦いながら逃げるって、すっごく難しいんだよ♪」
「あ〜、なるほど、そういうこと」
 難しいから面白い、だからウキウキわくわくしていると。
 ただ背を向けて逃げれば即殺されることだろう。まずは自分の身を守ること、そして仲間の命も守りたいなら、仲間に襲い来る敵も相手にしなければならない。つまり多くを望めばそれだけ単純に敵の数が増えるというわけだ。
「いいわ、やってやろうじゃない」
「おっ、みるでぃも喧嘩上等だね?」
「もちろんよ! 無理も突っ切れば道理が引っ込むってね♪」
 『喧嘩上等』はスルーした。悠長にツッコんでる暇はないしそれに、ニュアンスは意外と違ってはいなかったからだ。
「さぁ! 行くよ!!」
 『龍鱗化』した足で地面を蹴り出した。ミルディアの視線の先にカナン兵に襲いかかる悪魔兵が一人。その肩口を、『ランスバレスト』で貫いた。
 悪魔兵の呻声があがる。その頭を拳で思い切り殴り飛ばし、肩口に刺さった『ヴァーチャースピア』を抜いてみせた。
「撤退よ! 聞こえなかったの?!!」
 一言で「白兵」と言っても、個々の能力にはバラつきがある。撤退しろと言った所で、目の前の敵に手一杯では、そうしたくても叶わない。でも、
「はぁあああっ!!」
 誰一人として殺させない。守りきってみせる、そう決めたから。
 追ってくる敵を足止めするにはどうしたら良いか。殺す、または気絶させられるなら文句なし、しかしそれをするには相応に時間が必要な場合が多い。全ての敵を一撃で倒すのは不可能だろうし、相手は当然抵抗もしてくる、そうなれば時間はかかる上に自分の身も危ない。
「なら狙うは……足よねっ!!」
 貫くのは片足で十分、それだけで動きは制限できるし追って来ることも出来ないはず―――
みるでぃ! 羽! 羽っ!!」
「羽? あぁっ!!」
 片足を貫いた悪魔兵が背中の羽を広げて飛び立っていた。
「あぁ〜!! もうっ!! 悪魔めんどくさいっ!!」
「私がやるっ!」
 イシュタンの『アリスびーむ』が空飛ぶ悪魔の羽を撃ち抜いた。その一度が左右両方の羽を見事に撃ち抜き、「やったぁ二枚抜きっ!」と彼女を大いに喜ばせた。
みるでぃ! みるでぃっ! これ面白い♪」
「そ……そうね! それなら飛んだ敵はお願いね!」
「了ぉ解っ! 任せてっ♪」
 地上と空。ミルディアイシュタンは連携して、その両方をフォローしあう事で兵たちを導いてゆくようだ。
「撤退です……はい……えぇ」
 変わってこちらは戦場の中央部。未だ兵の撤退が進んでいない地帯である。その中にあって、
「えぇ……パイモンにやられたようで……えぇ……重傷です、今は応急処置だけで……」
 少しばかり前から水神 樹(みなかみ・いつき)は『籠手型HC』による報告に加えて、携帯電話による口頭報告も行っていた。マルドゥークの負傷と集落からの緊急撤退という状況を最重要報告事項と判断しての行動だった。
「集落内にもまだ……えぇ、はいもちろん……えぇ……では」
お姉ちゃん」
珂月―――おっと、」
 悪魔兵の『トライデント』を半身で避けて、そのまま後頭部に『グリントフンガムンガ』で殴りつけた。
お姉ちゃん……それはちょっと惨い……」
「えぇっ!!」
 数本の刃が生えた武器、斧にも分類できるその武器で後頭部を強打する……確かに少し惨いと言えるかもしれない。しかし―――
お姉ちゃんっ!!」
 の背後に迫る悪魔兵に東雲 珂月(しののめ・かづき)は『優しの弓』を向けた。
 射られた矢は悪魔兵の右目を射抜いた。
「………………珂月も十分惨いじゃない」
「えっ? ………………あっ!」
 アハハと空笑い。戦場に身を投じたのだから、この程度の攻撃は惨いとは言わないのだろうが。
「突破しますよ! 珂月!!」
「はい!!」
 チームにおける二人の役割は「敵を一カ所に集めること」。撤退という状況下にあってもこの策は味方を援護するのに重要な役割を果たした。
 自軍の兵を導くこと。その他にのチームにはやらなければならない役割があった。
カノン! ! 頼みましたよ!!」
「………………はぁい」
 どうにも気乗りしない声をあげたのはカノン・コート(かのん・こーと)、今まで彼は珂月が集めた敵を『サンダーブラスト』で一気に蹴る散らすのが役割だった。
 魔法攻撃を行うという点は先と同じ。違うのはそれを放つ対象、すなわちマルドゥークたちを避難させるのを阻もうとする悪魔兵を対象に放つということだ。
 それ自体には不平も不満も無い。不機嫌の種は隣に水神 誠(みなかみ・まこと)が居ることだった。
「早くこちらに!!」
 が手をあげて呼んだ。ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)を先頭に、マルドゥークを運ぶハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)や負傷した五十嵐 理沙(いがらし・りさ)に肩を貸すアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)たちが続いていた。そのすぐ後ろには彼らを追う悪魔兵とグリフォンが続き迫っていた。
「行かせないよ!!」
 一行の殿に周り込み、そしては宙に飛び出した。
「空を飛ばれるのは厄介なんだ」
 グリフォンの頭上に出て、その額に『奈落の鉄鎖』を叩き込んだ。
「くそっ……俺だって」
 が3体目のグリフォンを空から引きずり落とした時、カノンは悪魔兵の群れに『サンダーブラスト』を放っていた。
 強力なスキル、というよりは広範囲に攻撃できる便利なスキルというべきだろうか。もちろん、こんな戦場においては便利なスキルという意味だが。
「来るなら来い!! 一人残らず感電させてやる!!」
 次弾を放とうと拳を握りしめた時だった―――
 顔のすぐ横を閃光が過ぎ行き、後部頭上で爆発した。爆煙の中から落ちてきたのは黒こげになった悪魔兵だった。
「意気込みは買うが、」
 閃光を放ったのはだった。
「もう少し周りも見ろ。派手に動けば敵から狙われることになる」
「あぁ…………すまん」
「別に。危なっかしくて見てられなかっただけだ」
「んなっ! ………………ぐぅ」
 頼んでもいないのに助けられた……くそぅ……やっぱりはイヤな奴だ!
 微妙な心模様は別にして、二人は見事に敵を食い止める役割を果たしていた。マルドゥークを含む負傷者たちはまもなく戦場の端に着く。
「頃合いね」
 ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)はそう判断した。
 自軍の撤退も大方済んでいる、上空でパイモンを食い止めている面々もどうにか無事だ。仕掛けを発動するなら今しかない!
邦彦! 行くわよ!!」
「おうよ! しくじるなよ!!」
「誰に言ってるのよっ!」
 ネルが空に向けて合図を送る。その直後、ネルは空に向けて『煙幕ファンデーション』を投げ放った。
 煙幕が空に広がりを見せた直後、戦場のあちこちで大きな爆発が起こった。
 戦場に到着するなり斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)と共に仕掛けた爆弾の数々。それを次々に爆発させていったのである。
 上空でパイモンと抗戦していた刀真オリヴィアミネルバもこれに合わせて急降下、煙幕の中へ姿を消した。
 相手の攻撃の手を封じるために猛攻を仕掛け続け、最後には撤退するという何ともストレスの溜まる役回りではあったが、抗戦以降、パイモンの凶刃に沈む者を出さなかった事だけはみな胸をなで下ろす成果だったと思えたようだ。
 煙幕と爆発が起こす粉塵と混乱に紛れる形で、カナン軍は撤退を果たした。
 戦場の中で幾ら爆発が起ころうとも煙幕が張られようとも、追う者がいる限りそれらはただの時間稼ぎにしかならない。にも関わらずカナン軍が見事に撤退を成し遂げたのには、パイモンの動向が大きく影響していた。
 煙幕を晴らす事もせず、自らが追走するでも自軍の兵に追走させるでもなく、ただ追走を止めるよう指示したのだという。
 予期せぬ対峙、そして開戦。ペオルの集落外でおきたマルドゥーク率いるカナン軍とパイモン率いる魔族軍との戦いは、カナン軍の敗戦、そして撤退という形で幕を下ろしたのだった。