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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)
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(4)窓のない平屋−1

「さて、どうしたものか」
 そう呟いてはみたものの、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の腹は決まっていた。
 向かいの建物の陰から顔を覗かせる。見えるは窓のない平屋の入り口。パートナーであるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が潜入した場所だ。
 彼女がそこに入りてから、いや、彼女からの連絡が途絶えてからもうしばらくの時が経過している。彼女の身に何かあったのだと仮定するには十分すぎる時間だ。迷う事はない、救助に向かうべきだ。
「よし」
 息を整え気配を消そうとした、その時だった。
「……ん?」
 視界の端にそれらを捉えた。大男が三人、その陰に女性が一人。女性も決して小さくはないのだが、2m近い男たちに並ばれているためか、ずいぶん余計に小柄で見えた。
「う〜〜ん、うんうん、ここ、ここですわ」
 小柄な女性、帽子屋 尾瀬(ぼうしや・おせ)が建物の入り口を指して言った。
「匂います。金になる……いえ、希少で希有な物品の匂いがプンプンしますわ」
「そうですか? 特に臭いは感じられませんが」
 わざとらしく鼻をヒクつかせる両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)尾瀬は「嗅覚ではなく第六感で感じるのですわ」と冷たく言った。
「つれないですね。まぁ良いでしょう、君がそう言うのなら希少で希有な物品とやらは存在するのでしょう」
「その信用のされ方は信用できませんわね」
「面倒な言い回しをしますね。そして意地が悪い」
「あら、誉めても何も出ませんわよ。人に出させるのは好きですけど」
「なるほど、ではここの住人に出させるとしましょう、希少で希有な物品とやらを」
「しつこい男は嫌われますわよ」
 悪路を先頭に尾瀬、そして大男な三道 六黒(みどう・むくろ)葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)が続いて平屋の中へと入っていった。
「なんなのアイツら」
 セレアナもすぐにこれを追う。見るからに怪しい、というより邪悪な気配さえ感じる。セレンフィリティとの通信が途絶えた事とは直接的には無関係だとしても、彼らと鉢合わせる事は彼女やましてそれを自分自身に置き換えたとしても、プラスになるとは気休めにも思えなかった。
 見つからぬよう、また見失わぬようにセレアナも建物内へ、そしてすぐに見えた地下への階段をくだって行った。
 そんなこんなの一方で、彼女が探すパートナーのセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、
「さて、どうしたものかしら」
 地下牢の中で辺りを見回していた。
 建物の外壁に無かったように、牢の中にも窓は無い。
 鉄格子越しに見える通路の先に僅かな空気孔らしきものは見えたが、それが果たして地上と繋がっていたとしても、とても滞り無く空気を循環させているとは言い難い。室内に満ちた湿気が濡れたレインコートのように肌にベットリと纏わりついていた。
 牢の中は八畳ほどと言ったところか、それだけの空間に十一名が収容されている。白熱灯にも似た明かりのおかげで、どうにか互いの顔は認識できる。セレンフィリティを除けば皆、職人たちにガスで眠らされた者たちだった。
プラチナがいない!」
 パートナーたちと辺りを見回しながら言ったのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だった。同じに連れ去られたはずのプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)の姿がないのだという。
プラチナは……プラチナをどうした!!」
 潰すように鉄格子を握りながらに問う唯斗に、守衛の男が笑って応えた。
プラチナ? さぁな、そんな奴は知らん。まぁ、生きの良さそうな魔鎧は一人運び出したがな、そいつがプラチナって奴だったかどうかは俺たちが知るわけ無ぇだろ? そうだろ?」
「貴様……」
「安心しな、すぐに準備が整う、そうしたらそこのお前も、そうだお前だ」
 そう言って男はグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)を、いや、魔鎧状態で彼に纏っているアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)を指差した。
「お前もすぐに連れ出してやる、お仲間との再会って訳だ、どうだ嬉しいだろう? ん? 安心しろ、お前は魔鎧状態で構わない、人間ごと実験に参加させてやる、有り難く思え」
グラキエス様を実験の素材にするだと?」
エルデネスト……」
 言われたグラキエスは些か冷静だったが、これに激昂したのはエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)だった。
グラキエス様は体も命も魂も、契約した瞬間から私のものだ! 貴様らのような下賤な者が私のものに手を出そうなど、魂を差し出そうとも許さぬぞ!!」
「何を言ってもお前らは牢の中、そこで大人しくしているんだな」
「待て!! 今すぐここから出せ!!」
エルデネスト、落ち着け、落ち着くのだ」
 腹立たしい笑みを残して守衛は持ち場に戻っていった。幽閉されている事は事実、そして実験対象にされるというのもまた事実なのだろう。
 自分の事を『私のもの』と宣言したエルデネストグラキエスは応えた。
「殺されて死んだ時点で俺はあなたのものになるかと思っていたが、この状況ではそれも分からないか」
 実験とやらの詳細は不明、それでも目覚めてすぐに聞こえてきた守衛同士の会話からは『開発途中』という単語と『魔鎧専用武器』という単語がはっきりと聞き取れた。先の言葉と合わせれば自分たちを実験素材に使い、それらを完成させるつもりなのだろう。
「俺もあなた以外のものになりたくはない」
「私こそ、誰にも渡すつもりはない」
「そのためにも、さっさとここを出るとしよう」
「ふふ、らしくなってきましたね。それでこそグラキエス様です」
 ……………………。
「と、とにかくっ」
 二人の間に薔薇色な空気が……いや、契約を確かめ合っていただけだろうか? とにかく、ここを抜け出せなければそれらも何の意味を持たない。
「どうなの? イケるの?」
「あぁ、問題ない」
 グラキエスは既に目を剥いていた。
「いい具合に高ぶってきた、俺もコイツも加減は出来そうにないな」
 彼がコイツと言ったは『フラワシ』のこと、そしてそれは一気に牢を抜けて守衛の一人に飛びついた。
「ぐぁっ、ぎゃぁあああああ」
 『焔のフラワシ』の力が、守衛の全身を真っ黒に焦がして焼いた。
 室内に充満した湿気がなければ、怒りのままに焼き尽くされていたかもしれない。炎から逃げるように、また『フラワシ』に圧された守衛は牢の前に転がり倒れた。その隙を突いてグラキエスが手中の鍵を奪取した。
「あっ! 貴様っ!!」
 突然の仲間の惨状にオロオロしていたもう一人の守衛が、鍵を奪われたという現状に我に返っていたが、時既に遅し。
「ふっ!」
 グラキエスの『ランスバレスト』が守衛の鎖骨を砕き貫いた。そのまま壁に叩きつけただけでは終わらない、空いた手で喉を潰すと、そのまま顔を鷲掴みにして―――
「ぉ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「調子に乗りすぎたな」
「ぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 容赦もなく、零距離で『バニッシュ』を放って捨てた。
「良い具合だぞ、アウレウス
 『ランスバレスト』も『バニッシュ』もアウレウスのスキルだ。自分のせいで捕まった、全ては自分のわがままのせいで、と自分を責めるアウレウスを、彼のスキルを存分に使うことで慰め、そして想いは伝わっている事をその身で示していた。
「よし! 行くぞ!!」
 パートナーであるプラチナムを連れ去られた唯斗、そして同じく捕らえられていた赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)葉月 ショウ(はづき・しょう)もこれに続いた。
 正直、ここが建物内のどこに位置しているのかさえ分からない、しかしこの階と外界とを繋ぐ唯一の道が階段である以上、そこを使わざるを得ないだろう。
 ここは窓のない平屋、そしてここは僅かな通気孔だけがある牢のある階。登りのその階段を駆け上がるより他に手はない。
 一気に、一思いに駆け上った時だった。
「そこで止まるがよい」
 通路の先から何か……そう、おぞましい気配が吹きすさび来るのを感じた。これは……
「『アボミネーション』か」
「ご名答。良い勘をしている」
 霜月の分析を『勘』扱いした葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)は落ち着いた物言いで『アボミネーション』の邪気を強めた。
「そこで大人しくしていてはくれないか。さもなくば石にしてでも大人しくしていてもらうことになる」
「みんなは先に行け! ここは俺が引き受ける」
「……俺たちが、でしょ」
 ショウに続いてレネット・クロス(れねっと・くろす)が先陣に立った。
 背にした階段は階上へ続いている。通路の先にはが居る、そして奴等がどこから涌いたかも分からない以上、強行突破するだけの価値があるとも思えない、つまりここは『階段を駆け登り進む』が最善だろう。
「急げ! 実験とやらが始まる前に!」
「あぁ……すまない!」
 幸いは一人のようだし、彼ら二人ならば殺られる事もないだろう。
 囚われの仲間を救出するべく、ショウレネットの二人をその場に残し、一行は一気に階段を駆け登った。