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リアクション
第一章 ええじゃないか1
パラミタ大陸のはるか東。
マホロバと呼ばれる国がある。
そこにある遊郭は浮世にとってまさに夢の場所。
今夜もひとり、またひとりと、『夢』を求めてこの場所を訪れていた。
マホロバ一の遊郭である幕府の公許といわれる『東雲(しののめ)遊郭』。
そこで、一人の男があたりをきょろきょろと伺っていた。
「おかしい……ここに行くことは、何一つ教えていなかったのに」
猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は、先ほどから彼の後を付ける気配を感じていた。
意を決して「せーの」で振り返る。
「俺は何もやましいことはしてないんだ! ウイシア!!」
大声で叫ぶものの、後ろには誰もいない。
気のせいかと正面を向いたとき、やわらかい何かにぶつかった。
「……やましいことはないですか。でしたら、そんなに必死にならずともよろしいのに」
勇平のパートナーウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)が、メイド服を着て張り付いたような笑顔で立っていた。
勇平の表情が固まる。
「な、なんだ。いたのか。遊郭で会うなんて、き……奇遇だなあ」
「勇平君の考えていることはすべてお見通しですわ。今日は別の用事があるとか、ご友人と口裏まであわせようとしましたわね。契約者同士に、そのような策略をされても無駄です」
そういって、ウイシアは強引に勇平の腕を組んだ。
「さっきからすれちがう遊女にデレデレと……イラっとしますわ」
勇平は客引きをしている可愛い遊女ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)にみとれている。
彼女は勇平の視線を自分の正面に据えた。
ぼきっといい音がする。
「イテッ! 首、折れる~折れるから~!」
「勇平君、こんな誘惑の多い場所……見てはいけませんわ。見るなら私にしてください」
「え……?」
勇平が真顔で聞き返した。
ウイシアはハッとして、口ごもる。
「違いますわ……私はただ年上として忠告しているだけで……決して嫉妬では。ともかく、違うところに行きましょう」
「ちょっとまて~! せっかくの遊郭でのお楽しみがああ!!」
監視から逃れようとする勇平を、メイドは力づくで引きずっていく。
先ほどの客引き遊女ミネッティは、遠目で彼らを眺めていた。
「あのお客さんたち……行っちゃった、うーん残念。他には……あ、ねえそこのお兄さん。ちょっと登楼(あが)ってみませんか? うんとサービスしますから」
ミネッティ声をかけられた世 羅儀(せい・らぎ)は、パートナーのいかつい軍人叶 白竜(よう・ぱいろん)に耳打ちする。
「なかなか可愛い娘がいるじゃないか。少し遊んでいかないか?」
「私は美味い酒が飲めればそれでいい。娘は……別に器量は問わない。ただし、未成年は困るな」
「相変わらずお堅いな、少尉殿。まあ、いいや。そいうわけで、この少尉殿のご意向にかなう妓を呼んでほしいな。オレはもちろんキミでオッケーなんだけど。お願いできるかな?」
羅儀はミネッティにそう告げると、彼女は快く返事した。
「でしたら、廉姐さんがいいと思いますよ。呼んできますね。お客様、二名様ごあんなーい!」
ミネッティの高々な声があがる。
「キミ、新人みたいなのに手際がいいね。衣装も他の遊女とは違ってるけど……?」
羅儀がミネッティを褒めると、彼女はとびきりの笑顔を見せた。
「良かった、お客さんに気に入ってもらえたみたいで。あたし、地球でも
キャバ嬢やってるんだ。地球に返ったときは、絶対遊びに来てね。や・く・そ・く、よ?」
卍卍卍
彼らが通された座敷には、ゆっくりと指名を待っていた
龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)とパートナーの
陳宮 公台(ちんきゅう・こうだい)が、待っていた。
大人っぽく、中性的な顔立ちの遊女である廉と、影蝋(かげろう)ではなく遊女として迎えたられ、女顔で声も女性的な公台。
羅儀は、無口な白竜にはこの鼓たちはお似合いだといった。
「廉と申す。よろしく……」
廉はどこかでこのようなことをしていたのか、慣れた手つきで白竜を酒を注ぐ。
一方の公台は慣れない場所なのか、本当は男性だからか、恥ずかしそうにしていた。
「廉殿、次は私が……」
「お前はそう気を使わずとも良い」
二人のやりとりを白竜は快く思った。
「酌はいい。華やかな宴を観ながら、静かに酒を飲む。つまらん客かもしれないが」
白竜はゆっくりと煙草をふかしながら、杯を傾ける。
「さわいでも背中の傷がうずくだけだ」
白竜は任務の失敗で負った火傷の痕がある。
その下には竜の入れ墨の跡があった。
「気にするか?」
彼は念のために、遊女達に聞いてみた。
もし、怯えさせてしまうようであれば、退席したほうが良いだろうと彼は思った。
しかし、公台は首を振る。
「あなたは軍人としての責務を果たそうとしただけでしょう。そのことをとやかく言う者がおりましょうか」
「ありがとう。私もだ。君たちがどうであろうと問いませんよ。実性別もね」
「いい客だ……」
廉は杯を手に取りながら、そう思った。
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