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リアクション
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)もまた、表リラードの発言に呆れつつも龍騎士でないと受けられない試練を受けられたことを幸運と思うことにした一人だ。
しかし強盗 ヘル(ごうとう・へる)はそこまで寛大ではなかった。
わらわらと押し迫ってくるスパルトイの群に大声で悪態をつく。
「修学旅行って言うから、うまいモン食ったりする楽しいもんだと思ってたのに、何だこりゃあ! 何で戦わないといけねぇんだよ! ええい、近づくな!」
うっとうしい、と束にして担いでいた登山用ザイルでスパルトイをぶっ飛ばす。
倒されたスパルトイは地に溶け込むように消えていく。
周りのスパルトイは味方が倒されたことなど見えなかったように、剣を振り上げ攻撃姿勢を崩さない。
「クッ……試練をクリアしないとダメってか。このアホみたいな数を! どんだけだよ神の試練! ……おい、お前も何か言ってやれ! 言っても無駄だろうが言え!」
ヘルはザカコに吼えたが、彼は倒されて消えたスパルトイや他のスパルトイを難しい表情でじっと観察している。
ヘルは荒々しく舌打ちした。
「もうヤケだ! やってやるぜ! これでも食らえ!」
ヘルは機晶ロケットランチャーを担ぐと躊躇わず発射スイッチを押した。
轟音と共にスパルトイの一団が吹き飛ぶ。
ザカコが観察していたのは、
・スパルトイに紛れて指揮する何者かがいるのでは?
・一度倒してもまたスパルトイは湧いて出てくるのか?
・味方の疲弊度とスパルトイの数の比率
大きくこの三点だ。
三つ目についてはさらに踏み込んで、スパルトイはこちらの敵意や害意に反応して動いているのでは、とまで考えてみたのだが……。
「……それほど複雑な仕掛けではなさそうですね」
少し落胆したように結論を口に出す。
ヘルに倒されたスパルトイが蘇る気配はないし、他の何もない床から湧いて出てくるのも見られない。
指揮官らしき者の動きも見えない。
それから、ヘル以外の、ウィングやアレックス達が多少疲れを見せて一息つこうとしても、スパルトイはそれを許さず攻撃し続けている。
本当にここにいるすべてを倒さないと次へ進めないと言わざるを得なかった。
「ザカコォ! いつまで考え込んでるつもりだァ! うっかり手が滑ってお前をぶっ飛ばすぞ!」
いっこうに減る様子の見えないスパルトイの群に苛立つヘルが、その怒りの矛先をザカコにも向けてきた。
ザカコは苦笑するとカタールを抜き、ヘルの横に並ぶ。
「安心してください。敵はちゃんと減っています。数が多すぎてそう感じないだけです。落ち着いて着実に倒していきましょう。幸い、それほど技量のある敵ではないようですから」
問題は、体力がもつかだ。
「無我とはよく言ったものですね」
「うるせぇ! 俺は有我だ!」
まだ見えない扉を目指し、二人は突き進んだ。
「少しは、減ってきた、ようです、ね!」
言葉を区切るたびに銃弾を撃ち込み、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)がスパルトイを一体、また一体と倒していく。
彼の言う通り、先が見えないほど視界を埋め尽くしていたスパルトイの群に、だいぶ隙間が生じていた。
いつ終わるとも知れない戦いに、体力だけでなく集中力も削られていっていたが、ようやく見えた終点に霜月達の頬に生気が戻る。
そんな空気をぶち壊すアイアン・ナイフィード(あいあん・ないふぃーど)。
「そんなに安心していいのか? 油断してると俺様の剣に貫かれるぜ」
「その前にわしが黒コゲにしてやるわ」
「相手はてめぇだってかまわねぇんだぜ」
剣呑な空気をビシバシ飛ばしながらも、アイアンとグラフ・ガルベルグ著 『深海祭祀書』(ぐらふがるべるぐちょ・しんかいさいししょ)はまだお互いに武器を向け合ってはいない。
「二人とも、もめるのは後にしてください」
「なに自分は関係ねぇみてぇな顔してんだ」
止めに入った霜月にも噛み付くアイアンだが、霜月にとっては彼も『深海祭祀書』も大切な家族だ。
疲れているが微笑んでみせれば、アイアンは舌打ちしながらも殺気を彼らに向けることをやめた。
と、急に入口方面が騒がしくなる。
ちらりと様子を窺うと、最初に天の炎で霜月達を先に行かせた『手記』やあえてその場に残った学生達が、残りわずかになったスパルトイを倒しつつ駆けつけてきているではないか。
彼らの向こうからスパルトイが追いかけてくる気配はない。
「負けていられませんね……!」
霜月は自らを奮い立たせると、グレイシャルハザードも織り交ぜて敵勢を減らしていった。
大剣を振りかざしてもっともスパルトイが密集しているところへ突っ込み、身につけた剣技で斬り伏せていくアイアンを、『深海祭祀書』の魔法が援護する。
『深海祭祀書』が放ったサンダーブラストに弾かれ、態勢を崩したスパルトイを霜月が撃ち抜いたのが最後だった。
この試練の間に入ってから鳴り止むことのなかった戦闘音が消えた。
聞こえるのは、学生達の肩で息をする呼吸音だけ。
念のために辺りの気配を探っても、こちらを狙っているような視線などは感じられなかった。
「終わった……ようですね」
やや呆然としたように霜月が呟けば、『深海祭祀書』もアイアンもようやく杖や大剣を下ろす。
岩がこすれるような重々しい音と共に、薄暗い試練の間に細く光が差し込んだ。
「第二の試練、終了……じゃな。やれやれ」
「先生……」
『深海祭祀書』を呼ぶ霜月の声に喜色がにじむ。
銃を撃ち続けた腕はかすかに震えているが、次へ進む扉を開けたことへの達成感のほうが大きかった。
それぞれの学生達も安堵して座り込んだりしていた。
ふと、何かを思ったように『深海祭祀書』が霜月に言った。
「霜月よ、龍騎士を目指す気はないか?」
「は? 龍騎士……ですか?」
思ってもみないことを言われて呆気にとられる霜月だったが、一つ思い当たることに気づき戸惑いをみせた。
「それは……自分に魔法の才がないから、ですか?」
「このまま二流止まりとはいえ魔法使いを目指すのもよいが、龍騎士を目指すのもよい……どちらも厳しい道じゃが、可能性の一つとして思っただけじゃ」
「けど、龍騎士は『目覚めるもの』なんでしょう?」
「ひょっとしたら目覚めるかもしれんぞ」
「大雑把ですね……」
とはいえ、先生と慕う彼が言うなら、もしかしたらそんな将来もあるのではないかと思ってしまう。
「ま、もう少し龍騎士に関することを知らねばならんがな」
この試練場で何かわかればよいが、と『深海祭祀書』は思慮深い眼差しで扉の向こうへ目を向けた。
呼吸をするのも億劫なほど疲れ果てたグラキエスを、エルデネストがやさしく抱き起こす。
「こんなになるまで戦うなど……どうして呼んでくださらなかったのです?」
眉を寄せるエルデネスト。
グラキエスは、目を合わせたくないというふうに瞼を閉ざしていた。
「身を守ることは考えなかったのか?」
一方こちらはゴルガイス。怒りを抑え込んだような口調で、しかしグラキエスを手当てする手はやさしい。
やはり何も言わないグラキエスに、ゴルガイスは戸惑い寂しさを覚えた。
「ここからは、私が貴方を背負いましょう。ゆっくり休んでください」
エルデネストは、そっとグラキエスの髪を撫でた。
床に座り込みながら歌菜と羽純はどっちが多くスパルトイを倒したか言い合っていた。
「絶対、私のほうが多いよ。羽純くん、ちゃんと数えた?」
「そういう歌菜は数えたのか?」
「数えてないけど……でも」
「俺も数えてないが、少なくとも歌菜よりは多い」
「横暴だよ」
「細かいこたぁいいんだよ」
決着のつかない繰り返しにいい加減飽きてしまった羽純は、話を断ち切ると不意に歌菜に顔を寄せた。
歌菜は頬にぬくもりを感じて、とたんに真っ赤になる。
「どうして一人で勝手に決めちゃうの〜っ」
「これで褒美と報酬両方ってことで」
満足そうな羽純の笑顔に、歌菜は振り上げかけた拳を下ろすしかなかった。
そんな笑顔を見せられては、怒るに怒れないというわけだ。
「ほら、これやるから機嫌直して」
そう言って羽純は歌菜の手に石を握らせる。
首を傾げる歌菜に、ここの石だと教えた。
「お土産にしよう」
綺麗でも何でもない石ころで機嫌をとろうとするあたり、先ほどの行為を何も反省していないことが窺えたが、確かにこの試練場の石は思い出深いものになるだろう。
歌菜は石を握り締め、しょうがないなぁと微笑んだ。
そしてここにも同じ内容で言い争う二人が。
奈津とイングリットだ。
たまたま歌菜達の近くにいたため、二人を見て言い合いをやめてしまう。
この夫婦の仲睦まじさに見ていて照れてしまったのだ。
「わたくし達も今回はここまでにいたしませんか?」
「そうだな……疲れたし」
「ええ。ですが良い経験になりましたわ」
奈津もイングリットも疲れ果ててしばらく動けそうにない。
あちこち傷だらけで服もだいぶくたびれてしまったが、心は軽かった。
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