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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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リアクション

 一方、ここはヴェネツィア。水の都として名高い場所である。
 妊婦である蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は初めての海外であるこの修学旅行兼新婚旅行を満喫していた。
 何故、ヴェネツイアにいるのか?
 実は、朱里とアインは最初はローマにいた。映画の有名なロケ地でもある真実の口やトレビの泉、ポポロ広場などの名所を二人で巡ったりと仲睦まじく観光していた二人であったが、身重の朱里の体を気遣ったアインが、「ローマは日本と比べて治安が悪いと聞くし……朱里、最終日に行こうとしていたヴェネツイアでノンビリしないか?」と提案したのだ。
 アインの提案を受けた朱里は、直ぐ様夫の意見に同意した。
「確かに、超高級ブランドには興味がないし……それよりも心に残る思い出作りの方が大切ね!」
 お腹を摩りながら微笑む朱里の言葉にアインが頷く。
「ああ。本場イタリアのおいしい料理を食べたりするのもヴェネツイアで可能だろう」
 有名な観光地であるローマは、行き交う人々の数が多く、スリやひったくり等の被害に遭わないよう、何より身重の朱里が怪我をしたり慣れない異国の環境で体調を崩さないよう常に注意を払うアインにとって気が気ではなかったのだ。
 とはいえ、観光自体は二人共心から楽しんでいるようだ。
 今、二人はヴェネツイア名物の水上を行き交う小舟『ゴンドラ』に乗っていた。
 夕暮れの光が水面を照らし、時折目の前にある街並みの影が二人を包む。
 ゴンドリエーレと呼ばれるゴンドラ漕ぎには、事前に朱里を気遣ったアインが「ゆっくり頼む」と告げたせいか、彼らの乗る舟は非常に遅いスピードで進んでいく。
 歩いて廻るのとは全く違ったヴェネツイアの風景に朱里が見とれ、そして夕日に照らされた朱里の顔にアインが見とれる時間が続いていた。
「(今だけは、時間が止まって欲しい)」
 長い間封印された過去を持つアインがそう思ってしまう至福の時間。
 朱里が自身の体を少し震わせる。
 水面に浮かぶ小舟と言う事もあってか、日中は心地良かった風も日没間際になり少々肌寒いものになってきた。
「(朱里は、何故こんな時間にゴンドラに乗ろうと言ったのだろうか? ベネツィアに着いて直ぐでも良かったのに)
 アインが自分の衣服を朱里に着せようとした時、
「あ!」
 嬉しそうに小さく声をあげる朱里。
「どうした? 気分でも……」
 アインが尋ねると、朱里が目の前を指さす。
 朱里達の乗るゴンドラの前には、白の大理石で出来た橋が見える。何かの建物と建物を結ぶその橋には、石で出来た格子のついた窓がある。
「あれは……?」
「溜息の橋よ」
「溜息の橋?」
「ドゥカーレ宮殿の尋問室と牢獄を結ぶ橋。囚人達が牢獄へ入る前に、あの窓から暫く見れない景色を見て溜息を漏らすって意味なの」
「なるほど……確かに溜息の一つも出るだろうな」
 アインが次第に近づいていく橋に苦笑すると、朱里がアインの顔をじっと見つめる。
「でも、もう一つ。このヴェネツイアに伝わる言い伝えがあるの」
「言い伝え?」
「恋人同士がこの橋の下で日没時にゴンドラに乗ってキスをすると永遠の愛が約束される…‥」
「恋人同士……」
 アインが少し驚いた顔で朱里を見つめる。ようやく、朱里が「ゴンドラは日没まで待って欲しい」と言ってた意味を理解した。
 二人は今や既に夫婦となり、もうすぐ子供も生まれてくる時期を迎えつつある。
 だからこそ、恋人同士の頃の様なときめき、新鮮な気持ちを忘れないように。
 そしてこれからも、夫婦の絆が強く結ばれ、円満な家庭を築けるように。
 朱里の想いがどれほどアインに伝わったかは二人にしかわからないが、アインは優しく朱里の肩に手を置き、そっと唇を近づけていく。
 二人は夕暮れ時の溜息の橋の真下で、そんな想いと共にそっと口付けを交わす。
「誓うよ、朱里?」
「え?」
「永遠の愛だ。僕は、必ず誓う」
 アインの真面目な顔と言葉に、朱里は微笑み、
「私も誓うわ。この幸せが、ずっとずっと続きますように」
「ああ」
 アインが朱里を抱きしめる。
「ん?」
「あら?」
 アインと朱里が同時に朱里の大きなお腹を見る。
「今、動いたのか?」
 アインがまじまじと朱里のお腹を見つめる。
「きっと、私も連れて行って! て言ってるのよ」
 恋人の顔から母親の顔になった朱里が優しくお腹を撫でる。
「次は子供たちとも一緒に来れるといいな」
「……そうだな」
 二人の会話に、ゴンドリエーレが舟を漕ぎながら笑う。
「このゴンドラは六人までいけるよ!」
「六人も!?……僕達以外にあと四人か」
「まぁ! オジサンったら!」
 頬を夕日より染めた朱里と、彼女を抱きしめながら真面目に考えこむアインが乗ったゴンドラは、溜息の橋を過ぎ、光が灯り始めた街並みの中をゆっくりと進むのであった。