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【2021クリスマス】大切な時間を

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第4章 聖夜への見送り

「お忙しいところすみません」
 樹月 刀真(きづき・とうま)は、早い時間に空京に滞在しているミケーレ・ヴァイシャリーを訪ねていた。
「今晩はご予定があるでしょうし、時間はとらせません」
 刀真がミケーレを訪ねた理由は、クリスマスパーティへの誘いではなく。
 ミケーレの彼女……であるはずのルシンダ・マクニースという女性に関して聞きたいことがあったからだ。
「先日は、あなたの大切な人を負傷させてしまいました。申し訳ありません」
 そして、具合はどうかと刀真は訪ねていく。
 ミケーレは、ホテルのロビーのソファに腰かけて、足を組み。余裕のある笑みを浮かべながら、刀真に前に座るよう、指差した。
「怪我なら君の状態の方が酷かっただろ? 謝るのはこっちの方だよ。彼女が迷惑をかけてすまない」
「いえ、彼女を無傷で救えなかったという事実は反省すべき点です」
 刀真はきっぱりと言った後で、礼をしてミケーレの向かいに腰かけた。
 その事実を受け止めて、反省し、それを成す為に力をつけるべきと、刀真は考えていた。
 彼女が志願したのだから、彼女自身の責任であり誰にも非はないという意見が大半だったが、それを良しとしてしまうつもりはない。受け入れてしまったら、自分はそれ以上を目指さないだろう、と。
「女性の肌に傷跡が残ってしまうのも、駄目ですしね」
「そんなことの為に、君は命を賭したの? 君だってシャンバラにとって大切な逸材なのに」
 ミケーレの言葉に、真剣な目で少し考えた後、刀真は本題に入る――。
「俺が彼女に何も感じていないままならばここには来ません。護ったのは友人に頼まれたからでもありますが、身を挺してまで護ったのは……思うところがあるからで、気になるところもあります。だから、これから何かが起きるのならば、ルシンダや貴方を信じて協力できればと思いました……護りたいモノが俺にもありますから」
 そして、彼女が攫われた時や、助けに向かう途中で聞こえた犯人の言葉を聞いた時の禁猟区の反応。
 保護してからの彼女の様子に違和感を覚えたことも素直に話していく。
 そして、彼女には人としての感情があまり感じられない。
 知能のある人形を相手にしているような、そんな感覚を受けるほどに。
 だから、ルシンダやミケーレに対して、疑問を持ってしまっている、と話す。
「それを解消したいんです……俺は無条件に人を信じられるほど綺麗じゃありませんから。ルシンダの事、貴方の事、そしてここに来るまでの貴方達のことを教えてください。お願いします……」
 少しの沈黙の後、ミケーレが口を開く。
「ルシンダさんとは、東シャンバラがエリュシオンに支配されている頃、実家――ヴァイシャリー家で会ったんだ」
 ミケーレは淡々と刀真に話し出す。
 彼が地球に留学し、大学と兄の下で学んでいる時に、シャンバラは東西に分かれてしまった。
 その時に、エリュシオンと東シャンバラの政府の間で、政略結婚の話が浮上した。
「姉さんは自分が嫁ぐか、パートナーを婿に出すかして、収めようとしていたみたいだけれど、向こうからもこちらに嫁いでもいいという娘が出てね。それがルシンダ・マクニース。神だっていうし興味本位で見に来て、なかなか面白そうな娘だったから……オトした」
 くすり、とミケーレは笑みを浮かべる。
 シャンバラが独立し、東シャンバラからエリュシオンが退いてからも、ミケーレはルシンダと交際を続けたという。
 相思相愛を装い続けている、と。
「俺は君よりも彼女のことをなんとも思ってないよ。シャンバラの為に、利用している。だから俺は、真に彼女を幸せにするための手段は知らないし、考えるつもりもない」
 彼女が本当に自分を好きかどうかもわからない。
 何かの使命の為に、彼女も自分と相思相愛を装っているだけかもしれない、とミケーレは続けた。
「だって、当時、シャンバラに嫁ぐメリットなんてなかっただろ? ヴァイシャリー家の監視か何かを命じられてたんじゃないかと思う」
 だから、今でも2人の交際は周囲に反対されている。
「でね、ルシンダさんとはこんな話をしてあるんだ」
 互いの命を守るために。互いの真の目的は話さない。
 真実は、2人の愛だけだ、と。
「彼女のことが気になるのなら、護ってくれても構わないけど……死ぬなよ。俺からすれば、君の方がシャンバラに必要だ」
 ミケーレの言葉に、刀真は深く考える。
 彼はヴァイシャリー家の一員として、シャンバラの為に動いている貴族だ。
 その為に、人を騙すこと、利用することに躊躇をしない人物、のように見えた。
 だが、ルシンダという人物に深く関わっている以上――自分の身も危険にさらされていることは解っているはずだ。
「ブライトシリーズの探索が始まってから鏖殺寺院やブラッディ・ディバインという言葉を聞くようになりました、何か情報はありませんか?」
 続いて、刀真はそうミケーレに尋ねた。
「さあ?」
 ミケーレは意味深な目でそう言った。
「……貴方達がこのタイミングで空京に来たのはニルヴァーナを含めこれから何かが起きるとの確信を得たからですか?」
 その問いには、低く小さな声で「そうだね」と答えた。
「そうですか……。お忙しいところ、ありがとうございました」
 刀真は立ち上がって、軽く礼をした。
 そして最後にこう言う。
「可能ならラズィーヤを助けてあげて下さい……彼女は独りで抱え込んで頑張りすぎです」
「姉さんには、君達がいるだろ。俺は勉強と兄さんの手伝いで手一杯」
 それじゃあと、ミケーレも立ち上がって、護衛と合流しホテルの部屋へと消えていく。

「クリスマス、イブ……」
 外へ出て、刀真は今日、共に過ごす者達の元へと歩き出す。
 彼女は……ルシンダは、幸せなクリスマスを過ごせるだろうか。
 偽りであっても。