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シボラあらまほし!

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シボラあらまほし!

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chapter.1 時間割 


 シボラに住むふたつの部族、ベベキンゾ族とパパリコーレ族。
 彼らが建てた学び舎は、両部族それぞれの集落からさほど遠くない場所にあった。学び舎と言っても、そのつくりは簡素だ。木で出来た平屋が一棟、それも中は広めの部屋がひとつだけというものである。
 両部族はここで互いの文化を教えあっていたようだが、「もっと他の文化を」という意欲は増す一方だった。その声に応じたのが、多くの契約者たちだったというわけだ。

「うーん、難しいね……」
 既にシボラに到着した一行の中で、メジャー・ジョーンズ教授はペンを指で遊ばせながら悩んでいた。学校の近くまで来たはいいが、原住民たちに様々な文化を教えるにあたり、そのカリキュラムを決めかねていたのだ。
 教える側の人数が多いのはメジャーにとっても喜ばしいことだったが、それ故彼らが希望した科目の数も多かった。そこでメジャーは、ざっくりと大きな分類で授業を進めることにした。
「よし! つまりこんな感じで……」
 呟きながら紙に時間割を書いていくメジャー。そこに、紫式部が現れて声をかけた。
「教授、決まったの?」
「ああ、とりあえず二日間に分けて授業をやろうと思ってるよ」
「二日間!? 特別講義っていうか、勉強合宿みたい」
 驚く式部に、メジャーは笑って答えた。
「はは、まあいいじゃないか。楽しいことはいっぱいあるに越したことはないよ。そうそう、式部くん、君の講義を受けたい人も多かったから、初日と二日目、両方に授業を入れておいたよ!」
「ええっ!? き、聞いてない……!」
 時間割の変更を求めようとする式部だったが、既に時間割は綺麗に埋められており、メジャーも「これで決まりだね」と満足気な表情をしている。式部は溜め息をひとつ吐いた。
「もう……なんて勝手な人なの……あと、私式部じゃなくて源氏だから。空京出る前も言ったけど」
「おお、そうだったそうだった。イージーミスアゲイン!」
 分かっているのか分かっていないのか、メジャーは呑気に笑っていた。式部はもう一度小さく息を吐く。
「……で、その時間割は?」
「ふふふ、実に楽しそうな感じになっているよ! さあごらん!」
 言って、メジャーは式部の目の前に紙を広げた。そこには、お世辞にも綺麗とは言えない字で多種多様な科目名が書かれていた。

一日目

一時間目 理科・数学
二時間目 美術
三時間目 社会
四時間目 恋愛講義
給食(兼 家庭科)
五時間目 保健・体育

二日目

一時間目 道徳・マナー
二時間目 音楽
三時間目 保健・体育
四時間目 恋愛講義

「ふふ、どうだい? 素敵な時間割だろう!」
「……あ、う、うん。そうね。悪くない……と思う」
 目をキラキラさせて聞いてくるメジャーから視線を外し、式部は歯切れの悪い返事を返した。
「……」
 彼女は、言えなかった。
 一日目はまだしも、二日目、ほとんど遊ぶだけじゃない、とは言えなかった。
 彼女自身の講義も、そこに含まれていたからだ。今思えば、恋愛の授業というのがそもそもおかしい。ついメジャーに乗せられて承諾してしまったことを、早くも式部は悔いていた。
「さて、じゃあみんなを呼んで、学校へ入らせてもらおうか!」
 そんな式部の心境にまったく気づいていない様子のメジャーは、そう言って待機している一同のところへ向かおうとする。
 が、それを式部が呼び止めた。
「……あれ? 教授」
「ん? なんだい?」
「教授も、考古学か何か教えるって言ってなかった?」
「ああ、うん……はは、そうだったね。まあそのへんはいいじゃないか!」
 僅かに彼の声が淋しさを伴っていたことで、式部は察した。
 そうか、受講希望者少なかったのか、と。
 なんなら、少ないどころではなかったのかもしれない。
 式部はそんな懸念すら抱いたが、さすがにそれを確認することは出来なかった。彼女はもう一度、時間割を見た。
「私、教えられるかなぁ……」
 両日に記載された自分の講義名。そこに不安を抱かずにはいられない。ネガティブなオーラを醸し出す式部は三度目の溜め息を吐こうとしたが、それは森から聞こえてきた珍獣たちの鳴き声にかき消されたのだった。