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あの頃の君の物語

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あの頃の君の物語
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歌を愛した中学時代〜布袋 佳奈子〜

「全国狙うよー!」
「はい!」
 まるで体育会系のようなノリだが、ここは中学校の合唱部。
 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)の所属するこの合唱部は、これから日本全国の中学生が集まってくる合唱コンクールを控えていた。
 これが体育会系の部活なら、レギュラーとか色々あるのだが、合唱部は部員全員がレギュラー。
 みんな練習にも気合いが入る。


 佳奈子は、部活が合唱部で、委員会が図書委員だった。
 どちらも文化系の活動だが……。
「お、重い……」
 図書室の本も割と重かった。
 合掌は体力がいるので、体力作りと思えば……と佳奈子は頑張って運ぶ。
「外国の本って装丁が凝っていて重いよね〜」
 同じ図書委員の子の言葉に、佳奈子はうんうんと頷いた。
 今、佳奈子が持っている本も、海外の神話と詩の本で、想定が綺麗だが、重い。
「……詩と魔法の言葉って似てるよね」
 独り言のように言いながら、佳奈子はその本を開けてみた。
 佳奈子は名前も国籍も日本人だが、家系にはヨーロッパ人がいると親から聞かされていた。
 そのためか佳奈子の髪は紅茶のような薄い茶色の髪をしていた。
 しかも、魔法を使えるかも知れないと聞いて、さすがに佳奈子は笑ったが、それでも縁があると聞くと興味が湧く物で、それ以降、佳奈子はヨーロッパの文学や詩を読むようになった。
 部活のない時は図書室に入り浸り、よくそういった本を読んでいる。
「佳奈子は本が好きよね」
 図書委員の仲間の言葉に佳奈子は「うん」と頷きつつ、続けた。
「でも、歌うのはもっと好き。友達と一緒にステージに上がって、ステージ上で歌うとき、すごい高揚感に包まれるの。あの緊張感は舞台に立つ人だけが感じることのできるものだと思うんだ!」
「ほわ〜すごいね」
 頬を染めながら語る佳奈子に、図書委員の仲間は感心する。
「もうすぐコンクールなんだよね、がんばって」
「見に行くからね!」
「うん、ありがとう!」
 佳奈子は友達の声援を受けて、部活に向かった。


 合唱部には佳奈子よりうまい子もいっぱい居て、佳奈子は自分なんてまだまだだと思っていた。
 だからその分、精進するために練習を重ねた。
 でも、その練習も辛くなかった。
 歌うことはストレス発散になったし、何より、仲間のみんなと歌うのは楽しかった。
 そして、合唱コンクールの本戦の日がやってきた。


 合唱コンクール本戦。
 大きな大会と言うこともあり、プログラムの前にセレモニーが組まれていた。
「パラミタの学校から人が来るんだって」
「へ〜」
「蒼空学園って所の聖歌隊らしいよ」
 佳奈子たちが話していると、その噂の聖歌隊がやってきた。
 珍しいピンク色の制服の子たちに場内が賑わう。
 そして、その蒼空学園の聖歌隊の中から1人の少女が一歩出てきた。
「わあ……」
 美しい金髪をした白い羽根の少女の姿が歓喜の声が漏れた。
 まるで空から舞い降りてきた天使のよう。
 聖歌隊の歌が始まり、金髪の少女はソロパートを歌った。
 その声は透き通り、この世の物とは思えないもので。
 羽根の生えた少女は声も天使なのだと、会場の人々は知った。
 聖歌隊の紹介があり、最後にソロパートを歌った女の子が紹介された。
「蒼空学園中等部のエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)さんでした。ありがとうございました」
 拍手が送られ、聖歌隊が退場した。
 そして、合唱コンクールの本戦が始まった。


「お疲れさま〜!」
 コンクール終了後、佳奈子たちは銅のカップを持って抱き合った。
 結果は3位。
 でも、全国で3位という成績は大きかった。
「先生が校長室の前にこのカップ飾ってくれるって!」
「メダルももらえたもんね。家に帰ってお母さんに見せよう〜」
 喜びと涙でぐちゃぐちゃになりながら、佳奈子たちは会場を出ようとした。
 すると、先ほどのソロの女の子……エレノアが通りかかった。
「あ……」
 佳奈子が思わず小さく声を上げると、エレノアが振り返った。
「素敵だったわよ」
 そう言い残して、エレノアは佳奈子の前を去った。
 2人がこの後、もっと深い関係になるのはしばらく先のこと……。