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第23試合

 
 
『第23試合を行います。
 イーブンサイド、退紅 海松(あらぞめ・みる)パイロットとフェブルウス・アウグストゥス(ふぇぶるうす・あうぐすとぅす)サブパイロットの乗るフラクトゥール
 対するは、AIによるS−01です』
 フラクトゥールは、デフォルトタイプのプラヴァーだった。まだイコンを扱ってから日の浅い退紅海松なので、まずは基本から忠実にと言うことでよけいな装備はつけず、銃剣つきビームアサルトライフルのみというシンプルな仕様となっている。
 対するS−01は可変型のイコンで、機動性には目を見張る物がある。
「頑張りましょうね〜、フェブル君♪」
「ちょっと、もう試合が始まりますよ」
 いきなり前部パイロット席から振りむかれてハグチューされて、フェブルウス・アウグストゥスが身をよじった。安全ベルトをセットしていたために、逃げることができない。
 そのとき、フラクトゥールの周囲で激しく砂埃が上がった。くずぐずしている間に、S−01からレーザーバルカンによる掃射を受けたのだ。
「離脱しますよ!」
 フェブルウス・アウグストゥスがフラクトゥールを発進させた。
 エクスプロージブボルトが外れ、イコンキャリアの荷台から無理矢理フラクトゥールが発進する。かかっていた幌が宙に舞い、反動でイコンキャリアが横転した。
「敵は?」
「来ますよ!」
 なんとかパイロットシートに戻った退紅海松に、フェブルウス・アウグストゥスが注意をうながした。
 S−01が、旋回して戻ってくる。ビームライフルで応戦するフラクトゥールにレーザーバルカンを浴びせながらS−01がすれ違った。スピードでは、S−01の方が速い。幸いなのは、ジェットエンジンを併用しているS−01の最小旋回半径が、フラクトゥールよりも大きいと言うことだ。そのため、攻撃の間隔が多少開く。
「なんとか、地上戦に持ち込めないんですか」
「やってみますわ」
 被弾して機体モニタに赤い点を点灯させながらも、フラクトゥールが地上すれすれに回避運動をとってS−01を誘い込んだ。
 突っ込んでくるS−01にむかって、手ですくい取った砂を投げつける。それが、S−01のインテークに吸い込まれていった。
 即座に、S−01がジェットエンジンを停止させて人形に変形した。砂塵を巻きあげながら、すべるように回頭して手に持ったレーザーバルカンで攻撃してくる。飛行能力は奪ったものの、まだ敵の方が手慣れている。
「格闘戦なら、フラクトゥールの方が上のはずですわ」
 銃剣を構えて、フラクトゥールが突っ込んでいった。だが、S−01の方もアームソードを展開して受けとめる。
 いったん離れると、フラクトゥールが地面の砂にむかってビームを放った。小爆発で、砂が舞いあがる。それを目隠しとして、再びフラクトゥールが突っ込んでいった。
 だが、構えていたS−01はその攻撃を難なく受けとめると、逆にパワーで押し返してきた。ホバリング状態であったフラクトゥールが押し返される。
 そのとき、S−01の足許が崩れた。先のビーム攻撃で穴が開いた場所だ。
 バランスを崩したS−01が転倒する。
「今ですわ!」
 チャンスとばかりに、退紅海松がビームをS−01の胴体に撃ち込んだ。小破したS−01が完全にひっくり返り、動かなくなった。
「ふう、なんとか勝てたのかな」
「今回は、たまたま運がよかっただけかもしれませんわね」
 ほっと一息つくフェブルウス・アウグストゥスに、退紅海松が言った。
 
    ★    ★    ★
 
『勝者、フラクトゥールです!』