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第30試合

 
 
『さあ、第1回戦も大詰めとなって参りました。
 第30試合にいきたいと思います。
 イーブンサイド、無限 大吾(むげん・だいご)パイロット、西表 アリカ(いりおもて・ありか)サブパイロットの乗るアペイリアー・ヘーリオス
 対するは、オッドサイド、鳴神 裁(なるかみ・さい)パイロット、メフォスト・フィレス(めふぉすと・ふぃれす)パイロットによるBS隊アジュールユニオン。これは、またもやパワードスーツ隊です。しかも、二機編成という少数で挑みます』
 アペイリアー・ヘーリオスは、プラヴァー・ステルスをベースとした機体だ。大幅に装甲を強化したその姿は重厚である。右腕に銃剣つきビームライフルの『エルブレイカー』、左腕にガトリングガンの『ケルベロス』、ダブルビームサーベルの『クロスカリバー』、肩と脚部に分散収納させた『アバランチミサイル』、胸部に設置された大型ビーム砲『ノヴァブラスター』と、いろいろ個別の愛称のついたかなりの重装備となっている。
 アジュールユニオンの方は、二機編成のパワードスーツとなっていた。見た目は、まったくのバニースーツに燕尾服のマジシャンスタイルだ。ステッキに扇を持ち、長手袋を填めたような両腕にはワイアクローとツァールの長き触腕、レオタード状の胴部を被う燕尾服には対神スナイパーライフルと仏斗羽素が装備されている。頭部は大きなシルクハットを目深に被った感じで、フェイスは見えなくなっている。
「まさかあ、このスーツでエントリーされちゃうとはなあ。シルフィードで華麗に舞うボクの計画があ……」
『大丈夫ですよ、三船さんが設計してくれたものですから』
 気休めのように、インナーのパイロットスーツ形態である紫銀の魔鎧となって鳴神裁に装着されているドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が言った。
『でもさあ、機動性を得るためだからって言って、バニースーツはないと思うんだよね』
 メフォスト・フィレスに憑依している物部 九十九(もののべ・つくも)も、ちょっと困ったように言った。機動力を極限まで高めた代償として、このパワードスーツは装着者への負担が半端ない。それを軽減するために、鳴神裁はドール・ゴールドによって守られ、メフォスト・フィレスは物部九十九が超人的肉体に変化させて耐えられるようにしている。
「ふっ、データはちゃんとシミュレータに反映されているようだね。これなら、登場と同時に超高速ラインダンスを行っても肉体がバラバラになることはないな」
 特別にパワードスーツ運搬車のドライバーとしてシミュレータに乗り込んだ三船 甲斐(みふね・かい)がほくそ笑んだ。
「また踊るのか?」
 頭数あわせで、とりあえずシミュレータに乗り込むだけ乗り込んでいる猿渡 剛利(さわたり・たけとし)が、三船甲斐に訊ねた。
「その予定だが?」
『そんな予定はないもん!!』
 しれっと言う三船甲斐に、鳴神裁が言い返した。
「ないのか? せっかく、すばらしいバニータイプにしたというのに」
 凄く残念そうに、三船甲斐が聞き返す。
『意味が分かんないんだもん』
 メフォスト・フィレス(物部九十九)も叫ぶ。
『猿渡っち、ぐりぐりやっちゃって。許す』
「こうか?」
 鳴神裁に言われて、猿渡剛利が三船甲斐の頭を拳で挟んでぐりぐりした。
「いたたたた……。許せ、余分な物つけて悪かった。痛い痛い……。ほら、試合始まってるよ。早く行かないと!」
 三船甲斐の指摘に、猿渡剛利が手を離して運搬車の上部ハッチを急いで開いた。
ごにゃ〜ぽ☆ いっくよ〜
 即座に、鳴神裁が飛び出していった。それに、メフォスト・フィレス(物部九十九)も続く。
「ボクは風。ボクの動きを捉えきれる?
 空中でポーズを決めると、鳴神裁が眼下を見下ろした。
 ポンポン蒸気船の上に、アジュールユニオン移動拠点が見える。あんなところで待機していたのか。フィールドは、どうやら港のようだ。
 沖には、大型の戦艦が見えた。それと比べると、ポンポン蒸気船は木の葉の船のようだ。
「さて、以前の模擬戦とは違って今回はシミュレータだが、イコン対イコンのタイマン勝負だ。その分思いっきりいくぞ」
「もちろんだよ。優勝目指して頑張るぞ〜、えいえいお〜!」
 アペイリアー・ヘーリオスのコックピットの中で、西表アリカが元気よくパイロットスーツ姿の無限大吾に答えた。
「チェックは入念に行うぞ。戦場では何が起こるか分からないからな」
「りょーかいだよ」
 ジェネレータ、アクチュエータ、FCSと、セオリーに従って点検をしていく。
「オールグリーン」
 チェックパネルにデジタルサインを書き込むと、無限大吾が操縦桿を握った。
「艦後部カタパルトにホールド完了だよ。電磁カタパルト、フルチャージ確認。進路クリアー。いつでもどうぞ」
「アペイリアー、発進するぞ!!」
 グンという急加速と共に、アペイリアー・ヘーリオスが戦艦から発進していく。海上に波を起こしつつ、アペイリアー・ヘーリオスが高度を上げた。
「索敵開始……。おかしいな、敵がいないよ?」
 ステージ上のオブジェクトとしての船舶や倉庫や車両などは反応があるが、肝心の敵イコンの反応がない。
「データを再確認……。待て、相手はイコンじゃない、パワードスーツだ!!」
 無限大吾に言われて、西表アリカがあわてて索敵対象をパワードスーツに変更した。
「いたよ!」
 低空の海面近くの輝点を指して、西表アリカが叫んだ。だが、すぐにその輝きが消える。
「あれ!?」
「来るぞ!」
 無限大吾が注意をうながしたが遅かった。
 アペイリアー・ヘーリオスの眼前に開いた魔方陣のゲートから転移した鳴神裁とメフォスト・フィレス(物部九十九)が飛び出してくる。
「バニーちゃん!?」
 モニタに映ったパワードスーツを見て西表アリカが驚いたが、すぐにブラックアウトして見えなくなった。
ごにゃ〜ぽ☆いけー!!
 鳴神裁のワイアクローの一撃を喉元に受け、アペイリアー・ヘーリオスが損傷したのだ。回路が遮断されて、センサーが死ぬ。
そこぉだぁ!!
 むきだしになった接合部に、メフォスト・フィレス(物部九十九)が対神スナイパーライフルの砲身を突き入れて、容赦なく連射した。
 内部から爆発を起こして、アペイリアー・ヘーリオスが海へと墜落していった。
 
    ★    ★    ★
 
「パワードスーツでイコンを落とすだなんて……」
 試合を終えて観戦していたルーシッド・オルフェールが、ドリンクのストローから口を離してつぶやいた。
「まっ、やるだけやってみるさ」
 ぽんぽんとルーシッド・オルフェールの頭を軽く叩くと、瀬乃和深が安心させるように言った。
 
    ★    ★    ★
 
『勝者、なんとBS隊アジュールユニオンです』