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第2章 みな殺しで修行だぜっっっっっっっっ!!

「なるほど。乱戦状態だな。首狩り族の動きには全く統率がみられないが、修行にきた生徒たちには、かなりの猛者が多いようだ」
 上杉三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)は、しきりにうなずいていた。
 眼前の混乱。
 首狩り族が、荒野に修行にきていた生徒たちを取り囲んで、いっせいに襲いかかり、その首を狩ろうとしている。
 だが、反撃にあって、自分たちの首をあっさり狩られるようなことになっている。
 もとより、上杉は、首狩り族をメインの「敵」としてはとらえていなかった。
 自分たちが闘いを進めるうえでの障害になる存在だが、決して、討つべき対象とはいえない。
「真に危険なのは、首狩り族たちをものともしない、修行という名の殺戮に狂った生徒たちだ。相手が何であれ、東雲の身を危険にさらすわけにはいかない。リキュカリアたちに乗せられたわけではないが、ここは、采配をとらねばならない状況のようだ」
 上杉は、覚悟をかためた。
 自分が指揮をとらねば、こやつらは、死ぬ。
 死ぬのだ!!
「なーに、仏頂面して考え込んでるの? 確かに、東雲の修行どころじゃない、カオス的状況だけど、だからこそ、さっさと一掃しちゃえばいいんだって!! 首狩り族も、チャンバラごっこの兄ちゃんたちもね!!」
 上杉の考えでは「補助しなければ死亡決定」とされる者たちの一人である、リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)がいった。
「うりゃー!! ハッスル、ハッスル!! よし、いくよー!!」
 闘いの熱気に煽られ、ハイテンションになったリキュカリアは、勢いよく指を組んで、呪文の詠唱を始めた。
「待て」
 その首根を、上杉から背後からつかんだ。
「痛っ!! んもう、何するの?」
 やや強くつかまれて、リキュカリアは顔をしかめる。
「あまり派手な術を使うべきではない。東雲も巻き込まれる。自分たちに跳ね返ってくるほど強い術を使えば、疲弊して、生き残っている敵にやられるぞ」
 上杉は、淡々と説いた。
 もちろん、リキュカリアは聞いていない。
「いーの、やるの!! みな殺しなのー!!」
 駄々をこめて暴れるリキュカリアの首根を、上杉は決して離しはしない。
 話が通じないことは、予想されていたのだ。
「ご主人様、待って欲しいであるぞ!! ここは、我が、この豊満なる肉体で野蛮人どもを魅惑し、文化的なる手段でかく乱し、屠る一歩手前にまで送り込むとしようではないか!!」
 ンガイ・ウッド(んがい・うっど)が、無駄に胸を誇張しながらいった。
 確かに、大きな胸である。
 大きいだけではなく、張りがあり、また、みずみずしく、豊かであった。
 その胸が、ゆらりと揺れたとき、戦場には大きな衝撃がはしるのである。
 だが、上杉は、ンガイの胸になどは目もくれなかった。
 彼は、眼前の巨乳などよりももっと大きなビジョンを抱いていたのである。
 至誠。
 それが、上杉の信条であった。
「わー、リキュカリアも、シロも、やる気満々だね! そういうところは素晴らしいなー。でも、三郎さんのいうとおり、やりすぎはダメだよ!! 影でサポートするにも限界があるし、ね」
 全てのやりとりを聞いていた五百蔵東雲(いよろい・しののめ)が、諭すような口調でいった。
 リキュカリアもンガイも、もとはといえば、東雲に修行をさせるためにこの荒野にまできたはずであったが、2人とも既に、そんなことは忘れているようであった。
 いまは、ただ、目の前の首狩り族や、戦バカと化した兄ちゃんたちの排除に努めたい。
 それしか、2人は考えていない。
 むろん、もとから修行したいとはそんなに思っていなかった東雲も、自分の修行のことなどは忘れていた。
 上杉は、東雲たちが当初の目的を見失い、次に何をしたいかもよくわかっていない状態でただ原始的に興奮しているだけだと、悟ってはいたが、そこを何とか導きたいと考えていたのである。
「東雲。ここは俺に任せて欲しい。リキュカリアも優れた将に恵まれれば、苛烈な先兵としての真価を発揮することができるだろう」
 上杉は、東雲の目をまっすぐみつめていった。
「えーっ、サブちゃん、何それ? ボクは素のままじゃろくに使いものにならないってこと!? ひっどーい、もうちょっとオブラートにー、っていうか、違う違う!! なにいってるの、ボクがどうダメだって!!」
 リキュカリアは、上杉の発言に興奮して叫んだ。
「抑えろ。あくまで、戦闘を行ううえでの技術的な話だ」
 上杉は、冷静な口調でいった。
 そのとき。
「はーはっはっはっは!! 聞け、皆の衆!! 我は、いま流行りのポータラカ人、ンガイ・ウッドである!! 呼び難ければシロと呼ぶがよい!! うん? ハデスに似ている? 誰だそれは?」
 突然、何の前触れもなく(本当に)、ンガイは洪笑とともに、首狩り族と、首狩り族の首を狩っている奇特な(本当に)生徒たちとに、挑発めいた口調で呼びかけ始めた。
 首狩り族も驚いたし、もちろん、リキュカリアも東雲も驚いたのである。
 ただ一人、上杉だけが、冷静な構えを崩さなかった。
 上杉にとっては、「予想される展開その3」ぐらいのことだったのだろう。
「物の怪よ。ただ闇雲に相手を魅惑すればいいというものではない。自分の技は、最大の効果を発揮するその瞬間にこそ、だな。ああ、聞いてないか」
 ンガイに説いてきかせようとした上杉は、顔をしかめて、とりあえず成り行きを見守ることにした。
「さあ、聞くのはもう終わりだ。あとは、みろ!! 我をみろ!! 我のこの胸を!! あふれんばかりのお乳を!! 谷間を!! そして、丸みをおびたこの全身のフォルムを!! 興奮しなくてもよい、ただ愛らしいと思うがよい!! どうだ? どうかな? どやどやどや!!」
 ンガイは、片目をつぶってウインクしてみせながら、豊満な肉体を怪しくくねらせ、その豊かな乳を微妙に揺れさせながら、胸、お尻、太ももという、男性の視線をひきつける3大ポイントを、あますところなくひけらかした。
「わー。シロ、色っぽいー!!」
 東雲は、心からの賛嘆の叫びをあげた。
 上杉は、そんな東雲をかばうように、その前に移動する。
「フガガ? クンクンクン!!」
 首狩り族は、ンガイのフェロモン全開な肉体の香りに鼻をひくつかせて、その周囲をとりまき始めた。
「おお!! これは、大発見だ!! 荒野の首狩り族は、我の肉体よりも、色香の方に反応をみせておる!! 原始人は視覚より嗅覚で思考するという学説の、何よりの証左!! これは、来月の『パラミタ・よいこの科学』に投稿できるネタができたというものだ!! まっ、そんなものに投稿する気などもともとないが!!」
 思いもよらぬ展開に、ンガイは興奮して叫んだ。
 だが。
 同時に、ンガイは悟ったのである。
 首狩り族以外の、修行をしにきた生徒たちは、自分の姿をみてもいまいち反応していないことに!!
「むう。やはり、ここでは、不良学生たちも理性的に、いや、禁欲的になってしまうものなのであろうか? が、しかし、我は負けぬ!! 必ずや、首狩り族以外の者も我の魅力の虜に!!」
 そういって、思わず、ンガイは自分の衣の裾をつかんで、引きちぎって露出度をあげようとして、思いとどまった。
 我は、何をしている?
 そもそも、ここに何をしにきたのだ?
 上杉が、そんなンガイを再び諭そうとしたとき。

「ソ・コ・マ・デ!! ストップ、ザ、ドヤ顔!! ターゲット、ロックオン!! ファイヤー!!!」
 機械的な音声、というか機械音声とともに、鋼鉄二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が一同の前にダダダッと走り出てきたかと思うと、ゲリラ戦の要領で銃の乱射を始めたのである!!
 同時に。
 シュシュシュシュシュ!!
 ドゴ、ドゴーン!!
 二十二号はミサイルも発射して、辺りに爆炎をわきださせた。
「ギャ、ギャギャー!!」
 首狩り族たちは、突然の襲来にわけもわからず、どよめきたって右往左往した。
「な、なに、これ!? 何が起きたの!! 変な機械だよ、どうしよう!!」
 リキュカリアは、パニクった。
「むう。困ったな。さすがに、あのような機械が相手では、我の魅力も通じぬ。ここは、選手交代しかあるまい!! な!!」
 ンガイはあちゃーという感じに頭を抱えると、リキュカリアの肩をポンポンと叩いた。
「……」
 上杉は、無言となり、突然の現象を分析するモードに入っていた。
 そのとき。
「だ、大丈夫!?」
 何と、東雲は、二十二号の攻撃によって倒れた首狩り族たちの側に駆け寄ると、脈をとり、回復させようとし始めたのだ!!
「東雲、何やってるの? 危ないよ!!」
 リキュカリアの叫びも、虚しかった。
 二十二号は、東雲に気がつくと、銃を構えて、狙いをつけ始めたのだ。
「やむをえん。迎撃を許可しよう。ただし、相手の詳細がわからないので、最小限度で、だぞ」
 ついに、上杉は、指令を発した。
 だが、いわれなくても、リキュカリアは動いていたのである。
 呪文を。
 神秘の呪文を、リキュカリアはひと息に詠唱していった。
「全てを破壊する紅蓮の炎よ!! 鋼鉄の殺戮者を大地の土鍋に落とし込み焼き尽くしたまえー!!」
 ゴゴゴゴゴゴ
 二十二号の足下から地鳴りが響きわたる。
 ドドドドドド
 地面の下から、何かが湧いて出てくるような音がし始めた。
 すぐに、二十二号は高熱を感知した。
 足下から、迫りくるもの。
 だが、二十二号は同時に結論を出していた。
 既に、回避不能と。
 ドゴゴゴゴゴゴゴゴーン!!
 燃え盛る地獄の業火が、二十二号の足下の大地を割って、天高く吹きあがった。
 ぼおおおおお
 二十二号の全身が、激しく焼かれた。
「ア、アギャアギャ、アギャ」
 周囲の首狩り族たちも、多数巻き添えになった。
「やったー!!」
 リキュカリアは、歓声をあげて、飛び跳ねた。
「くっ、最小限といったのに、やはりリミッターは外れていたか!? だが、幸いにもクリーンヒットの大ダメージを与えられたようだが」
 上杉は、首をかしげた。
 おかしいのだ。
 緻密なプログラムに基づいて奇襲をかけたわりには、あっさりやられすぎている。
 まるで、反撃など予想していなかったかのようだが、そんなはずはない。
 と、すれば。
 陽動か。
「気をつけろ。まだ敵がいるぞ!!」
 上杉は、リキュカリアにも聞こえるように、大きな声でいった。
 そして、探る。
 どこだ、どこにいる?
「やるな!! だが、我はまだまだ序の口に過ぎん!! ピー!!」
 二十二号は、最後、機械音声、というか機械音を発して、ピタッと機能を停止し、鋼鉄の彫像と化した。
 そして。

「はーっはっはっはっは!! はーっはっはっはっは!! 二十二号を倒した程度で図に乗るとは!! その程度で荒野で修行などとは、笑止千万!! 不届き千万!! いま、この場で、厳正なる裁きを与えてくれよう!!」
 どこかで聞いたような洪笑とともに、葛城吹雪(かつらぎ・ふぶき)が高いところから姿を現したのである!!
「うん、このノリは? 陽動ではないな。噛ませ犬か!!」
 上杉は、瞬時に悟っていた。
 吹雪にとって、ここまでの流れは演出に過ぎないのだ。
 ただ、最高のステージが欲しかったに違いない。
「わー、また、新キャラだね!! でも、負けないよ!!」
 一瞬ぽかんとしたリキュカリアは、すぐに我を取り戻して、意気揚々と叫んだ。
 すぐに、呪文の詠唱へと移ろうとした、その瞬間。
「はっはっは!! 自分に勝てると思うか? みるがいい、はあああ」
 そういって、吹雪は全身のオーラを燃やした。
 しゅうううう
 光が、吹雪を包み込む。
「とおっ」
 吹雪は、跳躍した。
 ゆっくり、ゆっくり、地上へと降りていく。
「わ、わあ!?」
 リキュカリアは、目を丸くした。
 すたっ
 軽やかに着地した吹雪は、両手を振り上げ、精神を集中させる。
「はああああ、天へ向かえ、聖なる天へ!!」
 ごごごごごご
 地鳴りとともに、周囲の地面から大きな石が浮き上がっていった。
 次々に。
「す、すごい!! こ、これはー!! 石浮かせだ!!」
 リキュカリアは、ただ賛嘆の叫びをあげるしかなかった。
 だが。
「神降ろしに、サイコキネシスか。ちょっとしたショーだな」
 上杉は、吹雪の術をすぐに看破してみせたのである。
「はあー。いい汗をかいた。ちょっと疲れたかな」
 吹雪は、浮かびあがらせた石をおろして、ひと息ついた。
「あっ、お茶をどうぞ」
 東雲が、気をきかせて、湯気がたちのぼる湯呑みをさしだした。
「ありがとう」
 吹雪は、お茶をごくごくと喉を鳴らして飲むと、すぐに気持ちを切り替えて、リキュカリアを睨みつけた。
 どうやら、吹雪はリキュカリアをメインターゲットと決めたようである。
「少し肩の力を抜いて相手をした方がよさそうだ」
 そういうと、次の瞬間、吹雪の姿がみえなくなってしまったのだ!!
「あ、あれ? どこへ?」
 リキュカリアは、今度こそ度肝を抜かれた。
「落ち着け。ベルフラマントとカモフラージュで視覚をかく乱しただけだ。本当に消えたわけではない」
 上杉が、いった。
「で、でも、みえないんじゃー!! あ、ああー」
 リキュカリアは、身悶えした。
 何かが、自分の身体をくすぐったように感じたのだ。
「おう。色っぽい? だが、それは我がみせるべき艶姿だぞ」
 ンガイは、リキュカリアに自分の役割を奪われたように感じて、頬を膨らませた。
「み、みえない、やられるー、助けてー」
 リキュカリアは、吹雪がどこから仕掛けてくるかわからず、闇の中で迷子になった子猫のように心細くなって、涙目のまま、あっちへうろうろ、こっちへうろうろと逃げ惑った。
「落ち着け。我が指示する方向へ攻撃を仕掛けるのだ」
 上杉はいって、すかさず、何もないかのように思える地点を指さした。
「ありがとう。やってみる!! とあー」
 リキュカリアは、上杉のいわれた地点に炎の術を放った。
 ごおおっ
 手応えがして、何かが燃えあがったように思えた。
「う、うわあっ」
 悲鳴があがる。
 姿を消している吹雪を、見事にとらえたようだった。
 実は、英霊である上杉に、吹雪の気配をとらえることなど、たやすいことだったのである。
「そこ、そこ!!」
 吹雪がどこに逃げようとも、上杉はすぐに察知して、リキュカリアに攻撃を指示する。
 かくて、吹雪は、全身真っ黒焦げになって、力尽き、その姿をさらして、バタンと倒れてしまった。
「ご、ごほごほ!! くそー、おのれー」
 悔しそうに歯ぎしりする吹雪。
 そこに、東雲が駆け寄ってきた。
「大丈夫? みんな、これ以上の攻撃はやめて!! さっ、元気を出してよ。そうだ、歌ってあげるよ。アーイアイ、アーイアイ
 東雲は、吹雪を助け起こし、介抱すると、癒しの歌を歌ったのであった。
「慈悲か。それもまた、将には必要なもの」
 上杉は、そういうにとどめた。
「東雲がそういうんじゃ、しょうがないな。許してあげるよ!! あれ、でも、ボクたち、ここに何しにきたんだっけ?」
 リキュカリアは、ぽかんとしていった。
「うん? 男どもを誘惑して悩殺するか、あるいは、歌いにきたのであろう。我がエージェントのようにな!!」
 無駄に胸を誇張しながら、ンガイがいった。
 修行。
 その言葉は、上杉の胸のうちにしまいこまれた。
「全て、撮影。記録します」
 機能停止したかに思えた二十二号は、一連の光景を全て録画していたという。

 そして。
 首狩り族と生徒たちが去った荒野に、一人、倒れ伏した男がいた。
「う、うおお。な、何なのだ、我が野望を挫かんとする勢力がこれほどいようとは!! だが、負けはせんぞ、何しろ、我はまだ、究極の発明品の数々を出していないのだから!! まったく、取り出す時間ぐらい与えろというのだ!! うん? っていうか、デメテールはどこだ? アルテミスもいないではないか!! そんなことでどうする!! 命令だ、召集をかける、召集を!!」
 闘いに巻き込まれ、倒れたところを多数に踏みしだかれ、ボロボロの姿になったドクター・ハデス(どくたー・はです)が、それでも必死に生命の炎を燃やしていたのである。
 彼のいう「秘密結社オリュンポス」の部下たちはどこかへ消えてしまっていたが、それでも彼は、諦めなかった。
 何しろ、彼はまだ、自分のやりたいことをできていないのだから。
 だが。
「うっ、ぐふっ!!」
 全身に受けたダメージはものすごく、もともとインドア派であるハデスは、既に肉体の限界に達していた。
「はー、ばたっ」
 深い息をついて、ハデスは失神し、その意識は闇にのまれていった。