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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

リアクション

 ハーフフェアリーの村に在る、小さな洞窟。
 周辺には『愛の花』と呼ばれる、赤い花が咲き乱れていた。
 この洞窟は、ハーフフェアリーが生まれた神聖な場所と言われており、現在は、生涯を共に過ごす決意をした恋人たちの告白、プロポーズスポットとなっている。
「刀真、お願い」
 洞窟を前に、赤い花を持つ漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、樹月 刀真(きづき・とうま)を真剣な目で見つめた。
 彼女の左右には、玉藻 前(たまもの・まえ)と、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)がおり、2人も花を手に刀真を見つめている。
「私達はお互いがそれぞれの想いから刀真と望んで契約を交わした。契約を交わした私達の命は繋がっていて、これからもずっと一緒。だから、二つの命が一つに、じゃ無くてみんなの命が一つにって事で、ここの花をお互いで交換したいの……それが私の欲しいプレゼント」
 月夜は、刀真に話を聞いて以来、この村に来たいと思っていた。
 月夜と前の誕生日が近づいたある日、月夜は刀真にお祝いの希望を尋ねられて。
 それなら、ここに来たいと、連れて行って欲しいとお願いをした。
(今ならきっと、これを受け入れてくれる)
 月夜は真剣な目で刀真を見続けていた。
 刀真はちょっと目を逸らして口を結び。
 視線を彷徨わせた後で、しゃがんで――赤い花を摘んだ。
「これからもずっと一緒にいる、だろうから」
 そして、3人の大切なパ―トナーに、赤い花を贈った。
「はい、私達はこれかもずっと一緒です」
 白花が微笑を浮かべた。
 そして、月夜、前、白花も、それぞれ刀真に花を差し出して、お互いも花を交換しあった。
「……」
 刀真は無言だったけれど、うっすらと顔が赤くなっている。
 恥ずかしくて照れているだけだと、月夜達には理解できて。
 3人のパートナーは顔を合せて、こっそり微笑み合った。
「ありがとう、刀真。先に宿に行ってていいよ。女同士で話したいことあるから」
「あ、うん」
 返事をすると、刀真は3人からもらった花を、懐に挿した。
 それから、ちょっと考えて。
 再びしゃがんで愛の花を摘み、紐で束ねた。
 その花束は、パートナーではなく。
 月夜が誘って、連れてきた女性、風見 瑠奈(かざみ・るな)に差し出した。
「月夜が迷惑かけて、ごめん」
「ありがとう。なんか……複雑な気持ち。私だけ花束なのに、私だけあなたからの気持ちが少ないような気がする」
 微笑して、瑠奈は花束を受け取った。
「いや、そういうわけでは……。瑠奈の誕生日にも、お祝いさせてほしい。君の誕生日はいつかな?」
「4月よ。4月11日。まだずっと先というか、過ぎちゃったというか」
「そうか、うん。覚えておくよ。それでは、また後で」
 刀真は軽く頭を下げると、先に宿へ戻ることにする。
 ……女性達がこれからどんな会話をするのか、多少は気にしながら。

「刀真との関係が気になるとのことだが」
 刀真の姿が消えるより早く、前が話し出す。
「それは我ら三人が毎晩毎晩閨を共にして日々を過ごすような関係……」
「でたらめを言わないでください」
 前の耳を、白花が引っ張った。
「痛い痛い、耳を引っ張るな」
「……ええっと、良く分からないけれど、やっぱりそういうことなのね」
 瑠奈は不信に満ちた目で、刀真が去っていった方を見た。
「誤解です。よね、月夜さん!」
 白花の言葉に苦笑しながら頷いて、月夜は瑠奈に目を向けた。
「瑠奈、一緒に来てくれてありがとう。我が儘に付き合わせちゃってゴメン」
 赤い花を胸の前で大切そうに握りしめながら、月夜は話し始める。
「私は封印されていたんだけど、力を手に入れるために色々と探していた刀真に封印を解かれたの」
 夏に、月夜は瑠奈に刀真とパートナー達の関係や、彼の事を色々と尋ねられていた。
 その答えを、彼女に話していく。
「そして、封印を解いた私に手を差し出して、選べ俺の剣になるか、ただの女の子として生きていくか? って言われた。剣になるなら私は刀真の剣で刀真の物だとも……私は刀真の剣になるって、その手を取って契約した」
 揺るぎのない目で、月夜は言う。
「だから私は刀真の剣でパートナー……刀真の物なの」
「彼のもの、かぁ。皆も、同じようなことを言われたの?」
「我は違うな」
 前は花をくるくる手の中で回しながら話す。
「我は封印されていたのだが、刀真が封印を壊したんだ……封印を解かれた我は刀真に、契約をしないとお前のパートナーを呪い殺す、と脅して契約をしたんだよ……そのまま刀真と月夜を利用して力を取り戻そうと考えていたが、日々を過ごして行く内に絆されてしまった」
 ちらりと彼が消えた先を見て、前はこう続けた。
「別に構わないがな……我を絶対に独りにしないのだから」
 それから、白花も赤い花を手に嬉しそうに微笑んで、話していく。
「私は元々『御柱』と呼ばれ、永い年月影龍を封印していました。そこに蒼空学園ができて、刀真さん達と出会って、役目が終われば消えるはずだった名前の無い私に、刀真さんは名前をくれて、契約をして繋ぎ止めてくれたんです」
 赤い花を見ながら、はにかんで白花は言葉を続ける。
「口説かれたと言うなら、あの時掛けてくれた言葉に私は口説かれてしまいました」
 そんな3人の出会いを聞いた瑠奈は――。
「うん、やっぱり彼はナンパ師だ」
 そう言いきった。
「天性のね。自覚ないのかな……。でもちゃんと、言葉の責任はとってくれるんだね。3人とも幸せそうだもの」
 瑠奈の言葉に、月夜と白花は首を縦に振った。前は首を振る代わりに、軽く笑みを浮かべた。
「さて、私達の話はこれでおしまい、私も質問いい?」
 月夜が瑠奈に尋ねる。
「ん、何?」
「瑠奈がしている白百合団団長の仕事ってどんな内容なの? あと、休日はどんな事をしているのかな?」
「白百合団の仕事は最近は事務仕事や話し合いが多いかな。あとは警備指揮とか色々と……休日もいろいろと……」
「あまり答えになってないよ。瑠奈はどこに住んでるの? パートナーと一緒? 家に仕事持ち込んでるのかな?」
 月夜はすごい勢いで瑠奈に質問を浴びせていく。
「ええっと……私はパートナーと寮暮らしで、仕事はまあ、自室でも……」
 瑠奈は少し困ってしまう。
「月夜さん、瑠奈さんが困っていますから質問はそれくらいで……」
 白花が助け舟を出してくれた。
「だって、花火の時は私が質問攻めにされて大変だったんだから!」
 しかし、その言葉を聞いた途端、白花の顔色が変わる。
「花火? ……花火に行ったんですか!? ズルイです」
 いつ、どこの花火に、誰からの誘いで……と、白花は月夜をがくがく揺する勢いで質問をしていく。
「抜け駆けか。それは我も今宵抜け駆けをしても良いということだな」
「玉藻さん、なんの抜け駆けですか!」
 白花の揺すりの対象が変わる。
「ふふ、楽しそう」
 そんな3人の様子を、瑠奈は微笑ましそうに見守っていた。
 花束を持っているけれど……。
 彼女達が持つ、3厘ずつの赤い花がやっぱりちょっとうらやましかった。