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リアクション
記憶をよみがえらせた者たちが正気を取り戻すなり、捕縛されるなりしていくのを見て。
セルファと戦っていた魔王真人に向かってキツネコ煙が指をつきつけた。
「魔王真人! 周囲をよく見てみるのだ! もう魔王軍はほぼ壊滅しかかっているのだ!」
彼の言葉にサンダーブラストを発しようとしていた真人は手を止める。
周囲に視線を飛ばして彼の言葉があながち間違いではないことを確認しながらも、真人の余裕は崩れなかった。
「それがどうしたというのです。いくら配下を倒したからといっても、しょせん配下は配下。魔王に勝るものではありません」
「なら! このこっくりさんがおまえをその野望ごと打ち砕いてみせるのだぁ!!」
自信満々の彼を見て、油断なくかまえをとる真人。彼の前、キツネコ煙の後ろから3つの影が現れた。
「キツネコレッド!」
「キツネコピンク!」
「キツネコレッド!」
「キツネコレッド!」
「4人そろってえ〜〜〜〜〜〜〜こっくりさん!!」
「ちょっと待ってください。ちょっと待って」
これにはさすがに魔王もツッコまざるを得ない。
「違うでしょう。あなたたち、おかしいでしょう」
「何がなのだ?」
キツネコ煙はきょとんとした顔で問い返す。
アスリート養成スーツを着用し、中央に立つのは不動 煙(ふどう・けむい)、キツネコレッドである。そしてその隣に立つ、キツネコピンクを名乗ったのは不動 冥利(ふどう・みょうり)。
冥利と煙は、意味が分からない、とお互い顔をつきあわせていた。
「あなたたちはいいとして。そのあとに出てきた2人」
「キツネコレッド!」
「キツネコレッド!」
自分たちのことかと、2人は再度決めポーズをとる。ちなみに声は動きに合わせて煙があてている。
「だからおかしいでしょう。なぜ同じ色が3人になるんですか。普通そのポジションはブルーやイエローでしょう」
指摘されて、今度はレッド3人が顔をつきあわせた。
ちなみにこの残りの2人、煙のドッペルゴーストである。だから何もかも煙とうり二つなわけで。
「……いや、重要なのは色とかそんなんじゃないから。1人ひとりの個性見てもらいたいのだ」
「それだけそっくりで、しかも同じレッドを名乗っておいて、個性を見るも何もないでしょう」
「そのへんはこれからの活躍でおいおいなんとかしていくつもりで…。
たとえばこっちの彼、そうは見えないかもしれないけどすっごくきょうだい思いなのだ。この前もこっちのきょうだいが街で――」
「いやいやいやいや。おかしいでしょ。ドッペルにきょうだい設定なんてないでしょ」
「4人そろってえ〜〜〜〜〜〜〜こっくりさん!!」
「待って、待って、待って!! 違うから! 成立してないから! 成立してないのに強引に進めようとしないで!
大体名前も変でしょう!? キツネコレッドとキツネコピンクなら戦隊名もキツネコでしょう! 何ですか、こっくりさんって!」
「え〜〜〜〜でも〜〜〜〜」
「ここが僕たちの個性がサイコーに光ってるとこなんじゃん。ねえ、煙にぃ。
ほんと、分かってないなぁ。あーやだやだ、頭の固い大人って。老化現象始まってんじゃない?」
腰に手をついてあきれたふうに言う毒舌冥利に、真人のこぶしがぶるぶる震えた。子どもじゃなかったら殴ってやりたい、とのオーラを全面に押し出している。
「……分かりました。私は大人ですからあなたたちの理不尽さを飲み込んであげましょう。
それで? かかってくるんですよね? 私を倒すんですよね?」
その名目でなら存分に攻撃をしかけられる。なぶってやろうじゃないかと真人は今日初めて心底から魔王らしい暗黒の笑みを浮かべつつ、喜々として手のなかにサンダーブラストを導き始める。
「ちょ、ちょっと待つのだ! すぐできるからっ」
と、煙はいきなりしゃがみ込んで何やら準備を始めた。
「……普通下準備は戦いが始まる前に仕込んでおくものではないですか?」
やはりツッコまずにはいられない。
「だーかーらー。気が短いのもジジイの証拠だよ」
冥利の毒舌がまたも炸裂する。
「――っ、おとなしく聞き流していれば、さっきからずい分――」
「ハイ! できたのだ!!」
2人の間の不穏な空気も知らず、ニコニコと煙は鍋いっぱいの謎料理をずいっと前に押し出した。
「それを私に食べろと? 言っておきますが食べませんよ」
「むっ。食べるのは煙なのだ」
そして煙は自分の作った謎料理を食べ始め――大方の予想通り、食べきる前に嘔吐した。
これぞ目にした者の気持ち悪さを誘ってもらい嘔吐を誘発し、相手の体力をこそげ取る究極の技!! 嘔道(オウトン)!!
ただしこの技、自身の体力の方もごっそりこそげ落ちて以後戦えないという、諸刃の剣でもあるという…。
「煙にぃ!」
「……あとは任せた……が、がんばるのだ…」
ガクッ。
「煙にぃーーーーーっ!
ちくしょおっ! よくも煙にぃにこんな技を使わせたな!」
真人はもう二の句が継げなかった。
ただ黙って最大級のサンダーブラストを落とした。
「何がしたかったんですか、一体…」
げっそりきて顔に手をあてた、そのとき。
「すべてはあなたの言うとおりだ!」
大声で魔王を肯定する者が現れた。
永井 託(ながい・たく)である。
「彼らはたしかにおかしかった! 手段が間違っていた! だけど言っていることはおかしくなかった!!」
「いや、言ってることも十分おかしかったでしょう」
しかし術にかかった託は聞いちゃいない。
「彼らはただ、やり方を間違っただけだ。己を正しいと信じ、だれに何を言われてもその思いを貫きたいと強く思う、そしてそのために己の命すらも賭ける……トーサンもそうだった。
僕はまだ何もかも幼くて、トーサンが熱く語ることが僕の真実だと思い込んで、トーサンに評価してもらいたくて……彼に必要だと思われるのが誇らしくて。僕もまた、パイロットとして機体に乗り、ともに戦場を駆けた! 宇宙(おおぞら)にあっては僕たちは星空を翔ける双星と恐れられた!
だけどその結果はどうだ!? トーサンの信じる真実も、敵が信じる真実も、何も変わりゃしないんだ! 巻き込まれるのは無力な人で! 戦場に残るのは残骸ばかりで! いつだって最後にはどちらの側も平和を求める…! それが何より尊いものだって! 退屈な眠りから人類は目覚めるべきだと言って自分たちで壊したくせに!
そうなってからでは遅すぎるんだ! 失われたものは何ひとつ戻ってきやしない!! トーサンだって!!」
くっ、とこぶしを固める。そのこぶしが震えているのを見て……そしてうつむいた託の面から涙がしたたったように見えて、真人はハッと息を飲む。
「マクロの空を貫く超々大口径高出力ライフルと十数本におよぶ背中のサーベルをはじめとした数々の武器を己の手足のように操り、他を寄せつけない高機動力を誇った……あんなに強かったトーサンさえも間違いを犯し、戦いは僕から奪っていった…」
「……そうですか……あなたの父親は…」
「トーサンは父じゃない、親友だ」
本名をトー・サンと言う。
「まぎらわしいですね」
託はそでで目元をぬぐうしぐさをして、顔を上げる。
「そして今また覇者にならんとあなたのような魔王が現れ、何千人もの命を犠牲にしてようやく手に入れた、この平和な世を戦乱の渦に巻き込もうとする…。百年続いた戦争が終わったばかりだというのに!
そんなにも戦争がしたいというのか! きみたちは!!」
「きみの主張は分かりました。ですがそれとさっきの彼らの発言が間違っていないのとどういう関係が――」
「僕はまた戦いを強いられるというのか!!
いいだろう、この宇宙がそれを望み、そうすることが僕の運命だというのなら、ああ戦ってやるさ!! トーサンの残した愛機とともに、戦いを生む源を全部滅ぼしてやる!!」
「……だからひとの話を聞けと」
「そう! 僕が!! 僕たちがガン――」
「あなたはまず版権から勉強してくるべきです」
「――へぶっ!?」
やはりサンダーブラストを落とされて、託も消し炭と化す。
「……セルファよ。わらわに言えた義理はないかもしれぬが、おまえが揃えたのも大概じゃのう」
「ううっ」
ぶすぶすと焼け焦げている煙や託たちを見ると、セルファも反論できなかった。
「か……かかったわね! 魔王!!
みんなが己の身を犠牲にして作ってくれたこの隙、無駄にはしないわ! てーーーいっ!!」
――苦しい。苦しいがなんとかごまかせたか!?
ゴッドスピードとバーストダッシュで斬り込んだセルファの剣が、魔王真人の背中に向かって振り下ろされる!
しかし真人の反応がわずかに早く、剣先は服と腕を傷つけただけに終わった。
真人は腕を伝う己の血を見て、不敵に嗤う。
「ククッ…。さすが勇者。
どうです? 今からでも遅くはありません、私のものになりなさい」
瞬間、ボッと音をたててセルファの全身が赤く染まった。今にも爆発するんじゃないかというぐらい、頭から湯気まで出ている。
「ば、ばばばばばばばばばばばばっ…!」
どうやら「ばかね!」と言いたいらしいが、全然口が回らないようだ。
「何を狼狽しておる? 局面で勇者に自分の側につけというのは魔王の常套句であろうが」
「……あ。そ、そっか…」
――ナニと思ったんですか? セルファさん。
(ううう……だってだって。さっきのキス発言といい、今日の真人はなんだか大胆なんだもん〜〜〜〜〜っ)
私がえっちなわけじゃないもん、とセルファは必死に心のなかで弁解する。
そんなことなど露知らず、真人は場を進行させていく。
「迷っているんですね? あくまで仲間を裏切る口実が必要というのであれば、それを作ってさしあげましょう」
パチン。真人が指を鳴らすと、フードマントの者が奥から現れた。
うす暗くてよく見えないが、その傍らにはロープで縛られた女性の姿が…。
「あれは!」
「あなたの妹姫ですよ。あなたがこちらにつくというのであれば、彼女を返してあげても――」
「くらえ! シリンダーボム!」
真人の言葉をさえぎって、闇からクルクルと飛んだ何かがぶつかった。
直後、小規模な爆発が起きて真人は爆風と黒煙に包まれる。
「きゃあっ! 真人!!」
剣を放り出し、勇者役もかなぐり捨ててセルファは真人の元へ駆け寄る。
そしてもう1人、闇から飛び出した人影があった。
「姫! 助けに来たよ!!」
自分なりの王子さまルックでキメた柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)である。
彼は占い師の術によって前世がとある国の王子であることを思い出していた。そして敵対する隣国の王女と心中を図っていたのだ。
2人はそれとは知らぬうちに出会い、互いの身分を知ったときにはもう引き返せないほど心は動き出していた。
『来世できっと幸せになろう』
崖から飛び降りる間際、彼らは固く誓った。2人はわかちがたき半身。このリボンで結び合った手と同じく、決して離れることはないと。
『きみは僕の魂。たとえすべてを忘れて生まれ変わったとしても、僕という器ははきみを求めてやまない。きっときみを捜し出す。そして2人は再び恋に落ちるんだ』
ああ、本当に今生に生まれ変わったにせよ、なぜあの誓いを忘れることができたのか。
「いや! まだ遅くない! 姫を捜し出すんだ!!」
桂輔は奮起した。
そして同時に気付いた。姫はとても美しい薄紫色の髪をしていたと。あれほどの髪の持ち主は2人といない。
「……薄紫色の髪?」
はたと気付く。
そういえばパートナーのアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)の髪の色も薄紫色じゃーないかと!
――なんで前世の髪と今生の髪が同じだから同一人物なのかとツッコみたくなったでしょうが、そこはそれ。彼は術でおかしくなっているので、そのへんは思い込みによる自己完結なのです。
「アルマ!! いやアルマ姫!! 愛しのきみ! どこにいる!?」
自分の宿命を思い出した桂輔に、周囲は入っていなかった。傍目も気にせず叫び、焦燥感に駆られるままひたすらアルマを求めてツァンダの街をさすらい、ここまでやって来たのである。
で、真人が「姫」とか言っちゃったものだから、人質の姫=アルマだと思い込んじゃったという。
「アルマ、アルマ! 無事かい?」
フードマントの者をマキシマムアームをつけた腕でぶん殴って気絶させ、人質の姫を救い出した桂輔は、急ぎグルグル巻きにしていたロープをほどく。
ロープはかなりゆるゆるに巻かれていて、あっけなくほどけた。
「アルマ! 運命のひと! ついに僕たちは――って、あれ…?」
「んもう! 何やってくれちゃってるのよ、あなた!」
そこで憤慨しているのは彼のパートナーにあらず、真人のパートナーアイシス・ウォーベック(あいしす・うぉーべっく)だった。
彼女もセルファと同じく白の言うままに真人の脳内設定に合わせて囚われの姫君として行動していたのだ。
「お姫さま奪還のために戦う勇者っていう、せっかくのシナリオがだいなしじゃない!
しかも真人、気絶しちゃってるし」
「真人! 真人! 大丈夫??」
セルファがひざに抱き上げてぺちぺちほおをたたいているが、きゅうっと目を回した真人が目覚める気配は一向にない。
「うーーん……ま、あれで本当に元に戻るならいいけど。こればっかりは目を覚まさなきゃ分かんないわよね」
腕組みをするアイシス。
「そんな……魔王に囚われていた姫がアルマでなかったなんて…」
桂輔はまだそっちにショックを受けていて、アイシスの言葉はひと言も耳に入っているふうではなかった。
「では、僕はまたきみを求めてこの広い世界をさすらわなくてはならないのか…!
決してあきらめたりなどしない。だが……ああ、アルマ姫! 愛しのきみ! きみはいずこに…!!」
ガックリ床についた両手をこぶしにして、ぶるぶる体を震わせる。
かなり芝居がかっているが、本人はいたって真面目だ。本気で苦悩しているのである。
「1日、いや1分、1秒でも早くきみをこの両腕で抱き締めたい! 熱い口づけで誓いを新たにし、そして今度こそ二度と離れることのないよう契りを結――」
――ドガシャッ!!
どこからともなく飛んできた重そうな木箱が桂輔を押しつぶす。
「恥ずかしげもなく一体何を叫んでいるんですか! あなたは!!」
そのセリフをアルマは知っていた。昨夜見たばかりの純愛ファンタジー映画で、まんまヒーローがしていた独白だ。
これは単なるフィクションで、役者がしゃべっているセリフでしかないと、あのときは普通に聞いて流していたが、知り合いが口にするとこんなにも気恥ずかしく感じてしまうものか。
こればかりはさすがに普段冷静で知られるアルマも黙って聞いてはいられなかった。
「そ、そこにいたのか、アルマ姫…」
頭の上で砕けた木箱のカケラを払い落としながら桂輔は立ち上がる。
彼は知らなかったが、アルマはずっと彼のそばにいた。ただ、気付かれまいと隠れていただけだ。
なにしろ自分の名前とともにああいうこっぱずかしいセリフを臆面もなく往来で口にしていたのだ。そりゃあだれだって逃げるに決まってる。
それでも気にはなるのでつかず離れずの距離で隠れて見ていたわけだが、ここにきて、仲間たちの前でああも連呼されてはたまらない。
「アルマ姫……ついに巡り会えた……僕の永遠の恋人。たとえ運命が過酷な別れを強いたとしても、僕たちは必ず出会い、結ばれる星の下にいるんだ…」
「はいはい。ええ、そうですね。あなたの言うとおりです」
適当な言葉でうなずいて、同意しているフリをして。
抱き締めようと両手を広げて歩いてきた桂輔の延髄に手刀を落とした。
この追い討ちで、桂輔はあっけなく気を失ってしまう。
「まったく……これで元の桂輔に戻ってくださるといいのですが…」
倒れ込んできた桂輔を抱き止め、そうつぶやきつつも、アルマはどこかちょっぴり残念に思っている自分に気付いていた。