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リアクション
『24時間耐久組手』
「男の道場に負けてなんていられないわ!」
白百合団の班長である桜月 舞香(さくらづき・まいか)は、ラルクが行っている武術道場を気にしながら、『24時間耐久組手』の戦乙女組の一員として、組手を行っていた。
バトン・チアリーディング部【応援舞闘術】で鍛えあげた、応援舞闘術を用いて、舞香は対戦相手を倒していく。
応援舞闘術は、チアリーディングの動きを応用した蹴り技主体の格闘術だ。
「腹立たしいわね、こっちには鼻の下伸ばした男ばっかり来るし。あっちには百合園生や白百合団員までも集まってる」
「そうでもないアルよ。舞香の目にはそう見えるみたいアルけどね」
奏 美凜(そう・めいりん)は、胴着を整えながら言う。
24時間耐久組手には、見学者も含め多くの男女が訪れている。
男性の姿も多い……興味本位、ヤラシイことを考えている者がいないとはいえないけれど。
大抵は白百合団精鋭の見学、もしくは手合せをすることを目的に訪れている。……はずだ。
「ワタシが相手するアルよ!」
体つきの良い男の前に、美凜が出る。
「それじゃ、あたしの次の相手は、そこの鼻の下が伸びきったあなたね! ふふっ、お嬢様だと思って甘く見てると、大怪我するわよ? 本気でかかってらっしゃい☆」
「もちろん♪ お手柔らかに頼むよ、可愛いお嬢ちゃん」
「それは無・理☆」
舞香は踊るような華麗なステップで相手を翻弄し、強烈な真空飛び膝蹴りを決めた。
「うぐ……っ。せめて、足技はチア衣装で……」
そんなうめき声を上げながら、青年は一撃で倒された。
「やれやれ、舞香はやりすぎアル。骨が折れてなければいいアルが。っとッ」
舞香に気を取られていた美凜に、体格良い男が手を伸ばしてきた。
「寝技に……ぐふふっ」
「はっ!」
美凜は男の手を弾き、カウンターの蹴りを腹にお見舞いする。
「げふっ」
「今日は試合だからこのくらいで勘弁してあげるネ。普段百合園に忍び込んだりしたら、こんなものじゃ済まないから覚悟するアルよ★」
体格の良い男は腹を抱えて蹲っているが、舞香とは違い、美凜は一応手加減した。
「あなたも、ここで会うのは今日限りよ! 神聖な乙女の道場から、すぐに追い出してあげるわ!」
舞香がバク転で接近し、空中殺法の脚技で次の男を蹴り飛ばす。
男はふっとんで、壁に腰を打ち付けた。
「舞、出し物なんだから私情剥き出しで本気出し過ぎちゃ駄目アルよ!」
「んー、はいはーい。ふう、それじゃちょっと休憩☆」
普通の少女の表情に戻ると、舞香は武道場の隅へと歩いていく。
そこには、順番を待っているイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)の姿があった。
「ねぇイングリット」
舞香はタオルを手に取って汗を拭きながら、イングリットに尋ねてみる。
「白百合団の新ユニフォーム、どんなのがいいかしら?」
もし、この『24時間耐久組手』が評価されて、賞をとったら。イングリットの願いである、白百合団の新ユニフォームが作成されるのだ。
「イングリットはどんなのが着たい?」
「そうですわね、やはり動きやすいユニフォームがいいですわ」
「そうよね、ミニスカートとか、レオタードみたいな可愛くて動きやすいのがいいわね。泉美緒の着てるみたいな純白のビキニアーマーとかもセクシーでいいかも!」
「え、ええ!? それはちょっと恥ずかしいですわ」
「ううん、貴女も十分スタイルいいじゃない。きっと似合うわよ?」
格好は道着で、男勝り……男性以上に勇ましい彼女達だけれど、照れたり微笑み合ったり、普通の少女と変わらなう様子で雑談をしていく。
「だがしかしアルよ!」
けほんと、美凜が咳払いをして、舞香にこう言うのだった。
「男をこう毛嫌いして、返り討ちにしていたら男の票が入らないアルよ! 訪れた人に喜んでもらえる出し物にしなければならないアルよ……」
「そ、それはそうだけれど」
「というわけで、舞香さんはしばらく休憩、ね」
くすっと笑みを向けてきたのは、白百合団の副団長のティリア・イリアーノだった。
○ ○ ○
「どうぞ、お嬢さん」
闘いの場へと出ようとしたイングリットに、花束が差し出された。
房状に小さな白い花を咲かせたそれは、こうして花束にして女性に贈られるような花ではない。
その花は、アキレア。花言葉は――戦い。
「……ありがとうございます」
花と、贈り主である
マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)を見て、イングリットは微笑んだ。
しかし、彼女の目は笑っていない。
彼の目的は解っている――。
互いに、それ以上何も語らずに道場中央に歩いて、構えをとった。
「号令が必要なようね」
ティリアが2人の側に歩く。
マイトもイングリットの目も真剣そのものだった。
互いの瞬きさえも見逃さぬよう、鋭く見つめている。
「はじめ!」
ティリアの声が響く。
2人は同時に動いた。
守りではなく、攻撃に出る。
床を蹴り、踏み込んだイングリットは、マイトの襟を狙った。
マイトは拳を繰り出して、イングリットを牽制。
イングリットは襟を掴めずに、身を引く。
軽く距離をとって、両者は間合いを計り、相手の呼吸を読む。
「っ!」
ぴくりとマイトの手が動いた途端、イングリットが跳ぶ。
彼女はマイトの一撃を頬に受けた。反動で体が飛び、転倒する――と思われたが、もとより衝撃に耐える為に、足を引いてあった。
衝撃も利用し彼の脇に移動したイングリットがマイトの襟をつかむ。
マイトもイングリットの道着を掴んだ。
先にイングリットが投げに入る。
マイトは、足払いで牽制。
イングリットの技は決まらず、共に倒れ込み、狙っていたマイトが彼女の首に腕を回して、裸締めを決める――。
「そこまで!」
イングリットが落ちるより早く、ティリアが止めた。
「う……、これからでしたのに」
「確かに、まだ戦えそうではあったが」
マイトは手を差し出して、彼女を置きあがらせる。
そして向き合って、礼をした後で。
マイトは彼女に微笑みを向けた。
「君が万全な状態だったら、投げられていたかもしれないな。凄まじい気迫を感じたよ。ありがとう」
「こちらこそ、良い経験になりましたわ。あなたは強いですわね……。次は負けません」
「機会があればまた立ち合いたい所……武術家としてだけでなく同国人としても色々話もしたいものだ」
マイトはイングリットと同じ、英国人だ。
以前から何かと有名な彼女の事が気になっていた。
「良かったら友人としても今後とも宜しく頼めるだろうか」
マイトはイングリットに手を差し出した。
「もちろんですわ。友人として、ライバルとしてよろしくお願いいたします」
イングリットは差し出された手を、強く握りしめた。