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種もみ女学院血風録

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種もみ女学院血風録

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「そこっ! 誰が休憩時間だって言った!?」
 ドゴォッ、と激しい音と同時にパラ実生の頭が机に沈む。
 リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)の宮廷作法の講義に居眠りをしたパラ実生を、サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が叩き起こしたのだ。
「叩き起こすの域じゃねぇだろ! こいつ、白目むいてるぞ!」
 隣の席のパラ実生が真っ青になって叫ぶ。
 しかしサビクは赤い瞳をスッと冷たく細めて言い放った。
「キミ達、ここに何しに来たの? シリウスが言ったでしょ、オベンキョーの時間だって。百合園生は、これくらい当たり前にこなすんだけどなー。キミ達には難しかったかなー」
 バカにするように締めれば、パラ実生はあっさり挑発に乗ってきた。
 鼻息も荒くリーブラを睨むようにして、話を聞こうとする。
 ……が、やはりすぐにウトウトし始めてしまうのだった。
 たまらず一人が手を挙げた。
「センセー、トイレ」
「はい嘘!」
 嘘感知で即座に見破るサビク。
「うがーッ! やってられっかーッ!」
 ついにパラ実生がキレれば、サビクはニヤリとして荒ぶる力を発揮し、机を高く持ち上げたパラ実生に足払いをかけて転ばせた。
 そして、彼が立ち上がる前にがっちり押さえ込む。
 何となく首が絞まっているように見えなくもない。
「サビク、ほどほどにな」
 シリウスがやんわりと止めに入る。
 彼女は唖然としているパラ実生達を見渡して言った。
「おまえら、最初からわかんねぇと諦めんなよ! 諦める前に質問しろ! オレ達だって講義すると決めた以上、絶対置き去りになんかしねぇから!」
 熱く激励の言葉を飛ばすと、パラ実生達の顔にみるみる生気が戻っていった。
 シリウスは内心でにやりとする。
(きっとまたすぐに眠くなるだろ。すると、サビクが叩き起こす。恐怖したところをオレが励まし無理矢理奮い立たせる。精神的に絞り上げる作戦だ! ……我ながらエグいと思うが、百合園を守るためだもんな)
 そんなことを考えている間、リーブラがやる気を出したパラ実生に礼儀作法の実践を促していた。
「いいですか。お辞儀の角度にも決まりがあります。美しく品良く見せるための角度です。……が、その前に、皆さんは立つ姿勢から矯正が必要ですわね」
 天女のような微笑みで、リーブラは対星剣・オルタナティヴ7を抜く。
「これを背中に立てましょう。ほら、姿勢矯正のために定規を使うような要領ですわ」
「それ両手剣じゃねぇか! 無茶言うな! 切れるだろ!」
「正しく立てば切れたりしませんわ」
「こいつ……綺麗な顔して心の中は悪魔もびっくりだぜ……!」
 逆らうと何もなくてもバッサリやられそうな気がして、パラ実生達は緊張に震えながら正しい姿勢を保とうとした。
(精神的に徹底的に追い込んであげますわ……!)
 リーブラはうっすら微笑んだ。
 命がけの礼儀作法が終わる頃、パラ実生はすっかり憔悴しきっていた。
 そんな彼らにシリウスは、百合園短大で使われているテキストを突きつける。
「おいおい、まだ歴史が残ってるぞ」
「ヒィ〜!」
 彼らは転がるように我先にと逃げ出した。
 からになった座学のスペースで、シリウス達は顔を見合わせた後、盛大に笑ったのだった。

 楽しげな笑い声がするそこを見ていたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の口元にも、うっすら笑みが浮かんだ。
 隣で並んで様子を見ていた和泉 真奈(いずみ・まな)は苦笑気味だ。
「やはり姉妹校になるのは難しいのでしょうか。わたくしは賛成ですけれど。そろそろ百合園も変革が必要な時期でしょうし」
「自由と無法の違いをわかってないのが問題なんじゃないかな。今のパラ実の自由って、力に束ねられた自由というか、無法に近い状態に見えるんだよね。自由には責任が付きまとうってこと、知ってもらわないと、ね♪」
「それはそうですわね。ですが、保守的な百合園だからこそ、その異文化との交流をあえて進めてみるべきだと思うのですよ」
「学校側としては、それで生徒を傷つけるわけにはいかないんだよ。ちゃんと法の下に分校なり作るんならいいのに。……ちなみにあたしは、そこにリボンつけた男子がいてもかまわないよ」
 ミルディアの言葉に、真奈はクスッと笑う。
「無理も突っ切れば道理が引っ込む……なんて言っているあなたにしては、ずい分きっちりしていますのね」
「それとこれとは別。学校って、そういうところでしょ?」
「あなたが望むように、彼らが責任ある自由に気づいてくれるまで、もう少し見守るしかありませんわね」
「そうだねぇ。……それにしても、後から後から体験入学希望者が来るね。どんな話の広まり方してんだろ」
 呆れたように言ったミルディアに答えたのは真奈ではなく、クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)だった。
「淫獣はレオーナ様だけで充分ですわ……!」
「淫獣?」
「い、いえっ、何でもありませんわミルディア様。ほほほ」
 ごまかし笑いを浮かべたクレアは、リングを見るとパートナーの姿に気づき、小さく声をあげた。
「授業の見学もおもしろいのですが、そろそろ失礼いたしますわ。ごきげんよう」
 クレアは丁寧に礼をすると、背中に危険なものを隠し持って観戦しているレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)のもとへと走った。
 リングに立っていたのは何とも禍々しい雰囲気の魔鎧だった。
 彼はイングリットを対戦相手に指名したようだ。
 拳を打ち鳴らし、厳しい表情で挑戦を受けたイングリットに、魔鎧──ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)はククッと笑った。
「殴り合うなんて野蛮なことはやめようよ。つまらない遺恨も残るかもしれないしね。だから、ここは平和的にフードファイトなんてどうかな?」
「食べ物はどこから持ってきますの?」
「……ないの?」
「体験入学のメニューに、そのようなものはありませんでしたから。仮にあったとしても、わたくしは応じませんけれど」
「そう……じゃあ仕方がないね」
 鎧ゆえ、表情はわからないはずなのに、イングリットはブルタが不気味に笑んだのを確かに見た。
 気をつけて、と百合園の観戦者から声が上がるがもう遅い。
 ブルタが放ったタイムコントロールがイングリットを包み込む。
「何なの!?」
「フフフ……幼い頃のキミはどんなふうだったのかな」
「あ、ああっ……!」
 イングリットが小さく身を丸めて叫んだ瞬間、カッと光があふれた。
 眩しさに、誰もが目をつぶる。
 やがてそれも収まり、百合園生もパラ実生もゆっくりと目を開いた時、イングリットがいたところにはぶかぶかの服を引っかけた小さな女の子がいた。
 女の子はキッとブルタを睨みつけた。
「なかなかいい感じだよ、イングリット」
 観戦者達がどよめく。
 ブルタはずっと思っていた。
 イングリットは、プリンセスカルテットのソフィアとキャラが被っている、と。
(しかもソフィアは母親も姉に見えるほどの若さ。夢の親子攻略も可能なんだよね。逸材だよ。イングリットが勝てる見込みはないね)
 だから、彼女は変わるべきなのだと。
 そして、自分が変えてあげるのだと。
「変身の第一歩だよ」
 ブルタはイングリットに向けて腕を掲げると、グラットンハンドの力を解放した。
 その手でイングリットの服に触れると、いともあっさり破かれていく。
「やめなさい!」
「フフ。最後の一枚は残してあげるよ」
 邪気眼レフでじっくり見たいから、と心の中で呟くブルタ。
「邪魔なものを取り去ったら、屋上からバンジージャンプしようね。ボクがちゃんと抱っこしてあげるから、何の心配もいらないよ……」
 もうすでに服の下まで舐めるように見られている気がして、イングリットはどうしたらいいかわからなくなっていた。
「そうそう。おとなしくしててね……」
 ブルタが言いかけた時、何者かが彼の肩を強く引いた。
「女の敵ーッ!」
 鋭い怒鳴り声の直後、ブルタの下半身に衝撃が走った。
 しかし衝撃を与えたレオーナもまた、衝撃を受けていた。
「ゴボウが効かないなんて……!」
 愛用のゴボウをブルタの尻に挿してやろうと思ったのだが、魔鎧のブルタには挿す場所がなかった。
 レオーナの乱入にパラ実生から抗議の声があがり、リングに乗り込んでくる者まで現れた。
「ブルタ、こいつは俺がもらう。……ところで、大人になったイングリットってどんなんだろうな」
「……そうだね。今は微乳だけど立派に育っていたら、ボクの愛人にしようかな」
「ハハハッ、がんばれよ!」
「がんばれよじゃなーい!」
「アッーー!」
 今度はレオーナのゴボウはパラ実生の尻を貫いた。
 尻を押さえて悶絶するパラ実生を踏みつけ、レオーナは凄む。
「あたしの女の子は、あたのもの。あなたの女の子も、あたしのもの。世界中の女の子はあたしのもの。男共に指一本触れさせるものか……!」
「くっ……何なんだこいつ!」
「あたしのゴボウに尻を許したあんたは、もうBL的な世界でしか生きられない!」
「許してねえ! てめえがいきなり突き刺してきたんだろうが! つーか、いい加減足をどけろ!」
 パラ実生の怒鳴り声も、レオーナは涼しい顔で聞き流した。
 にわかに騒がしくなったリングとそれを引き起こした元凶に、クレアは頭を抱えた。
「またあのようなセリフを大声で……」
 しかし、欲まみれのパラ実生から百合園を守りたいという想いは同じだ。
 新たにリングに乱入し、レオーナに拳を振り上げたパラ実生に、クレアは氷術で作り出した氷の礫をぶつけた。
「イデッ! な、何だぁ? いったいどこから……お前かー!」
 パラ実生は、かざした手のひらから氷術の名残を漂わせるクレアを目ざとく発見した。
 クレアはサッと視線をそらし、口笛を吹く。
「バレバレなん──アッーーーー!」
 隙を見せたパラ実生の尻は、無慈悲なゴボウの餌食になった。
 そんな周囲の騒ぎも受け流し、ブルタは再びイングリットに目を向ける。
 ……が、そこにいたのは彼女をかばうように立つマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)だった。
 イングリットの体は、マイトのコートに包まれていた。
「試合と思って黙って見ていたが、ここまでだ。パラ実生がこの調子じゃ、姉妹校計画を見過ごすわけにはいかないな」
「キミ、邪魔だよ」
「いえ、そろそろ体験入学もおひらきにしましょう」
 ティリアが凛とした声で告げた。周りにはずらりと百合園生が並んでいる。
 異様な雰囲気だ。
「乱入……?」
「違うぜ。最後は派手に乱闘だ!」
 対するように、ブルタの周りにはパラ実生が。
 一呼吸の後、
「ヒャッハー!」
 と楽しげに叫んだパラ実生がいっせいに百合園生に襲いかかった。
 マイトはコートにくるんだイングリットを抱き上げると、素早くリングを降りて離れたところに移動する。
「しばらくそのままだろうから、ここにいて」
「わたくしも行きますわ! あの魔鎧に一発蹴りでも──」
「その小さな体では無理だろう。また次の機会もあるさ。その時は俺とタッグ組んでやるか?」
「それもいいですわね。でも、あなたとは一度手合せもしてみたいですわね」
「お手柔らかに」
 マイトとイングリットはクスッと笑った。
 マイトに諭され、今の状態ではどうにもならないことを理解したイングリットは、おとなしくしていることを約束した。
 頷き、マイトは怒号と悲鳴のリンクへ戻っていった。
 乱闘の中、百合園生の声が飛ぶ。
「ブルタが逃げたわ、誰か捕まえて!」
 ハッとマイトが辺りを見回せば、会場の隅を足音を忍ばせて移動するブルタの姿が。
「逃がすか! 君には反省してもらうことがたくさんあるぞ!」
 マイトの投げた拘束ワイヤーがブルタを絡め取る。
 足をもつれさせたブルタに、彼を見つけた百合園生が殺到した。
「女の敵、成敗!」
「鎧を剥いじゃいましょうよ!」
「でも、つなぎ目がよくわからないわ」
「剥いだら剥いだで、中から毒素が出てきそうな気がするわ……」
 口々に悪態をつきながらも、百合園生は手際よくブルタをロープでぐるぐる巻きにした。
「もういいわ。ここから外に放り出しちゃいましょう!」
 誰が言ったのか定かではないが、この意見に全員が賛成した。
「え、本気? ここ、何階だっけ……?」
「それは……」
 ブルタとマイトがほぼ同時に口を開いたが、あっさり黙殺された。
 ブルタは、窓から放り出された。