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種もみ女学院血風録

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種もみ女学院血風録

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「うううっ、癒してくれ、その胸で癒してくれー」
「俺の百合園生はどこにいったんだ……っ」
 保健室には、心身ともに疲れ果てたパラ実生が集まっていた。
「ええっと、それが百合園の本当の姿なんです……。だから、合併なんてやめた方がいいですよ」
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)はくっつかれながら、パラ実生を諭していた。
「そうそう、こういうことしてると」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、アレナや自分にひっついてるパラ実生を引きはがして。
「こんな風にされちゃうよ?」
 上質な機晶石を摘まんで、指だけで砕いた。
 パラ実生達はびくっと引いた。
「か弱い乙女はこのくらいできないと危ないもん」
「そ、そうか。その大きな胸は筋肉なのか」
「筋肉と筋肉の間に俺らの顔を挟んで、潰すのか」
「こええ。こええよ、百合園……」
 パラ実生達は恐怖に震えていた。
「ルカのは筋肉じゃないけど、筋肉な娘もいるかもね……さ、そこに座ってならんでね。大人しくできない子は……」
 ルカルカは、ハザーダスシリンジ(巨大な注射器)を取出した。
「麻酔しちゃうゾ」
 そうウィンクすると。
「猛獣用だろ、それ!」
「殺す気かー!」
 パラ実生達はぎゃーぎゃーぶーぶー言いながら、椅子に腰かけて順番を待つ。
「次の方どうぞ」
 衝立の奥から女性の声が響いてきた。
「よし、俺の番だ!」
「いや、俺の方が先だろ!」
「お前はゼスタの方に行けよ。手、空いてるみてぇだし」
「いやいや、俺は癒されに来たんだ。女の子になでなではぐはぐして貰うんだっ」
「わかった、一緒に行くぞ」
「おおっ」
 肩を組み合って、男達はカウンセラーの元に歩いて行く。
「何か悩みがあるのなら聞こう。2人ともいい年のようだが」
 カウンセリングを担当していたのは、リィナ・コールマン(りぃな・こーるまん)だった。
「彼女が欲しいんだ。エロい彼女が」
「従順で可愛くて、胸がデカくて、明るくて尽くすタイプの女がいい!」
 パラ実生の悩みに、リィナは眉間に皺を寄せる。
 ここに来る男達といえば、こんな悩み?ばかり相談してくるのだ。
 大きく吐息をついた後、ゆっくりと語りかける。
「彼女を得て、どうすごすんだ? どんな未来を思い描いている?」
 彼らの真の悩みを聞きだす為に。
 刹那的な生き方をしているように見える彼らにも、若者特有の悩みがあるだろう。
 リィナは、それを時間をかけて聞いてあげることが、自分の役目だと思っていた。

☆ ☆ ☆


 同時刻。
 種もみの塔46階にある不動産屋に駆け込むなり、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)カンゾーを呼びつけた。
「おい、カンゾー」
「吉永か。加勢に来たって感じじゃねぇな。だったら後にしてくれ、今は忙しい」
「うるせぇ、大事な話だ」
 竜司が強く言えば、カンゾーは面倒くさそうにしながらも振り向いた。
「てめえ、優子を嫁に狙ってんだってなァ」
「それがどうした」
「つまり、オレの優子に勝つつもりだな?」
「当たり前ぇだ。あいつを嫁にしてこそ、この種もみ女学院計画も進むってもんだ」
 竜司はそれを鼻で笑った。
 カンゾーは不快そうに眉間にしわを寄せる。
「てめえには無理だな。優子の舎弟の弩S級四天王のゼスタにすら勝てねぇだろうよ、グヘヘ。優子を夢にしたきゃ、ゼスタに勝ってからオレんとこに来るんだな!」
「どえす……? ゼスタってのは、そういう趣向の奴なのか?」
 カンゾーは不審そうな表情で何やら考え込んだ。
「神楽崎がどえむだとは聞いてねぇ。……まぁいい、障害がいくつあろうが関係ねぇ。ゼスタにはどえむの女を差し向けてみるか」
「知り合いにいるのか?」
「探すんだよ。だが、それは後だ。今は女学院開校が先だ! そしたらお前も倒しにいってやるから、今から必死で腕を磨いとくんだな」
 竜司の挑戦を受けたカンゾーはニヤリとする。
 カンゾーの意志を確認した竜司は彼に背を向け、もう一つ挑戦状を叩きつけていった。
「せっかくパラ実生が集まってくるんだ、オレも楽しませてもらうぜ。若葉分校も生徒募集だ!」

 地上に戻った竜司は、種もみ女学院生徒募集の立札の隣に、若葉分校生募集の立札を立てた。
 内容はこうだ。

『応募条件:特になし。男でも女でも誰でもウェルカム!
・女装なんてしなくても、分校生になれば百合園女子と仲良くなれる
・農家の女の子とも仲良くなれる
・ネットし放題なので、地球の女子とも仲良くなれる。契約者とパートナーにもなれるし、嫁探しにも使える』

 さらに、これらのことを瀬蓮美緒にくっついてきた若葉分校生にさりげなく宣伝してこいと命じていた。
 若葉分校名誉番長の言うことなら、と分校生達は動き出す。
 やがて、百合園一日体験入学や面接で精神的にも肉体的にも返り討ちにあってきたパラ実生の何人かが、若葉分校生に慰められながら竜司のもとに集まってきた。
 真っ青な顔で、
「俺の百合園生は、いつの間にか冥府の使いになっていた」
 などと呟いて震える彼らに、竜司は呆れ顔だ。
「おい、そんなに宦官になりたかったのか?」
「んなわけねぇだろ! ああ……姉妹校になったら、百合園の女の子とあんなコトやこんなコトをしたかったのに……!」
「こいつ、それでつい股間ふくらませてったら、リングでおそろしい柔道技でガツンとやられたんだよ」
 目の周りに青アザを作ったパラ実生が、竜司に説明した。
「バカだな、てめえは。いいか、真のイケメンってのはそんなふうにがっつくもんじゃねぇ。己の欲望よりも、相手の願いを優先して叶えてやるもんだ」
 たとえばオレのように、と竜司は神楽崎優子に出会った時から今日まで、どのように接して惚れさせてきたかを、思い込みも交えて話して聞かせた。
 その話は、傷心のパラ実生には釈迦の説法のようにありがたく聞こえたとか。
「優子はいい女だからな……てめえらの中にも惚れる奴がいても仕方ねぇ。だがな」
 竜司は言葉を切ると、ギロリとパラ実生達に睨みをきかせる。
「優子を嫁にしたいなら、まずは(舎)弟的存在であるゼスタを倒してからだ!」
 竜司が叫んだこの場所は、ちょうどゼスタのいる保健室のある階の真下だった。