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晴れた六月の日、神崎 荒神(かんざき・こうじん)は蒼魔 綾(そうま・あや)を連れて墓参りに来ていた。
今日は、荒神が綾と出会う前、一緒に旅をしていたが病死した師匠の命日だった。
綾は師匠の存在は知っていたが、こうして墓参りをすることは初めてだった。
「綾の苗字である『蒼魔』は師匠の苗字からつけたんだ」
墓の前で、荒神は呟くように言った。
「師匠と出会わなければ、旅に出る事はなかった。色々あったけど、師匠には感謝している」
綾は、荒神の言葉を黙って聞いていた。荒神は師匠の墓に向き合い、これからも見守っていてくれ、と呟くと、綾と一緒に合掌した。
(師匠……約束、今から果たすぜ……)
黙祷を終えて綾に向き直った荒神は、首に下げてたネックレスを外した。ネックレスにかかっている、白い花がついた指輪を手に取る。その指輪は、かつて荒神の師匠の嫁のものだった。
「指輪はお前の愛する人に渡せ。そして、二人で墓に報告に来い」
師匠と荒神は、そう約束を交わしていたのだ。そして今、約束は果たされようとしている。
「綾……今までは相棒そして恋人として苦しいときも楽しいときも支えてくれてありがとう。これからは--夫婦としてお互い支えあっていこう!
綾! お前を愛してる! 結婚してくれ!」
荒神からの突然のプロポーズに、最初、綾はうろたえた。見る見るうちに、その目の縁に涙が溜まって行く。
「うん--もちろん!」
嬉し涙を流しながら、綾は幸せそうに微笑んだ。
結婚式は綾の希望で、ニ人だけのプライベートな式になった。
白いタキシードを着た荒神と、清楚な薄い青のウエディングドレスを着た綾は、式が始まるのを待っている。
式場では、式の準備等をアルベール・ハールマン(あるべーる・はーるまん)とセシル・パスバレー(せしる・ぱすばれー)が進めている。
はずだったのだが。
「何でお前が神父なんだよ……」
綾と共に入場した荒神が、バージンロードの正面で神父の格好をして立っているアルベールを見て突っ込んだ。
「ここにいた神父さんは私が差し入れに持ってきたコーヒー飲んだら全身紫色になって病院に運ばれました。なのでこの記念すべき日を僭越ながら私が進行させます」
「しれっと答えるな。何飲ませたんだ」
「コーヒーです」
アルと荒神のやり取りを見ながら、乾いた笑顔を浮かべる綾。
「おぉ! 疑心と懐疑との神よ!」
ガン、と鈍い音が教会内に響き渡った。アルの暴走を察知して、音もなく近付いたセシルが野球のバットをフルスイングしたのだった。
「ボク達はこれで失礼しますね……夫婦水入らずでごゆっくりお過ごしください」
セシルはそう言って、襟首を掴んだアルベールをずるずると引きずって式場から出て行った。
ニ人きりになった荒神と綾。
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、綾を愛し、綾を敬い、綾を慰め、綾を助け、その命ある限り、固く節操を守ることを誓う!」
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、荒神を愛し、荒神を敬い、荒神を慰め、荒神を助け、その命ある限り、固く節操を守ることを誓います!」
荒神と綾は、お互いに夫婦の誓いを交わし--キスをする。
綾をお姫様抱っこして教会を出る荒神の表情は、明るさと決意に満ちていた。
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