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はっぴーめりーくりすます。4

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はっぴーめりーくりすます。4
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11


 十二月二十五日は、アニス・パラス(あにす・ぱらす)の誕生日だ。
 一日早いが祝ってやろうと、佐野 和輝(さの・かずき)はフィルの店にみんなで向かう。店には、前もって連絡を取ってあった。誕生日会をしたいから、席を予約できないか、と。
 フィルは快く了承してくれたし、頼むと誕生日ケーキも作ってくれると言った。なので、場所とケーキはばっちりだ。アニスは『Sweet Illusion』のケーキが好きだし、きっと喜ぶだろう。
「ねえねえ和輝、『Sweet Illusion』に向かってるんだよね? 楽しみ〜!」
 無邪気に笑うアニスを見て、和輝は感慨深いような気持ちになった。
 アニスの生まれはデザインチャイルドだ。研究所で、『親』の望むように、好き勝手されていた。だから、『アニス』という名前以外はすべてが不明だった。
 もちろん誕生日もわからない。だから和輝は、『アニス』が『アニス』として、ひとりの少女として生きることになった日を誕生日と決めた。それがクリスマスとかぶってしまったのは、少し申し訳ないけれど。
「お祝いだからな」
 優しく声をかけると、歩いていたアニスが振り返った。和輝を見て、満面の笑みに変わる。
「ありがとう!」
 その笑顔は本当に嬉しそうで、見ているだけで和輝も幸せな気持ちになれた。


 『reserved』の札がかけられていた四人席に通されて間もなく、紅茶が出てきた。次いで、誕生日ケーキがテーブルに置かれる。
「かっわいい……!」
 ケーキを見るや否や、アニスの目が輝いた。無理もないだろう。こういったものにあまり興味を抱かない和輝でさえも、おお、と思ったのだ。可愛いものが好きな女性が、喜ばないはずがない。
 誕生日ケーキは、ハート型をしていた。ハート型で、生クリームが綺麗なラインを描き、所々にアラザンが散りばめられている。
 上には、真っ赤なイチゴ、白とピンクの薔薇、『お誕生日おめでとう』と書かれたチョコレートプレートが乗っていた。色のバランスも素材の量も、どれもが調和していて食べるのがもったいなく思える。
「食べていい? 食べていいの? これ食べていいの??」
 アニスが、目を輝かせたまま和輝に訊いた。
「ああ。どうぞ、召し上がれ」
 切り分けて、皿に乗せてやる。きゃーっ、という歓声が響いた。嬉しそうで何よりだ。
 お行儀良く座って食べる彼女の頭を撫でると、アニスはくすぐったそうに笑った。
「今日はアニスの誕生日だから、ある程度なら我侭を聞いてやる」
「えっ、ほんと?」
「ああ」
「じゃあね〜……」
 アニスは楽しそうに笑うと椅子から降りて、和輝の膝の上に乗った。
「こうする!」
「こんなのでいいのか」
「いいのー。にひひ、あったかい」
 暖房で元々暖かいだろ、とは思ったが無粋なので言わないでおく。
 こんなことで喜んでくれるならお安い御用だ。和輝はもう一度、アニスの頭を撫でた。
 自分自身が誕生日会等を行った記憶がほとんどないため、喜んでもらえるか不安だったがこの分なら問題はないだろう。
 ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)にも任せてあるし、きっと大丈夫だ。


 和輝に進行役を任されたとき、ルナは大いに張り切った。
 とはいえ場所が場所である。店の一角を借りる身として、無茶は避けなければならない。
 動物は呼べないし、なら何をしようか、と考えた。結果、ひとつ閃いた。氷精たるルナの力を発揮するのだ。きっと、幻想的で美しい。アニスも喜んでくれると思う。
 閃きの内容は事前にフィル話しておいたし許可も取った。あとは今、タイミングを計って行うだけだ。
 その時はやってきた。
 ケーキを食べ、紅茶を飲み、ほうっと一息ついた頃、だ。
 フィルに目配せすると、間もなく、照明が少し落ちた。きょとんとする相手の顔が見える程度の暗さだ。そこにすかさず、氷の結晶を舞わせる。
「ふわ……」
 というアニスの声が聞こえた。ルナは内心、ガッツポーズを決める。
「何これ。きれい……」
 見蕩れたような声に満足していると、
「誕生日おめでとう、アニス」
 和輝が、アニスにプレゼントを渡した。ここで渡すか。さすが、タイミングを心得ている。
 和輝からもらった赤いリボンにご機嫌なアニスへと、
「おめでとう」
 スノー・クライム(すのー・くらいむ)も、プレゼントを渡す。
「何にしようか迷ったけど……良ければ着てあげて」
 それは、服だった。膝まで覆うクリムゾンレッドのコートに、それよりはわずかに鮮やかな赤のカッターシャツ。黒と赤のプリーツスカート。ニーハイソックスまでついた、スノーの持っている服とお揃いの一式だ。
「お祝いの場に出していいのか迷う服だけど……」
「うわ、わわわ、かっこいい……!」
「喜んでもらえたようね。光栄よ」
 さて、順番にプレゼントを渡していることだし、ルナもお披露目せねばなるまい。
「アニスさんアニスさん。私からも、ありますよ」
「えっ、このシチュエーション以外にも、あるの?」
「ふっふっふ。氷精の力、なめてはいけません。こんなパフォーマンスはお茶の子さいさい朝飯前です。
 というわけで、プレゼントはこちらっ! 見て驚けですぅ〜!」
 ばっ、とテーブルの上に出したのは、アニスと動物たちの団欒風景の氷像だった。
 アニスはそれを見て、またもぽかんとした顔をしている。
「すごい……!」
「でしょう? でしょう??」
「すごいー! 溶けないの? 溶けないの、これ?」
「ええ。私の加護で守られていますから。長持ちしますよぉ〜」
「本当に、すごい……」
 喜色満面だった声が、少し、トーンダウンした。
 およ、と思ってアニスを見る。俯いていた。
「アニス?」
「アニスさん?」
 心配になって声をかけると、アニスはぱっと顔を上げた。笑っている。が、目の端に何か、輝くものが見えた。
「にひひ。嬉しすぎちった!」
「……そこまで喜んでもらえたら、俺たちも嬉しいよ」
 和輝が言って、アニスのことを軽く抱きしめる。アニスははにかんで、「ありがとう」と言った。
「今日は、最高の誕生日だよ!」