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第18章 2024年の初デート

 1月5日。
 参拝客が少なくなった頃。
 ようやく休みをとることができたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、桜井 静香(さくらい・しずか)を誘って、空京神社を訪れた。
 ロザリンドは鮮やかで綺麗な柄の振袖を、静香は華やかで可愛らしい柄の振袖を纏っていた。
「お、美女発見!」
 巫女さんを撮っている巫女参拝客が、2人にもカメラを向けてくる。
 撮られ慣れていることもあり、気にしないようにして2人は参道の端を歩いていた。
「静香さんは年末年始どうでしたか? こちらはここのお手伝いをしていましたが……」
 ロザリンドは自ら志願して、ここの警備を担当していた。
 参拝客の誘導から、迷子対応に泥酔した客の世話、要人警護に、社会のゴミ掃除まで、皆の安全の為に、人知れず貢献してきた。
「三が日はラズィーヤさんと挨拶回りで、昨日からは会議。今年はあまりのんびりできてないな」
「静香さんも、実家には帰ってないのですね……」
 自分も実家には随分と帰っていないが、普段校長として頑張っている静香には、お正月くらい家族のもとでゆっくりさせてあげたかったな、と思う。
(それよりも、私が恋人としてお節料理をつくったり、お世話をしてのんびりさせてあげられれば良いのでしょうが……)
 付き合い始めてから、それなりに時間が過ぎていたが、共に恋愛に対して積極的ではないことと、互いに遠慮しがちであることから、クリスマスに部屋をとるとか、2人で旅行して甘い時間を過ごすとか――そういった機会を持てずにいた。
「去年も色々ありましたが、何とか乗り切れましたような、まだまだ課題残してし続いているような」
「そうだね、パラミタには問題が溢れてる……僕が知っていることはほんのわずかで、僕が解決できることなんて、ないようなものだけれど。でも、何も出来ないわけじゃない。何かは出来るはずなんだ」
 静香の言葉に頷き、一緒に拝殿の方へと歩いて行く。
「去年は、ラズィーヤさんの負担を減らせる事ができましたらと思ったりしてたのですが、政治とか貴族としての考えとかそういった方面に疎くて、結局力になれず。
 今年はその辺り何とか出来たらいいのですが」
「政治……は難しいよね。貴族というか、ラズィーヤさんの考えも良く分からないし」
 静香は苦笑しながら何かを考え。
 ロザリンドと共に、手水舎で清めてから、賽銭を入れて鈴を鳴らし、心の中で祈願の言葉を唱えた。
 終えた後、顔を合せて軽く微笑み合い、また並んで歩き出す。
「静香さんは何をお祈りしましたか?」
「……え? ロザリンドさんは?」
「私は皆笑顔でいられたらとか、政治が分かるように頑張りますのでとか。あとは、少し、進展すると、いいかな……とか」
「進展? 白百合団の改革の事かな」
「う……そう、です」
 静香との仲のこと、とは言いにくくてロザリンドはそう答えた。
(今年も無理でしょうか。……いえ、願いを叶えるために、頑張らないと、ですね)
「僕の願いもロザリンドさんと似てて、皆が幸せを感じられるような世の中になりますようにということと、その為に頑張りますって誓いと……それから」
「それから?」
「秘密っ」
 と、静香は僅かに赤くなりながら、可愛らしく言った。
「もしかして、静香さんも進展を祈りました? 百合園に関する進展でしょうか」
「う……うん、そう」
 さっきのロザリンド同様、静香も微妙な返事をした。
 その反応から、もしかして自分とのことかな、とロザリンドは感じて。
 静香と同じように、僅かに赤くなった。
「あ、それとあとはパワースーツ隊が新設されますようにとお祈りした方がいいでしょうか」
 照れ隠しのように、鞄の中をごそごそとしだす。
「それは、神様に言うより、生徒会やラズィーヤさんと相談をした方がいいのでは」
「そうですねー。新設に向けて頑張らなければなりませんね」
「う、うん」
 でもロザリンドさん、どうしてこんなにパワードスーツに夢中なんだろう? と、静香はすっごく疑問に思うのだった。
「そうそう、護衛の仕事をしている時に、良さそうな店を見つけたんです」
 境内の中にある、カフェの一つにロザリンドは目を付けていた。
「今の時間ですと、サラダとドリンク、スイーツつきのランチセットが頼めます。行ってみませんか?」
「うん、お腹空いてきたしね。メイン料理は選べるんだよね? 楽しみだな〜」
「はい、ピザとパスタから選べるみたいです。静香さん、チーズは大丈夫ですか? チーズが入っていないものにした方がいいでしょうか」
 僅かに緊張しながら、ロザリンドが尋ねた。
「ん? 大丈夫だよ。ロザリンドさんはチーズ嫌いなの?」
「いえ、そうではなくて」
「それなら好きな物を食べようよ。ただ、お酒は控えて欲しいけど」
「あ……はい、そうですよね」
 静香はロザリンドの酒癖を心配して言ったのだが、ロザリンドは臭いのことと捉えた。
(そうですよね、その……いい雰囲気になった時、酒臭かったら……台無しですし)
 ひとりこくこく頷いて、静香とデートの時は酒は控えめにしなければと思うのだった。

 ……デートの時、限定で。