リアクション
「パッフェル! はなむこ、はなよめモデルだって! いこう、いっしょうにいこう!!」 ○ ○ ○ 「リンちゃーん、ゼスタくーん、式場の敷地より外に出たらだめですよー!」 ボランティアのヴァルキリーの女性が、大声を上げているが、無視してリン・リーファ(りん・りーふぁ)は石碑の後ろに隠れ続けていた。 「いいのか、もどらなくて」 「いいよ、そとにでてないしー。これたべたらもどるしね。はい、ぜすたん」 3歳児と化したリンは、ロールケーキを一切れゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)に差し出した。 テーブルクロスを引っ張って、落して手に入れたものだ。 ゼスタは5歳くらいの男の子になっている。見かけはリンより結構お兄さんだ。 「ふーん。……お、これうまい! もっともらってこようぜ」 「うん、おいしーね。あとでもらってこよ〜。っと、そのまえに! ぜすたんいこう!」 食べたら戻ると言ってたのに、リンはゼスタの手を引っ張って、今度は写真を撮っている子達のところに飛び込んでいった。 「はいとりますよ」 カメラマンが写真を撮る瞬間に。 「はい、わらってわらってー」 と言いながら、飛び込んで一緒に写真を撮ってもらったり。 「あ、いたいた、リンちゃん、ゼスタくん! 皆のところに戻りなさいー」 「あっかんべー! おばちゃんのいうことなんてきかないもーん」 「おば……こ、こらーっ!」 「キャーっ」 追いかけてきたボランティアのお姉さん(外見20歳前後)をゼスタと共に振り切って逃げる。 「リン、さすがにあれくらいのおねーちゃんをおばちゃんってよんだら、ダメだとおもうぞ。おまえ、もとにもどったら、おばーちゃんっていわれちゃうぞ」 「いいよ、べつに。だれにもそーみえないしね」 リンは数百歳なのだが、魔女なので永遠の少女なのだ。 「それよりぜすたん、さっきのケーキ、なくならないうちにもらわないとっ」 そしてまた、ゼスタの手を引っ張って、リンは走り出す。 軽井沢に来てからずっとこの調子で、リンは引率者達のいうことは聞かず、好き放題勝手し放題だった。……でも、一緒に幼児化したゼスタとだけは離れなかった。 「こんどはおれがとってくるから、リンはまってろ。……どこかにいくなよ」 「うん、わかった」 テーブルの上に手が届かないリンに代わって、ゼスタがパーティのテーブルに近づいて、椅子にのっかった。そして、テーブルの上のケーキやお菓子を確保して、ジャンプして下りる。 リンはその間、新婚の2人を見ていた。 (どこかでこういうのみたなあ……) 思い浮かんだのは、エリュシオンのハーフフェアリーの村で行われた婚約式だった。 幼児化しているせいで、記憶が曖昧で……断片的にしか思い出せなかったけれど。 あの時、自分が言った言葉だけは覚えている。 『健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、愛し、敬い、慰め、助け、命ある限り、真心を尽くすことを誓います』 「はい、リンちゃん。せんりひんー」 お菓子を抱えてにかっと笑っている男の子の顔を、リンはじっと見つめて思う。 (ぜすたんはもうわすれちゃったかもしれないけれど、あたしはこのことばをちがえずにいたらいいなー) 「ん? どうかしたか」 「ううん、なんでもないよ。ええっと」 リンは大きく息を吸い込んで。 「ふたりともおめでとーーーー!」 大きな声で花婿と花嫁を祝福した。 2人はこっちに目を向けて、ありがとうというように、お辞儀をしてきた。 「リンちゃーん!! こんなところに!!!」 大声をあげたせいで、ボランティアの女性に気付かれてしまった。 「おおっ、ぜすたん、おにみたいなかおして、おばちゃんがおってきたから、あっちいこー!」 リンはまたゼスタの手を掴んで、パタパタと走っていく。 そして今度は木陰に隠れて、2人でお菓子を食べる。 「しゃしんをとってたみんな、かわいかったねー。はなよめさんたちも、きれいだったねー」 もぐもぐお菓子を食べながらリンが言うと、ゼスタはちょっと悪戯気な顔をして言う。 「リンもはなよめさんになりたくなった? おれのおよめさんになるか?」 「ぜすたん、およめさんにしたいひと、たくさんだよねー。そーちょーさんとか、すいせんのことか、としのかずのこたちとか? あたしもそのひとりかなー」 リンが笑いながら言うと、ゼスタもちょっと笑みを浮かべた。 「おれんちのおよめさんは……すぐいなくなっちゃうから、リンはおよめさんじゃなくていいや」 彼の母親は何人もいて、何度も変わっている。――何人も、ナラカに行ってしまっている。 今のままでは、本当にずっと一緒にいたい子と一緒にいれないことが、子供の心でもわかっていた。 「あはは、リン、かおにクリームいっぱいついてるぞー」 「いいの、さいごになめるなら。さいごのおたのしみ!」 「そっか、それじゃそのおたのしみ、うばっちゃうぜ〜」 ゼスタがリンの肩を掴んで、顔を近づける……。 「こ、こらー! 何してんの、あなたたちーーー!」 瞬間。顔を真っ赤にして、ボランティアの女性が飛び込んできて、ゼスタを抱え上げた。 「ぜ、ぜすたん……!」 ゼスタが捕まってしまったため、リンも観念してボランティアの女性に捕まり、コテージに連れていかれた。 その後こんこんと説教を受けたのだが、2人とも半分眠っていて全く聞いていなかった。 |
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