リアクション
■展望
和輝や美羽、ナオの三人の手で連れ戻された破名。
舞花とジブリールは戻ってきた破名を前にして戸惑うシェリーの背中を「頑張れ」と押した。
背中を押され、たたらを踏みつつ破名の前に出たシェリーは意を決する。
「あ、えっとね……その、
毎回娘に黙って勝手な真似をするなー!」
両目を瞑っての突然の絶叫に、提案したジブリールと応援している舞花、そして言われた当人である破名以外の全員が驚いてシェリーを見た。
顔を真っ赤にさせて怒ったシェリーに破名は、くいっと首を傾げる。
「怒っているのか? そんな心配は必要無い」
「あるわ!」と、シェリーは怒鳴った。怒鳴ったのだ。
「私はあなたに対して怒っているし! 心配もしているの!」
問題解決は当事者間で。相談を持ちかける度に取り合ってくれなかったキリハの言葉を思い出しながらシェリーは破名との間合いを詰めた。逃げ道を塞がれた形になって破名はシェリーの言い分を聞く気になったらしく口を閉ざした。
「昔、私が間違えてクロフォードのことをお父さんって呼んだ時、父ではないとあなたにはっきりと否定された。けれど……、
破名・クロフォード、あなたは私のもう一人のお父さんなのよ!」
ずばっとはっきりと言い切った。
お前の父にはなれない。系譜の思想が故に、父親の定義、母親の定義を持っている破名からしてみれば血の繋がりが無いというその時点で、父親の否定は当然の返答であったのだが、それがシェリーにとって抜けない刺となっていた。
シェリーは胸の前で両の指を組む。
「あなたの言葉で、あなたの教えで、あなたの理想で、私は育てられたの!
……私はあなたの娘なのよ! 娘は父親を心配するものだわ! いいえ、心配させて!」
『系図』と『楔』は対立し、協調し、同格であり、対等であり、それぞれの役割がはっきりしているが為に決して結びつくような事は無い。それぞれを宿すシェリー(系図)と破名(楔)は互いの性質によりいかなる関係にも発展せず、せいぜい築けても知人も同然な友人関係が限界だ。
それでも尚、関係を欲しているのはシェリーが破名に育てられたという自覚がある為である。共に過ごした時間があまりにも長い為である。何より子供として親に甘えたいのだ。そうでなければどうして呼び名一つでここまで真剣に考えるだろうか。躊躇いに悩むだろうか。これが入院してから今日まで期間の一番短いフェオルなら何も考えずに好きに呼ぶだろう。
「お願いだから、私を認めて。私はあなたを否定しないわ。だからお願い。私を認めて……」
「随分と食い下がるが、お前は何も知らないだろう?」
認めろと言われて無碍にできなくなった破名は、シェリーに聞き返す。
「なら、全部話して!」
「何も知らないままがいいと俺は思うんだが、な」
「いいの。知りたいと思うのは私だから。知らないままなのは不安になるから嫌なの。覚悟はできてる。大丈夫。ちゃんと全部聞くわ。子供じゃないもの、ちゃんと受け止める。
大丈夫、私はあなたを否定しないから安心して?」
「勇気づけられているのは俺か?」
苦笑する破名に、キリハは顔を上げた。魔導書が浮かべている表情にベルクは「ん?」と疑問符を浮かべる。キリハという存在は一種のバロメーターだったりする。彼女がこういう反応をしそんな表情をしているという事は破名になんらかの変化があったと見ていいだろう。
「シェリー、俺を父と呼びたいのか? 娘で在ろうと?」
大きく頷いたシェリーに破名もまた頷く。
「わかった。今晩皆が寝静まった頃応接間においで。全部話そう。それから俺をどう呼ぶかをゆっくりと考えるといいさ」
舞花、ジブリールを見て「シェリー」と少女を呼んだ破名は屈託なく笑った。
「いい友達ができたな」
破名は受け身で基本的には働きかけないと動かない。そして働きかける者にはどうやら相談できかつ背中を押してくれる人達がいるようだ。
「舞花、ジブリール、私、やったわ! あんな風に言ったの実は初めてなの。ドキドキが止まらないわね!」
結果報告に最初から最後まで見守っていた二人の元にシェリーは戻り、それぞれの手を取る。
「ふたりともありがとう!!」
いつも勇気を貰っている。
「時に佐野。子供達と仲良くしてくださるのは嬉しいのですが、番の候補でも探しているんですか?」
キリハの率直過ぎる質問に和輝とベルクは魔導書を見る。
「すまないが、キリハ。もう少し言葉を選んでくれ」
非難した和輝がキリハの率直な質問内容にショックを受けてスノーに宥められているアニスにちらりと視線を向ける。
「いえ。あまりにも手馴れているので選んでいるのかと」
「だから誤解を招くような事を言うなと言ってるんだ。 それに根本的に違う!」
パートナー(特にアニス)に甘い和輝は、パートナー達と近しい世代に対しとても面倒見がよく、特別扱いもしたりする。元々ルックスがよく、経験からか相手に合わせたり乗せたりが上手で、極々たまにハーレム王とかロリコン、果ては無自覚の女たらし等の不名誉な呼び名を貰ったりしていた。
きゃわきゃわと系譜の女の子等に囲まれているのをキリハは嫁選びかと受け取ったらしい。系譜のスタッフたる破名とキリハにはこういう認識のズレがあるんだったと和輝は思い出した。
そして肩を竦める。勘違いしたアニスをどう宥めよう。そもそも和輝は既婚者だ。
、帰ろうと思ったが大所帯が更に大所帯になって、もう一箇所どこかに行こうかと話が盛り上がる中、キリハはそっと悪魔に近づいた。
《いいんですか?》
囁く声は過去の言葉で。確認されて破名は考える素振りで返す。
《いいんですかも何も少なくともシェリーは″親″が必要だと言うんだから仕方ないだろ……否、どの時代でも奔放な系図に振り回されるべきは楔ということかもしれない》
破名にとって系図を宿す者は色んな意味で特別なのだ。全てを「仕方ないな」の一言で済ませてしまうくらいは大甘である。そして、今生きている時代が″それ″を許していた。規則に抵触するぎりぎりまで存分に破名は子等を甘やかしている。
《あなたに親が務まるんですか?》
系譜の思想と技術しか持っていない破名にキリハの眼差しは厳しい。
《さぁな?》
しかし、詰め寄るキリハに破名は笑った。話し相手として遊び相手として過去から今まで接してきたが、親代わりになって甘えさせろとねだられたのは初めての経験だったからだ。
全て話す。
元より、こんな日が来ることを破名は先日覚悟したばかりだった。こんなにも早く訪れるとは予想していなかった分だけ驚いてはいるが、覚悟はできてる。
共に生きるか、共に滅びるか。
果たすべき責任の形は決まった。
ジブリールと舞花に頑張りを労われているシェリーに視線を戻し、破名は自ら『我らが子等』と称して憚らない『その体に系図を宿す者達』が、一人の人間として在り、また人格が在ることを改めて思い知らされて、これからの行く末にどうするべきかと最善を求める。
彼ら彼女らは自分と違って全てを持ち、全てに恵まれているのだから。
皆様初めまして、またおひさしぶりです。保坂紫子です。
今回のシナリオはいかがでしたでしょうか。皆様の素敵なアクションに、少しでもお返しできていれば幸いです。
シナリオ自体が真偽は定かではないという類のものですので、他シナリオへの影響は全くありません。また、正確ではないという性質上、他シナリオへの参照として持ち込むのはご遠慮していただければと思います。
また、推敲を重ねておりますが、誤字脱字等がございましたらどうかご容赦願います。
では、ご縁がございましたらまた会いましょう。