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記憶が還る景色

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記憶が還る景色

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■近しき出来事



「何かやってるのかな」
 銀色の目で空中を見ている破名を発見し、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は横のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を見上げる。
「見てこよう」
「じゃぁ、私そっちのベンチで待ってるー」
 邪魔するのも嫌だし、ダリルはこういうの得意よね、とルカルカは空中に浮遊する白霧を指さした。



…※…※…※…




 破名の近くに行くと白霧は崩れかけながらも輪郭を持ち、文字として浮遊していた。
 これが原因かと察したダリルは己が持つ言語を理解するスキル万象読解なら手助けになるかと思い発動させて、破名に声をかけようとしそのまま両膝を地面に落とす。
 物音に気づいた破名がダリルを見た。
「ダリルお前読もうとしたのか?」
 きょとんとする破名。ダリルの状況を見て彼が何をしようとしたのかわかったらしい。にやっと笑う。
「つかお前頭いいんだな。それか、特殊能力でもあるのか? まぁ、どっちでもいいんだが、やめないと死ぬぞ?」
「どういう?」
 聞き返すもスキルの使用を止めると身体は軽くなり、ダリルが両膝を落とさざるを得ないほどの強制力は綺麗さっぱりと消えた。
 立ち上がるダリルを見て「そんな事より」と破名は続ける。
「ダリル。お前俺の敵になりたいのか?」
 聞かれ、それこそどういう意味かとダリルは驚いた。破名からの明確な示唆に、その切り口からの逃亡を二回ほど過去に経験があるダリルはついつい身構える。
「誤解されているのか勘違いされているのかわからないが……あまり俺を探るなよ」
 破名は自分自身が機密情報の塊だと前に伝えたはずなのにと、ダリルに向かってにやにやと悪魔的に笑う。考え方が変わったとしても破名は規則に忠実であり、使い手を選択できる装置だ。系譜の秘密に――どんな理由事情があるにせよ本人の許諾を得ず、まして黙ったまま――触れようとする者を許容できるはずもなかった。
 無意味な敵対は避けたいなぁと軽く笑う破名は、立っているままなのもあれだから座れよと空いているベンチを薦める。
「何が起こっているんだ?」
 ベンチに座ってから事情の説明を求めるダリルに、
「別段何も起こってないさ」
 破名は答えた。
「はぐらかすのか?」
「食い下がるな。話したくないこともある」
 くつくつと喉の奥で笑いを殺し肩を揺らす破名にダリルは眉間に皺を寄せた。
「楽しそうだな」
「懐かしいからな」
 やや暫くしてエースに名前を呼ばれた破名は顔を上げる。



…※…※…※…




 決意に眼差しは凛として。
 想いに心は折れることなく。
 差し迫る脅威に、強気に笑って迎え撃つ。
 ただ視界を埋め尽くすのは白い光。
 しかし、瞼閉じることなく全てを見定めた。
 そして、耳の奥に音がだけが残る。



…※…※…※…




「あまねく生命は生存を希求する権利を持つのだ。だってぇ……」
 迎えにベンチに歩み寄るダリルは、すっかり眠ってしまったルカルカの寝言に、一度目を瞬いた。
 寝言にしてはずいぶんはっきりした寝言だなと呆れ、両肩を竦める。
 それほど待たせたつもりはなかったが少々の物音ではルカルカが目を醒ますような気配がなく、ダリルは彼女が座るベンチの端に腰を下ろした。
 こちらが諦めてしまうほど気持ちよさそうなルカルカの寝顔に、ダリルは息を吐き笑った。
 破名は先ほど迎えの者に連れられて公園を後にしたので既に白霧は霧散している。あの霧は人を眠らせるわけではないんだなと思い、他にどんな影響があるのか、受けた影響そのものを忘却してしまう共鳴現象の本質を知る者は当人しか居らず、ダリルは破名の言うとおり何も起こってなかったのかと結論づけた。
「ダリルったら……ぐふぐふ」
 先ほどの言葉といい、一体何の夢を見ているのだか。
「しかし気持ちよさそうだな」
 こう幸せそうにされると現象――昼寝――を終わらせるのが少し惜しくなるな、と陽光を浴び綺羅やかに光弾くたんぽぽ色のルカルカの頭を撫でてて、蒼空を仰いだ。


 もう少しこのままでいよう。