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 7連戦を終え、流石に疲労が体を襲ってきたのかコーナーにもたれ掛るパンツマシン。
 相手の打撃を徹底的にガードしているとはいえ、無傷で済む筈もない。積み重なるダメージに加え、呼吸がしにくいマスクを被ってのファイトだ。
 乱れた呼吸を整えようと大きく呼吸を繰り返すが、肩で息をしている状態だ。
 だが残る相手は次で最後である。次の試合で残っていた選手が、ストロングスタイル王者となる。
(流石にキツいが……次だ。次までもちゃいい)
 コーナーにもたれ掛ったパンツマシンが花道に視線を移すと、最後の選手――佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)が姿を現した。
 ルーシェリアは歓声に笑顔で応えながらゆっくりと花道を歩き、リングへと上がる。
 そしてパンツマシンに笑みを向けてゆっくりとパンツマシンに歩み寄ると、笑みを浮かべたままルーシェリアは言う。
「この勝負、私がもらいますぅ」
 ルーシェリアの笑みから、パンツマシンは何か得体の知れない物を感じ取った。
(笑ってるように見えるけど目が笑ってねぇ……やる気満々じゃねぇか)
 パンツマシンが察した通り、内心でルーシェリアは王座を奪う気満々で闘争心を燃やしていた。
(強い相手と戦うのもいいですけど、存分に体力を残した状態で挑むことができるのですから見す見す逃すわけにはいかないですぅ)
 回ってきたチャンスを逃すまいとルーシェリアが内心意気込む。
「悪いけどな、こっちもここまできたらはいそうですかって負けてやるわけにもいかねぇンだよ……オレがストロングパンツマシンになるためにな」
 肩で息をしつつも、パンツマシンは一歩も退かずにルーシェリアに言い返す。お互いに今は大人しいが、いつ爆発してもおかしくない。
 その様子を感じ取ったレフェリーがゴングを鳴らすよう指示を出し、すぐに開始を告げる音が鳴り響く。
「せぇッ!」
 開始直後、動いたのはルーシェリアであった。握りこぶしを作りナックルパートでパンツマシンの顔面を殴りつける。
 それを咄嗟にパンツマシンがガード。逆にローキックで足にダメージを与える。
 しかしルーシェリアは執拗に顔面狙いのナックルパートを繰り返す。それを徹底的にガードするパンツマシンであったが、疲労により反応が遅れて間に合わずに一撃が入ってしまう。
 更にパンツマシンに連続のナックルパートを放つルーシェリア。足を止めたパンツマシンにルーシェリアは走ってのクローズラインを仕掛けようと腕を振りかぶる。
 だがパンツマシンが倒れ込み、同時に足をカニ挟みで転がしSTFを仕掛けようとする。しかしルーシェリアは体を回転させ、パンツマシンの身体を蹴って逃れる。
 起き上がったパンツマシンを狙い、ルーシェリアがスピアーで身体ごとぶち当たる。これにダウンしたパンツマシンに覆いかぶさりフォール。だが身体を起こしカウントは2。
 距離を取り身構える2人に、観客が沸き立ち拍手が起こる。

 ルーシェリアの攻めは絶え間なくパンツマシンを襲う。最後の登場という体力のアドバンテージを活かし、攻め立てる。
 パンツマシンも徹底的に打撃をガードするものの、やはり連戦の疲れにより反応が遅れていくらかルーシェリアの攻撃を受けてしまう。キャメルクラッチにより絞り上げられ、危うくレフェリーストップになる展開も見られた。
 だが大ダメージにつながる物は受けず、大振りの隙を狙いバックドロップや河津落とし、STOで反撃する。
 攻め続けるルーシェリアに、追い詰められてからの逆転劇のパンツマシン。観客はその光景に興奮し、歓声を上げる。興奮のあまり感情が爆発し放出するかのように、それは怒号に近い。
 しかし沸き立つ中、戦っている2人は焦っていた。パンツマシンは己の限界が近い事に。ルーシェリアは決め手に欠ける事に。
 積極的に攻め立てるルーシェリアの攻撃をわずかに食らいつつも徹底的にガードしている為致命的なダメージは避けているパンツマシン。しかし絶え間なく続く攻撃を防ぐ事により、休む間もない為体力が削られていく一方である。場外のエスケープすら許されないこの状況では、相手を連続して抑え込んでスタミナを削る手も使えない。息は乱れ、大きく肩を上下する。
 対してルーシェリア。予想以上にこちらの攻撃をガードされる為に体力を削るも決定打に欠ける為に攻めきれない。また攻め続ける事にも体力は要する。呼吸が乱れだし、表情に疲労の色が見え始める。
 時間経過により不利に追い込まれるのはどちらも同じ。この状況で先に動いたのは――ルーシェリアだった。
 ロープの反動を利用してのクローズライン。だが大振りのそれをパンツマシンは躱すと、バックドロップでリングに叩きつける。
 しかしルーシェリアは即座に起き上がると強烈なスピアータックルを叩きこみダウンを奪う。そこからフォールへ持ち込むか、と思われたが、ルーシェリアは立ち上がりパンツマシンと距離を取り、タイミングを見計らう。
 パンツマシンは膝を着いて、ゆっくりと起き上がる。そこがルーシェリアの狙いであった。
「食らうですぅ!」
 走り込んで、着いたパンツマシンの膝を踏み台にしてのシャイニングウィザード。【オーダリーアウェイク】を使い攻撃力を上げた一発である。
 だがその一撃。ルーシェリアの渾身の一撃を、パンツマシンは倒れ込みながら腕で頭部をガードした。
 起き上がるルーシェリアにパンツマシンは倒れこむ様にパンツマシンラリアットを浴びせる。体重の乗った一撃に、ルーシェリアがダウンする。
 そのまま倒れたくなる気持ちを抑え、パンツマシンは立ち上がるとルーシェリアを引き起こし、魔神風車の形に捕らえる。
「こいつで決めてやる! いい加減に終われぇッ!」
 そして、ルーシェリアをブリッジで投げてフォール。綺麗な人間橋がそこに築かれた。
 叩きつけられたルーシェリアの口から呻き声が上がり、苦しそうに身体を起こそうとするがガッチリと決まった魔神風車は解けなかった。
 そして、カウント3が数えられる。同時に観客が総立ちになり歓声が沸き起こった。
 力尽きたように拘束が解かれ、ブリッジも崩れてリング上に大の字になるルーシェリアとパンツマシン。
 先に立ち上がったのはルーシェリアであった。対してパンツマシンは起き上がらない、というよりも起き上がる気もないのだろう。
 その姿に苦笑しつつ、「残念ですぅ」と呟くとルーシェリアはリングを降りる。
 勝利したパンツマシンにレフェリーが駆け寄り、状態を問う。
「あー、別に何ともねぇ……それより、マイクを貸してくれ」
 パンツマシンはそう言ってマイクを要求。レフェリーが持ってきたマイクを持つと、大の字になったまま構えた。
 マイクを通して荒い呼吸が響き渡る。それを観客達は静かに聴いていた。

『どーだ! 勝ったぞ! 勝ってやったぞぉッ! これでオレがストロングスタイル王者だ……そして! 今日からオレはパンツマシンじゃねぇ! ストロングパンツマシンだぁッ!

 それだけ言いきると力尽きたようにマイクを落とすパンツマシン。同時に、観客から歓声が湧きあがった。
 こうして新たなストロングスタイル王者が誕生した。
 パンツマシンは立ち上がるどころか、ベルトを巻く事すらできない程疲弊しきっていたが、会場にいた者達は皆新たな王者の誕生にその身を震わせていたのであった。

○パンツマシン(7分51秒 魔神風車固め)佐野 ルーシェリア●
※パンツマシンがストロングスタイル王座争奪ガントレットマッチに勝ち残る。
 これによりパンツマシンが新ストロングスタイル王者となる。