イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第1回/全5回)

リアクション公開中!

イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第1回/全5回)

リアクション



第3章 侵入は、一声かけて鍵開けて

 その研究所は、高い壁に囲まれていた。
 が、正門の鉄扉は開け放たれ、正面奥に見える建物の入り口も開いたまま焼けこげている。建物の側面の窓からも、所々黒煙が吹き上がっていた。
「カイル達は上手くやってくれているみたいだね」
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が覗き込んだ壁の中には、ざっと見渡した限りでは人の姿は見えない。彼は聖少女──ちびの安全確保のため、仲間達と共にキメラ撃退チームを結成していた。
 ちびが向かおうとする方角、東に位置する研究棟に、ちび達より先に向かう。
 研究棟は本館らしい高い建物と、その横に接するように低い建物が丁度細い廊下で繋がったような形をしている。
 建物の正面入り口を入ったところで、見たものは番犬代わりの狼のキメラの群れだった。自分たちの人数よりは多い。既に警戒はされていたのだろう、入り口横にある受付には人の姿はない。
「キメラの数を減らし戦力を奪う。黒髪の女を見たら捕まえる。よろしくな!」
 リアトリスが声をかけ、仲間たちは頷いてそれに応えた。
 リアトリスはポニーテールをなびかせ、剣を携え走り出した。正面から側面から飛びかかってくる狼を、“爆炎波”で吹き飛ばし、道をつくる。吹き飛び壁に叩き付けられた狼たちに、パートナーのパルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)が背後から小さな火炎弾を浴びせかけ、狼は血の花を吹き上げながら廊下に転がった。
 人間であれば怯んだだろうが、相手は狼のキメラ、正常な判断力など残っていないのだろう。
 怯むことなく一匹が、橘 恭司(たちばな・きょうじ)に飛びかかってくる。狼の牙を堅い手応えと共にカルスノウトで受け流す。パートナーのクレア・アルバート(くれあ・あるばーと)が狼の着地の瞬間を狙って剣を繰り出し、前脚を断つ。再び恭司が剣を突き出し、キメラの喉を裂く。二人一組で一体一体を確実に屠っていくつもりだ。
「無理しないでくださいね」
「心配しないでください、みんながいれば平気です」
 クレアにそう答える彼に、もう一匹キメラが飛びかかってくる。
「気をつけたまえ、人に頼っている暇などないぞ。ほら、そちらからも来るぞ」
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)がワンドでそのキメラの頭をぽこりと叩きながら言う。そのキメラが杖にかじりつく。慌てて振り回すが、離そうとしない。重い腕を何とか振り回しつつ、パートナーの名を呼ぶ。
「アル」
「はい、イオの仰せのままに」
 イーオンを庇うように剣を振るっていたヴァルキリー、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が意を察して、杖にぶら下がったキメラの背を剣で貫き通した。彼女は今回の作戦に余り乗り気ではない。正直、聖少女など主に比べたらどうでもいい。その主が作戦に加わるというので、命令に従っているだけである。
 一行はほどなく狼のキメラを全滅させると、奥へ奥へと進んでいった。研究員はやはり避難してしまっているのか、本館に行ってしまっているのか、今のところ姿が見えない。
「キメラ達も、ひょっとして保護した方がいいのでしょうか? 元は人のキメラもいるのでしょうか」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が死角を作らないよう周囲を警戒しながら、ふと疑問を口にした。
「キメラを大人しくする方法が分かれば、無用な戦いは避けることもできます」
「もしそんな方法があったとしても、分からない以上倒すしかないだろう。また来た、気をつけろ」
 そんなイーオンの返答に、ロザリンドが廊下の先を見る。今度は先ほどの狼より大型のキメラが一体居座っていた。ライオンの身体にサソリの尾。これでコウモリの翼が付いていれば、地球では伝説の生物・マンティコアである。
 一瞬怯む一同目掛け、ライオンは廊下を駆ける。早い。
「きゃあっ!」
 鎧で受け止めようとしたロザリンドが跳ね飛ばされ、壁にしたたかに腰を打ち付ける。そのまま爪を振るおうとしたライオンは、だが、その腕にまとわりつく炎と弾丸に、うめき声を上げて飛び退った。
 仕掛けたのは、ゆる族・望月 寺美(もちづき・てらみ)と共に、“光学迷彩”で姿を消していた日下部 社(くさかべ・やしろ)だった。
「さぁ〜て! 本番はこれからやで。俺らのホンマの実力、見せてやろうやないか!」
「ちびちゃんはボクが守りますぅ〜」
 社は炎で、寺美はアサルトカービンで、追い打ちをかける。
「大丈夫?!」
 一行の最後尾でロープを背負って待機していたロザリンドのパートナー、テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が駆け寄って、“ヒール”を唱える。腰の苦痛が消え、再び立ち上がったロザリンドは唇を噛んで呟いた。
「できれば殺したくないのですが……無理なんでしょうか」
 テレサのロープは、そのために持ってきたものだ。黒髪の女とキメラを捕らえるために。
 ライオンは囲まれて、両前脚を焼かれ銃に晒され、剣に突かれて、やがて死んだ。多勢に無勢といったところだろう。
 連携を取りながら進み、とにかく一同はキメラを殺して進んでいく。
 通り抜けた後の通路は赤黒く染まってゆく。