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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第1回/全6回)

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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第1回/全6回)

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第3章 遙かな轍

 『♪Versteckt im gelben Sand、Im gelben Sand、Wir suchen uns Wege、Die keiner sonst fand……♪』
 野戦機動車の後席で呟くように歌を歌っているのはハンナ・シュレーダー少佐である。もっとも、表情は浮かない感じだ。
 「少佐、場所が見えてきましたよ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は助手席から振り向いた。
 「ん、着いた?」
 その声と同時に、運転していたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が車を止めた。後ろからは次々と着いてきたバイクが停止する。
 車を降りたシュレーダーは同乗していたレベッカ・マクレガー技術大尉と共に、ひっくり返ったトラックに近寄る。
 「根こそぎ盗られてるわねえ。とりあえず人員は無事だったんでしょ?」
 「軽傷で済んでます〜」
 マクレガーが答える。シュレーダーと並ぶと対比が著しい、グラマラスなシュレーダーに比べてマクレガーはスレンダーだ。あまり気にしないのか化粧っ気もない。ぱっと見た目は男の子の様に見えることもあるが、実に奥ゆかしいながらも胸元が女の子であることを証明している。着ているのも色は野戦服と同系の緑だが、作業服である。
 「やはり金目当てだろうな?」
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は被弾した車体を見て言った。
 「見境なく撃っている所を見ると、部品が壊れてもいい、もしくは狙いは部品ではない、と思われる」
 「そうね。敵の目的は部品を奪うこととは限らないわね。どうなの?積荷は?」
 ファウストの言葉に頷きつつシュレーダーはマクレガーに聞いた。
 「積荷は部品や機材なのです。いろいろ積んでいましたが、重要なのは例の開発部品なのです」
 「なるほどね」
 「開発部品を狙ったのではなく、襲ったトラックに部品があったということであろう。やはり金儲けとの線が強い」
 「しかし、肝心の部品ていうのはどういうものなのですか?」
 一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は奪われた部品を気にしている。
 「だいたい1メートル四方の金属板なのです。中には電子部品が入っているので見た目より軽いのです」
 「それがないと工廠では作れない?再度運ぶことは?」
 「試験基盤なので簡単には作れないです。本土で再度作って運ぶ予定は今の所ないのです」
 戦車砲の制御に使う電子部品の試験基盤らしい。再度送ってもらうとなるとかなりの準備と期間がかかるので戦車開発がストップしていまう。
 「だとすると、単に金儲け、だけとは限らないかもしれません」
 「それ以外にあり得るか?」
 一条の言い分にファウストは懐疑的だ。
 「結果として金儲けになっているだけで、教導団に対する妨害行為自体が目的であったとも考えられます。部品自体が目的でないならなおのこと」
 一条は、狙った者は教導団に対し何らかの目的があったと見ている。
 「金儲けだけなら、相手は山賊団。単に警備を強化すれば済みますが、そうでないなら積極的な対応が必要です。ゴキブリは巣ごとつぶさないと」
 「相手はパラ実の可能性がある、と聞いているが」
 「そりゃあ、ないぜぇ」
 割り込んできたのは国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。周りの視線が痛い。現状で奪ったのはパラ実の可能性が指摘されているからだ。この荒野地方にはパラ実の分校?が点在していることと、奪った連中が改造制服を着ていたと言うことから否応なく疑われている。
 「ああ、あんたね」
 シュレーダーは国頭を見て言った。この間、避難作戦に加わっていたパラ実生徒だ。
「こいつ、信用できるのか?」
 アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)は国頭を胡散臭そうに見ている。
 「こいつ、パラ実だろう。潜入工……」
 「工作員」
 「そう、その工作員じゃねぇのか?殴って泥吐かせてやる」
 「まあ、慌てるな。殴るにも順番がある。オレ達は少佐の次だ」
 腕を組んだまま言うファウストに国頭は平然としている。
 「その部品ってのは、売れば高いんだろう?」
 「それはそうですね」
 一条の答えに、国頭はニヤリと笑った。
 「本当のパラ実生徒なら高額な金の計算なんてできないぜ。掛け算、割り算ができねぇ奴ばかりだからな。……ま、自慢じゃないが、俺は二桁の掛け算ができる!」
 「自慢になるかぁぁぁぁぁぁぁ!」
 自信満々に言う国頭に周囲から一斉に突っ込みが入った。
 「ま、言いたいことは解るけどね」
 「どうだい、むしろ、俺なら警戒されずに動ける。先行させちゃくれないか?」
 「ふーん……。いいけど、一つ条件があるわ。他校の生徒と一緒ならいいわよ」
 シュレーダーはちょっと考えてから言った。そのため、有沢 祐也(ありさわ・ゆうや)がついて行くこととなった。
 国頭の改造バイクに、有沢の小型飛空艇が地上すれすれでついて行った。それに併せて主として騎兵部隊の面々が数人づつ各地に散った。シュレーダーは歩兵を連れてじりじりと北上を計る。

 セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)はやや北西の方に向かっていた。
 「このあたりは小さな村が点在している感じだな」
 「あれ……何だ?」
 二人はなにやら古い建物のようなものを発見した。バイクを降りて様子を見る。建物自体は小さい。ただすでに朽ち果てている感じだ。
 「七時十一時?」
 なにやら看板がくっついている。
 「コンビニだな」
 どうやら昔からの古い建物を改造して一度コンビニにした後、放置されて朽ち果てた感じだ。
 「パラ実の分校?だ」
 「これが?」
 かつてパラ実がまともに機能していた?時代があったが、いわゆる「ドージェの乱」の後、パラ実生徒は各地に散った。そこでこういった「分校」を作って小規模にまとまっていたのだ。現在でもあちこちに存在するが離合集散は日常的であり、こういった朽ち果てた施設があったりする。となれば関係者が近くにいる可能性は高い。
 付近で見つけた集落に二人は近づいた。
 近くに子供がいる。
 「なあ、ここいらで変な連中とか、大きな荷物を持った連中を見なかったか?」
 セルベリアはそう問いかけたが、子供はぴゅっと逃げ去ってしまった。
 「あ〜」
 「セルは口調が乱暴ですな」
 口調が乱暴な男言葉のセルベリアはどうにも怖がられるようだ。どうやら、パラ実とは関係のない人たちのようである。
 「確かにこの辺にはパラ実を名乗る者が多いですなあ」
 土地の老人に聞く。フィッツジェラルド達もややうさん臭がられているが、それ以上に胡散臭い連中がいるようだ。
 「まあ、ドージェとやらを信奉する若い連中が多くてのお。そう言う連中は良く徘徊しておりますじゃ」
 「礼を言うよ、爺さん」
 フィッツジェラルドはそう言って場を離れた。
 「どうだ?」
 「ああ、どうやら事情はわかってきた。パラ実であってパラ実でない。パラ実本校とは関係ないんだが、ドージェを信奉して、改造制服を着て自分はパラ実だと信じている連中が増えているらしい」
 ドージェの強さに憧れ、これを信奉する連中がパラ実に入れば強くなれるとばかりに考えているらしい。一種のドージェ教だ。
 「本人達は、自分はパラ実生徒だと信じているところがややこしい」
 「なんだか無茶苦茶だな」
 「ただ、直接パラ実本校とは関係ないようだ。問題は、そう言った連中が増え、さらに集まりつつあるらしい。場合によっては困ったことになる」
 部品を奪った連中の素性がはっきりしてきた。

 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)の三名は主に東側を探索していた。
 「直接、この付近で部品を奪ったらしい連中は見かけないようだ」
 グリーンフィールは周辺での聞き込みから言った。
 「ただなあ、このあたりではあんまり教導団も歓迎されていない様なのだよ……」
 「そりゃあなあ、逆に言えば、強力な勢力が近くにあるんだ。そう言った反応はむしろ当たり前だろう」
 「それにしても、このあたり、動きは活発の様ですよ」
 マキャフリーは周辺の確認を行っていった。このあたりは街道と言うわけではないが、あちこちにバイクなどの通った跡がある。
 「大きくはないけど集団が頻繁に通っている感じです」
 「感じからすると、ここから北西の方か……」
 メルヴィンは地図を取り出した。地図と言っても正確な地図は現状で存在しない。縮尺的にはかなり大きいものだ。
 「位置的には山岳地帯に近いが……」
 ここから東の山を越えるとモン族のエリアだが、北西に上がって大回りするとラク族のエリアになる。もっとも、こちらからは急峻な地形になっており、大規模な集団は行き来できない。問題はその手前にある地域である。
 「このあたりが怪しいな」
 「ああ、この近くの遺跡みたいな所になにやら集団が集まっているらしい」
 「バイクの跡もその方角ですね」
 グリーンフィールの指摘にマキャフリーも頷く。
 「どうやら、その遺跡とやらがたまり場の様だな。規模は解るか?」
 「正確な人数は解らないが、数百名と言うところだろう。それ以上になれば、もう少し教導団に情報が入っているはずだ」
 「遺跡からあぶり出しかな?」
 メルヴィンはそう呟いた。

 一番、北方に進出していたグループがある。
 「話からするとこの辺ですな」
 セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)は周りを見渡した。一行は道なき道をたどり、このあたりの行き来するルートを調べていた。
 「これこれ、これじゃないのか?」
 佐野 亮司(さの・りょうじ)が地面を指して言う。このあたりは岩砂漠だが、砂の色が若干変わったところがある。何かが通って砂を巻き上げたのだ。東西を横切るように通っている。
 「最近、周辺から集まってくる連中の通るルートだぜ」
 ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)は軽く砂を探ってみる。やはり、この周辺は周囲と違って薄く掘り返されたようになっている。頻繁に行き来している証拠だ。三人が道を確認していたときだ。
 「セバスチャン、何か来るよ!」
 グレイシア・ロッテンマイヤー(ぐれいしあ・ろってんまいやー)が気づいた。さすがにドラゴニュートはこういった地形では感覚が鋭い。道の東側から砂を蹴立てて十数人の集団がやってくる。皆なにやら改造したバイクに乗っており、どんどんこちらに接近してくる。
 「まずいな、敵だったら多勢に無勢だ」
 「ああ、ここはひとまず逃げた方がいい」
 クロイツェフの心配に佐野が同意する。向こうもこちらに気づいたようだ。速度を上げて来る。次第に近寄ってくる姿が改造制服を着ているのが解った。
 「ここはずらかろうぜ!」
 アクレインも素早くバイクに乗った。困ったことに佐野以外は普通のバイクである。撃ち合いになれば危険だ。一行は一目散に走り出す。それを見た相手側は発砲を開始した。
 「間違いない、連中は一味だ」
 「じゃあ、東側に拠点があるな!」
 クロイツェフの推論にアクレインも同意する。
 「連中、自動小銃持っているよ!」
 遠目にロッテンマイヤーがちらちら後ろを見る。
 「まったく、どうもシャンバラのあちこちに銃器が流通しているようですな」
 「何にせよ、敵がこの周辺にいることは解ったんだ。急げ」
 佐野の言葉に全力で走ってかろうじて振り切った。どうやら相手側のパトロールに引っかかったようだ。

 国頭と有沢、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)、あとから合流した月島 悠(つきしま・ゆう)麻上 翼(まがみ・つばさ)クリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)は大分、西側に寄ったあたりを探っていた。元々は国頭、有沢、ハーマンと残り三人は別行動を取っていたのだが、考え方が似ていたためか、途中で鉢合わせした。
 「このあたりは、ほぼ中立地帯だぜ」
 有沢はぐるっと見渡した。
 「そのようですね。ここいらに点在している村は特にどこかの勢力の影響を受けているようではないようです」
 ゼルベヴォントはここに来るまでの村の様子を確認している。村というより集落のレベルですぐに通過してしまうくらいである。
 「特に怪しい集団なぞは見あたりませんでした」
 「ふん、すると東側かな?」
 国頭は外れをひいたかな、と言う顔をしている。
 「しかしな、最近このあたりでも往来が前より頻繁になっているらしい。人影自体は結構見ることができるようだ」
 「それは間違いないのか?」
 月島の言葉に有沢は聞き返す。もっとも、有沢の視線は国頭に向いており、国頭もちらちら有沢の方を見ている。
 「最近は各学校の動きも活発ですからね。むしろ蒼空学園の方がご存じではないんですか?」
 麻上が有沢に聞く。このあたりの事情は本来蒼空の有沢の方が位置的に詳しいのではないかと言うことだ。蒼空学園は手広く遺跡探査なんぞをやっていて生徒の『出歩き度』は一番だ。位置的に行ってもう少し西へ行けば教導団と蒼空の中間に出る。地理的なつながりを考えれば蒼空の方が詳しくても不思議ではない。
 「いや、蒼空はもっぱら飛空艇で動くからな」
 有沢は首を振る。
 「でも人の往来は多いようですよ。特に最近」
 「この辺には特に産業があるわけでもない。そうなると妙だな。普通はもっと街道を通るのではないか」
 麻上は首をかしげているだけだが、月島はそこに何かありそうだと踏んでいる。
 「それなんだけど?」
 ハーマンが腕組みしたまま視線を北へ向けた。
 「ここより大分、北側で村……というか人が集まり始めているらしい」
 「北の方?」
 ゼルベヴォントと有沢は口をそろえた。
 「はっきりそう言った訳ではないらしいけど、いい稼ぎ口がある……みたいな感じで人が集まっている感じだわ」
 「往来している旅人が触れ回っている……と言うことだな」
 「北に何かあったか?」
 月島の推論に有沢はすぐに反応した。集めたメモをめくる。
 「北側、やや西に寄ったあたりでそこそこの部族がいる。名前ははっきりしないが、独立志向の高い連中だ。しいて言えば、敵対的中立だな」
 「なにやらきな臭いわね」
 「だが、ここからだと大分距離があるな。さすがにこれ以上行くと本隊から離れすぎだ。一度戻った方がいい」

 「それにしても、国頭曹長に有沢曹長(国頭と有沢は他校の生徒なので階級が教導団生徒より下になる)をつけたのはどういう訳ですかぁ?」
 追いついてきた歩兵部隊を中心に野営地を設営し、各地から集まってきた情報を整理しているところだ。メモを整理しながらルーはシュレーダーに問いかけた。
 「ああ、部品を奪った連中は改造制服を着て、いかにも『オレ達はパラ実でございます』って感じでしょ?逆に言えばそうじゃない可能性も考えておかなけりゃならない」
 「そうじゃない可能性?」
 「あたしらが敵はパラ実だっ!っていきなり攻撃したら、当然教導団とパラ実が全面戦争になる。そうなれば喜ぶ連中もいない訳じゃない。単純に言えば位置的には蒼空かしら?」
 「蒼空……ですか?」
 「忘れてはいけないけど各校はそれぞれ影響力確保を狙っている。蒼空がエリアを拡張しようとすれば大荒野方面。そうなれば教導団とパラ実が邪魔になる。この二つがにらみ合っていれば蒼空は漁夫の利を狙える。ま、もっともそう言う意味では百合園も同じかしらね。むしろ百合園の方が場所的に近いかしら?」
 概ね第3師団が行動している場所はヒラニプラとヴァイシャリーのちょうど中間あたりである。
 「なるほど、少佐は今回の騒動が教導団とパラ実を争わせる何者かの陰謀の可能性があると思っている訳だな?」
 一応、ライフルを持って護衛しているガイザックが視線だけでこちらを向いた。
 「ま、可能性にすぎないけど用心はしておかなけりゃね」
 「それで、パラ実と蒼空を一緒にする。裏でパラ実と蒼空が手を組んで教導団を攻撃するのではない限り、国頭と有沢は相互に監視することになるというわけか」
 「そう言うこと」
 可能性的には蒼空とパラ実がこっそり手を組んでいる可能性はかなり低い。そうなれば仮に国頭と有沢のどちらかが工作員でも監視されていることになるので迂闊なことはできない。もちろん、二人とも多分に工作員ではないだろうと踏んでいるが、確実性をとらねばならないのがシュレーダーの立場である。
 「で、大体まとまってきたわね?」
 「はい。やはり北東の遺跡がどうやら奪った連中の根拠地のようです」
 メルヴィン達の探った北の遺跡はクロイツェフ達の見つけた街道の東方面と交差する。概ねそこら辺に数百人が集まって集団を形成しているらしい。やや気になるのはクロイツェフ達の道路を西に行くと有沢達のいう独立部族につながっている点だ。幸い、今の所そっちに動きはない。
 「この遺跡が根城の様ね。捜索して首根っこを押さえるわよ」
 「遺跡ですから出口がいくつかあるようです」
 「多方向同時突入になるかしら。怪しい奴らはふん縛るのよ」
 「解りました。いつまでも戦車なしで機甲科なんて嫌ですから!何としても部品を奪回しましょう!」
 巨乳二人は揃って気勢を挙げた。