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世界を滅ぼす方法(第4回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第4回/全6回)

リアクション

 
 
 結局、目撃情報を辿った末に、空京ではなく一向はヒラニプラに到着した。

 事前に、
「プロの画家をもうならせる、美術スキル17のワタシの才能を見せてあげるネ!」
と言いながら、アナテースの似顔絵と、ハルカ祖父が連れているサルファという女性の似顔絵も作成して、でき上がった看板は、何だか賑やかな状態になっていた。

「お待ちかねの出番ヨ!! 行くネアリシア!!」
 ズシャア! と満を持して登場したレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)は、その手に看板を持ち、パートナーのアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)をバイクの後部座席に座らせると、看板を抱えさせ、いつものサンドイッチマン状態にしてバイクにまたがるなり、
「ハルカ! 朗報を待ってるネ!!」
と言い残し、まるで嵐のような怒涛の勢いで、ヒラニプラの町並に消えて行ってしまった。
「いってらっしゃいです」
と、ハルカが言ったのは、完全にその姿が見えなくなってからだった。
 そしてその3分後に、五条武の携帯に電話が掛かってきた。
「アリシアから?」
「忘れ物です?」
 連絡を受けて、驚く。
「飛空艇が、ヒラニプラ郊外で墜落してるらしい……」
「ええッ!!」

 教導団生徒に連絡を頼んでいたのに、と武は憮然としていたが、どうやら後で知ったところによると、あの2人の生徒は、戻ってきてすぐ、次の任務に行ってしまったらしかった。
 とにかく行ってみようという話になり、樹月刀真はパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を振り返った。
「ハルカ、くれぐれも勝手にいなくなってはダメですよ?」
「え」
 ぽかん、と刀真を見る月夜と目が合う。
 無言。
「…………ハルカは?」
「今……ここに……?」
「え!? ちょっ……あのう、ひょっとして…………」
 メイベルが青くなる。
 野々が、そんな馬鹿な……と呟いた。
 だって今そこにいたのに……。
 ぱ、と翔一朗が靴の紐を確認した。
 シャツのボタン、パンツのゴム、何となく頭。全て何ともない。
「少なくとも、まだ危険な目にはあってねえな……」
「………………あの子一体…………!!」
 慌てるより先に、酷い頭痛に見舞われた一行である。


「あれっ。皆どこ行っちゃったです?」
 きょろきょろと辺りを見渡して、ハルカは首を傾げた。
「皆で迷子です?」
 捜さないとです、と、言っている間も、ずんずん進む歩みは一度も止まっていない。
「ねえ、君!」
 腕を掴まれて、ハルカは立ち止まった。
「はい?」
「そっち、行かない方がいいよ! 何かね、変な人達が集まってる」
 ハルカを止めた、陽神 光(ひのかみ・ひかる)は、人差し指を口元で立てて、静かに、と言って、行こう、と促す。
「ここは、人通りも少ない裏路地で物騒ですから、表の方に行きましょう」
 光のパートナー、レティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)が、2人を促した。
 さっきまで大通りを歩いていたはずなのに、何故かここは狭い裏路地だった。

「何かね、郊外に飛空艇が墜落してるんだけど、それを盗もうとしてる人達がいるみたい」
 光は大通りに出てからも、やや声をひそめるようにして言った。
「実は私も道に迷っちゃって、それでさっきの奴等の話を聞いちゃったんだけどね!」
 てへっ、と肩を竦める光に、
「でもハルカ迷子じゃないですよ?」
とハルカは首を傾げる。
「光、あまり危ないことに首を突っ込まないでくださいね……」
 不安そうなレティナに、そんなんじゃないってば。と、光は言った。

「チャンスだぜェ!!
 今迄俺達は、パラ実カツアゲ部隊とか今いちかっこよくない呼ばれ方をしていたが!
 郊外に墜落して教導団の持ち物でもないから警備は手薄だ。あの飛空艇を盗めば、かっこよく『空賊』のデビューだぜ!」
とか言っていたらしい。
「でも飛空艇なんて誰も操縦できないぜ?」
「じゃあ操縦できる奴もついでに盗むか!」
とかも言っていたという。

「まあそんなことより、君、帰らなくていいの?」
「…………皆迷子になっちゃってるのです」
 あらあら、と、レティナは微笑えむ。
「じゃあ光、私達もこの子のお仲間さんを捜してあげましょうか」
 光もくすくす笑った。
「そだね」


 感無量。
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は、パートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)と共に、墜落している飛空艇まで辿り着いた。
「よかった、キャプテンハーレック号、無事だったんですね……!」
「墜落したって言うちょったけど、殆ど無傷じゃね」
 シルヴェスターが言った時、入り口が開いて、中から教導団生徒が出てきた。
「ん? 誰だ?」
「あ……えーと、あの、この飛空艇ってどうなったんです?」
 ガートルードは野次馬を装って訊ねる。
「ん? ああ、これか。
 つい先日、正体不明飛空艇が……ってこの船なんだが、教導団領空に向かってきたんだが」

 謎の飛空艇が低空飛行でフラフラと教導団領空に向かって来る、というので、拡声機を用いて声をかけてみたものの、何の返答もなく更に進んで来るから、威嚇射撃をしたところ、バランスを崩して郊外に墜落した、というのが経緯らしい。
「威嚇射撃だから当てるつもりはなかったのに、何だか向こうから当たりに来た挙句バランスを崩して落下したらしい。
 まあ、当たっても船体に影響を与えてはいないが」
「爺さんが乗ってたはずじゃけど」
「え、知ってるのか? ああ、乗っていたが
『やはり操縦できもしないのに、やってみるものじゃないのう』
とか言って、このまま乗り捨てて何処かに行ってしまったよ。
 一応、今は拾得物扱い、ってことになっているんだが……」
 自分は、一応調査を任されている者で、普通の飛空艇ではないみたいなので調べに来たのだと、自己紹介の言葉を聞きながらガートルード達は顔を見合わせた。
「この船、燃料は何で動いているんですか?」
「ああ、この船、機晶石で動くんじゃないみたい……って、ひょっとしてこの船、君達の物なのか?」
 随分物知りだけど、という教導団生徒に、実はそうです、と言いかけて、シルヴェスターに口を押さえられる。
(なっ、何で!)
(今そげなこと言って、ほいじゃあ引き取れ言われても動かせないけえ。
 ここは様子見た方がええし!)
 言われて、渋々頷く。
 どうせ、暫く飛空艇はここから動かせはしないだろう。
 あの老人が乗り捨てたのなら、もう逃げては行かないのだから。
「ちなみに、乗ってた老人は何処へ行ったんですか?」
 ガートルードが訊ねると、さあ、と、教導団生徒は首を横に振った。
「空京南部の空峡を渡る方法は何か無いかと訊かれたよ。
 自分は知らないが、空京になら”渡し”とかがあると聞くが、って言ったらそのまま行ってしまったが」
 お邪魔しました、と立ち去ろうとするガートルードを、そうそう、と教導団生徒は呼び止めた。

「燃料だが。
 本来機晶石をセットするところに、古代文字が刻まれていて。”汲めども尽きぬ光を”って書いてあるらしい」


「……本当に墜落してるとか、全くあのじいさんは……」
 ゲー・オルコット(げー・おるこっと)は、あのじいさんのことだからもしや、とか思っていたら、本当に予想を違えないでくれるハルカ祖父に失笑する。
 パートナーの藤波 竜乃(ふじなみ・たつの)
「もーいい加減帰ろうよー」
とブチブチ言っていて、ヒラニプラにハルカ達が到着したと知るや、
「それがしはあっちに行ってハルカ達と一緒に待ってるから!」
と言って、さっさと行ってしまった。
 なのでゲーは、1人ヒラニプラ鉄道の駅を張っている。
「飛空艇がダメなら、鉄道を使うと思うんだが…………ん?」
 はっとした。
 向かいのホーム、窓いっぱいに弁当が積み上げられていて、中がよく見えないが……辛うじて見える部分が何となく――
「まずは確かめ……」
と、歩き出した時、その列車は動き出してしまった。
 だが、走り出したことで一瞬、少し角度が斜めになり、乗っている人の顔がちらりと見える。
「やっぱり!」
 似顔絵のままの老人だった。
「くっそう、あっちのホームだったか!」
 目立たず、人目につかないよう、慎重に動いていたのが失敗だったか。
 空京に向けて出発する列車は、次第にスピードを上げて行ってしまった。
 ちなみに竜乃は、ハルカ達と合流してみれば、ハルカは迷子になったとかでいなく、
「折角一緒に遊んだりお喋りしたかったのに……」
と、こっちでもブチブチ言う羽目になっていたのだった。


 ヒラニプラの町を走り始めてすぐ、おーいと呼び止められた。
「その似顔絵のじいさんなら見かけたぜ」
「本当ですか!」
「ワーオ! やったネ!」
 レベッカとアリシアはぱちんと手を合わせる。
 サンドイッチマンをやらされてから、初めての情報提供者に、ああ、この瞬間、私は報われました……と、大感動のアリシアは、更に
「そういえば知ってるか? 郊外で飛空艇が墜落したらしいぜ」
 なんて噂話まで聞けてしまって、幸先が良過ぎる。
 とりあえずハルカ祖父のことは目撃情報だけなので、飛空艇の件だけ連絡し、続けて探し続ければ、何とそれから、のべ24回も呼び止められてしまった。
 情報を総合すると、どうも、興味津々であちこちフラフラしては、同行の女性にひっ捕まえられて諌められていた、みたいな感じらしいが。
「馬車以外で空京へ行く方法を聞かれたんで、空京に行くならやっぱり鉄道じゃない? って言ったんだけど。まあ料金は高いけど、馬車じゃないならねえ」
 そこか! と、急いで駅に向かう。
 駅弁を大量に購入したという情報を得る。
 が、しかしそこまでだった。

「…………間に合わなかったヨ…………!」
「……仕方ありませんわ。
 目撃情報多すぎて、追いかけるのに時間がかかってしまいましたもの……」
 がっくりと両手両膝を地につけるレベッカを、アリシアはおろおろと慰める。
「ハルカに合わせる顔が無いヨ…………」
「あら、ハルカ」
 申し合わせたようなタイミングでアリシアが言って、がばっと顔を上げる。
 陽神光達と一緒に、町を歩いているハルカの姿を見付けて、
「ハルカ! どうしたネ!?」
と声を掛けると、あ、レベさん! とハルカが駆け寄って来た。
「皆が迷子になっちゃったでのす」
「ああ……」
 その一言で全てを理解したレベッカとアリシアだったが、レベッカはアリシアを見て、
「アリシアは後から追い着いてくるネ。
 ハルカ、一緒に帰るネ。バイクの後ろに乗せてあげるヨ」
とあっさりアリシアを見捨てた。
「ええっ……」
「じゃーネ」
「あっ、ひかるさんれてさんありがとうなのです!」
「いいえ、お仲間さんが見つかってよかったです」
 レティナがにこにこと手を振る。
 2人はバイクに乗って走り去り、あっという間に嵐が過ぎた後には、茫然とするアリシア達3人が残されたのだった。



「ハールーカー!!!!」
 がみがみがみ。
 がみがみがみ。
 がみがみがみ。
 ハルカの説教相手には、最も強面でガン飛ばすのも得意な翔一朗が選ばれたが、しゅんと素直に聞いているハルカにしかし果たしてどれだけの効果があるのかは謎だ。
「……ハルカ、私がちゃんと掴まえてなかったのが悪かった。ごめんなさい」
 漆髪月夜が、説教の終わったハルカにしょぼんとして謝る。
 うーん、怒った後で謝ってしまったりするのが、結局拙いような気もする、と、樹月刀真は思ったが、月夜は責任を感じて随分落ち込んでいたので、あれを責めるのも可哀想だろう。
「皆見つかったからいいのです。もう迷子になっちゃダメですよ?」
「……ハルカ解ってないでしょう」
 やっぱりもう1回怒ろうか。何だかこめかみの辺りが痛む刀真だった。