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世界を滅ぼす方法(第4回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第4回/全6回)

リアクション

 
 
「…………アズライア………………」

 コハクは愕然と目を見開いた。
 それは信じられない光景だった。
 アズライアは、コハク達を何の感慨も動揺もない表情で見据えた。
「……待っていた、コハク。
 必ずお前は、ここに来ると」
「アズライア!」
「お前に預けたものを、返して貰う。持っているだろう」
 ”光珠”を渡せ、と。
 蒼白とし、動揺して言葉も出ないコハクの肩を、背後からぽんと鈴木周が叩いた。
 そのまま、肩を引っ張るようにして自分が進み出る。
「コハクに聞いてた通りの美人のおねーさんだな!」
「しっ、周くん!?」
 パートナーのレミがぎょっとして叫ぶ。
 しかし周は構わなかった。
「あんたがアズライアだよな? ずっと前から愛してた! とりあえず俺とデートしようそうしよう!」
 愕然としながら茫然として、ぽかん、とコハクが周を見る。
 周囲の者達の目も、一瞬点になった。
 アズライアは、すっと目を細める。
「ぅおわっ!!」
 次の瞬間、突き出された戦槍の攻撃を、周は受け止めようとして失敗した。
「周くん!」
「周さん!!」
 鮮血を散らして倒れる周に蒼白として叫んだレミとコハクが駆け寄り、彼等とアズライアの間に、すかさず村雨 焔(むらさめ・ほむら)が立ち塞がる。
「てめっ……さん付けはよせっつったろ……」
 横腹を引き裂いた戦槍の傷の痛みに顔を歪めながらも、周はコハクの呼び方に突っ込みを入れる。
「ばかばかばかっ! 何やってんのよ、もう!」
 致命傷ではないことに安心して涙ぐんだレミは、治療より先にぽかぽかと周の頭を殴った。


「コハク」
 呼ばれて、びくりとコハクは顔を上げた。アズライアがじっとコハクを見据えている。
「ちょっと待てよ! 教えろよ!
 何で、一度コハクに預けた”光珠”を今更渡せなんて言うんだ!」
 黙っていられない。
 思わず緋桜ケイが叫ぶが、アズライアは僅かに目を薄めるだけで、答えようとしなかった。
 ケイがアズライアに問いを向ける間、先刻アズライアが周に突然攻撃したことを警戒して、悠久ノカナタは、奇襲があった場合にすぐさま反応できるよう、じっとアズライアの動きを注視する。
「コハクは、ずっとあんたの為に”光珠”を護って、ずっとあんたを心配してたんだぜ! 
 この死体! あんたがやったのかよ!」
「そうだ」
 アズライアはあっさり認めた。
 そうであるかもしれない。そう覚悟した問いだったが、それでもケイは衝撃を受けた。
 信じられなかった。本当にあの彼女が、コハクがずっと捜していたアズライアなのかと疑問すら浮かんだが、コハクの表情を見て、間違いはないのだと感じる。
 コハクが、アズライアを間違えるわけはないと思うからだ。
 何か事情があるのかもしれない。
 けれど現時点で、彼女が危険人物であることに、変わりはなかった。
 悔しくて、ぐっとケイは奥歯を噛み締める。
「説明しろ! コハクに! 一体、何考えてるんだ!」
 それは絶叫に近かった。
 けれど、アズライアの表情は動かず、その口から語られる言葉もない。
「コハク」
 ただ一言だけ、厳しい口調でコハクを呼び、コハクはびくりと震えた。


「コハク」
 ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)がぎゅっとコハクの腕を掴んだ。
「コハクは、どうしたいの?
 アズライアの言うことを聞いて、渡しちゃう?」
 その選択は、コハクのものだ。
 ティアの言葉にコハクは震えた。
「僕は……」

「ちょっと待て。それを決めるのは今じゃねえ」
 コハクの言葉を、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が止めた。
 そうそう、と、清泉北都が頷く。
「コハクの返事を聞くのは、アズライアの真意を確かめた後、だよねえ」
 今の状態のアズライアに答えることに意味はないよ、と、北都は言った。
「そういう訳だから、ちょっと下がって待ってろ、コハク。大人しくしてろよ」
 コハクの前に、庇うように、隠すように立つラルクに、
「防衛戦というわけですね」
 と、パートナーのオウガ・クローディス(おうが・くろーでぃす)が頷いた。

「諦めちゃ、ダメだよ、コハク」
 背後からそっと囁いたのは、夢語 こだま(ゆめがたり・こだま)だ。
 蒼白としたまま、こだまを振り返るコハクを、力づけようと微笑む。
「あの人には何か考えがあるに違いないよ。
 どんなに苦しくても、希望を捨てたら絶対にダメだ。
 だって、奇跡は、起きるんだから」
 奇跡というのは、それが存在するからこそ、その名があり、信じられている。
 それをこだまは知っていた。


 無い、と、心の中で呟いて、風森 巽(かぜもり・たつみ)は目を眇めた。
 あるかもしれないと思っていた銀色の腕輪は、『ミズ』にはあったが、アズライアの腕には無かった。
「予測は外れましたか……まあいいです。
 それなら別に想定していた行動をとるまで」
 裏切ったのだとはどうしても考えられない。
 洗脳ならば、それを制御しているものが何かあるのではないかと思った。
 違うなら、何か事情があるのか。
 いずれにしろ、コハクに初めて会った空京で、彼に、助けになると誓った。
 自分は、あの誓いを果たすまでだ。
「タツミ!」
 パートナーのティアが、抱えていた、銀色のヒーロー仮面を投げ渡す。
 がぽっとフェイスヘルメットの仮面を頭から被り、赤いマフラーをなびかせて、がし! とポーズを決めた。
「変身! 蒼い空からやってきて、願いと想いを護る者。
 仮面ツァンダーソークー1!」

 巽の変身に先んじて、コハクと周の前、アズライアに最も近い位置に立っていた焔が攻撃を仕掛けた。
 言葉での説得なら、別の仲間達がやってくれると思う。
 だが自分がアズライアの真意を確かめる術は、これしかないと焔は思った。
 2人は殆ど同時に動いたが、アズライアの戦意を確認してから反応した焔の方が、僅かに遅い。
 刀を抜いた焔は手加減せずに、全力でアズライアの攻撃に対抗した。
 アズライアは、優雅とも言える動きで戦槍を操り、迷い無い一撃を焔に繰り出す。
「………………」
 一撃一撃が、酷く重い。
 パートナーのアリシア・ノース(ありしあ・のーす)に、パワーブレスによる援護を受けていたものの、立て続けの攻撃を全て受けきれず、焔の刀は弾き飛ばされた。
「きゃああ焔――! 私の焔に何するの!!」
 アリシアが慌てるが、焔は次の攻撃を予測していたように大きく飛び退いてアズライアの攻撃範囲から逃れ、そして、再び彼女と戦おうとしなかった。
 もう、目的は果たしたからだ。
 近づかない焔を少しの間、見やり、戦意が無いと悟ると、すぐにアズライアは焔への関心を無くしたらしく、再びコハクへ向かった。
「焔!」
 走り寄ったアリシアに、
「大丈夫だ」
と答える。
「もういいの? 何がどうしたの?」
「彼女の真意を確かめる為の攻撃だったが……もういい」
 焔の言葉に、アリシアは、
「何で?」
と訊ねる。
「真意は解らないが……想いは解ったからだ」
 何を考えて、アズライアがコハクと敵対したのかは、まだ解らない。
 それを問い、説得するのは自分の役目ではない。
 だが、アズライアの揺るぎ無い瞳の中に、焔は、彼女の覚悟を感じた。
 何の覚悟なのかは解らない。
 だがアズライアは、最初から全て、何らかの覚悟の上で、コハクに対峙しているのだ、と。
「……俺は見届けるしかない」
 誰によって説得をされるのか、それともされないのか、それを最後まで。


「うう……酷いよ、どうしてアズライアさんが……
 こんなのってないよ……」
 ぐずぐずと泣きそうになりながら、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は巨石の上に立ち、周囲を見渡していた。
 気配を探り、魔法的な力を感知できないか、できるとしたらそれは何なのか、そして、もしかしたら、まだ生きている人はいないかと。
「……えっ!?」
 倒れている死体が動いたような気がした。
 いや、気のせいじゃない、生きてる! ファルは一瞬喜んだが、すぐに違うと解った。
 他の死体も、次々と身を起こし、ゆらゆらとコハク達、『ミズ』に対峙する者達に向かって歩き出す。
「…………そんなあ…………」
 もう本当に泣きそうになって、
「コユキぃ〜」
と、ファルは届かないと解っているのに、パートナーの名を呼ばずにはいられなかった。


「コハク、危ないっ!」
 見付けたのと、言うのと、手が同時に出た。
 避けたり身構えたりする余裕を取る暇がなかったのは申し訳なかったと思いつつ、一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)はコハクの背後のゾンビに向けて銃を撃っていた。
「うわっ……」
「大丈夫?」
 身を竦めるコハクに、歩み寄って確認すると
「う、うん、ありがとう……」
と返事が返ってきてほっとする。
「とりあえず、ゾンビの群れとか、冗談でしょって感じよね。
 まあいいわ、頑張るわよ」
 月実はぶつぶつ呟いて、ハンドガンより鎌を使おうかしら、弾勿体無いし、と、撃ったゾンビが起き上がって来るのを見て思った。


「くっ! ゾンビなどに阻まれるとは……!」
 仮面ツァンダーソークー1は、アズライアに向かうより先にゾンビの群れに阻まれた。
 だが、状況はアズライアの方も同じだったようで、次々立ち上がるゾンビの1人を薙ぎ払ったアズライアは、『ミズ』を振り返って睨みつける。
「……あら、ごめんなさい。
 でも、そんなに細かくコントロールとか無理よ」
『ミズ』は悪びれもなく言う。
 それはそうだ、と2人のやりとりを聞いてソークー1は呆れながら思った。
 こういう無差別攻撃の類は普通、味方の居ない敵陣地などでやるものだ。
「それはともかく、これではアズライアに近づけない……!」
 コハクの様子を窺えば、パートナーのティア達が、コハクを囲むように護っている。
 あちらは大丈夫そうだ。そう判断して、ソークー1はとりあえず目先のゾンビに攻撃を叩き付けた。


 次々と沸いて出る勢いのゾンビ達に、とりあえずオウガ・クローディスはアシュリーナ・セントリスト(あしゅりーな・せんとりすと)達周囲の仲間達にディフェンスシフトを敷いた。
「有り得ねえだろ、何だこりゃあ!」
 ラルク・クローディスが吐き捨てる。
 倒しても、起き上がってくる。
 上下2つ斬り捨てても、下半分は起き上がって歩いて来るし、上半分はずるずると這ってくる。
 ゾンビと呼んではいてもこのゾンビ達が、出来て間も無い死体であることが、一層やりきれない。
「コハク、とりあえずこっちに!」
 上空に逃れるのが一番手っ取り早い。
 そう判断した時枝 みこと(ときえだ・みこと)は、飛べないコハクを小型飛空艇に引き上げる。
「でもそれって、護りが手薄になるわよね」
 真下から、声が聞こえた。
 はっとする間もなく、巨石群の陰から死角に飛び出してきた箒に小型飛空艇がひっくり返され、みこととコハクはゾンビの群れの中に落下する。
 ぼすん、とみことはオウガに受け止められた。
「あ、ありがと」
「なんの」
 びっくりしたあ、と、はあ、と息をついてみことはオウガに礼を言い、オウガはみことを地に降ろす。
 コハクの心臓を狙った一撃は、寸前で女王の加護を受けたみことに察知され、躱されたのだが、逆にそれが、飛空艇をひっくり返される要因となったのだ。
「油断大敵よ!」
「いいや、待ち受けてたぜ!」
 オウガがみことを受け止めた一方で、コハクをラルクが受け止めた。
 受け止めながらラルクはそう叫んで、メニエス・レイン(めにえす・れいん)に向けて発砲した。
 ストーンサークルという舞台で死角だらけ、更にゾンビの群れの襲撃という泥沼状態に、いつつけ込まれてもおかしくはない状況だった。
 ゾンビの群れは面倒な敵だが、紛れるのにこれ以上最適な壁もない。
 ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)を残して、ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)と共にメニエスはコハク達を強襲した。
「そうは、させません!」
 敵の襲撃に備えて、趙雲 子竜(ちょううん・しりゅう)と共に巨石の1つに隠れ身を使って身を潜めていた橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、メニエス達の背後を狙って飛び出す。
 だが、敵陣に飛び込むメニエスの援護の為に、スナイパーライフルを構え、ひっそりと、数ある巨石のひとつの上に、光学迷彩をまとって待機していた桐生 円(きりゅう・まどか)の放った銃弾が、恭司の腕を貫いた。
「うっ!」
 メニエスに向かってバーストダッシュを仕掛けていた為か、その銃弾は恭司の体ではなく、狙いを外して腕を貫いただけで済んだのだが、恭司は突然の激痛に蹲った。
「あれ、外してしまった」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)の耳に、円の残念そうな、さして残念でもなさそうな呟きが届く。
「くすくす、まあいいや。これはこれで楽しいしね」
 1人そう呟いて、円は再びスナイパーライフルのスコープを覗いた。
「恭司!」
 驚いて、オウガのディフェンスシフトの効果外に走り出して恭司に駆け寄るクレア・アルバート(くれあ・あるばーと)に、円は続けて発砲する。
「ひっ!」
 銃弾が肩を貫き、肩を押さえて蹲ったクレアに、ミストラルとメニエスが、とどめを刺そうと走り寄った。
「おっと、そうはさせねえ!」
 コハクを置いたラルクがその前に飛び込む。
「……くっ!」
 突然目の前に飛び込んできたラルクに、咄嗟にミストラルはカタールを叩き付けたが、メニエスの咄嗟は、コハクの方へ動いた。
 ラルクがコハクからミストラルに注意を向け、他の連中がコハクに注意を向ける一瞬前の隙を狙ったのだ。
「貰ったわ!」
「うわっ……!」
 ぎょっとしたコハクは、握りしめていたものを、メニエスに投げ付けた。
「!!?」
 まさか、コハクが何かをしてくるとは思わなかったメニエスは、予想外の行動に驚く。

 それは、小麦粉の入った袋だった。
 清泉北都が、武器攻撃よりもよほど有効であると言って、咄嗟の時に使うようにと持たせていたものだ。
「舐めた真似してくれるじゃない?」
「どっちが!」
 げほげほとむせたメニエスは、フレア・ミラア(ふれあ・みらあ)から受け取った光条兵器を手に走り寄るみことに気付いて、すかさず箒で上空に逃れた。
 直接攻撃戦では、ミストラルは腕力でラルクに敵わず、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)の援護を受けて場を逃れる。
 ラルクが眉間を寄せて、メニエスを睨みつけた。
「てめえ、光珠が目当てじゃねえな!」
 最初の一撃目も、今のコハクへの攻撃も、メニエスは光珠ではなく、コハクの急所を狙っていた。
「いつまでも、壊れたロボットみたいに同じことを考えてると思ったら大間違いよ!」
 メニエスは笑いながらそう言うと、
「ミストラル、引くわよ!」
 と叫ぶ。
 クナイ・アヤシのヒール治療を受けて回復した恭司とクレアが、狙撃された方角を見定め、円の方に向かおうと、小型飛空艇に飛び乗ろうとしていた。
 潮時だ。
 これ以上留まり続けてもいいことはないだろう。
「はい」
 と、ミストラルも箒にまたがる。
「待て!」
 恭司が叫んだが、げし、とメニエスが蹴り飛ばしたゾンビが恭司の小型飛空艇に倒れ込んできてスタートが遅れ、オリヴィアを拾ったメニエス達の逃げ足は速かった。
「……くっ! 悪知恵ばかり働かせますね」
 恭司は悔しそうに呟く。
「それより、よくやったコハク!
 お前があんな真似するとは思わなかったぜ!」
 正直、全く役に立たないか、むしろ邪魔になるだけかと思っていたコハクが、メニエスに小麦粉を投げ付けたのが小気味良かった。
 べしべしとラルクがコハクの頭を叩く向こうで、オウガがゾンビをちぎっては投げまくっている。
 状況は、まだ殆ど何も変わっていないのだ。
 コハクもはっとして、アズライアの方を見た。