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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第3回/全5回)

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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第3回/全5回)

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●お前は一体誰なんだ!?

 キメラによる研究所襲撃が始まる少し前、冒険者の輪から外れ、研究所内を調べて回る一つの影があった。
(殆どが破壊されてるか、手がつけられてる場所だけど……でも、きっとまだ何か、手がかりがあるかもしれない。それに、ボクを殺そうとした男……あれで終わりじゃないと思う。きっとまだ、何か企み事をしているんだ)
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、おかしいところ何一つ見逃すまいと意識を集中させながら、部屋をくまなく調べていく。
(人と生物の合成……とても許されるものじゃない。……だけど、一体何の理由で、そんなことをしようとしているの? ……まさか、それを使って世界征服とか、そんなつまんない理由じゃないよね?)
 思いながらカレンが、ある部屋へと足を踏み入れる。何の変哲もない部屋のように見えたカレンはしかし、その部屋が他の部屋に比べて片付いているように見えたのが気になった。
(? もう少し、中に入ってみようかな……)
 カレンが部屋の中ほどまで進んだ時、携帯が着信を知らせる。相手はジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)であった。
「もしもし、ジュレ? ……えっ、キメラが!? ……ゴメン、今ちょっと気になる場所を見つけて……うん、分かってる、だけど――」
 瞬間、開け放った扉が勢いよく閉められる。驚いて携帯を取り落としたカレンに、人影のようなものが覆い被さった。

「……カレン? 聞こえているか? 返事をするのだ、カレン」
 先程まで会話をしていたはずのカレンの声が聞こえてこないのを、ジュレールが不審に思う。
(……カレンと連絡がついたのは、調査時間と区画の広さを考慮して……あの辺りか? ……済まぬ、カレンに再びもしものことがあれば、我は――)
 携帯を仕舞い、ジュレールが目星のついた場所へと足を向ける。
(ん? あれは……何をしているのだ? もうそこまでキメラが迫っているというのに)
 ジュレールが通路を横切るのを、研究所内の把握と監視を兼ねて歩き回っていた夜薙 綾香(やなぎ・あやか)が見咎める。
「待て! どこに行くつもりだ!」
 ジュレールが消えた通路に駆け寄り、綾香が声をあげる。しかし声をかけられてもなお、ジュレールは振り向きもせず一心に歩みを進めていく。
(こんな時に間の悪い……! ディルに連絡するのが常套だが、今の状況下ではかえって混乱を招きかねん。都合よく誰か話を聞いてくれる者が通りかかってくれれば――)
 綾香の願いが天に通じたかはたまた、振り向いた通路の先から、志位 大地(しい・だいち)シーラ・カンス(しーら・かんす)が並んで歩いてくるのが、綾香の視界に映った。
「済まないが、私の話を聞いてくれないか?」

「誰かと思えば、見覚えのある顔だな。……好奇心旺盛なようだが、それが時に命取りになることは、知らぬわけではなかろう?」
 殆ど光の差し込まない部屋の中に、若い男の声が響く。その男に組み敷かれ、拳銃を突きつけられたとあっては、カレンも大人しくせざるを得なかった。
「ここに来てからというもの、お前とその仲間には計画を邪魔されっぱなしだ。この計画が順調に進んだなら、俺の寺院での地位も約束されるというものを――おっと、余計な話をしてしまったな。……まあ、どのみちお前をここから帰すつもりはないがな」
「……寺院!? ということはやっぱり君、鏖殺寺院の!?」
「そうだ。お前らが『シャンバラ王国の再建』などという下らぬ事に精を出してからというもの、アズール様はお忙しくしておられる。俺は少しでもアズール様の力になりたくて、この研究所を利用した。それまでは生真面目に、生物の生態について研究していたようだが、キメラの研究をさせてやると言ったら簡単に付いてきた。その後、俺たちに協力するという者も見つかり、あと少しで人と生物の合成獣の量産、そして運用が可能になるはずだった。……それを、お前たちが滅茶苦茶にしてくれたよ。証拠は消さねばアズール様のお手を煩わせることになる。だから俺はここの所長と協力者を始末した」
「……なら、どうして君は、二度もここに戻ってきたの?」
 カレンの問いに、男は息をついて、そして答える。
「……どのみち、寺院は計画に失敗した者を放ってはおかないだろう。成果を持って帰らない限り、俺に明日はない。幸い、合成獣の量産と運用の目処は、元研究員の手によって確立されたようだ。後はその技術を持ち帰ればいいだけだからな」
「! そんなことは、させないよ!」
「フン、この状況でどうするというのだ? 今にもキメラがここを襲おうとしている中、誰がお前を助けに――」

「カレン!」

 男の声を遮り、扉を開け放ってジュレールが、武器を構える。
「……なるほど、お前たちには不思議な縁というものがあるようだな。非常に興味深い。是非とも機会ある時には研究させてもらいたいところだ」
 差し込んだ光に照らされた男の表情は、笑顔に歪んでいた。
「さあ、来い! お前には役に立ってもらうぞ」
「止めろ、カレンを放せ!」
 ジュレールの叫びを無視して、男がカレンに銃口を向けたまま、廊下に出る。
「もうすぐキメラがここにもやって来るだろう。そうすれば俺を追うことは難しくなる。……安心しろ、この娘は解放してやる。無事にお前のところに戻ってこれるかは保障しないがな――」

「そう簡単に逃げられると思ったか?」

 声が廊下に響くのと、綾香が背後から男の首筋に匕首を当てるのはほぼ同時のことであった。
「……何だと?」
 ここで初めて、男の表情に動揺の色が浮かぶ。
「彼女を解放しろ。でなければ、貴様の無事は保障しないぞ。……もっとも、これだけのことをしでかしたのだ、易々と逃がすつもりもないがな」
 次の瞬間、ジュレールの背後で退路を断つように、綾香に連れてこられた大地とシーラが佇む。男にとっては文字通りの『前門の虎、後門の狼』。危機が一転好機へと引っ繰り返る。
「…………」
 男が銃口を離し、カレンを解放する。糸が切れたようにその場に崩れるカレンを、ジュレールが介抱する。
「さあ、こちらへ来てもらおうか。貴様の知っていることを洗い浚い話してもらうぞ」
 綾香の言葉に、男は怯えるでもなくただ微笑む。
「俺がここで知り得たことは全て、奴が知ってるだろう。そして俺が知っていることは――俺だけの秘密だ」
 男が踵を振り上げ、綾香に蹴りを見舞う。離れる際に匕首が首筋を滑り、紅い液体が流れ出していく。
 大地が駆け寄るその目の前で、男が懐から四角い箱を取り出し、部屋へ飛び込む――。

『すまぬ、情報収集に手間取っておる、もう少しかかりそうじゃ。……それと、既にキメラが研究所内に侵入しておるようじゃ。そちらにも向かってくるかもしれん、今更言うことでもないじゃろうが、気をつけるのじゃぞ」
「うん、分かってる。……ゴメンね、私のワガママに付き合わせちゃって」
『栗の決めたことじゃ。私はそれを止めることなぞ出来ぬ。……無事に、戻ってくるのじゃぞ』
 羽入 綾香(はにゅう・あやか)からの通信を切り、鷹野 栗(たかの・まろん)が前方を見据える。
(これ以上、人とキメラを争わせたくない……! 人もキメラも、きっと分かり合えるはずだから)
 瞬間、自らの背後で爆発が起き、栗が慌てて振り返る。
(爆発!? それも中からなんて、一体何が――)
 栗の思考は、響く咆哮に遮られる。視線を元に戻したその先に、爆発を聞きつけたのか数匹のキメラが駆け寄ってくるのが映り込む。
「お願い、止まって!」
 栗の叫びは、いきり立ったキメラには届かない。栗を射程に捉えたキメラが、背中の山羊の頭から火弾を発射する。
「っ……! お願い、話を聞いて! 私たち、一緒に歩くことは、できないの?」
 火弾を盾で防ぎながら、なおも栗が呼びかける。しかし、それでもキメラの足は止まらない。一体のキメラの体当たりを受けて、栗の身体が宙を舞う。
(……ダメなの? 私の言葉は、もう届かないの?)
 かろうじて身体を起こす栗に、別のキメラが迫る。振り上げられた爪が栗の身体を引き裂く直前、栗とキメラの間に影が割り込む――。

「爆発だと!? くっ、せっかくの研究所復興が遅れてしまうではないか!」
 研究所の外で、入口を背にして防壁を張り、正面からキメラの群れと対峙していた一行の中で、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が声をあげる。
「イレブン、今の爆発で何匹かがその方角に向かってるよ! もし建物に穴でも開いてたりしたら、そこから中に入られちゃうよ!」
 カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)の発言に、イレブンが僅かな思案の後に口を開く。
「そちらの進軍も阻止する必要があるか……カッティ、回り込んだキメラを追うぞ」
「イヤッホー、待ってましたー! さあさあ、突撃突撃ィー!」
 言うが早いか駆け出すカッティと入れ替わるように、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)フィーネ・ヴァンスレー(ふぃーね・う゛ぁんすれー)が姿を現す。
「俺たちも行くぜ、イレブン。俺たちにも、研究所を護る手伝いをさせてくれ」
「あたしでよければ、力を貸そう」
「助かる! では行くぞ!」
 イレブン、レイディス、フィーネが先行したカッティの後を追って駆け出す。少しもしない内に、地面には爆発の衝撃で飛び散ったと思しき壁の破片が転がり、そして何かが焦げたような臭いが鼻を突く。
「あそこが爆発の場所か……む、あれは何だ?」
 イレブンが指差す先、二匹の虎の頭をしたキメラが、数匹のキメラと真っ向から向き合っていた。彼らの目には、二匹のキメラが背後に倒れる少女を護っているかのように映った。
「キメラが、キメラと戦っている? 一体どういうことだ?」
「お、俺に聞かれても、こっちが聞きたいよ。二匹のキメラが、研究所を襲ってきたキメラと違うってくらいしか分かんないよ」
「カッティ、どういうことか分かったか?」
「ううん、あたしが来た時にはもうああなってたから。……とりあえず、ライオン頭してるキメラを殴ればいいんだよね?」
 カッティがメイスを構え、飛び込む姿勢を見せる。
「この状況下ではそうする他あるまい。二匹のキメラへの接触は私に任せてくれ。他にも爆発を聞きつけて仲間がやってくるはずだ、無茶はするなよ」
「オッケー! あたしが回復しに行くまで、あの子を護ってあげててよね!」
「近付くまでが一苦労だろうけど、了解、やってみるよ。フィーネ、背中は預けるよ」
「言われずともその背中、護り抜いてみせるさ。早く勘を取り戻さなくてはな」
 イレブンの指示に、カッティ、レイディスにフィーネが頷く。
「……行くぞ!」
 その言葉で駆け出す四人、一匹のキメラが新たな敵の接近に気付き、背中から火弾を発射する。
「炎なんて怖くない! 炎はあたしの、友達だからねっ!」
 次々と放たれる炎の雨の中を、カッティが一直線に駆けていく。下手に迂回するより強引に突っ切る、らしいと言えばらしい行動であったが、その行動のおかげか、ライオン頭のキメラの注意が全てカッティたちに向いた。
「お前たちは、私たちを助けてくれるのか?」
 その隙にイレブンが、虎頭のキメラに接触を図る。言葉による返答はもちろんないものの、威嚇したり襲ってきたりする様子は見られなかった。
「……協力、感謝する。しばらくの間、彼女を護ってやってくれ!」
 言ってイレブンが、爆発で穴の開いた地点から、中へ入り込む。

「爆発があったのは、ここか!?」
 足音が大きくなり、やがて本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、爆発の起きた場所に姿を現す。
「おい! 大丈夫か!?」
「く……ええ、大丈夫です。吹き飛ばされた時に背中を打っただけです」
 倒れていた志位 大地が、涼介の声に頭を振って起き上がる。
「ねえ、ここで一体何が起きたの?」
「それまでのことは私にはよく分からないのですが、若い男が箱を取り出して、部屋の中に入った途端爆発が起きて……」
 クレアの問いに、同じく起き上がったシーラ・カンスが応える。
「大丈夫ですか!? クレア、この人たちにヒールをお願い」
「あ、は、はい、分かりました」
 同じく駆けつけた安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が、負傷してうずくまる夜薙 綾香に癒しの力を使うようクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)に指示する。
「済まない、感謝する。詳しい事情は彼女が知っているはずなのだが――」
 そう言って彼女が、動かぬカレン・クレスティア、そしてカレンを抱きしめるジュレール・リーヴェンディを見遣る。
「まさか……その……」
「いや、気を失っているだけだ。しばらくすれば目を覚ますはずだ」
 その言葉に、一瞬だけ安堵した空気が流れる。
「皆、大丈夫か!? すまないが、動ける者は手を貸してくれ! キメラの軍勢がこちらに迫りつつある。負傷者もいるようなんだ」
 しかし、爆発で空いた穴を伝って、外から中へ入ってきたイレブン・オーヴィルの言葉が、彼らに再び緊張の糸を張らせる。
「分かった。行くぞ、クレア」
「うん、任せて、おにいちゃん!」「えっ、わ、私ですか?」
 涼介の言葉に、何故か二つの声が重なる。
「ん? もしかして、二人とも名前が同じなのですか?」
「私はクレアだよ」
「私もクレアです。……えっと、よろしくお願いします」
「うん、こちらこそよろしくね!」
 二人の『クレア』が、意気投合したように笑顔を浮かべる。
「こんなこともあるものだな。んじゃ私も……本郷涼介だ、よろしく頼む」
「安芸宮和輝です、こちらこそ。……では、行きましょうか」
 互いに簡単な自己紹介を終え、四人が空いた穴から外へ飛び出す。外では複数のキメラが火弾を見舞い、わずかに抵抗を見せる冒険者が翻弄されているように見えた。
「皆さん、どうか怪我などなさらぬよう……!」
 クレアの祈りが、戦い勇む者たちに祝福の力を与え、より強力な一撃を、より俊敏な動作を可能にする。
「炎には氷……ってワケじゃないが、足止めには自信があるぞ? ……万物を司るマナよ、彼のものを凍てつかせよ! フリーズ・バレット!
 涼介のかざしたロッドが氷柱を生み出し、それはキメラへと放たれる。氷柱を身に受けたキメラは、体温を急激に下げられ身動きができなくなる。
「動きの止まった今を、見逃すわけにはいきません!」
 そのキメラを狙って、和輝が光り輝く大剣を真横に振り抜き、前足を二本とも切断する。悲鳴をあげて地面に倒れるキメラを、涼介の放った電撃と和輝の繰り出した突きが襲う。
「闇雲に撃ったって、当たってあげないよ!」
 自身に向かって飛び荒ぶ火弾を、しかしクレアが華麗に避ける。素早い身のこなしを維持したまま、振り上げた刀身に雷をまとわせ一気に振り抜く。斬撃と電撃のショックで身体を痙攣させたまま、キメラが地面に伏せ動かなくなる。
「すまない、こっちに負傷者がいる、手当てしてやってくれ」
 男の申し出を受けて、クレアが共に向かう。負傷者と思しき鷹野 栗と、それを護るように身構えるキメラに驚きつつ、クレアが治療を開始する。

 戦闘が開始されてから時が経ち、今や研究所の中で外で、絶えず爆発と衝撃が繰り返されていた。
「この辺りのキメラは、大体片付いたようだな。サイモン、状況はどうなっている?」
 使用していた杖を下ろし、比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)に尋ねる。
「研究所の中は大丈夫だ。ディルも無事らしい。今は外の方、爆発があったらしい場所で本格的な戦闘になっているようだな」
 サイモンの答えに、真紀が現在の位置を確認して返す。
「……ここからだと反対の位置になるな。一旦地上に降り、バイクを持ってくる他ないか」
「そういうことになるな……っと、ここから降りればちょうどそこがバイクを置いた場所のはずだ。俺が周囲を確認したから間違いない」
 言ってサイモンが、非常口と書かれた扉を押し開ける。……だが、戦闘の影響か階段が途中で消えていた。高さはちょうど二階建て程度であり、ドラゴンアーツを駆使すれば難なく降りられる高さなのだが、何故か真紀は乗り気でないように後ずさる。
「……ここを降りるのか? 他に場所が――」
「事態は一刻を争うんだろ? ……おまえが降下訓練苦手なのは前々から知ってるが、今はそんなこと言ってられないだろ」
「……ならば、自分を抱えて跳べ。そのくらいできるだろう?」
「はいはい、それでいいならそうしますよ、っと!」
 言うが早いか、サイモンが真紀を素早く抱きかかえ、非常口から真下に飛び降りる。ドラゴンアーツを使用した肉体は着地の衝撃をものともせず、飛ぶように二人がバイクの前まで到着する。
「ほらよ、おまえが軽くて助かったぜ」
「女に軽いだの重いだの言うな、馬鹿者! 行くぞ、遅れるなよ!」
「重いとか言ってないだろ、ったく……っておい、待てよ!」
 先に出発した真紀を追って、サイモンもバイクのエンジンを噴かす。

 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が指定した位置に、酸の霧が発生する。それに巻き込まれたキメラがその場にうずくまりながら、それでも反撃とばかりに山羊の口を開き、火弾を発射する準備にかかる。
「もう、誰も火傷になんかさせないよ!」
 間髪入れず、ミレイユが構えた杖から巨大な氷柱を発生させ、霧の発生している地点の上空へ飛ばす。氷柱はキメラの上空で無数の細かな氷の粒に砕け散り、まるで雨のように降り注ぐ。酸の雨にも似た現象に、キメラは火弾を発射することができず、酸によって身体を蝕まれていく。
「……シェイド、我にはミレイユが無理をしているように見えるのだが、その原因は――」
「ええ、おそらく私にあるでしょうね。私がミレイユをかばって火傷をしたのを、ひどく気にしているようです」
 シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)の背後に潜み、ミレイユの様子を窺っていたデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)の問いに、シェイドが正直に答える。
「パートナーが主を護るのはごく自然のことなのだがな……ミレイユが気にするのも、分からなくはないが」
「はい。ですから、私はもう、ミレイユに心配をかけるような真似は、絶対にいたしません……!」
 瞳に強い決意の色を浮かべて、シェイドが握った拳から電撃を発生させ、飛びかかって来たキメラに一撃を見舞う。
「やれやれ、二人とも……だが、そうであるからこそ、我が護るに相応しき者たちよ」
 膝射姿勢――ただ姿勢を低くしているようにしか見えないが――を取ったデューイが銃を構え、攻撃を仕掛けようとしているキメラ、うねうねと動く蛇の頭を狙って銃口を合わせ、引き金を引く。狙い澄まされた弾丸は違いなく蛇の頭を貫き、液体を迸らせてのた打ち回った後、だらりと垂れ下がる。
「……終わりだ、エネミー。我の前に立ち塞がったことを、悔いるがいい」
 さらに二発の弾丸を見舞ったデューイが、その動向を確認することなく立ち上がり、ミレイユとシェイドの様子を窺う。
「まだ……こんなことで、終われないよ!」
 魔法を行使し終えたミレイユが、明らかに疲労の色を浮かべながら、それでも次の魔法の詠唱に入る。
「退いてくれ……! ここを行かせるわけには、いかないんだ!」
 大きく息をついたシェイドが、拳から腕まで電撃を奔らせ、キメラに飛び込んでいく。
(……存分に戦うがよい。我がその全て、見届けよう)
 そしてデューイが、構えた銃のスコープに次の標的を捉える。

 研究所での戦闘は、長く拮抗した状態が続いていた。
 相次ぐ襲撃に、傷付き、倒れ伏す冒険者たち。
 
 それでも彼らは信じていた。
 自分たちが戦い続ける限り、研究所は護られ続けると。
 ……そして、仲間たちがきっと、事態を解決に導いてくれると。