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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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武雲嘩砕一日目〜出店で稼げ、楽しめ!


 略奪品大バザールとなってしまった文化祭に、当初は唖然とした横山ミツエ(よこやま・みつえ)だったが、そこに集まった人々を見ているうちに、
「なるほど、これも文化祭のあり方の一つね」
 と、納得するに至った。
 それぞれが持ち寄ったテントを自分の売り場とする彼らは、不良だけではなく体中にまじないらしき彫り物やペイントを施した部族に、蛮族、さらにゆる族などとにかく雑多であった。
 当然、販売物も個性が強い。
 民芸品や料理、収穫物など。
 そして、客も同様に様々だ。
 これだけ多くのパラミタ文化を見ることができるのは、それだけで勉強になる。
 自分は彼らを豊かな中原へ連れて行くのだと、決意も新たにした時、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)に声をかけられた。
「二日間の文化祭の運営のことでお話があるんですけど、今いいですか?」
 遠慮がちに言う彼に、ミツエは頷いて文化祭運営本部の天幕へ向かった。

 親衛隊が集まっている本部で、ミツエは桐生 ひな(きりゅう・ひな)からある人物を仲間に入れるよう勧められていた。
 その人物の名前を聞いたとたん、
「えーっ!」
 と、ミツエは声を上げて嫌そうに顔をしかめた。
 そんな反応が来ることを予測していたひなは、粘り強く交渉を進める。
 何といってもその人物──椿 薫(つばき・かおる)──は、牙攻裏塞島攻略の原因ともなった『おっぱい三国志』という18禁ゲームの製作者なのだ。そのゲームではミツエは口に出せないような恥ずかしい姿で登場しているとかいないとか。
 さらには、出回った偽情報である中原制覇の暁にはおっぱいを見せるという条件が、おっぱいを揉ませるという本物の約束にまで発展してしまった。
 前回はまんまと逃げられてしまったが、いつか捕まえて売上金の全てをぶん取ってやろうと思うくらい憎らしい奴だった。
「今ではあのゲームは全年齢向けにリメイクされているそうですよ。もとのゲームの売れ行きも上々だったそうですから、今度もきっと売れます。そうしたらグッズを作っても売れるでしょう。そして国の懐も豊かになって、同時にミツエさんの名前も知れ渡っていくのです。一石二鳥じゃないですか!」
「……まあ、そうね」
 ひなの説と押しにミツエは渋々首を縦に動かす。
 駄目押しとばかりに、さらにひなは続けた。
「国を支えるには豪族や商人との信頼関係も重要ですよ。考えてみてくれませんか?」
「──わかったわ。認める」
「ありがとうございます」
 にっこりするひなだったが、内心は安堵のほうが大きかった。
 何故なら、薫はすでにどこかで店を出しているはずだからだ。

 ひなとミツエが話し合っている時、少し離れたところで李厳 正方(りげん・せいほう)劉備が再会を喜び合っていた。
 蜀漢では文武共に秀でた武将として名を馳せていた李厳。長い時の果てにひなと義兄弟となった。
「私のことをまだ覚えていてくださった──嬉しく思います」
「忘れるわけがないでしょう。今も昔も、家族のように大事に思っています。あなたとこうして再び出会えて共に歩めること、とても心強いですよ。ひなさんも良い人を側に置きましたね」
 義兄弟を褒められ、ほのかに表情を緩める李厳。
 ひなと李厳は今回は内務に徹する。
 文化祭の収支や増えた武将や兵の名簿作成など、面倒な作業を引き受けたのだ。
 そういった細かい作業をあまり得手としない生徒の多いパラ実では、実務の出来る者は貴重だった。
 李厳と劉備がしっかりと握り合う手は、懐かしさと信頼に満ちていた。

 話に区切りがついた頃、姫宮 和希(ひめみや・かずき)がソワソワしながらミツエを文化祭の見物へ誘った。お祭り大好きな和希は、開催と同時に飛び出したかった気持ちを抑え、ミツエの準備が整うのを待っていたのだ。せっかくなら、彼女と回ってみたいと思って。
 けれど和希も馬鹿ではない。
「また狙われるかもしれないから、今回も俺はミツエに変装していくぜ」
 悪戯っ子のような笑みを見せてミツエの服に似た衣装を掲げてみせる。
「そういうことなら、わらわに任せるがよい。双子のようにそっくりにしてやろうぞ!」
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)がニンマリしながら名乗り出た。
 前回、胸を鷲掴みされたミツエは警戒したが、ナリュキはかまわずミツエと和希の手を掴み、別の天幕へ引きずるように連れて行ってしまったのだった。
 和希とミツエを並ばせたナリュキは、二人を上から下まで何度も眺めると「ふぅむ」とため息にも似た唸り声を漏らした。
「背格好が似ているのは良いがにゃ。ミツエはおっぱいを揉ませるには、やはりちと物足りないのぅ」
「う、うるさいわね。あんたがでかすぎるのよ」
「揉みごたえがありそうじゃろ?」
「おい、何でもいいからとっととやろうぜ」
 豊かなバストを見せ付けるように持ち上げるナリュキを和希が急かす。
 ナリュキの目がキラリと光った。
「発展途上の和希も他人事ではないぞ」
「……オイ」
「エライ人が言っておった。『まずは揉め』と!」
「エロい人の間違いじゃねぇか?」
「二人の胸の将来は、わらわのごっどふぃんがーに任せるがよい!」
「人の話を聞けよっ、何だその手はっ」
「あんたが揉みたいだけじゃないの!?」
 同時に二人の胸に手を伸ばすナリュキから、一歩も二歩も引く和希とミツエ。
 ナリュキの手つきが怪しすぎる。
「何故逃げるにゃ。マッサージするだけじゃ。その後には牛乳を飲んでもらうぞ。腰に手を当てて姿勢良くな!」
 風呂上りの一気飲みかよ、とぼやく和希。
 しかし、ミツエの胸の成長支援を使命だと自らに課したナリュキには聞こえていない。
 このままでは身の危険だと思ったミツエは、早く着替えろと和希を急かす。
「あたしがこのエロアリスを押さえておくから、早く着替えて!」
「お、おう! がんばれミツエ!」
「人にマッサージされるのが嫌なら自分でやるという方法も」
「まずはその痴漢みたいな手つきをやめなさい!」
 と、そこに待ちきれなくなったのか、外からの声と同時に入口の幕が開けられた。

 きゃああああ〜っ!

 甲高い乙女の悲鳴が──。
「あんたが叫んでんじゃないわよ!」
 出て行けー!
 と、手近にあった文鎮を投げつけるミツエ。
 鈍い音と「ギャッ」という声が上がり、闖入者は撃退された。
 だが、この時着替えの真っ最中だったのは和希であって、ミツエでもナリュキでもない。
 天幕の向こうで痛みに悶絶するナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)の声を聞きながら、複雑な表情の和希であった。

 大騒ぎの着替えも終わると、ミツエは実務担当者達へ文化祭見物へ出ることを伝えた。
「みんなも息抜きに出かけてみてね」
 と、残して。