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栄光は誰のために~英雄の条件 第1回(全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件 第1回(全4回)

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 《冠》の試験と並行して、研究棟内の教官室では、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)とパートナーの久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が、太乙から文献解読の手ほどきを受けていた。
 《工場》で発見された、研究者の残した文字は、古代のパラミタの文字だ。パラミタの種族の中で、寿命が非常に長かったり、古代にいったん眠りについて最近目覚めた者なら、文字自体を読むことは出来る。太乙もそういった、古代パラミタ語を読むことができるパラミタ人の一人だ。しかし、専門用語が多い技術関係の文献は、彼でも苦戦することが多かった。アリーセやグスタフにはちんぷんかんぷんだ。そのうえ、
 「……どうも、文献が部分的に処分されている気がするんですよねぇ……」
 《工場》から持ち出された書類の綴りをぺらぺらとめくりながら、太乙はため息をつく。
 「明らかに抜けがある。足らないんですよ。もしかしたら、最初からないのかも知れませんが。いや、それはないか……」
 「えーっと、どういうことでしょう、教官?」
 アリーセはわけのわからない単語が並ぶ書類から目を上げて、ぶつぶつと呟きながら自分の思考に沈みかかっている太乙に尋ねた。
 「ああ、すみません」
 太乙ははっと顔を上げた。
 「明花がわりとそうなんですが、時々、自分の頭の中に全部あるから書き物は残さなくて構わない、という研究者や技術者がいるんです。大量生産する時なんかにそれだと困るので、明花が書かない分私が記録をつけて残すことにしているんですけどね……」
 そこまで言って、話がずれて来たことに気付いた太乙は、軽く咳払いをした。
 「だから、もしかしたら、《工場》で発見された彼もそういうタイプだったのではないかと思ったのですが、どうもそうではないようです。ほら、文章が途中で切れているでしょう」
 「……本当だ」
 隣り合った2枚のページの、最後と最初の文章がどう見ても文法的につながっていないのを見て、グスタフが言った。
 「つまり、この間にあった、処分したい情報を抜いたんです。おそらく、自分がしていた研究の、核心に迫る部分をね」
 「あのう、教官。私、今すごく怖いことを思いついちゃったんですけど」
 アリーセは恐る恐る手を挙げた。
 「《黒き姫》は、《冠》によってエネルギーを吸い取られているはずですよね? そのエネルギーって、ひょっとして、《工場》に灯をつけたり、防衛システムを動かしたりするのに使われていたんじゃないんでしょうか」
 「多分そうでしょうね。どうしてそんな風にしたかは、もう少し調べてみないと判りませんが。ただの動力源なら人の形をしたものである必要がありませんから、最初から動力源だったのではなく、何かの理由で動力源にされてしまった、という順序だったのでしょう……ああ、いや、理由はわかるな。《黒き姫》を目覚めさせないため、だ」
 「あれだけ広い《工場》の動力源になれる力を持っている《黒き姫》が、《工場》のためにエネルギーを使うのをやめて、兵器として動き出したら……!」
 アリーセとグスタフは、青ざめた顔を見合わせた。
 『黒き姫を目覚めさせてはならぬ。其は災厄を招く嵐、血風を呼び起こす者なれば』
 古代の人が書き残したメッセージを思い出す。
 「だから、彼女は《冠》を被せられ、その強大な力を《工場》の動力として使われることになった。技術者は……彼女を目覚めさせないために、カプセルに収め、資料を処分し、防衛システムに外部からの侵入者……彼女を目覚めさせようとする者を、排除するように命令した……?」
 考えながら、アリーセは呟いた。
 「なぜそうしなければならなくなったかという背景はわかりませんが、事の起こった順序としては正しいように思います。背景を含めて、我々の推測を裏付けるような資料が残っていると良いのですが」
 太乙がうなずく。
 「さ、探しましょう!」
 アリーセは叫んだ。
 「何かのはずみで《黒き姫》が目覚めたら、大変なことになっちゃいます。目覚めさせない方法を、そして、万一目覚めた時にどうしたらいいのか、調べておかなくちゃ! ね、グスタフ」
 「いえ、そんなに焦る必要はないと思いますよ? 《工場》の動力源になっている限り、彼女が目覚めることはないでしょう。《工場》をしっかり守っていれば、当面は問題は起きないはずです」
 慌てて資料をめくり始めたアリーセを、太乙は苦笑してなだめた。
 「最悪、《工場》の内部に眠るものをいったん諦めて、再度封印する必要は出て来るかも知れませんが。そう慌てて調査する必要もないと思いますしね」

 しかしその『最悪の事態』になりうる事件が、《工場》で起こってしまった。高性能の小型飛空艇を持つ鏖殺寺院の一部隊が《工場》に突入し、《黒き姫》が眠る最深部の部屋の前まで侵入したのである。他の侵入者から『ルドラ』と呼ばれていた少年が、《黒き姫》は自分のものだと主張し、引渡しを要求したが、《冠》が《工場》から運び出されたことを知ると、他の侵入者と共に撤退して行ったと言う。負傷者は少数で済んだものの、陽動のためにヒポグリフ用厩舎が爆破されて一部損壊してしまった。ただし、ヒポグリフ部隊が正式に稼動するまでにはまだ時間がかかりそうで、補修する時間は充分にある。
 「出来れば、今《工場》をもう一度封印はしたくないのよ。鏖殺寺院が新兵器を繰り出して来たなら、こちらも研究を進める必要があるし……やっと、《冠》の制御が出来るようになりつつあるから。それに、鏖殺寺院が《黒き姫》の復活を狙っているなら、人型機械は解体して搬出してしまった方が安心な気もするし」
 話を聞いた明花は、《工場》を再び封印するかどうか、かなり悩んでいる様子だった。

担当マスターより

▼担当マスター

瑞島郁

▼マスターコメント

 たいへんお待たせして申し訳ございませんでした、『英雄の条件』第一回をお届けいたします。

 ・本文に若干の補足をいたします。
 一部の方に用語の混乱があるようです。『《冠》』という言葉は、茨の冠の形をした装置単体を指します。人型機械込みで《冠》ではありません。混乱があると思われるアクションは、文脈からどちらを指しているか判断いたしました。悪しからずご了承ください。
 本文中で怪我をされた(あるいは、していると思われる)描写をされた方ですが、本校送還となるような重傷の方はいらっしゃいません。次回も通常通り参加して頂けます。

 ・このシナリオから新規に参加された皆様へ。単発のシナリオと比較して進行が遅いと感じられることがあるかも知れませんが、次回や次々回に、今回の行動が実を結ぶこともあります。まずは実績作りです。

 ・今回、MCのアクションの続きをLCのアクションの欄に書かれたり、MCのアクションの補足をLCのアクション欄に書かれたり方が複数名いらっしゃいましたが、LCのアクション欄はMCのアクションの追加・補足欄ではありません。MCのアクション欄にはMCの行動、LCのアクション欄にはLCの行動、という形に、記入欄を守ってまとめてください。まとまっていない場合、記入不備として判定に不利になることがあります。

 2回目のアクションガイド公開は、1/3(日)を予定しております。次回もおつきあい頂けると幸いです。