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リアクション
第10章 世界は君を待っている
(「……眠い」)
夜魅は一人、深淵の闇の中に居た。
音もしない何も見えない何も……感じない。
昔……いつかは違ったかもしれないが、それは急速に遠ざかり、消えていく。
喰われて、いく。
このまま意識を手放してしまえば楽になれる、そんな気がした。
なのに、『声』がした。
自分を呼ぶ、いくつもの『声』。
「夜魅さん! 夜魅さんどうか、『幸せ』を諦めないで下さい!」
「最初に会った時の寂しげな夜魅さんも、災いと呼ばれる夜魅さんも、全て含めて私はあなたが大好きなんです!」
「オレたちのことを信じろよ。オレたちも夜魅の事を信じてる……友達ってのは信じ合うものなんだよ」
「夜魅ちゃん! 今度はみんなで戦うから、夜魅ちゃんも負けないで! みんなが君を待ってる!」
大好きな人たちの『声』が聞こえる度、胸の奥が温かくなった。
光が灯るみたいに。
(「あたし、このままなんて……イヤ」)
だからこそいつしか、夜魅は抗っていた。
「貴女は、愛されている! 貴女の存在そのものが、愛されている証……貴女は、愛されているわ!!」
何て力強い、温かい『声』。
胸の奥、勇気の花が開くように。
(「消えるなら、せめてこいつも一緒に……じゃなきゃ、みんなに迷惑、かけちゃう」)
真っ二つにされそうな身体と魂を、必死に繋ぎ止める。
流れ込んでくる思いが、それを可能にしてくれる。
そして、温もり。
冷え切っていた身体と心を包み込む、それ。
「だいじょーぶ、痛みはあたしが一緒に引き受けるわ。だから……皆の声を聴いて」
と共に、『声』が先ほどよりハッキリと聞こえ始めた。
「私にできるのは、どんな闇の中でもどんな苦しい中でも、希望は存在して夢を見ることができることを伝えること」
「花は命の象徴で、未来へと生きていく生命の謳歌の象徴でもある。君がまだ体験していない沢山の楽しい思い出を一緒に紡いでいきたいと願っている人が沢山いるんだ」
嗅覚・視覚……マヒしていた感覚が一つずつ、戻ってくる。
そっと差し出された、贈り物みたいに。
「みんな、夜魅の笑顔が見たいんだよ」
「希望の光を掴め、願った望みを本当に叶える為に。もし、絶望を暗い心の闇が捨てきれないなら全て吐き出せ、俺達が受け止める。もし、犯した罪が邪魔をするならば俺達が共に背負う。……だから心を光で満たせ」
胸の中、キラキラと輝きだす。
「幸せになりたいと思うのなら、こんなところで諦めるな!」
「……っ!?」
そして真人の声が、意識を覚醒させる。
「あたし、でも……どうしたら、いいのか……」
分からない。
■せ……しあ、わせ……幸せになるにはどうすればいいのか。
「夜魅さんも白花さんのことを強く思うの」
惑う耳に届く、凛とした騎沙良詩穂の声。
「一番幸せなことって何だろうって、考えたときにね。夜魅さんを助けるには強い意志が必要だってお母様が言っていたけれど、それは夜魅さん自身も同じじゃないのかな」
「強い、意志……?」
「うん、そうだよ。嬉しいこと幸せなこと友達のこと、みんなが今まで教えてきたことを再び強い意志で、自分の意思で取り戻すの……みんなに守られているだけじゃダメ!」
さぁ、思いだして、と詩穂は優しく問うた。
「辛いことだけじゃなかったはずだよ、いつも白花ちゃんが見守っていて一緒だったんだし。それにこれからは友達も……それはとても暖かいこと」
「夜魅ちゃん、これからはみんなが友達だよ。嬉しいことや幸せなこと、教えてもらったでしょ? アリーセももっと友達を増やしたいな♪」
アリーセの声は無邪気で、とても楽しげで。
「夜魅ちゃんも、おねえちゃんの白花ちゃんもみんなの友達になってくれるよね。……だからもう、独りじゃないよ」
「ひとり……じゃない」
「初めて会った日、覚えているか。『夜魅』」
手に温もりを感じた。
「まさ、とし……?」
返ってきた反応に、緋山政敏は安堵しつつ大きく頷いた。
「はじめてあった、ひ」
繋いだ手から、流れ込んでくる温もり。
記憶が蘇る。
「友達が出来て……政敏が名前をつけてくれた……」
そう。夜魅に名前が……『自分』が出来た日、とてもとてもとても特別だった、あの日。
「あの日、皆でしりとりゲームしたよな。それはさ。今も続いているんだ」
思いだす、幾人もの、顔。
来るまでの道を作ってくれた者達。
無茶する皆を見守ってくれる者達。
邪魔してくる者もいたが、それを受け止めてくれる者達もいた。
「俺がここにいるのは、あの日から繋いだ皆の行動の結果なんだ。『繋げる』しりとりと同じだよ」
皆で繋いで、ここまで辿りついた。
皆で繋げなければ、ここまで辿りつけなかった。
「夜魅、ここで終わらせたいなら構わない。だけど」
「そう。皆には夜魅さんが必要なんです。この世界の誰でもない夜魅さんにしか出来ない事」
政敏のパートナーのカチェアが、後を引き継いだ。
「夜魅さんと白花さんを助けたいって政敏の……いえ、皆さんの『願い』。貴方自身の手で守ってくれませんか」
そう……真人も言っていたように、その『願い』はカチェアにも政敏にも他の誰にも、叶えてあげられない。
それが出来るのは、この世界で唯一人。夜魅だけなのだから。
「あなたにも見えているでょう? あなたを待っている暖かい光が」
聞こえたラルフの声、空間にぽぅっと光が生まれる。
「夜魅ちゃんの居場所はちゃんとあるよ! 白花ちゃんやボク達の傍に!」
勇の声が、闇を照らす。
「オレらはおまえを救う手助けはできる。声が必要ならいくらでも呼びかけてやる。けどな、最後にそこから抜け出すには、おまえの力が必要なんだぜ」
壮太が手にした白い花が、闇の中ぼんやりと浮かび上がる。
「夜魅がもし災いから切り離されて、この世に新しく生まれ出ることが出来たとしても、また辛いこともあるかもしれねえ。それでも、災いと呼ばれて暗い世界に閉じ込められたまま一人消えていくよりは、よっぽどいいと思うんだ」
白い花……あの日、踏みにじられた白い花を、そっと夜魅の髪にさす。
「だってここにはオレたちがいるだろ。少なくとも夜魅は一人じゃねえ。何かあったときは、いつでも助けてやれるじゃねえか」
壮太の言葉と共に、花から髪へと光が広がっていく。
「さっさとンなとこ出て来いよ。目を開けて世界を見てみろよ。平気だ、怖くなんてねえから」
目を開くと、そこには壮太の優しい顔。
「あの時みてーに勢いよく抱きついてこいよ。今度はちゃんと、よろけねーで受け止めてやるからさ」
壮太はちょっとだけ照れたように、両手を広げ……待っていた。
世界に……夜魅の世界が温かい光で満ちる。
「ジュジュ?」
「うん。ずっと側にいたよ」
光の中、見あげてくる夜魅に微笑んでから、ジュジュは告げた。
「今から、あんたと災厄を切り離すわ。でも、大丈夫……あたし達を信じていてね」
その言葉を合図にしたように、影が……追いすがる影が色濃く浮き上がる。
「政敏!」
「お前の背中は守ってみせる。それが『親』の仕事だ」
夜魅を追う様にその顎を開ける影龍。
政敏は夜魅と影龍との間に、その身を滑りこませ。
「すまん。俺はまだそっちには行けないんだ」
影龍をヒタと見据え、光条兵器を展開した。
ホンの少しでいい、時間を稼ぐ為に。
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