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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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第3章 深き闇への入り口

 キマク。荒野の中にある、オアシスに近い場所。店が立ち並ぶこのあたりでは携帯電話を使うことができる。
「それは本当ですか?」
 パラ実の朱 黎明(しゅ・れいめい)は、携帯電話を耳にあてながら目を鋭く光らせる。
「……わかりました。後ほど連絡をします」
 電話を切った後、黎明はしばし考えこんだ後、同学の高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)に電話をかける……。

「おう、イル。何かあったか?」
 電話に出た悠司は、相手は黎明であったがパートナーのイル・ブランフォード(いる・ぶらんふぉーど)の名を口にする。黎明の番号の登録名もイルの名にしてある。
「……そっか、異常なしか、了解」
 用件を聞いた後、そう言って電話を切った。
 悠司の居場所はバーのような店の前。
 中に入ることは滅多に許されない下っ端の下っ端として、パシリをしている。
 仲間の一員と認められてはいないが、顔は覚えられ、メンバーから「何か仕事があったら回してやる」という言葉くらいは得られていた。
「出かけるんすか。例のバイト募集の件っすね。お供しますぜ」
「邪魔すんなよ」
「いざという時には、イルと一緒に援護しますぜ。ちとイルは監視に出てるっすけど」
 悠司は、建物の中から出てきた男達の横から半歩遅れてついていく。イルは隠れ身を使い、近くの木の上から、周辺に目を光らせている。
「仕事の依頼ってのは、桜井静香の誘拐とかそんな感じっすか?」
 悠司の言葉に、前を歩いていた男が軽く目を向ける。
「……いやー、ツイスダーの旦那が百合園のお嬢様に『卑怯な手で』敗北したってのは結構広まってますぜ?」
「個人の復讐じゃねぇ。今回は組織の仕事と人材集めだ。てめぇも仕事ほしいんなら、一緒に聞いとけよ」
「そーなんすか。そーいや、さっき周辺探ってるイルから連絡があったんすけど、C級四天王になった女、調子に乗って分校建てようとしてるらしいっすよ。……これ、ほっときます?」
「邪魔になったら潰すさ」
 気の無い返答だった。
 とりあえず、今のところ気にしてはいないのか。
 それとも、わざとそのような態度をとっているのか。男達のにやけた表情からは、読み取ることができなかった。

『裏稼業バイト大募集。高給。危険手当あり。見習い期間あり。問い合わせは陽炎のツイスダーまで』
 1週間ほど前からキマクの街にそんな広告が貼られていた。
「あらま。鈴子さんからまたメールです」
 蒼空学園の桐生 ひな(きりゅう・ひな)は、届いたメールをチェックする。
「遠くから見るだけで、接触はするなというご指示ですね。とりあえず、はいと返事するべきでしょうね」
 ひなは白百合団に協力を申し出て、団長の鈴子に連絡を入れながら求人広告に記されていた場所に向かっていた。
「正直地味過ぎて妾としては全然美味しくないのぅ」
 パートナーのナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)は、大きく大きく溜息をついた。
 白百合団の方針として、今回のような単独調査を他校の生徒にお願いすることはできないと鈴子には言われてしまった。団に仮所属するのなら、危険な単独行動は禁止行為だそうだ。ひなが大人であったり、パラ実所属ならまた違う答えが返ってきたかもしれないが……いや、あの団長の性格では、協力者の危険な行動を許可することはないのかもしれない。
 ひなはとりあえず見てくるとだけ言い残して、ヴァイシャリーを発ったのだけれど、こうして何度もメールが届いている。
 ナリュキの方は元々組織と接触するつもりはなく、ひなの脱出を手伝うつもりだった。
「これは報酬に百合園生のアヤツの胸を2時間コースで揉ませてもらうしかあるまいっ」
 胸の大きな百合園のだれそれの姿を妄想しながら、ナリュキはうんうんと1人頷く。
「それじゃ、ここでお別れです」
「気をつけるのじゃぞ」
 ひなは広告に記されていた大木の方へと向かい、ナリュキはその場に留まってひなの後姿を見送った。

「おおっ、結構いますね……」
 指定場所の大木の下には既に8人の男女が集まっていた。
 その中で、外見的に一番幼い少女、イルミンスールのファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)はとても楽しげであった。
「怪しい人こないねぇ」
 パートナーのファム・プティシュクレ(ふぁむ・ぷてぃしゅくれ)は、ファタの傍に立ち、きょろきょろと辺りを見回している。
「んふふ、じらしてんのかのう。わくわくしてきたのぅ〜」
 裏稼業の仕事に興味を持ったことがファタがここに来た理由だが、内心としてはそういった組織と関わりを持っておくことが、この先情報入手等で役立つかもしれない、という思いもある。
「……」
 蒼空学園の風祭 隼人(かざまつり・はやと)は、子供に見えるファタとファムを気にかけながら、静かに待っていた。
 ツイスダーの名は知っている。
 背後の組織についても、僅かに知ってはいる。まず、隼人はその組織に入り込むことを目指す気であった。
「随分と集まってきたな」
 僅かに不満気に、だけれど不敵な笑みを浮かべながら、近くの木に寄りかかっているのは駿河 北斗(するが・ほくと)だった。
 彼は、パートナーのベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)と交替で、前日から張り込んでいた。
 顔に布を巻きつけている人物もいる。
 その男、蒼空学園の久多 隆光(くた・たかみつ)は、大木から少し離れた位置に立ち、布から覗く緑色の瞳でこの場にいる全ての人物を見定めていた。
 更にもう1人、帽子を目深に被り、口にはマスクをして顔を隠している男もいた。
「……来たわよ」
 ベルフェンティータが、仕方なさ気に声を上げた。
 暗い服を纏った青年3人と、付き従う少年1人の姿が見えた。
 半歩後を歩いてたい悠司が前に出て、中央の男性に手を向けて言葉を発そうとしたその時。
 突如北斗が地を蹴って、両手剣型の光条兵器を振り上げ男達に斬り込む!
 組織の男達は四方に散って躱す。
「よう、元四天王。パラミタ実業、駿河北斗。バイトついでにてめえの組織の地位、丸々貰い受けに来てやったぜ!」
 北斗は自分にギャザリングヘクスをかけると、再び剣を振り上げて真ん中のリーダー格の男に振り下ろす。
 男は銃を抜き、北斗に向ける。
 北斗は後方に跳び間合いを取った。
「……てめ、何しやが……!」
 予想外の速攻の攻撃に、反応が遅れた悠司が光条兵器の銃を北斗に向けるも、その悠司に側面から氷術が放たれる。
「……っ」
 冷気を受け、悠司手を引いた。
「……黙って見守りなさい」
 ベルフェンティータが、悠司にエンシャントワンドを向けている。
「さーてどっちが勝つか張った張ったー」
 クリムリッテは、その場にいる者達に声を書ける。
「依頼主の方じゃろ」
「2対4だしね」
 ファタとファムは楽しげに見守っている。
 他の集まった者達は流れ弾に注意しながら、成り行きを見守るより他なかった。
 他の組織のメンバーも銃を抜き、北斗に弾丸を浴びせる。
「なーにしてんのよ、助けが入ったら賭けになんないじゃない」
 クリムリッテが火術を縦に放ち、妨害しようとするも組織側のメンバーは賭けには乗らず、北斗に向けて銃を撃つ。パラ実同士の喧嘩ではなく、明らかに殺意を持って急所を狙っている。
「くっ」
 躱そうとするも、そのいくつかの弾は北斗の体を傷をつけていく。
 相手の出方を見ていた北斗は明らかにおかしいということに気付く。
 ツイスダーの得意武器や攻撃パターンについては調べてあった。だが、目の前の男は匕首を抜いては来ない。
「あっ……」
 魔法で組織のメンバーを狙ったベルファンティータが撃たれた。続いて、クリムリッテも。
 その後、北斗に向けて一斉射撃が始まる。
 北斗は弾丸の中を、それでも走り、男に剣を振り下ろそうとする――。突如。
 ドガガガーーン
 激しい音が響いた。
 全員が一瞬――いや、悠司以外の全員が一瞬気を取られる。
 僅かな隙に、悠司は地を蹴って北斗の懐に飛び込んだ。
「死んだフリしろ」
 小さく、低く声を発した直後に、悠司は北斗の頭に向けて光条兵器の銃を連射した。
 射撃音と共に、北斗が吹っ飛ぶ。
 1発目で米神を打ち、2発目は額に。ただし、2発目は意図的に通過させてダメージを与えてはいない。
「馬、鹿……」
「北斗……?」
 倒れた北斗に、深い傷を負ったベルファンティータとクリムリッテが歩みよる。
「……」
 隆光は静にメモをとり、メンバーの様子までも記しておく。
 自分同様顔を隠している男が何にも反応を示さないことが少し気掛かりだった。
「大丈夫っすか」
 悠司は、リーダーの男に走りより、肩を貸す。北斗の攻撃により、こちらも深い傷を負っていた。他の2人も魔法攻撃により負傷している。
「まあ、今ので分かったと思うが、こういった事態が頻発する危険でヤバイ依頼だ」
「面白そうじゃのう。それでどんなことが起きるのやら」
「うん」
 ファタとファムはこの事態を受けてもなお、楽しげだった。
「俺の目的は『金』だ。腕、度胸、機転、それから容姿にも自信がある。すぐにでも仕事を受けたいんだが?」
 隼人は鋭い目で尋ねる。
「報酬は破格だ。受ける気があるのなら、次の指定場所に来い」
「仕事の内容は?」
「指定の場所にブツを運べ等、その時々指示を出す。気に入らなきゃ受けなければいい」
 隆光の問いに、そう答えた後男は懐から名刺状の地図を取り出してばら撒いた。
「お仲間になりたいんですけどー」
 ひなは男達についていこうとするも、銃を向けられる。
「仕事のメンバーも募集してるが、加わる奴の素性は調べさせてもらう。裏切ったら親近者皆殺しだ。以上」
 男が軽く首を振り、悠司はアジトの方に向かって歩き出す。出血が酷い、急ぎ治療する必要がある。
 組織のメンバーとなる方法は、悠司とて条件は同じだった。人質となりうる存在を組織が掴むまでは……もしくは、信用を得られるような何か大きな功績でも持ち込まねば、パシリより上にはなれそうもなかった。
 ひなはちょっと迷うも、追うことはせず地図を手にとって、ナリュキが待機する場所に戻ることにした。暗号での連絡の必要はなさそうだ。
「白百合団にはどう報告しましょう。接触したと言ったら怒られますかねー」
 報告したら、継続して任されることはないだろう。

「あれでよろしかったですか?」
 スパイクバイクから降りて、ネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)黎明に問う。
「ええ、予定とは随分違ってしまいましたけれどね」
 黎明は携帯電話を取り出して、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に電話をかける。
 彼女とのやりとりで事前に、黎明はある事実を知っていた。
 陽炎のツイスダーが今も、ヴァイシャリー軍により拘束されているということを。
 つまり、今回の募集はツイスダーの名を出して、組織はなんらかの探りを入れていた……とも考えられる。
 百合園女学院を襲撃した際、神楽崎優子に敗れたツイスダーは瀕死の状態のまま舎弟に見捨てられている。
 彼は今も尚、重体のままヴァイシャリー軍の監視下にあるそうだ。
 黎明と悠司の相談では、黎明があの場に飛び込んでリーダーを狙い、悠司と一芝居打つ予定だったのだが、先に攻撃を仕掛けた者がいたため、黎明は遠方からの観察を続け、タイミングを計りネアに合図を出して爆音を立てさせた。
「……という状況です。それでは」
 報告を終えて電話を切るとスパイクバイクに乗り、ネアと共に荒野の中に消えていく。