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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

リアクション

「アクィラさん、店主さん達と合流しましたぁ。ご無事ですぅ」
 アクィラのパートナーのクリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)が、河原に向かったアクィラと携帯電話で連絡をとる。
「順調とは言いがたいけど、喫茶店の方は残った皆に任せるしかないようね。こっちはこっちのすべきことを……うーん……」
 もう1人のパートナーアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)は、アルコリアの腕の中でなでなでむぎゅっされてきゃっきゃっしているミルミの姿に顔を顰める。
「とにかくここまでくれば安心だね。……ここにいるメンバーだけは、だけど」
 店主の手を引いていたカレンが、手を離した。喫茶店が心配だ。物凄く心配だけれど、とりあえず罪のない人々を守ることができたことに、大きく息をつく。
 辺りには木々が立ち並んでおり、この位置からは喫茶店は見えない。川や人道からも離れているため、パラ実生が追ってくることはないだろう。
「いったい、何を、っ」
 店主は荒い呼吸を繰り返しながら、不安気な目を見せる。
「なにがなんだか……」
 料理を担当していた青年も、肩を落としていた。
「ごめんなさい。本当は荒事にはならないようお話したかったんですけれど、指揮がとれてなくて……」
 歩はまず謝罪をした。
 偏にミルミに人望やらカリスマやら統率力が全くないせいなのだが。
「パラ実生のことは、C級四天王の神楽崎優子軍に任せといて! 皆でぼこ」
「きゃあっ!」
 アカリが突如、大きな声を上げる。
「えっ、あ……っと」
 ガシャン
 クリスティーナがガラスのコップを木の根の上に落とした。
「あ、カップ落としちゃいましたぁ。お茶を淹れようとしたんですけどぉ」
 のんびりと微笑む。勿論アカリの合図を受け、ミルミの言葉を遮るためにわざと落としたのだ。
「びっくりしたー。鳥の糞かと思ったら、雨水だったみたい。よかった」
 アカリは頭に触れた手に目を向けている。
「ええっと、なんだっけ?」
 ミルミがラザンに目を向ける。
 ラザンは軽く吐息をついたあと、店主に説明を始める。
 農家の家の中にいた人々に話した内容と同じことを……。 
「あたしは地球人で百合園女学院に通っている七瀬歩っていいます」
 一通りの説明が終わった後、歩がぺこりと頭を下げる。
「色んな学生たちの交流の場にしたいんです。地球人とだけじゃなくて、シャンバラ人とジャタ族の人たちとでもお互いに知らないこと多いみたいですし」
「ううむ、しかしキミ達のような女の子がねぇ」
「女子高の女の子が中心じゃパラ実生のターゲットになるだけだよ」
 店主と、その息子と思われる青年の言葉に、アルコリアが可愛がっていたミルミから手を離して、前に出た。
「私は百合園の生徒ではありませんけれど」
 ランゴバルトににっこり微笑むと、ランゴバルトは首を縦に振って、アルコリアにパワーブレスをかける。
 次の瞬間、アルコリアは刀を鞘から抜き放ち、倒木を真っ二つにする。
 飛び散った破片に驚き、店主達が足を引いた。
「肉体労働は苦手なんじゃがのう。……ふん!」
 そういいながら、ランゴバルトもドラゴンアーツを発動し、メイスを振り回して大岩を砕いてみせる。
「大道芸じゃが威嚇や農耕にも利用できるじゃろう」
「百合園も契約者多いですし、分校を纏めていく人達は契約者です。別のグループに占拠されたりしないよう、守りますから」
 歩が頭を下げる。
「お願いします」
「お願いしますっ!」
 ミルミも勢いよく頭を下げた。
「う、うん。キミ達の強さは分かったよ。けど、うちにはパラ実生より恐ろしいかーちゃんがいるからねぇ」
「親父、母さんに頭が上がらないんだ。喫茶店が無事なら母さんがいいっていうんなら、俺は賛成だよ」
 苦笑しながら言う親子の言葉に、皆も淡い笑みを浮かべ、河原と喫茶店に向かった人達からの報告を待つことにする。

○    ○    ○    ○


「あ! 店主いないぜ。外で配ってる料理もらいに行かなくていいのかよー」
 ウィルネストが、喫茶店に残っている四天王と舎弟達に声をかけるも、言葉に反応する者はもういない。
 ただ……。
「うっ、リーダー、まだかよ! 早くしろー!」
 なんだかトイレの前に列が出来ていた。
「畑が広がってんだし、外ですりゃあいいだろ。百合園生の姿も消えたぜ?」
 がにやにや笑いジュースを飲みながらそう言う。……皆に飲ませたジュースと違い、自分のには下剤は入っていない。
「うっ、くそっ」
 1人、また1人腹を押さえて変な足取りで出入り口へと向かう。
「食中毒か。あの店主ゆるさねぇ」
 手も洗いもせず、リーダーがトイレから戻ってくる。途端。
「っ!?」
 放たれた矢がリーダーの腕を裂き、壁に突き刺さる。
「そこか!」
 リーダーはナイフを取り出して、続け様に投げていく。
「あっ」
 ナイフの1本が矢を放った人物――美羽の肩を掠めるが、ほんのかすり傷だ。ただ、側面に回り込もうとするも、それは敵わなかった。
 美羽としても事前に酒を飲ますなど、対策は考えてあったのだがチャンスがなく、今回は皆にタイミングを合わせた襲撃を優先することにした。
 リーダーが銃を抜き、美羽を狙う。
 美羽は急いで、物陰の後へと隠れる。
 舎弟達も武器を取って、美羽の方へと向かってくる。
「建物に傷が……」
 ウィルネストは銃弾が飛び散る様に、どうしたものか……むしろ自分もやってしまうべきか、そうすべきかと考える。
「とりあえず、表に出て……きゃっ!」
 レキの足元に弾丸が跳んだ――それは店内にいたパラ実生が撃ったものではなく、店外から放たれた弾だった。
「交渉とか、説得とかメンドーなことしても無駄だっての! 相手は俺等と同じパラ実生だ、手っ取り早くこれで交渉決裂、戦闘開始だ」
 銃を撃った猫井 又吉(ねこい・またきち)が客席に飛び込んでくる。
「店ごと派手にぶっとばしてやるよ!」
「武器を手に挑んでくる者たちを蹂躙しなさい」
 続いて現れたシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は、ゴーレムを6体喫茶店の中に放ち、武器を手にいきり立つパラ実生を襲わせる。
「貴様が四天王か!」
 2人のパートナー国頭 武尊(くにがみ・たける)が、パラ実生達のリーダーの前に踊り出る。
「パラ実の国頭武尊だ! オレと戦え!」
 銃を乱射していたリーダーが武尊をギラリと睨みつける。
「いくさ場も選べぬ小者か」
 カウンター席では信長が鬼眼を向ける。美羽、ウィルネスト、レキは壁際へと下がるが、武尊は止まらない。
「一騎打ちを申し込む!」
「待て。ここが破壊されることは、双方にとって損だろう?」
 百合園の桐生 円(きりゅう・まどか)が急ぎ武尊の腕を掴んだ。
「そっちの四天王も、農家と喫茶店が収入源なんだろうし」
 そう言う間にも、ゴーレムとパラ実生達の戦いは激しくなり、テーブルや椅子がバラバラに崩されていく。
「ボクは百合園生だ。分かり易くこうしようか、ボクらが負けたらそっちの手下になるよ、キミらが負けたらボクらの分校にでも通え、そして学生からやり直したまえ、この時点で負けてたら、先になんぞ進めやしないだろ? よし、表に出たまえ」
「ああ、壁が、壁が崩れてしまいますぅ。ゴーレムさん、ゴーレムさん、外に出るですぅ〜!」
 イルミンスールのシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は、おろおろしながら、メイスを振り回してゴーレムを外に誘導していく。
「四天王覚悟、出てこないと外から潰しちゃうよ!」
 美羽もこれ以上の乱闘は建物の倒壊に繋がると考え、矢を放って崩れた壁から外へと逃げる。無論、本当に外から建物を破壊するつもりなどはない。
「くっ……」
 リーダー――四天王は美羽の後を追うように、崩れた壁から外へと飛び出した。
「くそっ」
 トイレの順番待ちしていいた者達は本来の力を発揮できず、ゴーレムに殴りつけられていく。
「ヒャッハー、出ろよ! っと腹ん中の物は出すなよ」
 鮪は腹を抱える男を喫茶店から外へ引きずり出し、腹を蹴り、腹を蹴り、腹を蹴りつける。
「ヒャッハァ〜! こんなチンケな場所占領するより可愛い子に何かして貰う方が最高に決まってんだろ」
「うぐぐっ、貴様が食事に毒を入れたのか……」
「言っておくが派手にやらずに程々にやればお嬢様に『めっ』とか言って貰えるんだぜ、俺はそっちを選ぶぜ。こんな風に」
 鮪は蹴り続ける。だが、さほど力は入れていない。
 そして、『めっ』という可愛い注意をしてくれる百合園生の存在をちょっと期待したけど、この場にはいなかったようだ!
「ゴーレムを外へ!」
「ここで戦う理由なんてないはずだよ!」
 教導団の比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、武器を構えてシーリルと又吉に向ける。
 又吉はトレジャーセンスで金目の物でも物色しようかと考えていたが、真紀の厳しい目と向けられた敵意に断念する。
「わかりました」
「ま、中でも外でもどこでもいいぜ」
 武尊が四天王を追って外に走り出たのを確認し、シーリルと又吉も壁の穴からゴーレムと共に飛び出していく。