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ゴチメイ隊が行く1 カープ・カープ

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ゴチメイ隊が行く1 カープ・カープ

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「うーん、なんだか騒がしいなあ」
 大きな音でなにやら演奏を続けているヴァーナー・ヴォネガットの方を見て、ココ・カンパーニュは少し迷惑そうに言った。
 ミンストレルであるヴァーナー・ヴォネガットは、様々な楽器を持ち込んできているようだ。こうして大きな音をたてていけば、夜でも人が起きていると知って泥棒は来ないと考えているらしい。
 今夜泥棒が来るらしいという報告があったため、ほとんどすべての者が夜も引き続き警備にあたっている。時間外だというのに、まったく騒ぎが好きな連中だ。そこへ夜番の者たちも合流してきたため、生け簀の上は押すな押すなの大盛況であった。
「まあ、警備としては、妥当な判断じゃないのですか」
「それじゃ、暴れられなくてつまらないじゃないか」
 ココ・カンパーニュの言葉に、ペコ・フラワリーはおやおやという顔になった。結局、一番暴れたいのはココ・カンパーニュ自身なのだ。
「まだかなあ、まだかなあ。わくわくわく」
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が待ちきれないといった感じで、夜の真っ暗な湖を見つめた。
「落ち着きなさいな。賊が来なければ来ないで、それがいいのです」
 菅野 葉月(すがの・はづき)が、パートナーを落ち着かせるように言った。
「えー。でも、来たらどうするの」
「その場合は、捕まえてヴァイシャリー警察に突き出すだけですよ。くれぐれも、生け簀を壊さないように」
 少し不満気なミーナ・コーミアに、菅野葉月はしっかりと釘を刺した。
「まあ、お茶で一息入れて落ち着いてくれ」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)と連れだった本郷涼介がお茶とパウンドケーキを配りながら言った。
「あなたには、これはどうかな」
 本郷涼介は、ココ・カンパーニュにとっておきの妖精スイーツを渡した。
「おお、ありがと」
 もらった妖精スイーツを、ココ・カンパーニュは一口で平らげてしまった。さすがにちょっとむせて、あわてて紅茶で胃へと流し込む。
「あわてるからですよ」
「うるさい、こういうのは勢いなんだよ」
 ペコ・フラワリーにたしなめられて、ココ・カンパーニュは言い返した。
「ああ……」
 高かったのにという言葉を、本郷涼介はすんでで呑み込んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「時間だな」
 甲板に集めた者たちを前にして、シニストラ・ラウルスは言った。
「さっき、こいつを使いこなせた奴は、先行して生け簀を襲え。陽動だ。その隙に、ボートで近づいた奴らが反対側から網を切って錦鯉をいただく。さあ、行け!」
「おう」
 命じられて、もともとの船員を中心とした者たちが、サーフボードのような物に乗る。意外と幅が広く、形は楕円の皿に近い。さらに、その先端からは、コントローラーのついたワイヤーがのびていた。それをつかむと、船員たちは湖水へと飛び降りていた。
 彼らがディッシュと呼ぶボードは、水に沈むことなくその上を滑り出した。昼にシニストラ・ラウルスが空へ飛びあがったときに使ったように、それ自体は、限定的ではあるが飛空挺と同じ原理で飛行滑空能力を持っている。
 漆黒の鏡のような水面に、水の飛沫が立つ。星を映した湖面をかき分けて進む様は、さながら夜空の星をかき分けて進んでいるかのようだ。
「面白いな、これは」
 早くも扱いになれていきながら、トライブ・ロックスターが言った。
「手みやげもある。さて、急ぐか」
 
「さて、どうするか」
 自分にあてがわれたディッシュを前にして、レイディス・アルフェインは躊躇していた。このまま出撃してしまえば難なく脱出できるが、それでは、今捕まっている者たちを助け出すチャンスがなくなる。
「もらいにゃ!」
 迷っているレイディス・アルフェインの後ろから飛び出したシス・ブラッドフィールドが、彼の乗るはずだったディッシュを奪っていった。
「にゃはっはははは、一番乗りで、鯉を食べるのにゃ!」
 大声で笑いながら、シス・ブラッドフィールドはトライブ・ロックスターたちの後を追いかけていった。
「何をやっている。しかたない、お前は後方待機だ。サポートへ回れ」
 シニストラ・ラウルスに叱責されながらも、レイディス・アルフェインは都合よく海賊船に残ることができた。
「まったく、これだから現地徴用の奴らは扱いにくくて困る。戻ってきたら、楽器にしてやるか」
 シニストラ・ラウルスはぼやいたが、はたしてシス・ブラッドフィールドがその後戻ってくる保証などないのが真実であった。
 レイディス・アルフェインは周囲に気をつけながらなんとか船室に引っ込むと、ウィルネスト・アーカイヴスたちの囚われている船室へとむかった。
 
    ★    ★    ★
 
「ん? 何かきます」
 小型飛空挺でパトロールに出ていたガートナ・トライストルは、そばを飛ぶ島村幸に注意を促した。
「見えた!」
 漆黒のスカートを風にはためかせながら、小型飛空挺に乗った島村幸が答えた。黒い衣装は、夜の湖の色に溶け込んで、ともすれば見失ってしまいそうな気がする。
「離れないで!」
 思わず、ガートナ・トライストルは口にしていた。
 パンと、発砲音がする。
「ビオス!」
「あいよ!」
 ガートナ・トライストルに言われて、後ろに乗っていたアスクレピオス・ケイロンが光術で上空に発光信号を上げた。
 島村幸の方は、星輝銃の光弾にアルティマ・トゥーレの冷気をまとわりつかせて撃ち出していた。低い弾道によって真下の水が次々に凍りついていき、湖面に細く白い氷の筋が一本つけられた。それが、敵を左右に分かれさせる。
「一端引きます。数が分からなければ不利です」
 ガートナ・トライストルが島村幸を促した。泥棒など恐るるにたりないが、今は島村幸に傷一つつけたくはない。
 島村幸はさすがに一瞬抗議したが、すぐにガートナ・トライストルに従った。
 
「戻ってきた。あの後ろにいるのが賊じゃな。おーうい、そこな者たち、おとなしく降参するのじゃ!」
 戻ってくる島村幸たちの後ろにかすかに見える波飛沫を見て、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が叫んだ。
「それ以上近づくと、攻撃しますよ。警告はしました。おとなしくしてください。さもないと……」
 樹月刀真も、なんとか説得しようと大声を張りあげる。
「さもないとこうじゃぞ!」
 言うなり、ファタ・オルガナが氷術で作りだした氷つぶてを夜の闇の中に無造作に放った。
「ちょっと、まだ返事もないのに攻撃は早いですよ」
「返事がないからもういいであろう」
 あわてる樹月刀真に、ファタ・オルガナはしれっと答えた。
「ああ、なんか、ボクみたいな猫の気配がくるよ」
 フィリア・バーミーズ(ふぃりあ・ばーみーず)が、そう言ってファタ・オルガナの後ろに身を隠した。
「どこじゃ」
 あわてて、ファタ・オルガナが周囲を見回す。
 そのとき、水面で何かが破裂した。
「トラップに引っかかりました、むこうです」
 漆髪月夜が、音のした方を指さした。
「どうした、何かあったか」
 音を聞きつけて、ココ・カンパーニュが駆けつけてくる。
「月夜、黒の剣を!」
 何かが突っ込んでくるのを見て、樹月刀真が叫んだ。すぐ後ろへ駆けつけた漆髪月夜の腹のあたりから、漆黒の光条兵器を引き出す。そのままの勢いで、樹月刀真は下から上へと、その乗り物を斬り上げた。
 何か板の様な物が真っ二つになる。その上から、小さな黒い影が飛び出した。その勢いのまま、ココ・カンパーニュに飛びかかっていく。
「おねいにゃ〜ん♪」
「な、なんだ!?」
 思わず飛びかかってきた者をぶちのめそうと拳を繰り出しかけたココ・カンパーニュはあわててその動きを止めた。後一瞬それが遅かったら、今頃、飛びかかってきたシス・ブラッドフィールドは、名もなき肉塊に姿を変えていただろう。
 攻撃されなかったのをいいことに、そのままシス・ブラッドフィールドはココ・カンパーニュの豊かな胸に張りついた。
「おねいにゃ〜ん♪ すりすりすり」
「えっ、いや? にゃんこだー」
 思わず、本能的にココ・カンパーニュがシス・ブラッドフィールドをだきしめてしまう。
「おねいにゃ〜ん♪ ああ、至福……しぶく……ぶくぶくぶく……かくっ……」
「ちょっと、ちょっと、リーダー、猫ちゃん泡吹いてる、泡。絞め殺してるって」
 それを見た、リン・ダージが、あわててココ・カンパーニュを止めた。
「それ、ケイの所のシスさんじゃない」
 ココ・カンパーニュの腕の中で泡を吹いてぐったりしているシス・ブラッドフィールドを見て、ソア・ウェンボリスが言った。
「知り合いか、じゃあ、預かっといてくれ」
 そう言うと、ココ・カンパーニュは、シス・ブラッドフィールドを思いっきりソア・ウェンボリスの方へポイと投げ渡した。だが、速すぎて、とてもソア・ウェンボリスでは受け止められない。
「どすこーい!」
 間一髪、雪国ベアが張り手よろしく突き出した手で、シス・ブラッドフィールドの頭をぎゅむっとつかんだ。
「ふっ、天国の後には地獄が待っていると相場が……」
「だめでしょ、てや〜っ!」(V)
 なぜか勝ち誇る雪国ベアの頭を、ソア・ウェンボリスがスパコーンと叩いた。
「二度殺してどうするの」
「いや、まだ死んでないと思うよ」
 ファタ・オルガナの後ろに隠れながら、フィリア・バーミーズが言った。
「しかたない、わしが驚きの歌で起こしてやるのじゃ」
 ファタ・オルガナが、そう言ってシス・ブラッドフィールドのそばに進み出た。
「猫踏んじゃった♪ 猫……」
「みぎゃあ!」
 即座に息を吹き返したシス・ブラッドフィールドと、なぜかフィリア・バーミーズが、あわててその場から逃げ出していった。
 
「こっちは明かりで丸見えで、敵が暗闇でまったく見えないんじゃ不利よね、まったく」
 状況がまったくつかめなくて、カレン・クレスティアが唸った。
「なら、光精の指輪で照らすのがよいのだ」
「そうしましょう。頼むよね」
 ジュレール・リーヴェンディの提案に即座に賛同して、カレン・クレスティアは言った。
「手伝おう」
 そばにいた本郷涼介が、助力を申し出た。
「来たれ、我と盟約せし、光の精霊よ!」
 光精の指輪を填めた手を高く挙げて二人が言った。指輪に光が集まり、小さな妖精の姿となる。二人の妖精は軽く顔を見合わせると、湖の方にむかって飛んでいった。
 とたんに、水上にいくつかの人影が浮かびあがる。
「見つかったか」
 そう言うなり、人影の一つがボウガンを構えた。
「危ないんだもん!」
 素早く移動したクレア・ワイズマンが、タワーシールドを構えて、飛んできた矢を弾き返した。
「ありがと、やっと見えたよ」
 そう言うなり、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が星輝銃を撃った。それにあわせて、ジュレール・リーヴェンディも敵を狙い撃つ。
 軽く手傷を負って、敵が光精の光の届かない所まで後退した。
 あちこちで光術や小型飛空挺などによる索敵が行われ、狙撃されることを恐れて海賊たちはうかつに近づけなくなっていた。
「アイス!」
 氷術による氷塊をいくつも浮かべて海賊の足止めをしながら、フリードリッヒ・常磐が敵を一人連れてきた。
「ラッキーですぅ。敵さんが、むこうからやってきましたですぅ」
 神代明日香が、フリードリッヒ・常磐の後ろからやってくる敵を指さして言った。
「分かりました。敵を排除いたしますわ」
 生け簀に固定した機関銃の台座に、開いた両足を突っぱねるようにして身体を固定した神代夕菜が答えた。
「えっ、でも、ちょっと待ってですぅ。殺気があまり感じられないんですぅ」
「でしたら、なおさらチャンスですわ。こっちに来る前にやっつけちゃいましょう」
 神代夕菜が、銃口を敵に合わせた。
「ちょっと、待て。こいつは味方だ」
 あわてて、フリードリッヒ・常磐が間に入って攻撃をやめさせた。
「その通り。潜入して、敵を調べてきたんだぜ。とにかく、ココとやらに説明させてくれ」
 助かったとばかりに、トライブ・ロックスターが言った。
「敵から逃げてきた奴がいたって? 本当に潜入してたんだ」
 小鳥遊美羽に呼ばれてきたココ・カンパーニュが、そう言ってちょっとわざとらしく驚いてみせた。本当は、そんな者なんていなかったことにして敵を殲滅しようとしていたのが見え見えだ。
「ちゃんと、奴らの襲撃の相談の様子を動画に撮ってきたんだぜ」
「それは、お手柄かな」
 あまり興味なさそうに、ココ・カンパーニュは言った。
「なんか、あまり興味なさそうだなあ。まあいいや、こいつをやるから一つ頼みがある」
「なんだ」
 面倒くさそうに、ココ・カンパーニュは聞き返した。
「一つ俺と手合わせ願えないかな。強い奴ってのは、ちょっと好みなんでな」
「やれやれ、またそんな奴か。いいぞ、いつでも」
「相手をなめると怪我するぜ!」
 言うなり、トライブ・ロックスターはまだ構えもとっていないココ・カンパーニュにむかって、バーストダッシュで突っ込んでいった。一発入れて、男の優位さを教え込んでからかっこよく去るつもり……だったのだが。
「遅い」
 ココ・カンパーニュがブンと振った片手の拳圧をもろに食らって、トライブ・ロックスターは吹っ飛ばされた。なまじ、バーストダッシュで勢いをつけすぎていただけに反動もすごい。
 そのまま飛ばされて、トライブ・ロックスターは小鳥遊美羽をかすめるようにして監視小屋に突っ込んでいった。
「大丈夫?」
 あわてて、小鳥遊美羽が様子を見にいく。監視小屋の壁が壊されて、中はぐちゃぐちゃだ。
「やれやれ、せっかくさぼっていたのに」
 中にいたマサラ・アッサムが、困ったように言った。
「さすがにこの状況では、まずいですな。あまり、破壊活動をされますと、それがしとしても、当局に通報せねばなりませんし」
 ずっとマサラ・アッサムとお茶を飲んでいた道明寺玲が、淡々と言った。
「助けてあげないとだもん」
 瓦礫の中からトライブ・ロックスターを引っ張り出して小鳥遊美羽が言った。
「しかたないなあ」
 嫌々という感じで、マサラ・アッサムがヒールを使う。
「この人、泥棒さんの証拠を手に入れたと言ってたんだよね」
「ほう、それは興味深いことですな。どれどれ。ふっ、隙があるな」(V)
 小鳥遊美羽に話を聞くと、道明寺玲はトライブ・ロックスターの携帯からデータを自分の携帯に移した。
「これは後で、それがしが当局に提出しておきましょう」