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第8章 汚物


 夢を見ていた。
 理沙に猫の鳴き真似がバレてトコロテンにされた水上光は、夢を見ていた。
 それは、パンダにやられた猫が巫女さんになるという夢だった――

 光は、夢の中で目を覚ました。
 隣には巫女姿のウィルネストが眠っていた。反対側にはやはり巫女姿の鹿次郎も眠っている。
「んぱー。……なんか、変だな」
 よく見ると、周も、薫も、陽太も、ハーポクラテスも、寛太も、総司も、庭でトコロテンだったクライスも、みんな巫女装束をまとっていた。
 なんという不思議な世界。
 そして、鏡を見ると……自分も巫女だった。
「あーっはっはっは」
 これはもう笑うしかない。
「ボク、よっぽど巫女さんのことばっかり考えてたんだね。あーもうバカみたい。漢になりたくてのぞき部入ったのに、巫女さんになっちゃったよ。はっはっはっは!」
 光は腹を抱えて笑って、床板をバンバンと叩いた。
「床だ……」
 ここは、本殿の脇にある能舞台で、薪能などをするためのものだ。
 観客もいっぱい集まっていた。
 舞台の近くまで来てカメラを構えている人もいて、一番手前には天敵の理沙もいる。
「わあ。みんなが見てる! 恥ずかしいけど、でもどうせ夢だもんな。遊んじゃおうっと」
 とことこ歩いて舞台の中央まで行くと、猫のポーズをとって……
「にゃあ!」
 と、そのとき!
 ボッコーッ!!!
 理沙が光の顔面をパンチした。
「うぐぎゃああ! い、痛いッ! ななななんで!! 夢なのに〜〜!!!」
 顔を押えてのたうちまわっていると、あついソウル子守歌シンガーのプレナが人差し指をゆらゆらさせながら上手からやってきた。
「ちっちっちっ……。これは夢じゃないひゃっはぁ〜!」
 そう。これは夢ではない。現実だった。
 光はプレナから逃げるように下手に這っていく。
 と、今度は波音が立っていた。
「んっふっふ〜。どこに行くの? ショーが始まるよ?」
 能舞台の上には、“ザ・巫mensショー”と大きな垂れ幕が飾られていた。
「これは、巫女さんならぬ巫男さんのファッションショーだあっ!!」
 人をのぞいてばかりいるのぞき部に、逆に見られる怖さを思い知らせるための波音流のオシオキだった。
「さあ、モデルさんは笑顔だよっ!」
「そ、そんな……」
 光は真っ青な顔でうろたえるばかり。
「ほらほら、ファッションショーだぞー! モデルみたいに笑えーっ!!」
「……にゃっ!」
 光はパニックに陥り、猫耳がぴょこんと出て、猫のようにちゃかちゃか歩いて逃げ出した。
「にゃあ!」
 が、目の前には波音のパートナーアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)が釘バットをちらつかせて立っていた。
「ほんとのキャットウォークしてどうするんですか」
「にゃああ……」
 アンナは釘バットをぶんぶん振り回して、やさしーく微笑む。
「これは、強力なお祓い棒ですが、取り憑いた猫を私が祓ってあげないと笑顔になれないのですか?」
 光が冷や汗をだらだら垂らしている。
 アンナはお祓い棒を大きく振りかぶって、叫ぶ。
「きえええええええええええええええ!」
 パッ!
 光の猫耳はひっこんで、スッと立ち上がった。
 そして、観客に向かって……にこっ!
 ちょっと引きつってはいるものの、モデルっぽい笑顔だ。
 そして、他の部員も強制的に起こされた。
 脳みそがトコロテンなこともあり、言われるがまま引きつった笑顔で舞台を何度も歩かされた。
「なんだよ、この格好っんぱ!」
「んぱ。恥ずかしんぱでござるよ……」
「み、見ないでくだんぱーっ……!」
 観客はこの余興が気に入ったらしく、舞台に投げ銭していた。
 波音とプレナは、舞台のあっちとこっちでウインクしていた。
「まさにスーパーミラクル全開な大勝利〜! だね♪」
「スーパーミラクルひゃっはぁ〜♪」
 その頃、風邪で高熱の出てるあつい男、エースはまだ参道を歩いていた。
 そして、この“ザ・巫mensショー”に気がついた。
「ああ、やっぱり俺は正しかった。仲間がこんなにいるじゃねえか……!」
「ダメだよ。あれは違う。なんかおかしいもん」
 クマラが止めるが……無駄だ。
 エースは「仲間」を見て少し元気になっていた。
「俺も巫menになるぜー!」
「エース。無理でしょ。衣装がないもんね?」
「甘い。そんなものは……用意してある!」
 鞄から巫女装束を出すと、客席でそそくさと着替えはじめた。
 巫女姿になったエースを見て、クマラはもうあきらめた。
 ヤケになったのか、仕事中の巫女さんにまだ10歳の外見を生かして突撃した。
「巫女のおねえちゃん。オイラ、おしごと手伝おうか?」
「おやおや。可愛いことを言ってくれますな。でも、これはそれがしの仕事。子供にはお菓子をあげようかな」
 巫女さんの道明寺玲は、クマラにお菓子をあげた。
「やったー!」
 クマラは、無邪気に喜んで見せた。
 お菓子大好きなクマラの、狙い通りだった。
 そして、舞台でショーに混ざっているパートナーを、お菓子を食べながら見ていた。
「あんなバカなこと自分からするなんて、エースだけだよねー」
 しかし、それは間違っていた。
 あの男を忘れてはいけない。
 そう、あつい部の明智珠輝だ。
「これは、ファイファーです! たまらなくファイファーですっ!」
 緋袴から見えそうで見えない男子の秘め園チラリズムに、あつく悶えている。
 その隣で、藤咲 ハニー(ふじさき・はにー)は大笑い。
「なーにやっての、これ! みっこみこに最高じゃないの!」
 ハニーは何故かウサギの耳をつけた、ウサギ巫女だ。
 耳をぴょんぴょんさせてはしゃいでいたが、ふと周囲が若人ばかりだと気がついた。
「待て待てあたし。落ち着けあたし。やっぱり今年こそは恥じらいある女性になるべきか? それがイケメンの好みなのか?」
 うんうんと頷くと、徐ろにロケット花火に火を点け、舞台に向けて乱射!
「きゃーーー。のぞき部よー! こわーーーいっ!!」
 ロケット花火がことごとく「モデル」たちの尻に突き刺さっていくのを見て、珠輝がたまらず立ち上がる。
「く、くふ、ふははは。くはははははーーーっ!」
 あつくなりすぎた珠輝は、いつの間にか自分も巫女装束に着替えて舞台に猛ダッシュ。
 中央にデデーン! と立つといきなりの年頭宣言。
「世界チラリズム党党首、明智珠輝です! 今年こそチラリズムが世界を握るのです!」
 客席で腕を組んで見守っていたあつい部部長に、緋袴をチラリとさせてさりげなく猛アピール。
「ふふ。私自らチラリズムを放出させてしまいましたねぇ……我があつい部部長さん。あまり裾の中をのぞかないでくださいよ……キャンタマが見えてしまいますからっ!」
「……」
 そして、舞台上で変態と変態が出会ってしまった。
 鹿次郎が、珠輝のチラリズムにすっかり翻弄され、舞台は変態ブラッドで溢れた。
 珠輝と鹿次郎を中心に、全員が滑って転んでもみくちゃになって掴んで触ってめくって漏らして洩らして垂らして流して入れて入れられて感じて泣いて鳴いて悶えて苦しんで喘いで叫んでとろけてトコロテンになっていた……。
「だーっっはっは。こりゃ最高じゃな」
 忍が大笑いしながら撮影していた。
 もちろん魂サーモメーターはとっくに壊れていた。
 そして、この舞台上の「汚物」に対してキレまくっている、あつい部の部員が1人いた。
 今までは部長のケンリュウガーが止めていたのだが、ついに我慢の限界だと立ち上がった。
 ――ほんとに“あつい”というのは、どういうことなのか。
 それを、観客含めたここにいる全員が思い知ることになる。そのパラ実ならではの残虐非道なあつさは部長をも凌ぐと言われ、既にあつい部の左大臣という役職についている女性、ガートルード・ハーレックだ!
「汚物は……しょーーーっきゃくですッ!!!!!」
 客席から部長の制止を振り切って駆け出すと、舞台に向かってまっしぐら!
「ここは神社だ。や、やりすぎはいかん……!」
 部長はガートルードの暴走を止めるべく追いかけるが……
 ドドドーン!
 身長約3メートルの巨漢ドラゴニュート、ネヴィルが立ち塞がった。
「……あつく行こうぜ」
「ぐぐ……」
 そして、ガートルードは舞台に到達。
 目の前の「全汚物」に対して、……怒りのファイヤーストームッ!!!!!
「くらええええええええええ!!!!!!!!!!!」
 ヴオッフォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!
「ぎゃあああああ!」
「んっぱーーーーーー」
「や、焼ける〜〜〜」
 なんと、舞台ごと焼き尽くしてしまった。
 燃えさかる炎の中で、あつい部の珠輝が息絶えようとしていた。
「チラリズムよ……永久にッ!!!」
 ガタガタガターン。
 こうして舞台は焼け崩れて、消防車までがやってくる大騒ぎとなった。
 のぞき部員は丸焦げトコロテンとなって本殿前に目立つように吊されて、それをパンダ隊が見張っていた。仲間が助けに来たところを討ち取ろうという作戦だ。

 この悲惨な状況を、遠く離れた参道から見ているのぞき部員がいた。
 光るちんちん王、にゃん丸だ。
「ちくしょう……!」
 にゃん丸はみんなを救おうとしていたが、1人のメイドガールがそれを止めた。
「残念ですが、皆様はここまでの命でございます。皆様の遺志を継ぐためにも、私たちは前に進まなくてはなりません。のぞくことこそが最終目標でございます」
「そりゃそうだけど……」
「女子のぞき部はこの隙に本テントに行って参ります。……例の作戦を実行に移す時間でございます」
「あれか。……わかった。じゃあ、俺は偽テントに仕掛けをして、あつい部をやっつけるぜぇ」
 2人は健闘を誓い合い、別れた。
 最重要ブラックリスト“エロ蟻地獄”のつかさは、名参謀である桐生ひなを従え、本テントに向かった。