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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「ああ、無事に見つかったのだな。よかった」
 やっと倉庫の中から脱出して通路に戻ってきたココ・カンパーニュたちと鉢合わせして、相馬 小次郎(そうま・こじろう)がほっと安心したように言った。その手では、鎖に繋がれたジュエリーの振り子(ペンデュラム)がゆらゆらとゆれている。
「せっかく、ダウジングで捜していたのに、魔法実験部としての成果を出せなかったわ。菫、いたわよー、こっち、こっち!」
 相馬小次郎の持っていた物とは色違いのペンデュラムをヒュンと一回転させると、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)は、少し離れた所で倉庫の中を捜していた茅野 菫(ちの・すみれ)を呼んだ。
「ええっ、あたしたちの力で最初に捜し出す予定があ……」
 これは予想外だと、パビェーダ・フィヴラーリと色違いのペアルックを着た茅野菫が急ぎ駆けてきた。
「やはり、このような物に頼らないで、素直に物音が聞こえたときにすぐ駆けつけていればよかったのではないのか?」
 作戦ミスだと言わんばかりに、相馬小次郎が言った。
「何よ、むやみに捜すよりも、この方法が一番確実なのよ」
 負けじと、パビェーダ・フィヴラーリが言い返す。
「まあまあ。ココさんが無事に見つかったんだから、よしとしましょうよ」
 ここで言い争いをされては困ると、茅野菫が二人の間に入った。ココ・カンパーニュを見つけられたのだから、予定通りの行動に移らなければ。
「実は、今あたしたちの魔法戦闘航空団では、絶賛新入部員を募集中なんだよ。あんたは、ドラゴンで空中戦もできるんだし、ぜひうちの部に入部してくんないかなあ」
「ちょっと待って、私はパラ実生だよ。イルミンスールのクラブに入るのはおかしいんじゃない?」
 入部届片手に勢いよく迫る茅野菫に、ココ・カンパーニュが困ったように言い返した。
「おいおい、ココさんの言うとおりだろうが。部外者を入部させてどうする」
 高月芳樹が、呆れて茅野菫に言った。
「うっさいわねえ。入部してくれればいいのよ。別に幽霊部員だった構わないんだから。ドラコンライダーのあんたが在籍してるというだけで、もっの凄い宣伝になるんだから」
「私は、客寄せパンダか!?」
 さすがに、ココ・カンパーニュも呆れて口をあんぐりと開ける。
「サインだけでいいんだからさあ」
 なおも迫る茅野菫の持つ入部届を、横合いから誰かがひょいと横取りした。
「なになに……くだらねえ契約書だぜ。どうせ客寄せするなら、もっとでっかくやんなきゃあな」
 国頭武尊は、茅野菫から奪い取った入部届を一瞥すると、ポイとそれを投げ捨てた。
「ああ、入部届が……。パヒューダ、追いかけてよ!」
 あわてて茅野菫が飛んでいった入部届を追いかける。
「もう、しょうがないんだから」
 まるで風にあおられているかのように飛んでいく入部届を追って、茅野菫とパビェーダ・フィヴラーリが走っていった。
「まったく、よけいなことをする。おぬし何者だ?」
 居残った相馬小次郎が誰何した。だが、本人が名乗るよりも早く、その場にいた二人の男が声をあげる。
「おい、国頭、なんでお前がここにいるんだ!?」
「そうだ、ここはイルミンスールだぞ」
 国頭武尊の顔を見た、ラルク・クローディスと高月芳樹が、意外そうに言った。
「こまけえことはいいんだよ!!」
 疑問を一蹴すると、国頭武尊はココ・カンパーニュの方をあらためてむいた。
「ちょっと待て、国頭って……、お前……、そうかお前かあ!」
 言葉と同時に、思わずココ・カンパーニュが拳を握りしめた。
「ちょっと待て、何か誤解してるようだから、今日はその誤解を解きにわざわざやってきたんだぜ」
 そう言うと、国頭武尊は、ヴァイシャリーのはばたき広場で撮ったビデオの件を素直に話した。もちろん、彼なりにだが。
「そういうわけで、オレは、君たちのプロモーションビデオを正式に売りたいんだ。もちろん、今までの売り上げもちゃんと山分けにするぜ。どうだい、アイドルデビューだぜ、悪くない話だろう?」
「何言ってんのよ、欺されちゃだめよ、こいつの言うとおりにしたら、アイドルデビューどころかアダルトデビューだからね」
 熱弁する国頭武尊に、横から葛葉明が突っ込んだ。
「ココちゃん、同じキマクにいるパラ実だから知ってるけど、こいつの撮ってるビデオってパンツビデオだからね」
「なんだそれは、どこにあるんだそのビデオは!」
 ココ・カンパーニュとラルク・クローディスが、別の意味で叫んだ。
 馬鹿、ばらすなよと、国頭武尊が渋い顔になる。
「大丈夫だ。オレが君のパンツを撮影したビデオを販売すれば、購入した者は君のパンツを見て幸せになる」
 国頭武尊の言葉に、思わずラルク・クローディスが本能的にうなずいてしまう。
「そして、オレや君は、ビデオの収益で幸せになれる。君のパンツはみんなを幸せにする、魔法のパンツなんだ!! だから、これからもパンツビデオに出演してくれないか」
「アホか、お前は……」
 力説する国頭武尊に、さすがにココ・カンパーニュも開いた口が塞がらない。
「誰がそんなビデオに出るって言うのよ。さっさとマスターを渡しなさい。さもないと、綺麗さっぱり汚物は消毒するわよ。だいたい、私はスコート穿いてるから、撮影したってパンツなんかじゃないんだから。ほら」
 そう言って、ココ・カンパーニュが軽くスカートの裾をめくってみせた。
「おお、俺たちにとってはそれはそれで充分に御褒美です!」
 国頭武尊とラルク・クローディスが歓声をあげた。その叫び声に隠れるように、かすかにシャッター音が聞こえたような気がする。
 さすがにまずいことをしてしまったと、ココ・カンパーニュが顔を赤らめる。
「芳樹の目は、私の命に代えても守る」
「ちょっと待て、アメリア。なぜ目隠しを……」
 高月芳樹が、アメリア・ストークスに目隠しされて叫んだ。
「完全なセクハラだな」
 相馬小次郎が、不快そうに言った。
「そうよ、パンツがなんだって言うのよ。女は胸よね、胸なんだもん!」
 そう言うなり、自称おっぱいハンターを名乗る葛葉明が、ココ・カンパーニュの豊かなバストを後ろからむんずとつかんだ。
「な、何を……」
 さすがに、ココ・カンパーニュが焦る。
「セクハラじゃないの! あくまで愛情表現なのよ!」
「誰が信じるかあ!」
 弁明する葛葉明の襟首をつかむと、ココ・カンパーニュはそのまま前へ投げ飛ばした。
「あ〜れ〜」
 大きく宙を舞った葛葉明の身体が、もんどり打って床の上を転がった。
「くぎゅう〜!!」
 おかしなことに、投げられたのは葛葉明一人だけだったはずなのに、床の上を転がっていってのびたのは、彼女と猫井又吉の二人だった。
「いったいどうなってるのよ」
 ココ・カンパーニュが近づくと、猫井又吉の手からコロンとハンディビデオカメラが転げ落ちた。そのはずみに、撮影確認ボタンが入って、撮ったばかりの映像が小型有機液晶画面に再生される。
『――だいたい、私はスコート穿いてるから、撮影したってパンツなんかじゃないんだから。ほら……』
 ココ・カンパーニュの音声とともに、超ローアングルから撮影された映像がモニターに映し出された。光学迷彩で姿を隠したまま入部届を階段下に投げ捨ててきた猫井又吉は、戻って来るなりシャッターチャンスは逃さなかったのである。
 バリン!
 ココ・カンパーニュの足が、ビデオカメラを粉々に踏み砕いた。
「あああ、オレのカメラが……」
 言ってしまってから、国頭武尊がしまったという顔になったがもう遅い。
「ほーう。これはすべて貴様の差し金かあ」
 ギロリと、ココ・カンパーニュが国頭武尊を睨みつけた。
「星になれ!!」
 拳を振りあげて、ココ・カンパーニュは叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
 ちゅどーん!!
「なんですか、今の衝撃は!?」
 生徒たちだけに任せてはおけないとゴチメイたちを探していたアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)教諭は、騒ぎに気づいて走りだした。
「そちらであるな」
 放っておいた使い魔が、騒ぎの場所へと主人を案内する。
「心配が、現実となったようであるな」
 すぐ後ろを走る司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)が言った。
「まったく。部外者を学内に入れるのはいいが、こういうことを起こさないという誓約書を事前に書かせるべきであっただろうに」
 愚痴を言ってはみるが、騒ぎが起こってしまった後では意味がない。
 二人が現場に駆けつけると、ずだぼろになった国頭武尊と猫井又吉の二人と、とばっちりを受けた他の生徒たちが呆然と立ちすくんでいた。
『誰ですぅ、学内で騒いでいるのは。すべてお見通しなのですぅ!』
 どこからともなく、エリザベート・ワルプルギスの声が響き渡った。同時に、床からのびあがった蔦が国頭武尊たち二人を雁字搦めに縛りあげた。
「くぎゅう〜」
「お待ちください、校長」
 アルツール・ライヘンベルガーが、猫井又吉の中身が絞り出される前にあわてて割って入った。
「世界樹の中で、パラ実とはいえ、他校生を絞め殺したとしたら、後処理が面倒になるだけです。はっきり言って、特別手当が出なければもみ消し工作はやりたくありません」
 突っ込む所はそこなのかと、学生たちが一斉にアルツール・ライヘンベルガーを見た。
『分かってるですぅ。でも、セクハラはお仕置きですぅ。早く、お外にポイしてくるですぅ』
「ははっ、仰せのままに」
 アルツール・ライヘンベルガーがうやうやしく一礼すると、国頭武尊たちを締めあげていた蔦がシュルシュルと床に消えていった。
「まったく、パラ実生というものは、他校で問題を起こすのがよほど好きと見える」
 アルツール・ライヘンベルガーは決めつけると、生徒たちに気絶している三人を運び出すように指示した。
「悪いのはこいつらです」
 ココ・カンパーニュと生徒たちが、声を揃えて国頭武尊たちを指さした。
「とにかく、エントランスまで下りよう」
 話は道々聞くと言って歩き出す。とりあえずここにいてもまずいだろうと、ココ・カンパーニュたちはそれに従った。
 エントランスに続く中央階段には、なぜかそこら中に怪しげなシールが貼られていた。
「なんだ、これは。後で剥がす身にもなってくれ」
 今日はろくなことがないと、アルツール・ライヘンベルガーがぼやく。
「君たちは世界樹のマップを作りにやってきたはずだが、せっかくマッピングした物を壊して作り替えてどうするのだ」
 エントランスにむかいながら、アルツール・ライヘンベルガーがココ・カンパーニュに小言を言った。
 ココ・カンパーニュといえば、こういうことは慣れっこなのか、静かに聞き流している。
「まあまあ、アルツール、そんな頭ごなしに叱ることもないであろう」
「俺は、これでも心配して言っているのだ」
 とりなすように言う司馬懿仲達に、アルツール・ライヘンベルガーは眉間に皺を寄せながら言った。まったく、このままこの皺が定着でもしたらたまったものではない。これでも、三人の娘の父親なのだ。心配事はいくらでもある。
「そうそう、ワシが空京で経営する店でキャンペーンガールを募集しているんだが……」
「だから、どうしてそういういかがわしいバイトを勧めるのだ」
 今度は、アルツール・ライヘンベルガーが司馬懿仲達に突っ込んだ。
「いかがわしいと決めつけられても……」
「だいたい、学生の本分は勉強にあるべきだろう。バイトに精を出すのも結構だが、どこかに落ち着くことはできないのか。何かしでかす度に逃げ出していたのでは……」
 アルツール・ライヘンベルガーがくどくどと説教する間に、一同はエントランスに戻ってきた。
「おや、リーダー、御無事ですか?」
「あまり無事じゃないけどね」
 先にエントランスに来ていたペコ・フラワリーに訊ねられて、ココ・カンパーニュが憮然としたままで答えた。
「とにかく、他の者を見つけてくるから、それまで君たちはここにいるように」
 ココ・カンパーニュに念押しすると、アルツール・ライヘンベルガーたちは、再び校内に散っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「いったい、ここで何があったんですの……」
 倉庫にやってきた狭山珠樹は、ボコボコにへこんだ壁や、蝶番から外れてブラブラしている扉を見て唖然とした。ここで、ココ・カンパーニュが暴れたと言うことは想像に難くない。
 それにしても、本人たちはどこに行ってしまったのだろう。やはり、ここはなんとか呼びかける方法を考えないといけないのだろうか。