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葦原の神子 第2回/全3回

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葦原の神子 第2回/全3回

リアクション

7・砂の葉

 少し離れた岩に腰を下ろし、なにやら悩んでいる様子だ。
 ぼそぼそ小さな声で話している。相手は、どうやら手ぬぐいの中の歯を持つ生き物らしい。
「どちらにいこうかね、城と祠、もう、生き延びてもよいのだけどねぇ、全ては揃ったようだねぇ」
 今、皆を襲っている小さな魔物はみな砂の葉が作り出したものだ。
 景山 悪徒(かげやま・あくと)が携帯電話ほどの大きさの機晶姫小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)を手にやってくる。
「祠の封印は解いた…後は待つだけでいいのか?」
 ナラカ道人の力を手に入れたい悪徒は、八鬼衆と共に動くつもりだ。
「そうだね、どこに行こうか、城では蟲籠が神子の秘密を探っておったが失敗したようじゃ」
「城に行くなら付き合うぜ」
「いや、どうかね」
「そうだ、こいつを持っててくれ、俺との連絡に使える」
「われらの命運はもうすぐ尽きる、これは入らぬ。それより、そうじゃ。全ての準備は整った。道人様はすぐに復活するであろう、お前の役目は道人様を助けることじゃ。よいか、ここで待て、道人様は寝ぼすけじゃ、忘れるな」
「しかし、待つのは退屈だ」
「全く、何だね、その言いようは」
 砂の葉は、小さな匂い袋を懐から出すと髪を一本引き抜き中に入れる。
「口を開けなければ大儀ない、仲良うなった選別じゃ、さ、行け、誰か来る」
 ブラックコートと光学迷彩を用いて気配を消す悪徒。



 鬼院 尋人(きいん・ひろと)が、近寄ってくる。
 これまでのいきさつは知っている。この旅の女が八鬼衆の一人と承知で、何食わぬ顔で歩み寄っているのだ。
 平静を装ってはいるが、顔が青い。
 隠れ身を使って、見守る呀 雷號(が・らいごう)は、短刀を構えて、尋人を見守っている。

 少し前、尋人は嘔吐している。
「雷號、オレは本当は怖くてしょうがない・・だけど、まだこれが始まりでしかないとすると、こんなところで怯んではいられない。それでは仲間を守れない」
 胃の中が空となり、尋人の気持ちも軽くなった。
「その人、顔が青いねぇ」
 砂の葉から尋人に話しかける。
「腹が悪いようだね、薬ならあるぞ」
「そうやって学生を惑わして、人の弱い心につけ込んで利用するやつが一番オレは許せない」
 意を決して、尋人は砂の葉に駆け寄る。
 剣で髪を払う尋人、手ぬぐいが飛び、髪が露になる。
 返す刀で、髪を絶つ尋人、そのまま飛び去る。
 対峙する二人。
「待て!」
 鋭く声を出すのは、虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)だ。
「すまない、もう一度話をさせてくれ」
 涼は、青ざめる尋人に切願する。。
「知りたいことがあるんだ」
「騙されている」
「でも構わない!」
 涼は砂の葉に向き合う。
「俺に敵意は無い。あんたと少々話がしたいだけだ」
「手ぬぐいを拾っておくれよ、それにね、その人が落とした我が髪、死してないぞ」
 その言葉が終わるか終わらぬか、切り落とされた髪は、小さな動物に変化して二人に牙を剥く。
「悪いが、もうその者どもは我が意には進まぬ、食い殺されず生き延びれば、話をしようぞ」

 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、獣母によって産み直された獣の死に様に憤怒していた。
「…お、前回会った妙な奴がおる。すなのこじゃっけ。」
「…いやおねーちゃんそれ違う。砂の葉。そんな幻の未確認生物の親戚みたいな名前じゃないから!」
 ミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)がつっこむ。
「なるほど、茄子の葉じゃったか。私茄子はそんなに好きではないのじゃが」
「だーかーら、違うってば!どういう聞き間違いなの、耳鼻科行った方が良いんじゃない!?」
「…うるさいのうおぬし。細かい事気にすると身体に悪いぞえ。まあ、なんか周りからの視線が痛い気がするから仲間についてはこの辺で勘弁してやるのじゃ。うむ。」
 
 和やかな顔つきで話す砂の葉だが、周囲にはただならぬ殺気があふれている。
 小さな魔物がセシリアに牙を剥くが、知ったことではない。
「出来るならリスさんとかをあんなにした獣母とやらに文句を言いたかったが、それは叶わぬ。代わりに仲間のおぬしをぶっとばすのじゃ。ふっふっふ、この私は人間よりも動物を大事にするのでのう。覚悟するのじゃー!」
 砂の葉が二人を見る。
「騒がしい子らだのう」
「あ、ごめんなさい砂の葉さん。こっちは無視してくれて結構です。…無視してくれないと思うけど」
「無視するかしないか、髪が決めることじゃ」
 小さな魔物は、セシリアとの間合いもつめる。

 サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)と共に比島 真紀(ひしま・まき)は、木の上にいた。
「今なら狙えるか…」
 動かない砂の葉に標準をあわせる真紀。
「いや、気をつけないと巻き添えを出すな。周囲から人が離れるのを待とうか」
 サイモンは慎重だ。
「それに・・・」
「あの髪でありますか」
「ああ」
「砂の葉が死ねば、髪の魔物も死ぬとは思えません」
「頭ごとぶっ放す、焼くかな」
「人の姿をしているだけに…」
 ライフルの標準を砂の葉にあわせる真紀。
「生け捕りますか」
「できるかなぁ」
 サイモンは、木の下で行われる戦いを見ている。

 尋人は、エンデュアとディフェンスシフトを使い、襲ってくる魔物を盾で防ぎながら、超感覚で素早く動き本体に一撃を見舞う隙をさぐっている。
 心ならず戦うことになった涼は、アーミーショットガンで滅多打ちだ。
 違う目的を持って砂の葉に接する二人だが、戦いの息はあっている。頭上に飛ぶ魔物は…
 雷號が短刀で突き、真紀がライフルで狙う。
 砂の葉は、運命を受け入れたようにただ見ている。
 セシリアは、ファイアストームを全部焼き尽くす勢いで襲ってくる魔物を焼いている。
「動物に優しいんじゃ…」
 ミリィは蛇に怯えて動けない。
「何を言う。あれはただの茄子の髪の毛、つまりあれらはただのあやつの一部じゃー!
 …まあ少なくとも自然の蛇や動物と一緒にしたら蛇さんが可哀相だと思うのじゃ。」
 上からの援護に気が付くセシリア。
「そうか、あのものに額を打ち抜いてもらい、火をつければ髪も燃えるのじゃ、どうだ、名案であろう」
 魔物は粗方片付いた。
 涼がセシリア歩み寄る。
「すまない砂の葉と話をしたいんだ、八鬼衆は道人を復活させて何をしようとしているのか、道人は八鬼衆にとってどんな存在なのか、道人はどのような力を持っているのか、八鬼衆は特異な能力を持っているが、道人もそうなのか、聞きたいことがあるんだ!」
 砂の葉が立ち上がった。
「その返事は知る必要はないぞ、すぐに分かるからの」
 髪を掴むと、砂の葉は攻撃に転じた。一斉に髪を抜き去ろうとする、その刹那、真紀のライフルが火を噴いた。
 砂の葉の額に、小さな穴があく。
「いまじゃ」
 セシリアがアシッドミスを髪に打つ。酸の霧が砂の葉に注がれる。のたうつ髪。
「悪いが誰か、首を撥ねてくれぬかのう、このものたちはなかなか死ねぬらしい、このままでは苦しかろう」
 髪につく歯が激しく音を鳴らしている。
 尋人、素早く、まだ腰掛ける砂の葉の横を通り過ぎる。首が落ちる。
 セシリアがその死骸を焔で包んだ。
「ところで先ほどのものは何者ですか」
 真紀が聞いているのは、悪徒の存在だ。
「八鬼衆ではなかったなぁ」
 雷號も悪徒を見ている。
「あいつは何を受け取ったのだ?」

 その悪徒は、離れた丘の頂から、砂の葉の最後を見ていた。
「ばあさん、死ぬ気だったのか」
 匂い袋の中で、髪が蠢いている。