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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 前編

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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 前編

リアクション



●中心部で生徒たちを待ち受ける『雷龍』


エリア(4七)

「はい、それじゃマッピング兼囮役、お願いねー」
「ごめんね、ほら、男だから頑張ってね」
「…………」(まあ、引っかかるならそれでいいです。お姉様に迷惑がかからなければそれでいいです)
 鬱蒼と茂る蔦が広がる空間を前に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)が揃ってアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)を先頭に押しやって声援をかける。
「おいどういうことだよ、つうかお前ら全員俺より経験豊富だろうがっ! それにこれは籠手型、マッピングできんのは銃型じゃなかったけっか? 戦闘プログラムで撃破しろってことかよ!?」
 そして、三人に良く言えば先導役、悪く言えば的役を押し付けられたアストライトが、籠手型HCを振り回して反論する。
 確かに、他の生徒が皆銃型HCでマッピングを行っているのだから、そういう機能分担がなされているのだろう。
「そうだっけ? じゃああんたの頭にしてるバンダナにでも書いとけば?」
「うおい、適当だな!! 蒼空学園所属の癖にそんなことも分かってねえのかよ!!」
 なおも反論するアストライトだが、所詮は三対一。すぐに意見を封殺され、泣く泣く一行の先頭を歩くアストライトであった。
 幸い、中心部に向かう一本道であったこと、さしたる脅威が襲ってこなかったこともあって、このエリアの調査は順調に終わった。


エリア(4六)

「ったく、あっちからこっちから蔦が伸びてきて、歩きにくいったらありゃしねぇ。ま、新しく手に入れた武器の具合を確かめるにはちょうどいいかもな……っと!」
 地面から生えてきた脈動する蔦が、アストライトの振るった光の旋棍に根元から引きちぎられ、吹き飛ばされる。
 結局嵌めたままの篭手型HCがアストライトの動きを感知し、最適なパターンの攻撃機動を電気信号で送るため、普段よりも攻撃力が増加していた。
「何か、結果オーライって感じね。構造もそんなに複雑じゃなさそうだし……?」
 空間の真ん中まで来たところで、リカインが正面を見据えて首を傾げる。そこには他と色の違う蔦が、まるで壁のように絡み合って一行の進行を阻んでいた。
「へっ、マッピングなんざめんどくせぇ! 直線で突っ切れば目的地なんだろ!?」
 調子に乗ってきたアストライトがその蔦へトンファーの一撃を振るおうとした瞬間、蔦が電撃を纏う。
 ちょうど高圧電線を張り巡らした柵のように変化したそれに触れたアストライトが、見事に感電して吹き飛ばされる。
「お……ああ……く、くそ……いきなり電撃なんて……卑怯だ、ぜ……」
「調子に乗るからよ。ほら、死んでないんだし、あんた自身で回復しなさい」
 ぴくぴくと身体を震わせるアストライトを放置して、リカインとシルフィスティ、ルナミネスが周囲の地形を確認する。
 色の違う蔦はある地点で直角に折れながら、中心部を囲っているようだった。
「これを解除しないと、この先には進めないってことね」
「フィス姉、どっち行く?」
「うーん……右、かな。なんとなく」
 分かれ道を東側に進むことに決めた一行が、そちらへ足を向ける。
「…………」
「あ、こら、やめろ、枝でつんつんとかするな! 汚物を見るような目すんな!」
 まだ痺れたままのアストライトを枝で突付くルナミネス、果たして彼らは遺跡の謎を解き明かせるのだろうか。


エリア(3六)

 ウィール遺跡は地上フロアと地下フロアがあり、合わせればその高さは最大で10メートルほどあるが、地上フロアだけなら高さはせいぜい5メートル程度である。
 普通ならそれでも十分な高さを持っていると言えるが、篠宮 悠(しのみや・ゆう)のパートナーであるレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)には少々足りない高さであった。
「レイオール、天井を擦らないようにしとけよ。電気が流れてるみてぇだから、うっかり触れると感電するぞ」
「心得ている。ワタシがそのような――ぐおっ!!」
 天井に頭や肩が触れないように注意していたレイオールだが、垂れ下がっていた蔦までは気付けなかったらしく、さらに間の悪いことにちょうど落雷が発生し、触れた先から電撃がレイオールを穿つ。
「く……まだだ、ここでむざむざとやられるようなワタシではない! 遺跡の異変を暴き、必ずや世界に平和をもたらすのが――ぐおおっ!!」
 しばらくしないうちに、次の蔦に肩が触れ、弾ける電撃にレイオールが身を震わせる。
「……あー、いちいち付き合うのもめんどくせぇし、そこで見張ってろよ。俺はこの先の探索してくっからさ」
 現位置から南方向に向かう道を指して、悠が呟く。
「む……やむを得ん、その務め、果たさせてもらおう」
 レイオールが空間の真ん中に立ち、そこから前方、及び左右の警戒を行う。レイオールの上空からの眼差しを受けながら、悠が蔦を潜り抜けて進んでいく。


エリア(3七)

(ここは行き止まりか……ま、こういう所に何かあっかもしれねぇからな。一応探しとくか)
 本数の増えた蔦を鬱陶しそうに潜り抜けながら、悠が周囲の探索を行う。そして、ある地点に来たところで、悠は不思議な感覚に包まれる。
(……ん? 何か聞こえねぇか?)
 立ち止まって辺りを見回す、か細い、まるで助けを求めるような声は未だ続いている。
(どっから聞こえてきやがる? つうか、一体誰の声だ?)
 己のカンを頼りに、悠が声がより聞こえる方角へ足を向けていく。しばらく歩いている内に、聞こえる声が段々とはっきりしてくる。
『うぅ……ぐすっ、誰か助けてくださいよぉ〜』
 まるで涙を流しながら呟かれたような言葉を耳にした悠の前に、とぐろを巻いたような蔦が目に入る。
「おい、誰かいるのか? いるなら返事をしろ」
 槍を携え、いつでも攻撃出来る準備を整えた悠が、その蔦へ声を飛ばす。
「……あっ! やっと気づいてくれました〜。ボクは『ウィンドリィの樹木の精霊』ロロっていいますぅ〜。近くを飛んでいたら捕まっちゃったんですぅ〜。お願いします、助けてくださいぃ〜」
「分かった、今助ける、伏せていろ」
 声を聞き届けた悠が、槍を水平に薙ぎ払い、蔦を切り飛ばす。
「あわ〜、助かりましたぁ。それにしても一体なんですかぁ? どうして蔦がいきなり暴れだしたんでしょう〜」
「……それは俺が聞きたいぜ。で、これからどうするんだ?」
「ん〜、また捕まるのも嫌ですしぃ、お兄さんに付いていくですぅ」
 金色の髪をぴょん、と跳ねさせ、のんびりそうな雰囲気を纏った少女がにこっ、と微笑んだ。


エリア(2六)

(ここは、前に地下だったところがせり上がってきたのでしょうか? もしそうだとしたら、やはり前に来た時と様子が大分変わっていますねぇ)
 ぐるりと周囲を見渡して、かつてここを訪れた時のことを思い返しながら、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が気付いた点をノートに書き起こしていく。
 蔦に覆われている点は同じでも、蔦の形状や色――前に来た時よりも太く、緑以外の色も所々存在していた――に違いが見えた。
「メイベル様とセシリアさんは、以前この遺跡を訪れたことがあるそうですね」
「うん、そうだよ。あの時も大変だったけど、今も大変なことになってるみたいだね」
 一行の先頭で探索に当たっていたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、背後のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)に当時のことを教えてもらう。
「その時の事件はシルフィーリングという、シャンバラ古王国の遺物による影響で起きていた異常事態だったとのことですが、今回もそれと同様の原因なのでしょうか?」
「う〜ん、なんだろう? でもとにかく、この異常事態を収めないと。街の人たちが早く安心できて、そして精霊さんに対する誤解が解けるようにしないとね」
「そうですわね。お二人には経験で劣りますが、それを埋める努力でお応えしますわ」
 フィリッパが頷いて、進路を右に取る。壁のように絡み合う蔦の群れを左に見て進んでいくと、ある地点まで来たところで雰囲気がすっ、と入れ替わる。
 それは、決して好ましくない雰囲気であった。


エリア(2七)

「……どうも、わたくしたちを狙う気配を感じますわ。セシリアさん、メイベル様を頼みますわね」
 光条兵器であるメイスを構えたセシリアに頷いて、剣を抜いたフィリッパの全身を、淡い光が覆う。女性を守る戦いにおいて発揮される強化を受けて、フィリッパが気配のする方へ足を向ける。
「この気配は、一体……」
 セシリアに守られる形のメイベルが呟く答えは、すぐにもたらされる。
 空間の奥、地面から伸び、途中で折れ曲がり、先端が傘のように開いた、シャワーを大きくしたような形をした蔦から、まるで蛇のようにうねりながら進む生物が吐き出される。
 それは電撃を纏っているようで、パチパチと火花を散らしながら、メイベルたちに向かってくる。
「させませんわ!」
 フィリッパが踏み込み、ブレードの一撃をその蛇もどきへ振り下ろす。
 さしたる抵抗もなくブレードは身体を二等分し、そして身体を両断された蛇もどきは、甲高い悲鳴をあげて両方の欠片を震わせていたが、やがてそのどちらも動かなくなり、枯れて朽ち果てていく。
 しかし、フィリッパが一体を倒した時には、既に第二、第三の蛇もどきが出現していた。
「これじゃキリがないよ!」
「……多少の損害は覚悟で、大元を潰しに行きます。セシリアさん、近づいてきた敵の駆除をお願いします」
「うん!」
 頷いたセシリアを頼もしく思いながら、フィリッパが少々強引に蛇もどきを生み出している物体へ攻撃を加えるべく吶喊する。
 既に四匹に増えていた蛇もどきが一斉に電撃を見舞い、うち二発がフィリッパを掠め、火傷を負ったような傷口を形成する。
「この程度で、わたくしが倒れるとでもお思いでしたか? 見かけだけで判断されても困りますのよ!」
 それでも、フィリッパの吶喊は止まらない。一振りで一匹目を、返す刃で二匹目を処理したフィリッパが、そのままジェネレーターに似た物体へブレードの一撃を振るい、傘のように開いた部分を本体から切り離す。
 傘の部分が地面に落ちて風化していくと、残った蔦も途端に枯れ始め、崩れて地面の一部になる。
「このっ、このっ! ……ふぅ、これで全部かな?」
 もぐら叩きよろしく蛇もどきを撲殺したセシリアが、ほっと一息ついて光条兵器を仕舞う。
「放っておけば、遺跡中に今の生物が溢れかえってしまうかもですぅ。見つけることができて良かったですねぇ」
 メイベルの言葉にセシリア、そしてフィリッパが頷く。
 そして、メイベルがこの部屋の情報をノートに書き写し、一行は次のエリアへと向かっていく。