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君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

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第11章 そして、今日も
「これにて蒼空学園を騒がせた事件も一件落着、ですね」
 御神楽環菜への報告を終えた影野陽太は、ようやく緊張を緩めた。
 環菜の様子に特に変わった所はない……怒ってはいないようだ。
 安堵すると共に、少しだけ残念に感じた。
「何はともあれ、学園が無事であったのは喜ばしい事だな」
 同じく報告がてら環菜の顔を見に来たイーオンは、そんな陽太の様子をどこか楽しげに見やり。
「環菜会長、今回の事件のレポートです」
 その横、藤枝輝樹は事件の詳細をまとめたレポートを提出した。
 そのまま記録文書として残せるこれもまた、未来への贈り物となろう。
「御苦労さま。色々と助かったわ」
「あっいや、やはり皆の力が合わさるって凄いですよね」
 わたわたと慌てる陽太と対照的に、輝樹は冷静に提案した。
「礼には及びません。それと、今回の事件の記念碑的なものを作成してはどうですか?」
 事件を忘れない為に、そして、影龍が世界に還った事を喜ぶ為に。
 しかし、環菜は緩く頭を振った。
「それには及ばないわ……影龍はあの子やたくさんの者達の中で生きているもの」
 そう言われてしまえば輝樹はそれ以上は言えない。
 いや、輝樹が言葉を失くした一番の原因は。
 陽太が顔を真っ赤にして目を見開いた理由は。
 ミラーシェード越しにもハッキリ分かった事。
 環菜がそっと、どこか儚くも美しく微笑んでいたからだった。
「……今回の報酬として十分だな」
 イーオンだけは動じずに……ただ少しだけ口元を緩め、退室しようとし。
ふと思いつく。
「今度暇があれば、一緒にコーヒーでもどうだ。良い豆を手に入れたのだが、我が家の家人は紅茶党らしくてな」
「……考えておくわ」
その時にはもう、いつも通りの顔と声だったけれど。
「そうか、では失礼するよ、環菜」
 イーオンはまだ固まったままの輝樹と陽太とを残し、微かな笑みと共に場を辞し。
「なんだ、爽やかな面をしおって」
 出迎えたフィーネはどこかふてくされたように、「ばかたれが」と小さく毒づいたのだった。
「事後処理もよろしく頼む」
 頃合いを見計らい、静麻が提出した書類は、大きく分けて二つ。
一つは、今回の一件で出た被害とその復興及び事後処理の計画及び必要予算を計上した書類。
そしてもう一つは、シャンバラ女王の正式な復活後に、今回の騒動で中断された剣術大会を大々的に再開、以後シャンバラ女王を招き各首長家や有力者による持ち回り式の定期開催の計画書。
持ち回り式剣術大会については、複数の目的を提示しておいた。

1、 形式的なプリンス・オブ・セイバーの後を継ぐ者達の選出
2、 シャンバラ女王が民衆の声を直接聴ける機会の作成
3、 大規模な祭典に付きものの交通網や警備の整備を促す

「まぁ素人考えって言われればそれまでだが、な」
「事後処理については了解したわ。剣術大会については、調整が必要だけど……前向きに検討しましょう」
 静麻を遮り、環菜は早速作業を始めた。
 とりあえず、事後処理かららしい。
 その姿にふと、静麻は疑問を口にした。
「様々な懸案を早急に解決しようとしているが、時間が無いのか?」
環菜がここの所、焦っている様に見えるから。
「……」
 環菜は不意を突かれたように押し黙り。
 そして。
「環菜、今から記念写真を撮るんで君の時間を5分俺にくれ」
「一緒に写真撮ろう」
 ドアを開けてやってきたのは、刀真と月夜だった。
 固まったままの輝樹と陽太、苦い表情の静麻に首を傾げつつ、刀真は環菜の返事も待たずに抱き上げた。
「後でいくらでも手伝うよ」
「刀真……そういう事言うとホントにいくらでも手伝わされるよ?」
 気付いた輝樹達が慌てて追ってき、途中イーオン達にも声を掛けながら刀真は約束の場所に向かう。
 環菜は諦めたように溜め息をもらした。
「環菜……俺達を信じてくれてありがとう」
 その随分と軽い……軽すぎる身体をお姫様だっこしつつ、刀真はそっと囁いた。
「勇さん、刀真さん達が来ました」
「オッケーこれで勢ぞろいかな?」
 目的地である花壇では、既に勇を中心に皆がスタンバイしていた。
「白花、こっち……ピース」
「月夜さん待って下さい……えっと、ぴーす?」
 見よう見まねの白花に、刀真は笑いかけ。
「さあ白花ハッピーエンドだ、これで笑えなきゃ嘘だよな!」
「はい! 私、刀真さんやにゃん丸さんに綺人さん……皆さんに会えて良かったです」
 白花は噛みしめるように、幸せそうに笑んだ。
「はいは〜い、じゃあ撮りますよ〜!」
 そして、勇はシャッターを押した。
 たくさんの笑顔が、満開の花みたいに咲いていた。


「全部、終わったぜ。邪剣にも影龍にも負けなかった」
 報告に言った葛葉翔に、理子は「そう」と微笑んだ。
「俺一人で戦ったわけじゃないけど、勝ちは勝ちだし」
「分かってるよ。御苦労さまでした!」
 理子自身とて色々あっただろうに、そんな様子も見せず、翔を労う。
 翔にとっては、その言葉も向けられる笑顔も嬉しかったが。
「俺はこれからも、もっともっと強くなる。もし次に大会が開かれたら優勝する! その時は……」
「うん、また応援に行くね」
 こうして『いつものように』会話を交わせる事が、何より嬉しかった。

「はぁい、夜魅。その後、調子はどう?」
 顔を出したアリシア・ミスティフォッグは、夜魅の両頬に手を置くと、その顔をマジマジと見つめた。
「うん、大丈夫」
「そうね、顔色も悪くなさそうだし」
 自然、笑みが零れた。
 夜魅が無事だった事が、これからもアリシア達と同じように時を重ねていける事が、嬉しかった。
「ねね、夜魅。海行こう、海♪」
 と、弾んだ声で美羽が夜魅に飛びついた。
「……うみ?」
「うんうん♪ 戦いが終わったら一緒に遊ぼ、って約束してたでしょ? だから、海」
 キョトンとする夜魅に、美羽は「ん〜」とちょっと考えてから、説明した。
「青い海、打ち寄せる白波、泳ぐ魚の群、空を舞う海鳥……と、楽しい事、盛りだくさんなパラダイスな場所、それが海!」
「たっ、楽しそうかも!?」
 ガガ〜ン、と衝撃を受けたように目をまん丸にする夜魅に「でしょでしょ?」とご満悦な美羽。
 アリシアは優しく微笑み見つめていた。
「良かったな、夜魅」
リーンとカチュアに両側から引っ張られながら、政敏もまたその様子に目を細めた。
政敏も含めた多くの者が助けたいと願った、影龍の心。
それは確かに世界に息付き、その思いは未来へと続いていく。
「壊れた物とか直していかないとね。生きる為には必要だものね。政敏」
 復旧作業に強制的にかりだされながら、政敏の胸にリーンのセリフが響いた。
「……生きる為に必要、か」
 生きとし生けるもの全ての為、今を精いっぱい生きるもの達の為に。
「政敏?」
 不意に取られていた腕を外した政敏に、カチェアが軽く目を見張り。
「別に逃げないよ。復旧作業だろ、頑張るさ」
 続けられた言葉に、嬉しそうな微笑みに変わった。
「……俺も変わっていかないと」
 過去を抱きしめながら、今を……そして、未来を生きる為に。

「だから、何でお前がここにいるんだよ!」
「復旧作業だよ。手はあった方がいいだろ? あ、それは重いから俺が運ぼう」
 花壇では、陸斗と義彦が角突き合わせていた……というか、陸斗が一方的に噛みついているわけだが。
「ありがとうございます」
 影龍が世界に還った影響か、世界がバランスを取り戻した為か反動か、かつて不毛の土地と言われた場所には今、花でいっぱいになっている。
 ええ、それはもう圧巻なほど広がる花の絨毯です。
「陸斗殿、手を動かした方が雛子殿も喜ばれますよ」
「ていうかアレやな、義彦の方が役にたっとるで」
「……っ!? だって、ヒナは俺が!」
「雛子に好きって言われたわけじゃないんだろ? それにもし二人がそういう関係だとしても、ずっとそのままとは限らないじゃないか」
「……っ?!」
しれっと告げられ悶絶する陸斗に、黎とフィルラントは苦笑を交わし合う。
 からかわれている事に、本人だけが気付いていない。
「でも本当に、水やりだけでもしないと……頑張って下さい、陸斗くん。終わったら、翔さんと玲さんが美味しいお茶を用意してくれるって言ってましたし」
 私も……用意してきたお菓子、食べて欲しいですし。
 恥ずかしそうに続けられた言葉に、単純な恋する少年は俄然やる気をアップさせ。
「よし、義彦! さっさと終わらせるぞ!」
「そういう事ならりっかちゃん達も誘ってこよう」
 写真を撮っていた勇が、嬉しそうに声を上げた。
「関わった事件の記事を書かなくて、何が報道志望か!、ってね」
 という事で、あれから勇は改めて色々な場所の写真を撮って回っていた。
 一連の事件をまとめた記事も、もう少しで出来あがる。
「それにもしまた未来に何か事件が起きたときに詳しい事が残っていたら参考になると思うし」
 そうしたら、事件を未然に防げるかもしれないし、りっか達のような犠牲者を出さずに済むかもしれないし。
「許可が下りるでしょうか」
「環菜会長に頼んでみるけど、きっと大丈夫よ……約束、果たさなくちゃだものね」
 満面の笑顔り勇に、ラルフは「そうですね」と優しい笑みを浮かべたのだった。

「ここは願えば誰でもどんな存在でも受け入れてくれ、可能性と言う未来を創り出せる新天地。そして、辛い嵐を抜け、笑顔と言う蒼空広がる開拓地」
 優しい風が運ぶ、花の香りとお茶の香り……そして、笑い声。
 真人は、眼鏡の奥の瞳を細めた。
 影龍の心だった夜魅は世界に残った。
 同時に、思う。
 この足元の花々もまた、世界に還った……この世界で生きる事を選択した、影龍の一部なのではないか、と。
「これは俺が……皆が掴み取ったハッピーエンドなのですね」
 その瞳に映る、人影。
 新入生だろうか?、時ならぬお茶会を遠巻きにしている生徒に、真人は微笑みながら手を差し伸べ、声を掛けた。
「ようこそ、蒼空のフロンティアへ」

担当マスターより

▼担当マスター

藤崎ゆう

▼マスターコメント

 大変お待たせいたしました、藤崎です。
 最終回です、物語の終わりはいつも、ちょっぴり寂しいです。
 影龍の欠片を受け入れた方、データ的には変化はないのですが。
 これからも色々な事件や世界を見せて上げて下さいね。
 ちなみに、白花と夜魅と雛子は最初から、どこでロストしてもおかしくないと思っていました。
 誰かがどこかでロストしていたら、展開や結末はまたガラッと変わっていたと思います。
 だから、「ありがとうございます」。
 皆さんと物語を紡ぐ事が出来て、本当に良かったです。
 また機会がありましたら、この世界でお会いしましょう!

▼マスター個別コメント