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リアクション
聖火リレー ザンスカール
イルミンスールの森では、照りつける日差しも木々に遮られ、柔らかい木漏れ日となっていた。
そんなホッとするような緑の中、次の走者赤城 花音(あかぎ・かのん)が秋野 向日葵(あきの・ひまわり)のインタビューに答えている。
「走るにあたっての抱負はあるかな?」
マイクを向けられ、花音は(しっかり答えられるように頑張らなくちゃ)と自分を鼓舞する。
「シャンバラは東西に分かれたけど、聖火リレーを通じて……何時かみんなの心が一つに纏まる希望を護りたいんだ。
聖火リレーは、東西が協力しないと完走できないよね? みんなの聖火への願いが、分裂の壁を貫くきっかけになると良いな!」
花音は他に「東西対立が深まる事は帝国の利となる」といった発言をしたが、番組上「ふさわしくない」という判断で、実際のテレビ中継ではカットとなった。
やがて花音の走る番が来る。
前のランナーから聖火を灯したトーチを受け取ると、花音はそれを高く掲げて走りだす。
そのかなり後方を護衛スタッフのリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が完全武装で、馬に乗って進む。
華やいだ場なので、鎧は綺麗に磨きあげ、表情もスマイルを心がけている。
リュートが考えるように、武装した騎馬がついていれば、ランナーへの軽はずみな妨害を抑止できるだろう。
花音はリュートたちを信頼した様子で、ゆっくりと走っていく。彼女が身にまとう東シャンバラのユニフォームに、水をかけようという輩は今のところ現れていない。
(どうか何事も起きませんように)
リュートはそう願いながら、馬を進ませる。
向日葵は次に控えるランナーにインタビューを始める。
「次に走るのは、こちら赤羽 美央(あかばね・みお)さん!
……えっと、そのカッコ、暑くない?」
美央は雪だるま王国の女王の服を着こんでいた。赤のマントをはおり、頭には王冠をかぶり、首には雪の結晶のネックレス。
いかに直射日光が防がれているとはいえ、暑そうな格好だ。
「このくらいパラディンスキルのフォーティテュードがあれば、雪だるまの私でも、どうという事はありません」
「……雪だるま? って、あの雪だるま?」
きょとんとした向日葵に、美央は滔々と語る。
「それでは雪だるまの素晴らしさについて、お話しましょう。
あの丸いフォーム、そしてあの体と頭の黄金比。
そして、一粒ではすぐに消えていってしまう雪の結晶でも、集まればあのように素晴らしいものになれるという事実。力をあわせることの素晴らしさを痛感しますね。
幸い、私の周りにはとても素晴らしいお友達や仲間たちができて、私も雪だるまになることができました。仲間って素敵です。
ろくりんピックも、雪だるまと同じような感じだと思います。
一人だけじゃ勝つことはできないけど、みんなで力を合わせればきっと勝つことが出来るはずです。
でも、雪だるまは大きさだけが全てじゃないです。形も、バランスも、いろんな要素が組み合わさって初めて素敵な雪だるまができます。
東シャンバラと西シャンバラ、どちらがより素敵な雪だるまを作れるか楽しみですね」
「おおーっ、最初はどうなる事かと思ったけど、いい話だね!」
向日葵が安心した調子で言うと、美央はカメラ目線で答える。
「雪だるま王国では、王国民はいつでも募集中です」
「この暑い夏には、入国希望者殺到だね!」
などと話しているうちに、美央の走る番が来る。
赤城 花音(あかぎ・かのん)が掲げたトーチを、美央に託す。
「任せたよ!」
「やるからには、聖火は無事に届けましょう」
美央はマントを翻して走り始める。
向日葵は中継者に乗り込んで、実況の準備を始める。
今のところ、森では妨害者は現れていない。
向日葵は見るとはなしに、トーチを掲げて走る美央を見ながら言った。
「ザンスカールでは聖火への水かけ妨害がないみたいね。
やっぱり、ひんぬーのイメージがあるからかな」
「ちっぱいのせいじゃありません!」
解説者ポストに納まった騎凛 セイカ(きりん・せいか)が思わず大きな声で言ってから、改めて解説を始める。
「……コホン、この前の都市ヴァイシャリーで大規模な襲撃があったでしょう?
敵も相応の損害を受けたものと思います。今後、それぞれの街で個々が襲撃したところで各個撃破されるのがオチです。
どこかに戦力を集積させ、大規模な攻勢に出る機会を伺っているのかもしれません」
「すると、今後に大規模なぶっかけ攻撃が……うぇー」
向日葵は憂鬱そうに、うめいた。
それとは対照的に、聖火リレーは平和の祭典のような盛り上がりを見せている。
世界樹イルミンスールの着ぐるみを着た少女達が、沿道の観客に笑顔を振り向きながら走っていく。
イルミンスール魔法学校のクラーク 波音(くらーく・はのん)とララ・シュピリ(らら・しゅぴり)だ。
魔女の仮装をした(そもそも魔女だが)アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)も一緒である。
世界樹イルミンスールの着ぐるみは、波音たち三人の手作りだ。
背丈の高さまでが幹で、頭上に木の葉が広がっている。
さらに顔と手足部分には穴を開け、ちゃんと聖火を持って走れるようになっていた。
小さいララは、ちょっと小さいイルミンスールになっているが、それがまた可愛らしい。
「妹いるみんすーるだよぉ〜!」
ララがぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振ると、観衆から「かわいい〜!」という声が沸き起り、携帯で写真を撮られる。
「んふふ〜、仮装した方が見てくれる皆も楽しめるよねっ!」
波音は観衆の楽しそうな表情に、自分も嬉しそうだ。
さらに見る者を楽しませようと、その場で三人で踊り始めると、周囲から手拍子や喝采の声があがる。
基本、波音が聖火のトーチを持つが、踊りの内容にあわせて、ララもアンナも次々とトーチを託される。
やがて次のランナーにトーチを渡す時が来る。
「はい、聖火をよろしくねっ」
波音がトーチを渡す瞬間、ララが「えいっ」と波音と自分の着ぐるみの紐を引っぱった。着ぐるみの葉っぱに仕舞われていた、たくさんの風船が現れ、大空へと飛んでいく。
人々の驚き、喜ぶ様子にララは、はしゃいでいる。
走り終えたアンナは、向日葵のインタビューに答えて言う。
「シャンバラでの聖火リレーの輪の中にザンスカールがあり、ザンスカールの輪の1つとして私達3人がリレーに参加できて、とても嬉しく思います。
ろくりんピックで皆が平和の輪として手を取り合えれば、嬉しい事です」
この聖火リレーで、テレビ放送を見た人々から、もっともイメージが良かったのはザンスカールだった。
「良さそうな所だな」「イルミンスールって楽しそう」との感想がテレビ局などに寄せられたので、イルミンスール魔法学校への入学希望者が今後、増えるかもしれない。
見る人をハッピーにしたい、という波音達の成果だった。
聖火リレー サルヴィン川
ザンスカールとキマクの間には、シャンバラ一の大河サルヴィン川が流れている。
今回の聖火リレーでは、この川を泳いで渡るのだ。
その大役を任されたのは山葉 涼司(やまは・りょうじ)。今大会きってのピンチヒッターだ。
つまり希望者が誰もいなかったので、彼が担ぎ出されたのである。
「な、なんだってー!!」
イルミンスール魔法学校の学生寮では、テレビの前でアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が愕然としていた。
「川渡り……絶好の水着ポイントなのに、なんで泳ぐのが女子じゃないんだ?!」
その悲鳴のような声には、多くの視聴者が賛同しただろう。
メガネが水着に着替えようと、いつもの「蒼空学園生のメガネ」ではなく水中メガネに変えようと、そんな事はどうでもいい。
「男の水着姿に興味はねえぇぇぇ〜」
アキラはがっくりとヒザをつく。ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)も肩をすくめる。
「もともと水に濡れておるのじゃし、わざわざメガネに水をかけたいという輩もいそうにないのう」
「……俺、ちょっとジュース買ってくるわ」
アキラは席を外した。
全国的にトイレタイムになっているのを分かっているのだろう。
画面の中で、涼司にインタビューする秋野 向日葵(あきの・ひまわり)も面倒くさげだ。
「へー、そーなんだ。んじゃ、がんばって」
送り出された涼司は、聖火のトーチを掲げてサルヴィン川に入っていく。
川岸や小船で観覧する人々の間に、パートナー花音・アームルート(かのん・あーむるーと)の姿はない。
画面が切り替わった。
ちゃらっちゃっちゃ〜♪
「ファッションセンターゆるむらのバーゲンに、みんなおいでよ!」
CMだ。
そんなこんなで、聖火は無事にサルヴィン川を渡った。
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