校長室
【ろくりんピック】小型飛空艇レース
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■ツアンダ7 「おー、雲海だー」 立川 るる(たちかわ・るる)が後部席で感嘆を漏らしている。御人 良雄(おひと・よしお)は感無量だった。彼女の腕が自分の腰に回されており、そして、二人はこの素晴らしいロケーションに二人きり……とは言い切れなかったが、まあ、似たようなものである。 良雄は、くぅっと自分の幸せを噛み締めた。現在、良雄は良雄であって良雄ではない。ソフトモヒカンを崩し、眼鏡をして、志位 大地(しい・だいち)の格好をしていた。 大地が良雄に持ちかけた計画は――大地が扮した良雄が一度死んだ後、変装を解いた良雄が爆走して姿を表すことによって、奇跡の復活を演出し、相手に動揺を与え、味方の士気を向上させる――というものだった。 しかし、現在、大地の格好をしているおかげで取り巻きのパラ実生に囲まれることもなく、るるとの空の旅を楽しむことが出来ていた。 (大地さんには申し訳ないっすけど、このまま大地さんの格好でるるさんとのデートを続けさせてもらうっす) 良雄にとって最重要なのは、そこなのである。 というわけで、良雄は心の中で大地に詫び、この幸せな一時を存分に味わうことにしていた。 「るるさん、雲海が見れて良かったっすね」 「うん、良雄くんのおかげだねー」 るるの笑顔がきらめく。 「オレは、るるさんの笑顔が見れて心底から良かったっす」 言って、良雄は『これは、かなり良い感じのはずだ』と思った。もしかしたら、今こそ、彼女に思いのたけを告げられるかもしれない。 るるの方から前方へと顔を戻し、 「あの……るるさん……オレ……」 と、言いかけたところで、視界の果てに黒い物が入り込む。 それは、何かばさばさと風に煽られながら空を飛んで――突風と共に良雄の前へ、ぶぁあっと広がった。 「ななななっ!?」 顔面に巻きついた黒い布のようなものと格闘して、数秒―― 「っぷは!!」 ようやく黒いものから顔を出して、良雄は慌てて、後ろのるるの方を見やった。 「大丈夫っすか!? るるさん!」 「あ。いつもの良雄くん」 「へ?」 指さされて、気づく。 良雄は、眼鏡を失い、ソフトモヒカンになっていた。 「あ、あれぇえ!?」 眼鏡は風に飛ばされ、髪は布との格闘の際に偶然セットされてしまったらしい。そして、 「み、見ろ!! 良雄様だ!!」 近くを飛んでいたパラ実生レーサーが声を上げる。 「ほ、本物だ! あのマント! 間違いねぇ!!」 「は、はいいっ!?」 言われてみれば、先ほどの黒布が首のとこに絡まってマントのようになっている。 「良雄様が復活なされたー!!」 「やはり、良雄復活伝説は本物だったんだー!!」 「良雄様ぁああ、一生ついていくぜぇー!!」 「ちょ、ちょっと待つっすー!! 今は、今だけは、二人きりにーー!」 追いすがるパラ実生を振り切るために、良雄は爆走を開始した。 ◇ 会場―― 良雄復活に盛り上がる会場の隅で。 「うまくやっているようですね」 志位 大地(しい・だいち)は、スクリーンに映し出された良雄の姿を見て、大変満足げにうなずいていた。 ◇ (「総司さん」) ローラ・アディソン(ろーら・あでぃそん)は、天海 総司(あまみ・そうじ)からの精神感応で呼びかけていた。 (「どうした? ローラ」) (「どうしたじゃなくて! こうやって情報を取り合うって言ってたでしょ。そちらの方はどう?」) (「気持ち良い!」) (「……問題ないってことね」) (「ああ、色々あったけどブルーフィッシュにも傷ひとつ無いしな。そっちの方は?」) (「こちらも大丈夫。シルバーバッファローちゃんも健在よ。これから少し慣らしでブーストを使ってみようかと思ってるところ」) (「俺の方は、このままフルブーストで先頭集団を目指してるよ」) (「うん。――それじゃあ、気をつけてね」) (「ん、そっちこそな」) ひとまず、意識した交信を終える。 と―― 「……うん?」 後方からの気配に振り返り、ローラは、一瞬だけ肩をびくんっと震わせてしまった。 遠く、後方から迫って来ていたのは良雄と、その取り巻きたち。 なにやらレース用以外の飛空艇に乗った者たちまで居る。彼らは良雄に夢中の様子で、まだこちらには気づいていない。 「君!」 そばで声がして、そちらの方へと振り返るとアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)が、ローラの機体と併走しながら少し厳しそうな表情を浮かべていた。 「彼らに見つかれば、集中的に妨害を受けるぞ」 「あなたも。どこかに隠れられると良いけれど」 「こちらへ」 アインに導かれるまま、そばに膨らんでいた雲の向こう側へと回りこむ。 そして、隠れた雲の向こうを騒がしく過ぎ去っていく一行の気配。 アインが軽く息をつく。 「気づかずに行ってくれたようだな」 ローラは、ほぅっと息を吐いて、シルバーカラーの機体を撫でた。 「良かったね、シルバーバッファローちゃん」 「随分大事にしているようだな」 アインの問いかけに、ローラは小さくうなずき、 「もし、この子が傷ついたら……泣いちゃうかも」 微笑みながら小首を傾げた。 ◇ チェックポイント付近―― 「どうやら、俺たちがトップのようですね」 樹月 刀真(きづき・とうま)と影野 陽太(かげの・ようた)は、陽太がユビキタスで手に入れた気象情報を元に組み立てたルートでタシガン空狭を抜けて来ていた。 「一輝の、おかげ」 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が刀真の後ろでポツリと言う。 確かに、彼がモンスターを抑えてくれたおかげでスムーズに進めた時のアドヴァンテージが今もまだ活きていると考えられた。 陽太が、うなずき、 「絶対、優勝しましょうね」 「もちろんです。頑張りましょう」 刀真が頷き返す。 そして、陽太はユビキタスで再び街の現在の状況を呼び出しにかかった。 1位:【西】樹月 刀真(きづき・とうま)&漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)(ヘビー) 2位:【西】影野 陽太(かげの・ようた)(ノーマル) 3位:【西】棗 絃弥(なつめ・げんや)&源 義経(みなもと・よしつね)(ノーマル) 4位:【西】葛葉 翔(くずのは・しょう)(ライト) 5位:【西】七枷 陣(ななかせ・じん)&リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)(ライト) 6位:【西】天海 総司(あまみ・そうじ)(ノーマル) 7位:【東】黒崎 天音(くろさき・あまね)(ノーマル) 8位:【東】ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)(ヘビー) 9位:【西】クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)(ノーマル) 10位:【東】ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)(ノーマル) 11位:【西】アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)(ヘビー) 12位:【西】ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)(ノーマル) 13位:【東】御人 良雄(おひと・よしお)(ヘビー) 14位:【西】瀬島 壮太(せじま・そうた)&ミミ・マリー(みみ・まりー)(ノーマル) 15位:【東】佐々良 縁(ささら・よすが)&天達 優雨(あまたつ・ゆう)(ノーマル仕様) 16位:【東】咲夜 由宇(さくや・ゆう)&アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)(ライト) 17位:【西】久世 沙幸(くぜ・さゆき)(ノーマル) 18位:【西】藍玉 美海(あいだま・みうみ)(ノーマル) 19位:【東】カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)&ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)(ノーマル) 20位:【西】ローラ・アディソン(ろーら・あでぃそん)(ヘビー) 21位:【西】アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)(ノーマル) 22位:【西】本郷 翔(ほんごう・かける)(ヘビー) リタイア:【東】ヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)(ライト) リタイア:【西】天城 一輝(あまぎ・いっき)&ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)(ノーマル) リタイア:【東】志位 大地(しい・だいち)(ヘビー) リタイア:【西】エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)&パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)(ヘビー)