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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

リアクション

 
 
 ぬくもりを胸に抱いて 
 
 
 緑の中をゆっくりと、カタコンカタコンと電車に揺られ、降り立ったのは鄙びた駅。
「ノルンちゃん〜、ここで切符を渡すんですよぉ」
 ホームに身を乗り出すようしている車掌に切符を渡しながら、神代 明日香(かみしろ・あすか)ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)にそう教えた。
 常駐駅員がいない小さな駅だから、切符は電車の車掌が回収するのだ。
 言われた通り、『運命の書』ノルンが切符を渡すと、それを確認した車掌がおやと声をあげる。
「これは大人の切符だね。子供は半額の切符でいいんだよ」
「私は恐らくあなたよりも年上だと思いますけれど」
 ノルンに言われ、車掌は不思議そうな顔になる。実年齢5000歳のノルンだが、見た目は5歳。車掌の娘でもおかしくないように見えるのだから。
「ありがとうございます〜。でもこの切符でいいんですぅ」
 明日香が言うと、まだ訳が分かっていない様子ながらも車掌はそれならと切符を受け取り、運転手に発車の合図を送った。
 
 
 明日香の家は駅から遠い。
 歩くにはちょっと距離があるから、ここからは箒で行くのだろうと予想していたノルンだったけれど、明日香は行きましょうと手を繋いだ。
「歩いて行くんですか?」
「地球で空飛ぶ箒に乗っていたら、目立ってしまいますからね〜」
 明日香の家は代々魔術師の家系だから、箒で飛んで行っても家族に対しては問題はない。けれど近所はのどかな片田舎。2人で連れ立って箒で飛んでいたら、田舎の人はびっくりしてしまうだろう。
 良く晴れた空から降る日差しは強いけれど、木々の間を抜けてくる風は涼やかだ。
 歩いてゆく向こうの景色はぐるりと山に囲まれて。
 のんびりとお散歩気分で歩いて行くのにちょうど良い。
「こんにちはですぅ」
 行き会う人に挨拶すると、ゆったりとした返事がかえってくる。
「あらこんにちは。今日も暑いわね」
 ノルンもこんにちはと会釈し、足は留めずに歩いて行く。
「あれ、どこの子だったっけ?」
「神代さんのところの明日香ちゃんですよ」
 後ろから、そんな声が聞こえてくる。
「明日香ちゃんは分かるけど、もう1人の子は誰だい?」
「さあ。でもよく似ているから妹さんじゃないかしら」
「神代さんとこ、女の子1人じゃなかったっけか?」
 田舎の人はあけっぴろげで声が大きい。丸聞こえの会話に明日香とノルンは顔を見合わせて、ちょっと笑った。
「明日香さんはここで育ったんですね……」
 自然と田舎のおおらかな人々に囲まれて、と周囲を見渡しているノルンに、そうですよぉと明日香は答えた。
「こんなところだから人口もそれほど多くなくて、歳の近い遊び相手もいなかったんですぅ。だから、毎日修行三昧の幼少期を送っていたんですよ〜」
 修行が遊び代わりだった子供の頃の話をする明日香に、ノルンが尋ねる。
「寂しくはありませんでしたか?」
「どうでしょうね〜」
 明日香は視線を上向けた。その頃のことを思い出してみたけれど、それなりに充実していて寂しいと感じたことはなかったように思う。
「ノルンちゃんはどうでした?」
「私ですか? 私は魔道書として意識が芽生えたときから明日香さんに出会うまでは、ずっと1人でした。それが日常、だから寂しくなかったと思います」
 人との繋がりやぬくもり、楽しさを知らなければ、寂しいと思うことは無い。寂しさを感じるのは、一度知ったそれが無い、という空虚に因するのだろうから。
「私はね、ノルンちゃんがいるから寂しくないですよ〜」
 明日香は立ち止まり、ノルンの手を放すと後ろからぎゅっと抱き上げた。
「明日香さん苦しいです」
「いいんです〜」
「良くありません。降ろしてください、自分で歩けます」
「うんしょ、っと。さあ、うちまではもうすぐですよ〜」
「このままでご挨拶はいやです」
 じたばたと抵抗するノルンをしっかりと抱き上げて、明日香は嬉しそうに歩いていくのだった。