校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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お墓参りで叱られて 菊とほおずきに飾られた墓を前に、東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)はぼんやりとたたずんでいた。 「本当に亡くなってたんだ……」 奈月 誉が病死したということは、なんとなく耳にして知っていた。けれど、今までちゃんと墓参りできていなかったから、実感がなかったのだ。 けれどこうして実際墓を前にすると、ひしひしと寂しさが湧きあがってくる。 誉は秋日子が憧れていた人であり、パートナーの奈月 真尋(なつき・まひろ)の兄でもあった。ピアノと絵画の才能に長けており、秋日子は彼からそれを教わっていた。 今でも、家に行けばひょいと誉が顔を出して、練習していくかと声をかけてくれそうなのに。 「本当に……もう会えないんだ……」 ぎゅっ、と胸が締め付けられる。墓に来るまでは平気だと思っていたのに……切なさがこみあげてきて、秋日子の目から涙が溢れた。 泣き出してしまった秋日子に、要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)が控えめに声をかけてくる。 「あの……そんなに泣かないでください」 うん、と言おうとして要の顔を見ると、秋日子の涙は一層止まらなくなる。 要の顔は誉とそっくりだ。けれど、要と誉の性格はあまり似ていない。要は真面目だけれど、誉はかなり楽天的な性格をしていて口調ももっと砕けていた。 間違い捜しのように要と誉を比べている自分に気がついて、秋日子は両手で顔を覆った。 「秋日子さん……」 しゃくりあげる秋日子を慰めかねて、要は戸惑っていた。 うまく慰められないのは、この墓に眠る誉のことを考えてしまうから。 誉は秋日子にとって大切だった人。それは剣の花嫁である自分が誉とそっくりだということからも明らかだ。 (……自分ではその人の代わりにはなれないんでしょうか……) そんな風に考えてしまうものだから、慰めの声が出てこない。 要が口を開きかけてはまた閉じ、を繰り返していると、不意にいらだった声がかけられた。 「要さん、なにウジウジしとるんですか気持ち悪い」 ずばっと切りこんだのは、これまでずっと口出しせずに見守っていた真尋だった。真尋の矛先は、要だけでなく自分の兄である誉にまで向けられる。 「ウチの秋日子さんを悲しませるやなんて、兄さん許すまじです! 秋日子さんを泣かせて、何のんきに死んでますのん」 墓石を怒鳴りつける真尋を要が慌てて止めれば、今度はまた要の方に厳しい目を向け、真尋は言い放つ。 「要さんも要さんです。兄さんと同じ顔しちょるくせに、そんな不安そうな顔してて、秋日子さんが安心できるハズ無ェやないですか! ウジウジしとらんとシャンとしんさい!」 真尋にどやされて、さすがに要もむっときた。複雑だからこそ慰め方に迷っているのに、それをうじうじで片付けられたら要としてもたまらない。 「さっきから黙って聞いてりゃ……誰がウジウジしてるってんだよ!」 「そげんこつ、言わな分からへんのですか?」 「てめ……!」 「やめなさい!」 要と真尋がキレかかっていることに気づいた秋日子は慌てて叫んだ。 泣いていたはずの秋日子に注意されて、要と真尋は驚いたようにこちらを見た。 「なんで墓前で騒いでるのよ! キミ達、いい加減にしないと怒るよ?」 その2人に注意しながら、秋日子はなんだか可笑しくなってくる。 誉の墓前で、誉そっくりな要と誉の妹の真尋にお説教しているだなんて、と。 思わず笑ってしまった秋日子に要は不思議そうな顔になったけれど、やや安心した様子で声をかける。 「秋日子さんは笑顔のほうが似合います。だから、そうやって笑っていて下さい。その方が誉くんも喜ぶと思います」 「うん……そうだね」 しんみりした気分は、パートナーたちを叱っているうちにどこかに吹き飛んでしまった。今なら安らかに眠って下さいと誉を弔うことが出来そうで、秋日子は穏やかな気分で墓に手をあわせた。 そんな秋日子の様子にほっとしながら、要は真尋に囁く。 「……ありがとう……励ましてくれたんですね」 「別に、あんたを励ましたわけでは無ェですから」 つんと顎をそびやかす真尋に苦笑した後、要は墓に何か祈っている秋日子を見る。 目は閉じていたけれど、秋日子の顔は明るい。その横顔を見つめつつ、誉の代わりにはなれなくても秋日子を必ず守ってみせる、と要は誓うのだった。